「すまないが、カツ丼は出せない。」
僕の一言に激怒しそうになった河野刑事に変わって、署長の大杉さんが謝ってくれた。
河野刑事は、同僚の警察官たちによって廊下へと引きずり出された。
「確認だけさせてくれるかな?君は、赤田くんは一体何者で、あのとき何をしようとしてたのかな?」
大杉署長は、ゆっくりと落ち着いた口調で話を進めた。
「僕はただの大学生です。あの時は、大学の同級生の人たちと上野公園で花見をしようとしてて、じゃんけんに負けた僕は場所取り係になっちゃったんです。それで、みんなより早く公園に向かおうとしてたんです。」
それを聞いて、何人かの刑事たちの額に冷たい汗が流れてきた。いつか誰かが予想した事と全く同一の事だったからだ。
「分かった。ありがとう。今日は本当に申し訳なかった。」
「大杉さん。僕からも一つよろしいですか?」
「あぁ。なんだい?」
「僕は何の犯罪者と間違われたんですか?」
僕の質問に、大杉署長は言ってもいいのか少し考えてから答えた。
「ひったくり犯を追いかけていたんだ。この頃物騒でね、都内各地でひったくり犯が出ているんだよ。」
「へぇ。そうなんですか。どこでどれくらい確認されているんですか?」
「東京スカイツリーの近くで始まってから、北千住の駅前、原宿の表参道、六本木、阿佐ヶ谷、八王子。こんなに各地で起こったもんだから、都内全署に警戒しておくようにってお触れが出たんだよ。お陰様で刑事たちが敏感になっちゃってねぇ。」
「へぇ。そうなんですか。」
僕は物騒な世の中になっちゃったんだなぁ。なんて思った。今までは僕とあまり関係のない話だったからここで終わってたけど、変な意味で身近な存在になってしまった。
「じゃあ僕はこれで。あ、そうだ。多分犯人は銭湯に向かったと思います。」
「へ?」
「だから、犯人は銭湯に入ったと僕は、個人的に思います。」
僕はそう言って、警察署を出た。後で無責任なこと言ってあーだこーだって怒られるんじゃないかと少しビクビクしてたけど、とりあえずその日の内は何事もなく終わりを迎えた。
翌日。午前8時。
「あぁ!!お花見忘れてた!!」
因みに、信彦に忘れられてしまった同級生二人は、桜の木の下で朝を迎え、見事に風を引いてしまい、奴を恨んだそうです。
「うわ!173回の着信!?」
お見舞いに1万円分も使った信彦だった。
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