㉓
「しかし、あちらへ返ってしまえば〈鑑定〉はもう使えなくなるのか」
「アルジェさんの話だとそうだね。一部のスキルは使えるみたいだけど、〈鑑定〉とかはこの世界のシステムありきらしいし」
暫しの沈黙の後、煉二がしみじみと言った。前の話をこれ以上続けるつもりもなかったので、翔もその話題に乗る。
「成果が分かりやすくて良かったのだがな」
「まあ、煉二はあっちに戻っても同じ事してそうだけどね」
「そうですねー。煉二くん、反復練習とか昔から好きですしー?」
その結果が副生徒会長という役職である。動機が寧音への恋心というのが微笑ましいが、自己評価ほど良くない彼の地頭では、その為に並大抵ではない努力の量が必要だった。
「でも、確かにすぐに結果として見れるって意味じゃ、ほんと便利だよね。正直、アルジェさんの修行を最後まで疑わずに頑張れたのって、こうやって目に見えるからなのはあるし」
翔は久しぶりに自身を〈鑑定〉して、平均よりも多いスキルや称号を眺める。それだけで、これまでの努力が報われていることを実感できるのだ。
その中に、不可思議な表示があった。
――うん?
ユニークギフトである〈心果一如〉に『?』の記号が付いていたのだ。
「翔、どうかしたか?」
「……いや、ちょっとね」
思い当たる節はあった。
「なんですかー?」
陽菜と寧音も気になったらしく、彼に視線を向ける。もう自分たちのテントの前まで来ていたので、説明をする前に一旦中へ入った。
「あー、もしかしたら翔君のスキルってー、ナーフ、弱体化されてたのかもしれませんねー?」
落ち着いた上で心当たりを含めて説明をし、自分を〈鑑定〉させた後の寧音の台詞だ。
「ゲームでも強すぎるスキルが弱体化される事ってあるんですけどー、そうなる理由の一つに身体の成長が追い付いて無いからっていうのもあるんですよー」
運命にも干渉するようなスキルですからねー、と寧音は続ける。たしかに、まったく鍛えられていないただの人間の身体や魂には過ぎた力かもしれないと翔は納得する。
「それに、前からちょっと気になってた事があるんですよー。私たちのスキル名ってー、皆『神』とか『星』とか『天』とかー、凄そうな文字が付いてるんですよー、他のクラスメイトも含めてですー」
「全部神様を意味する事がある言葉だね。言われてみれば確かに、翔君の以外は全部そういう言葉が付いてた気がするよ」
陽菜も寧音もクラスメイトとの関わりは翔よりも多く、寧音に至ってはその人望もあって全員のスキルを把握していてもおかしくない。ならば間違いないのだろうと翔は自身のスキル欄を見る。
「じゃあ、俺の身体と魂が〈心果一如〉本来の性能に耐えれるようになったって事でいいのかな?」
「そうですねー。まあ、戦力アップですから気にしなくていいんじゃないですかー? 思った以上の出力が出ることがあるっていうのは問題かもしれませんがー」
運命に干渉する力もあるのだ。出力は不安定だとしても、それで結果的に良くなることもあるかもしれない。実際、演説をするタブルの護衛をした時がそのパターンだった。直前の[風爆]の威力が上がっておらず、予定通りの位置に着地していたなら、[雷矢]でもう少し被害が出ていただろう。
「ありがとう。気にしないでおくよ」
「はいー。そうそう、さっきちらっと聞こえたんですがー、誰かが何か狩ってきたみたいなんですよー。盛り上がり方的にご馳走かもですしー、それ食べてから出発しませんー?」
目を輝かせる彼女に苦笑いする。しかし反対する理由もないので、頷いて噂のご馳走を待った。その甲斐は確かにあって、翔達は美食に舌を楽しませるのだった。
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