歩きながら、ラウラの居場所を聞いていくと入り口近くの軍舎にいるようだ。三人はそこへと向かった。
軍舎は分かりやすく、平屋の建物の四方にリアス村の旗が立てられていた。
「ここだな、行こう」
俺は、軍舎の前にいる警備兵に話しかけた。
「すまない。ラウラを探している。いるなら取り次いでくれないか。ジェイド団って言えば分かると思う」
すぐに二人の警備兵がやってきて、俺らをじろじろと品定めを始めた。
「ジェイド団? アルムデナを見つけたジェイド団か」
どうやら知ってくれてそうだ、これなら話が早い。
「あぁ、その件で少しラウラと話したい」
警備兵は一旦顔を見合わせて、一人が奥へと入って行った。もう一人が客人を招く椅子へと誘導してくれた。
とはいえ、外にある椅子だ。円卓の真ん中には、布で作ったパラソルが刺さっており、日差しを遮ってくれている。
しばらく待つと、奥からラウラが出てきた。
「なんだ、どうした」
俺らは立ち上がり、ラウラを迎えた。
「ちょっとロサについて話を聞きたくてな」
「あぁ……。なるほど」
ラウラは何となく聞かれる事がわかったようだ。
「私より詳しい人を紹介しよう」
そういうとラウラは部下に紙をもってこさせ、何やら書き始めた。書きながら話してくる。
「ここにアギュラ族の族長がいる。名をイニィーゴ=リナレスだ。彼に聞くといい」
「族長……」
「もう高齢で寝たきりだが、元気な人だ。多分、ロサの事も何か知っているかもしれない」
「わかった。尋ねてみるよ、ありがとう」
ラウラからメモをもらうと別れた。三人はその足で族長の家へと向かった。
族長の家は村の中心部よりやや北にあり、広い庭があった。そして、わかりやすい木造住宅で、昔の農家のような家だった。
三人はドアの前に立ち、ノックした。すると中から女性の声が聞こえてきた。
「ラウラから聞いています。どうぞ」
その声に促されて、中に入った。玄関も広く、その奥には引き戸があった。少し木材の香りがする。
玄関に三人が入ると、引き戸がゆっくりと開いた。そこには隆々しい男のアギュラ族と、切れ長の目が印象的な女性のアギュラ族が居た。
二人が護衛や身の回りの世話をしているのだろう。
女性のアギュラ族が頭を下げて、奥へと促された。更に奥には引き戸があり、そこを抜けると体の大きな老人のアギュラ族が椅子に座っている。アギュラ族の中ではかなりでかい方だ。
「族長、ラウラの客人です」
「おぉ。どうぞ、客人」
族長の声はしっかりとしており、とても老人とは思えないほど張りがあった。三人はその族長の前と座らされた。そして、女性のアギュラ族は静かに部屋を出て、引き戸を閉めると族長が再び話し始めた。
「ラウラからある程度は聞いている。そうか、お前がロサか」
族長がロサに視線を移す。ロサはビクビクしながら返事をした。
「は、はい!ウ、ウルミ連邦のロサです!」
その様子を見て、族長は笑った。
「ハハハ。そんなに気負うな。さて……どこらか話そうか」
顎の下を撫でながら、記憶をたどる族長。
「結論から言おう。ロサ。お前はアルムデナとは姉妹じゃ」
やはり……という空気が流れた。三人は目配せしながら、頷いた。族長が続ける。
「お前の母はお前たちを産んだ時に、亡くなった。アギュラ族は多頭出産で四人くらいは当たり前なんだが、たまたま運が悪かったんだろう」
え?四姉妹?
突っ込もうと思ったが、話を遮りたくなかったのでグッとこらえた。
「四姉妹の内、ロサの姉は死産だった」
「そ、そうなんですか……」
ロサは少し困惑した。
「長女アルムデナは普通、次女アリオナは虚弱、三女は死産、そして、四女はロサ。お前だ」
「……」
ロサはグッと唇とかみしめた。
「母はそのまま亡くなってしまい、三人は戦時中に臨時で行っていた孤児院に預けられることになった。だが、そこで問題が起きた」
「も、問題?」
「お前の魔力の器が異常だってわかったんだ。まだ洗礼を受けていないのに魔力がゆっくりと肥大化していく感覚があった。だから、オウブの影響を受けにくいウルミ連邦へ移送することが決まった。まだ、産まれて三カ月と経っていなかっただろうな」
ロサは真剣に族長の言葉に耳を傾けている。
この話は俺たちも感じていた事だ。ロサの魔力の爆発力は異常とも言える。また、オウブ参りを始めて魔力がオーバーヒートして倒れたというのもその一巻だろう。
「俺が知っているのはこんなもんだ」
「あ、ありがとうございます……」
ロサは困惑しながらも納得しようとしていた。マリタも黙って話を聞いていた。
まあ、確かに今更、姉妹って言われてもな。育ちも環境も違う。合う部分がほとんどないだろう。そんな時に族長が思いもよらない事を口にした。
「姉妹だとか、どうでもいいけどな。アギュラ族にとっては」
「ど、どういう……?」
「アギュラ族は姉妹だろうが、何だろうが。俺を中心に全員兄弟だからな。ガハハ!!」
族長が大きな声で笑った。それはロサをはじめ、俺たちが思っていたもやもやを弾き飛ばすには十分なものだった。
「ロサ! どこへ行ってもアギュラ族の誇りを持て!」
「は、はひ!」
「はひじゃない! はいだ!」
「は、はい!」
「よし! 俺は寝る! 帰れ!」
そういうと族長は布団をかぶり、横になった。ズドン!という大きな音が響くと同時に、後ろの引き戸が開いた。そこには先程の女性のアギュラ族がいた。
「皆様、族長はお疲れです。そろそろお引き取りを」
俺たち三人は追い出されるように、外に出された。だが、これでロサの謎は分かった。ロサの顔を見ると複雑な顔をしている。
「ロサ、平気か」
「は、はい。す、すっきりしました」
「そうは見えないけど……」
「そ、そうですか。そ、そんな事はないです。こ、こういってはなんですが、姉妹でもここまで離れていると実感はありませんし……」
「産まれて三カ月しか一緒にいなかったらしいしな……」
「は、はい。そ、それに最後の言葉が良かったです。な、仲間がたくさんいるんだってわかったから」
「アギュラ族は、全員兄弟……か。少数民族だからこその団結なのかもな」
「わ、私はウルミ連邦のロサで。い、今までも。こ、これからも」
「あぁ。そして……」
「ジェイド団のロサね!」
俺が言おうとしていたことをマリタが奪っていった。
「今、言おうとしていたのに」
「へへ……」
「ったく」
二人が吹き出す。俺も二人の顔を見ながら、笑った。
そう、ロサはロサ。それでいい。
その後、三人は族長の家を後にして、ホテルへと帰った。ロビーに着くとマリタのリフォンが鳴った。どうやらハルトトからだ。
「ハルトトか?」
「えぇ、明日には着くみたい」
「そうか、そしたらヒアマ国か」
「最後の国になるわ。兄さんもいるかしら……」
「兄さんがいたら千堂のいる可能性も高い……。いるといいな……二人とも」
「そうね……。ハルトトたちが来たら、合流して、明後日には出発するわよ」
マリタの言葉に俺とロサは頷いた。
翌日、ホテルのロビーでのんびりしていると、ハルトトたちが到着した。ハルトト、ファビオはもちろん、療養から復活したハンガクの姿も見える。ハンガクのお供をしているアオトト、ニールも元気そうだ。
ハンガクはヒアマ国のフォウマンで、何故か上半身は裸に胸にさらしとなかなかの恰好をしている。下は紺の袴でやたらと長い刀を二本携えている。片方は名刀紫電というらしい。どんな刀なのか、少し興味があるな。
一旦、今までの事を共有する意味でも、レストランで話し合う事になった。まあ、ランチ会みたいなもんだ。
ギルド横には大きな西部劇の模したような木造のレストランがあるので、みんなでそこに入って行った。丸いテーブルに通され、丁度いい感じにおさまった。各々好きなものを頼み、食事を楽しんだ。そこからハンガクの療養の話や、こっちの魔物退治、ロサの事などを話した。そして、話題はハンガクたちの事へ。ハルトトが聞く。
「ハンガクたちの事は前に聞いたけど、もう一度いい?」
ハンガクが背筋をピンっと伸ばす。アオトト、ニールもそれに呼応するように背筋を伸ばした。
「まずは、助けて頂いたこと。至極感謝致します」
そういうとみんなに深々と頭を下げた。アオトト、ニールも続く。ハンガクの声は、甲高い若い女性の声だ。何だってギャップのある人だ。言葉、ヒアマ国特有に話し方らしいが、時代劇のような話し方だと言えばわかりやすい。
ハンガクはゆっくりと頭を上げた。
「また、ジェイド団に入団させてくれたことも重ねて礼を言う。私たちはヒアマ国の東海国出身でアオトト、ニールは私の内弟子でござる。二人とも少々特殊なゆえに私の元で修行させているでござる。アオトト」
ハンガクに呼ばれると、アオトトが前に出た。
「はっ」
「炎をお見せ」
「はっ」
そういうとアオトトは右手を出して炎を出した。その色は一般的な赤い炎ではなく、青白かった。つまり、温度が高いのである。
「このように、青い炎であり、普通の炎より燃焼能力は高いのだが広範囲魔法を使えないという欠点があるでござる。次、ニール」
アオトトが炎を消して下がり、ニールが前と出てくる。
「はっ」
「岩をお見せ」
「はっ」
ニールは地面に手をかざすと、壁のように岩が盛り上がってきた。密度があり、強度が高そうだ。
「ニールは通常より硬い岩を出すことができるが、砂や砂利などを制御できないという欠点があるでござる。つまり二人とも変わり者という事じゃ。あはは!」
変わり者と言われ、アオトトとニールが食いつく。
「お言葉ですが、一番の変わり者はハンガク様ではないかと……」
「ハンガク様以上に変わり者はヒアマ国中探しても見つかりません」
「なんだと! 貴様らそこへ直れ!」
そして、てんやわんやの始まり。なかなか愉快な三人のようだ。一通り終わるとまた静かに席に戻った。
「失礼いたした。では、私の自己紹介を致しましょう。私は東海流師範代のハンガク=アサリと申す。本来は一刀流であるのだが、名刀紫電を譲り受け、現在は二刀流となっておる。一つ、ファビオ殿に手合わせをお願いしたい」
急に呼ばれてファビオが驚く。
「ん? 俺が」
「はい、軽くでござる。では、外へ。アオトト、支払いを済ませておけ」
「はっ」
アオトトが支払いをしている間に、ぞろぞろとハンガクの後を追って店の外を出て行く。店の前の広い道でハンガクとファビオが対峙した。周りには少しずつ人だかりが出来始めている。
ハルトトが心配そうにマリタに言う。
「大丈夫なの……。これ」
「とりあえず、早く終わることを祈るしかないわ。あんまり目立ちたくないし」
マリタたちの心配をよそにマイペースに事を進めるハンガク。紛れもない変わり者だ。
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