ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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雷矢

公開日時: 2022年10月4日(火) 15:46
文字数:2,756

 店前の大通りで手合わせとはいえ、いきなりの決闘。人だかりは静かに増えて行った。

 ハンガクは二本の刀を持ち、手をだらーんと下げる不思議なスタイル。ファビオは槍を構えて、前に突き出すスタイルだ。するとハンガクの周りにハンドボールくらいの雷の球が五つ出現した。フワフワと浮かびながら、時折バチバチと発光している。

 ハンガクが静かに前に歩くと、雷球はついていき、またハンガクの周りを回転し始めた。


「私は基本、この雷球に守られています。魔法や攻撃にもこの雷球が対応します。そして、雷球は攻撃もします。ランダムに雷矢(らいや)を放ち、当たると軽く痺れるでしょう」


 ハルトトがその魔法と説明を聞いて言う。


「それだけ高度だと持続させるだけでも大変ね。その他の魔法は?」


 ハンガクは首を振った。


「必要ありません。私の戦闘魔法はこれだけです。もちろん、他の魔法も使えますがこのスタイルを貫きました」


 ハンガクが話している間も雷球はハンガクの周りをフワフワと回っている。


「ファビオさん、攻撃してきてください」


「お、おう」


 ファビオは素早い突きを繰り出した。そのスピードに雷球は反応し、槍を弾く。雷球のパワーは、思ったより重い一撃のようだ。ファビオが感心する。


「なるほど。その雷球は素早く重いな」


「はい。大抵の攻撃はこれで防げますが、もちろんそれを凌ぐ攻撃をしてくる場合もあります。それをさせないのです」


「させない?」


「はい。大きい攻撃には予備動作が必要です。それを雷球から出る雷矢で牽制をしてさせないのです。ファビオさん、雷魔法を防いでください」


 ファビオは雷魔法を防ぐように、土魔法で壁を作った。ハンガクの周りをまわっている雷球から雷矢が飛び出してきた。ピュンピュンと音を立ててランダムに雷矢が放たれ、ファビオの作った壁に当たっている。雷矢の大きさは30センチほどと小さいが、威力は高い。壁を徐々にえぐっている。ある程度、えぐったらハンガクは雷矢を止めた。


「私と対峙した時は、常にこの雷矢が放たれています。ですので、雷矢を止めない限り予備動作に入れない事になります」


 ファビオはえぐられた壁を見た。


「それだけ小さいのに、この威力。更に当たったら痺れるとなるとなかなか手間取りそうだな」


「雷矢はあくまでも牽制用なので威力は低くても良いのです。数や発射タイミングなどをランダムに調整して、かく乱させます。そこに……」


 そういうとハンガクは二本の刀を振り回し、短いながら剣舞を舞った。


「私の攻撃が乗るのです」


 剣舞の優雅さと伴って非常に美しく見えた。

 ハンガクは静かに雷球を消し、刀をしまった。


「以上です。いかがかしら」


 マリタが拍手をする。


「素晴らしいわ。これでウルミ連邦の濃縮された世界(コンセントゥレイティドワールド)にも出られるわね」


「いいですねー」


「でしょ。私が光、ハルトトが闇、ファビオが水、ロサが風、アオトトが炎、ニールが土、そして、ハンガクさんが雷ね」


 マリタが発表すると、みんなが「あっ……」という顔をして俺を見た。


「あー俺は、監督だ」


 我ながらいい返しだ。


「そうそう! 東陽は監督ね、監督」


 マリタが取り繕う。ハンガクは俺に振り向き


「そうなのですか、よろしくお願いいたします」


 と、言った。


「あ、あぁ」


 ハンガクたちの戦力が分かった所で、今度はヒアマ国へ行く手順だ。マリタがハンガクに道案内を頼んだ。ハンガクたちは快く引き受け、明朝、リアス村の北にある港へ出発することになった。


 それまでは各自、リアス村で自由時間となった。とはいえ、ヒアマ国に着くとまたキャンプ生活になるようなのでみんなで食材などを買い込んだ。夜には軽く親睦会を兼ねて飲み食いをし、心地よく酔ったまま眠りについた。


 次の日、空は快晴。ホテルのロビーで全員が集まり、港へと向かい始めた。大きな依頼をこなした事で注目度も高まっているジェイド団。そんなジェイド団が人数を増やし、ゾロゾロ歩いているので更に注目を集めているようだ。


「おい、マリタ」


「なに?」


「注目される調査団ってこういう感じなのか」


「そうね。まあ、一時的だと思うけどね。特にナイシアス連邦での功績が大きいわね。下手すれば国家がひっくり返っていたかもしれない事件を阻止したんだから。ただ、この視線は好奇と妬みの両方だから気を付けた方がいいわ」


「だよな。時折鋭い視線を感じるよ」


「調査団同士の喧嘩や潰し合いは禁止されているけど、そんなの関係ない輩もいるわ。そろそろそういう所に気を配る時期に来たのかもしれないわね」


「なんだか厄介だな……。名が売れるというのも……」


「ま、避けては通れない道ね。それより東陽。次はいよいよヒアマ国よ」


「あぁ……。千堂がいるかもしれない、ヒアマ国。そして、マリタの兄貴もだな」


「えぇ。なんでヒアマ国にいるのか分からないけど、とにかく今の所最有力ですものね」


「会えるといいな」


「東陽もね」


 俺は軽く頷いた。


 千堂……。


 いろいろと聞きたい事がある。神崎の事、この世界での生活など……。だが、その前にきっと安心するだろうな。それがなんか負けた気がして、押し殺している。

 千堂を思い出すたびに現世も思い出す。シャル・アンテールという世界に飛ばされたというあり得ない現象。考えてもわからないから考えないようにしていたが、やはり考えずにはいられない。

 そして、果たして……。俺が現世に帰れる手段はあるのだろうか……。


 ここに来て一年近い。現世では俺はどうなっているんだろうか。千堂と同じに行方不明になって、下手すりゃ殉職扱いになっているかもな。若手二人も抜けて特別事件対策本部はどうなっているんだろうか。タツさん、怒っているかな……。


 色々と頭に去来する思い。現世に戻れるのか、戻れないのか。戻れなかったら、どうなる。戻れたら、どうなる。俺は本当に戻りたいのか、戻りたくないのか。あの殺伐とした特別事件対策本部に……。


 いや、もう考えるのは止めよう。とにかく眼前の目標をこなすだけだ。まずは千堂を見つける。そこからだ。そこからまた新しい答えが出るような気がする。


「東陽?」


 マリタが心配そうに話しかけてきた。


「大丈夫だ、千堂に会いにヒアマ国へ行こう」


 自分にも言い聞かせるように俺は言った。



 ジェイド団は注目を集めながら、レンタルスプルを借りてリアス村を出た。暑い日差しの中を一日がかりで向かい、夜には港に着いた。その日はそのままホテルに入った。一日レンタルスプルに乗った疲れもあり、ベッドに身体を投げ出すとそのまま寝てしまった。


 翌朝、みんなホテルのロビーに集まり、客船の出る港へと向かった。相変わらず豪華な客船が港には止まっている。港付近の露店で簡単な買い物を済ませて客船に乗り込むと、程なく定刻通りに船はヒアマ国へと出発をしたのだった。

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