朝、起きるとハルトトが部屋に飛び込んできた。どうやらマリタたちが明日か明後日には終わりそうだという。
予定より少し早いが、また旅の始まりを考えると身体を動かしておかなきゃならないな。とりあえず、ハルトトを誘って少し動くか。
「ハルトト。今日の予定は?」
「……スプルレース」
「もうやめておけ。昨日散々だったんだろ。マリタが戻ってくるなら一緒に身体を動かそうぜ」
「……そうね」
浮かない顔のハルトト。どんだけスプルレースに行きたいんだよ。
「魔法使える所とかないのか」
「外に出ればあるわ。うん! うん! そうね! 身体を動かそう!」
「勝手に納得して、勝手に熱くなるな」
何かに納得して元気になったハルトトと一緒に、街の入口へと向かった。飲食店、レンタルスプル屋などがあり、大きな倉庫も並んでいた。その倉庫を指差しながら。
「ハルトト、あの倉庫はなんだ?」
「多分、港からの物資を一時的に置いておく倉庫よ。ゼントトが詳しいわよ。港で働いているから」
と、ハルトトが話題に出すと、偶然ゼントトが倉庫から出てきた。三十メートルくらいの距離でこちらには気付いているような、いないような……。その時、ハルトトが声をかけた。
「あ、ゼント……」
ハルトトが声をかけようとすると、知らん顔をして倉庫の間に入っていった。
「あれ、気付かなかったのかな」
「……どうだろ」
「ま、いいや。とりあえず、街を出て、少し行けば魔法をうてる広場があるから、誰もいなかったらそこでやりましょう」
「オーケー」
ハルトトの後ろをついていき、街の門をくぐると港へ続く道とは別に左側には森が広がっていた。山からの水がそのまま流れ込み、巨大な熱帯雨林を作っているが、その入口だそうだ。
森へ足を踏み入れると信じられない大きな虫や蛾などがブンブン飛んでいた。
「おわわ…… おい! ハルトト!」
「あーそうか。水の羽衣を着なさいよ。勝手に弾いてくれるわ」
すぐに水の羽衣を取り出して、着ると確かに身体には当たらなくなったが、近くを通る羽音は普通に聞こえる。
「うげー……さすがに気持ち悪いぜ……レイロング王国の森とはまた別の顔を持っているな……」
「動物もこっちの方が種類も多いし、大きいのもいるから気を付けてね」
「どう気を付ければ……」
「魔導銃があるんだから、それでぶち抜けばいいのよ」
「なかなか物騒な事を言うんだな……てか、そんなに大きいのか……」
「この辺のはまだ小さい方よ。奥に行けばもっと大きいのがいるわ」
「……出会いたくないもんだ……」
話をしながら、奥に進んでいくと広場……というか、散々焼き尽くしたあとが現れた。野球場二つ分くらいの広さだ。ここでナイシアス連邦の人達は魔法の実験とかをしているのだろう。
「ここでやるわよ、東陽」
「何か……魔法の跡というか……凄いな……」
ハルトトは準備運動をしながら答える。
「まぁね。大昔はこの森の中でドンパチやっていたんだけど、環境破壊などに繋がるって事で一部だけ開放しているのよ」
「それがここってわけか……」
「でも、アルトトがもってきた技術などでみんな仕事を得るようになったからはあんまりね。調査団と軍関係、学校くらいしか使わなくなったわ。それに濃縮された世界(コンセントゥレイティドワールド)もあって、あーいう空間で魔法を使う事が多くなったからね」
「なるほどなぁ……」
アルトトは産業革命と雇用革命すら起こしていた。確かに平安時代に、現代技術を持ち込んだらこうなるだろう。数百年経っても追い付いてはいないが、魔法が使える分、そのスピードは段違いであり、現世にはない魔導具なども開発されている。いつかは肩を並べ、更に追い抜かれるだろう。
シャル・アンテールの人達が現世……地球を知ったらどう思うだろうか……。
アルトトはきっと再評価されるだろうし、地球は愚かな人達だって思うかもしれないなぁ……。
「さあ、かかってらっしゃい」
準備万端のハルトトが手招きしている。
「おーし……ファビオとの修行の成果を見せてやる……」
俺は水の羽衣を着て、魔導銃に雷の弾を込めた。威力は弱に設定。訓練だから当たっても痺れるくらいだ。
ハルトトはぶっきら棒に立っている。周りには何もないので隠れる場所はない。だったら魔導銃で撃ち抜ける。
余裕をこいているハルトトに素早くダブルショット。パンパンと乾いた音が鳴った瞬間、ハルトトは土を、壁のように盛り上げて防いだ。凄まじいスピードだ。
俺は素早く横に身体を投げだし、その壁の横から打とうと覗いたが既にハルトトの身体は上空へと浮いていた。
「上かよ?!」
上空のハルトトに向かって一発撃つ……その前に、ハルトトが起こした強い風が襲ってきた。腕で顔を隠さないと目も開けられない。
とりあえず、立ち止まるのはやばい。後ろに飛びながら回避したが、既にハルトトは上空から消えていた。
ってことは……
脇の下から後ろに銃口を向け、一発。水の羽衣に軽く電気が走ったが痺れる程ではない。そのまま銃口を後ろに向けたまま、前に飛び、振り向いたが、ハルトトはいなかった。
「ちっ……」
体勢を立て直して周りを見渡してもハルトトはいなかった。
「隠れたか……」
多分、地中だと思うが気配はない。
魔導銃の弾を雷から水へ変更しつつ、周りを窺う。
「ハルトトちゃん、出ておいでっと」
魔導銃の威力を強にして地面に数発打ち込んだ。すると、地面が水分を含み、泥状化した。魔導弾が無くなるまで周りを泥状化するとハルトトが飛び出てきた。身体の泥は一瞬で風で吹き飛ばした。
「戦い方がわかってきたじゃない!」
「ありがとさん!」
魔導弾を水から土、威力を弱に変更しながら、走りながら体勢を取る。ハルトトも着地した瞬間に風で泥を飛ばしてきた。それを避けながら、土の魔導弾を撃ち込む。石つぶてのようなモノが放射状に飛んでいく。散弾銃みたいだ。
ハルトトがそれを風で弾きながら、更に泥を飛ばしてくる。
「こりゃ、足を止められないな……?!」
ハルトトを中心に周りを走りながら、魔導銃を撃ちまくるが決定打が生まれない。このままだと走らされて、先にこっちの体力が無くなってしまう。一旦、足元に土の魔導弾を打つと壁がせり上がってきた。その後ろに隠れて泥を防ぐ。
「風が強いな……」
弾を風に変えながら、ハルトトの様子を窺おうと壁から様子を見ようとしたら、巨大な火球を作って、今にも放とうとしていた。
「嘘だろ……あのバカ……」
あんな食らったらさすがに水の羽衣でもダメージを負うだろう。弾を風から火に変えて威力を強にした。それで相殺させるしかない。しかし、ハルトトの狙いは違った。ハルトトが掲げている火球の熱が上がり、周りの泥がどんどん乾いていった。
だが、いつあれをこっちにぶつけてくるかわからない。火で相殺するのが一番いいが、闇で半減させるのも良いかもしれない。土で壁を作っても防ぎきれるかわからないし、風だと押し負けた際にダメージを負う。雷は火にぶつけてもどうだろうか……。水だと水蒸気で火傷を負うだろう……。光は……論外だな……。
そう考えている間に、ハルトトは周りの土を乾かせてしまった。そしてそのままその火球をこっち側に投げてきた。
「そぉれ!」
「そーれじゃねぇよ!」
その火球に向けて、火の魔導弾を撃ち込むと大きな音と共に爆発を起こした。熱風が飛んでくる。壁の後ろに隠れても、その熱さはなかなかのもんだ。水の羽衣が無ければ大やけどだろう。
ハルトトも爆発する事がわかっていたらしく、土の壁を出してその熱風から身を避けていた。
「ハルトト! やりすぎだろ!」
「アハハ! ちょっと大きかったわね」
「ったくよぉ…… まあ、今日はこんなもんにしておこうぜ」
俺は土の壁から出てきて、ハルトトの方へと歩いていった。
「何よ、まだ始まったばかりじゃない」
ハルトトも土の壁から出て、両手を広げるジェスチャーをする。
「これじゃあ、練習になんねぇよ」
「そう? でも、東陽は魔導銃の使い方が上手いわね。弾の使い方も入れ替えるスピードも想像を超えていたわ。三貴族に勝ったっていうのも嘘じゃないかもね。どこで習ったの?」
「まあ……こういうのじゃないけど、元々銃は商売道具だったからな」
「物騒な話ね」
「どっちがだよ。あんな火球出しやがって」
「水の羽衣があるんだから平気でしょ」
「そういう問題じゃない」
とは言え、その後も少し、身体を動かした。やはりなまっていたようで、体が重かったが、なんだかんだでしっかりと二時間ほど汗をかいた。
ホテルに戻り、軽く休憩をして、体の汚れを落としにシャワーを浴びた。ベッドに身体を放り出したら、昼間にも関わらず、夢の中へいってしまった。
目が覚めると夕方……というか夜だった。
ホテルのロビーに出ると真っ暗で時刻的には十九時程度だろう。
「やべぇー……寝過ぎたな、これは」
身体に鞭を打ったあとの代償が、長すぎる昼寝とは……。若くないもんだな……。
「あ、東陽」
後ろからハルトトが話しかけてきた。
「ハルトト。寝過ぎちゃったよ、俺」
「わ、私も……さっき起きたばかり……」
照れくさそうにハルトトが言う。
「こりゃ、二人とも、夜は眠れないかもな……」
「ね……」
二人で深いため息をついて、ロビーのソファに腰を下ろした。すると、小さくお腹が鳴った。そういえば飯を食べていなかったな。
「ハルトト、飯は?」
「食べてないわ」
「じゃあ、夕飯でも食べに行くか」
「そうね」
二人はホテルのロビーを後にして、ギルド近くのバーへと足を運んだ。中は西部劇みたいな木造のテーブルと椅子が並んでおり、プルル族以外でも利用できるような設計になっている。
ハルトトはカウンターに飛び乗って、注文を言う。
「えっと、ラッタ(うさぎ)の香草焼きとホウルク(ほうれん草)のサラダ。あとパジェリ(ワイン)ちょうだい」
「なんだ、ハルトト飲むのか」
「まあ、もうこの時間だし」
「じゃあ、俺もパジェリ。あとホムス(ソーセージ)も」
カウンターの向こう側にいる店員が、了解と言わんばかりに片手をあげた。店内は人でごった返しており、バブルビジョンの話題や魔神の眷属の話題などが聞こえてきた。
「やっぱ、話題になっているな。ハルトト」
「そうだね。どっちもヤバいもん」
「魔神の眷属はかなりの頻度で見られているって事は、もう何か起きているんじゃないのか」
「かもしれない……でも、そもそも魔神の眷属単体で現れることなんてなかったのよ。この事態は初めてのケースで誰も分からない事だと思うわ。今の所、向こうから攻撃を仕掛けてくることはなく、現れて消えていくだけみたいだけど……」
「オウブ戦争の時は被害を出していたんだろ?」
「そうね。だから不可解なんじゃない」
「分からずじまいというのは何ともな……」
話をしていると二人の目の前に、料理と飲み物が並んだ。軽く乾杯をして、飲み食いをする。
悪くない味だ。シェフの腕がいい。なかなかやるな、ここのバー。
二人はホテルの戻ろうと外を歩いていると、ハルトトのリフォンが鳴った。ハルトトは、少し酔いながらリフォンを取り出した。
「あーもしもし…… えっいつ? ……うん ……うん ……わかったわ、探してみる」
ハルトトは酔いが覚めたような深刻な顔でリフォンを切った。
「どうした?」
「フユトトが帰ってきてないみたい。いつもはこんな遅くまで出歩かないのに……」
「フユトトが? 電話はどこから?」
「両親から。ゼントトもいないみたい」
「じゃあ、二人で出かけているんじゃないのか?」
「かもしれないけど、何も言わないで出かけるかしら……」
「そうなの?」
「フユトトの家は父の工房の奥にあるのよ。だから表門の鍵を開けないと入れないの」
「なるほど」
「遅くなる時は、鍵を閉められないからフユトトに渡したり、父に一声かけたりするんだけどね……今日はどうしたのかしら……」
「でも、ゼントトと一緒なんだろ?」
「わからない。それだったらいいけど……」
「わからないのか。とりあえずフユトトにかけてみろよ」
「うん」
ハルトトがフユトトに連絡をしたが、一向に出る気配がない。
「ダメね、出ないわ」
「ゼントトは」
「リフォンに登録してないわ」
「そうか……」
その時、ナイシアス連邦の奥、大統領府の近くから爆発音が聞こえた。かなり大きな音と閃光が空を切り裂き、煙が上がっている。悲鳴なども聞こえ、騒然とし始めた。店や家から人々が顔を出し、様子を伺い始めた。
「うお……!! なんだ、あれは?!」
「……爆発?!」
「何か実験失敗とかかな…… それとも……」
爆弾? って言いかけて、魔法のある世界に爆弾なんてあるのかという疑問が過った。そういえば、現世にいた時に爆弾魔を逮捕した事がある。
無差別爆弾魔との戦い。通称「インディスクリミネイトボム」。
爆弾が美しいと言っていた青葉森彦が犯人だったが、駅やイベント会場などをたった一人で同時多発的に爆弾を爆破させ、大きな被害を出した。青葉は逃げ惑う人々に注目するのではなく、爆弾が爆発する様子に魅了されていた稀有な犯罪者だった。だが、一般人は逃げ惑い、悲鳴をあげて、走っていた。
その時の光景に、今の街の様子がよく似ていた。
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