㉑
その後何事も無いままに雲に近づいていき、大火山へ入ってから二度目の日の出を見た。
未だ薄暗い中、翔たち四人は下位の騎士から配られたスープに口をつける。地面から漂う熱気とスープの熱さに翔が顔を顰めていると、不意に覚えのある気配を感じた。
同じタイミングで察知した陽菜と翔が一気にスープを飲み干す。一瞬だけ遅れて寧音と煉二も倣う間に、二人は武器を握って立ち上がった。
「敵襲! 山頂方面!」
魔法も併用した叫びは騎士団の夜営地全体に広がり、その先、今まさに機を窺っていたであろう革命軍にまで届く。自分たちは気付いたぞと、奇襲は出来ないのだと、そのまま引き返してくれる事を願った絶叫は、しかし虚しい響きとなった。
「放て!!」
ルキリエナを襲撃した時に先行組の指揮をとっていた幹部の声だ。
直後、飛来するのは魔力や気で強化された無数の矢。加えて多種多様な魔法の雨だ。
「防ぎますー!」
間延びした声と共に騎士団の頭上に展開された障壁がその全てを受け止める。障壁とぶつかった魔法が弾け、薄暮の空に星を作る。
「魔法部隊、詠唱開始! その他は弓を構えろ!」
カイルの指示で騎士たちは一斉に臨戦態勢に入った。己の〈ストレージ〉から出した弓や杖を敵のいる方向へ向ける。
「弓、放て!」
星の見えなくなるのと同時に矢が放たれた。数瞬前まで障壁に覆われていた空へ向けて放たれた矢たちは弧を描き、重力に従って革命軍に降り注ぐ。
「魔法撃て!」
号令と同時に革命軍を二重の障壁が覆った。その障壁に向けられたいくつもの杖から同じ数だけの魔法が撃ちだされる。
弧を描く矢と直線状に飛ぶ魔法は、殆ど同時に障壁へ突き刺さる。
つい先ほどの焼き直しとなるように思われたのは、ほんの数秒。ガラスの割れるような音と共に障壁が砕け散り、いくつも命の灯が消える。
「持ち替えろ! 突撃!」
革命軍側の混乱を座して見るようではグローリエル帝国の騎士団長は任せられない。
すぐさま各々得意な近接武器に持ち替え、盾を持った短鎗使いを先頭に駆け出す。翔たちの気付かない間に隊列を組んでいたらしい。
「俺たちも行こう!」
すぐに乱戦の様相を呈した戦場に、邪魔をしないよう万一に備えるだけだった四人も参戦する。一気に前線に躍り出るのが翔で、続く位置にいるのは煉二だ。そのやや後ろで陽菜が舞い、寧音は後方から支援する。
散々心を痛めていた翔も命を懸けた戦いとなれば切り替える。そう心と体に教え込まれた。それでも、極力苦しめないよう即死させられる部位を努めて狙う。
「翔、無理はするなよ!」
「分かってる!」
相変わらずよく見ている友に苦笑いを禁じ得ない。その煉二は杖術を主にして捌き、魔法で仕留めるという戦い方をしていた。明らかに魔法使い然とした煉二がこれなのだから、相手どる革命軍の兵士たちからすれば混乱するなという方が難しい。
「煉二が前へ出た時はどうしたものかと思ったのだが、なるほど、闘神様に鍛えられただけはある」
「ええ、まあ……。ははは……」
翔の近くで剛剣を振るっていたカイルが感心したように言った。聖国に攻め込む前の修業時代を思いだして、若干視線が遠くなる。
――思い返すとアルジェさんとの模擬戦が一番死にそうだったかもしれない……。
何度も切られた右腕に、幾度となく感じた覚えのある悪寒。それに従って剣を振るうと、驚く様な声が彼の耳に届いた。相手からすれば完全な奇襲だった筈だが、経験を元に無意識の判断を下す〈直感〉の目をかいくぐる事は出来なかったらしい。
再び遠くなりかけた視線を強引に戻し、たった今切りかかってきた、何となく見覚えのある女の首を跳ね飛ばした。
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