ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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炎上!レイロング王国

ファビオの告白

公開日時: 2020年11月8日(日) 23:36
更新日時: 2020年11月17日(火) 15:02
文字数:5,366

 グラディー村、宿舎の食堂に集まっているジェイド団。幸い、夕食には少し時間が早いので食堂には誰もいない。

 ノエルとハンスの恋人が殺される事件を解決し、一息をついていた。

 明日からザーノンでアゼドニア湖を渡り、ファビオの故郷レイロング王国に行く予定だが、その前にファビオから話があるらしい。

 マリタから話をするように言われたファビオは、急に重苦しい雰囲気を出し、元々重い口を開いた。


「俺の本名はファビオ=アーノ。アーノ家の長男だ」


 その言葉にハルトトが飛びあがる。


「アーノ家って、あの?! あのアーノ家?!」


「あぁ…レイロング王国三大貴族、アレンシュタイン家、バルディーニ家、アーノ家のアーノ家だ」


「ギャー! 本物の貴族だー!!」


 ハルトトが驚きのあまり両手をあげている。そんなに凄い血筋なのか。


「マリタはこの事を知っていたの?!」


「えぇ……ウルミ連邦からセロストーク共和国に戻ってくる時に聞いたわ」


「なんで黙ってたのよー!」


「なんで黙っていたかを今から話してもらうから静かにして」


 マリタに言われて、静かに席に着くハルトト。ファビオが一呼吸置いて、続きを話し始めた。


「簡単に言えば、俺は追われている。バルディーニ家当主、リチャード=バルディーニを殺した罪でな」


「えぇー! リチャード=バルディーニって言ったらレイロング王国が誇る龍騎士団の一つ、黄龍騎士団の元団長でしょー! そんな人を殺しちゃったのー!」


 余りの事にまた大声を出してビックリするハルトト。マリタが一つため息をつく。


「ちょっとハルトト……」


「ご、ごめんなさい……でも、驚くわよ! そんな話!」


「……わかったわ、場所を私の部屋に移しましょう」


 そういうとみんなでマリタの部屋へと移動した。マリタの部屋に入ると各々ベッドなり、椅子なりに腰を下ろした。


「じゃあ、いいわね。ファビオ、お願い」


「あぁ……リチャードを殺したと思われている俺は、ウルミ連邦に逃げて、姿を隠していたんだ。そこでたまたまバーで絡まれて、マリタと出会って……セロストーク共和国に行くことになった。あとは知っての通り、みんなとジェイド団を立ち上げて一緒に旅をしている」


 ハルトトが椅子の上に立ち、腕組をしながら、食い入るように話を聞いている。


「ふんふん! それはわかるけど、なんでリチャードを殺しちゃったの?」


「殺してはいない。俺は罪を着せられたんだ」


「誰に?」


「アミーリア=バルディーニ。リチャードの夫人だ」


「なんですとー!」


「レイロング王国は、先王が崩御すると三大貴族の中から王が指名される。だが平等というわけではなく、歴代の王のほとんどが国を興したアインシュタイン家から選ばれているんだ。もちろん、王としての資質が他の二貴族から認められなければならないが、そこは政治の世界。金銭が動く事もあるし、忖度や利益などもあるだろう。だが、前提でそれはキチンとした知識や資質を認められて選ばれる。現にアレンシュタイン家で王の資質を持っている人がいない場合、アーノ家、バルディーニ家から選ばれていた。三大貴族がお互いにレイロング王国を盛り上げようとし、互いに不正を監視する三すくみだと思っている」


「でも、すんごい昔はアインシュタイン家とアーノ家は、争って内戦になっていたんでしょう?」


「そういう悲劇を生まないための三すくみだと考えている」


「まあ……理屈はわかるけど」


「現王フィリッポ=アレンシュタイン王は病床に伏せっている。そこで三大貴族で次期王に関する会議が行われた。その次期王候補に俺の弟が選抜されたんだ」


「え? そうなの? 確かアレンシュタイン家って子供いたよね? 双子の。オウブ大戦時に活躍した『星の十傑』じゃなかった?」


「そうだ。レイロング王国、攻撃の二枚看板。赤龍騎士団団長がアレンシュタイン家長男アッティリオ=アレンシュタイン。蒼龍騎士団団長がアレンシュタイン家次男マッテーオ=アレンシュタインだ」


「その二人は選ばれないの?」


「候補としては上がっているが、その二人も俺の弟を推薦している」


「そんなにファビオの弟さんは優秀なの?」


「あぁ……優秀な上に心も優しい。名前はダリオ=アーノ。現白龍騎士団団長だ」


「はぇ~~……」


「バルディーニ家にも二人候補者がいる。長男で父の後を継いだ現黄龍騎士団団長ミケーレ=バルディーニ。次男で紫龍騎士団に所属しているルカ=バルディーニだ」


「ルカは団長じゃないの?」


「素行が少し悪いみたいなんだ。年齢が離れているから、あまり絡んだ事はない」


「え? みんな同じくらいじゃないんだ」


「一番上はバルディーニ家だ、ミケーレが四十七歳。ルカが四十五歳。アレンシュタイン家の二人は三十八歳。アーノ家は一番若く俺が二十六歳、ダリオが二十四歳だ。だが、次期王は年功序列ではなく、王の素質あるものが選ばれる。これはレイロング王国の誇りと言ってもいいだろう」


「なるほどね~…… で、話を戻すけど、何で罪を着せられたの?」


「バルディーニ家の夫人、アミーリアはミケーレに継いでほしいようだ。リチャードはお世辞にも良い当主とは言えず、色々と問題もあった。病死か殺されたかは知らないが、ある日、俺がリチャードに呼ばれて部屋に入るとそこにリチャードの遺体があった。人を呼ぼうとした時に、アミーリアが入ってきて騒ぎ立てた。一度は捕まり、取り調べや裁判を待ったが、一向に行われなかった。そして、ある夜、何者かが俺の檻に侵入してきて殺そうとしてきたんだ」


「暗殺って事……」


「だろうな……。何人もの刺客が襲いかかってきた。俺は無我夢中で檻を飛び出し、そのまま城を飛び出した。行く当てもなかったし、金もなかったが、何とかウルミ連邦に逃げたというわけだ」


 ファビオの話を聞いていた俺は話が大きすぎて……。知らない名前だらけでさっぱりサラサラだ。

 要は、跡目争いに巻き込まれてファビオが暗殺されそうになったって事だな。


「あのさ、ファビオ。よくわからんけど、次の王様を決めたい、弟のダリオが候補になった、ゆるさねぇから兄のファビオに罪を着せて殺す!っていう理屈がわからんのよ。そこまでやる相手ならダリオだって狙えるだろ?」


「それはできない」


「なんで」


「ダリオには二人のメイドがいるからだ」


「はぁ? メイド? 世話係か?」


「あぁ……」


「そんなお嬢ちゃんなんかどうとでもなるだろ」


「ただのメイドじゃないんだ。サラ=アンジェリとレラ=アンジェリの姉妹は、二人とも一騎当千のメイドだ」


「メイドに一騎当千なんて異名つけねぇよ…… なんだ、それ」


 頭の中には筋肉ムキムキの女性がメイド服を着ている姿が思い浮かんだ。


「サラ、レラがダリオの傍らにいる限り、暗殺は難しいだろう」


「ファビオにはサラ、レラみたいな護衛は居なかったのか?」


「……俺は疎まれていたからな。この顔の痣でな」


 ファビオは自分の顔に手を置いた。ファビオの顔には、額の真ん中から左側目の下あたりまで痣がある。


「俺がこんな顔で産まれてきた時、親はショックだったろうなぁってな……今は気にしちゃいないがな」


「……それでダリオと差をつけたって事か」


「多少はあっただろうな。だけど、そんな事は気にしちゃいなかったよ。ただ、周りの反応は違った。ちょっといたずらをすれば、より強く疎まれたし、頑張っても、褒められる事はなかった。いや、そういう感じじゃないな。俺に興味が無さそうだったよ。ダリオの方が何をやらせても優秀だったから必然とあいつの方が褒められる事が多かったかな」


「興味がなかったから護衛を付けなかったってぇのはちと違う気がするけどな。いや、これ以上はファビオの親を悪く言いそうだから、止めておくわ。んで、なんでそれがお前に罪を着せてって話になるんだ?」


「簡単な事さ。こんな痣を持つ奴ならやりかねないって思われているんだろう。そして、ダリオの兄がそんな事をしたんだから、ダリオに王の資格はないと言うまでが算段だろうな」


「わかりやすい絵面だな。で、レイロング王国に入ったらどうするんだ?」


「俺が逃げ続けていれば、ダリオは何とかするだろう。アインシュタイン家もダリオを推してくれている。このまま行方不明にでもなるつもりだ」


「それで……いいのか」


「それがいいんだ、アーノ家に取ってはな」


「そうか……」


 話が一段落した所で、マリタがパンと手を叩いた。


「はい、話があっちゃこっちゃいっちゃったけど、まとめるわよ。ファビオは冤罪で追われているからレイロング王国には入れない。洗礼には私とハルトト、二人で行くつもりだけど、東陽はどうする?」


「いや、俺はいいよ。魔法は使えなくていい」


「そう。じゃあ、ファビオと一緒にいて」


「わかった」


 その言葉にハルトトが手をあげて抗議する。


「私は反対。東陽が魔法を使えれば自分で身を守れるし、日常生活でも色々と利用できるわ。これからレイロング王国、ナイシアス連邦、ヒアマ国ってまわるにあたって、毎回洗礼をうけるべきよ」


「東陽はいつ元の世界に戻れるかわからないわ」


「戻れるかどうかなんてわからないじゃない! だったら旅の安全を最優先に考えるべきだわ!」


「……ハルトト」


「誰かが危ない目にあった時、東陽が魔法を使えた方が便利じゃない!」


 ハルトトの言う事はもっともだ。俺が魔法を使えれば、いろんな場面で役に立つだろう。魔法を使えないのが非常識なんだ。俺の世界とは逆。魔法は使えて当たり前。

 前も思ったが魔法を覚える事が怖いとかではない。だが、どっかで思っている事がある。魔法を覚えたらこの地の方が住みやすくなっちゃうんじゃないかとか、現世に戻れなくなっちゃうんじゃないかとか……。

 だけど、旅をしてわかった。やはり魔法は必要だ。ハルトトの怒りでよくわかった。俺はジェイド団に甘え過ぎている。


「マリタ。いいよ、レイロング王国で洗礼受けるよ」


 だが、マリタは首を横に振る。


「いいえ、東陽は受けなくていいわ」


「なんでよ!」


 ハルトトが大声を出す。


「ハルトト。東陽はこの世界の人じゃないのよ」


「私はそんな別の世界があるなんて聞いたことない! そこに戻れるとも思っていない!」


「私は聞いたことあるわ」


「えっ……」


 マリタのその言葉に全員が凍り付いた。俺は息を呑んだ。


「ど、どういう事だ、マリタ」


「私には年の離れた兄がいるの。名前はクリストフ=パウ」


「あ、あぁ……オリバーさんに聞いたよ。行方不明になったって。マリタがウルミ連邦に行ったのだってクリストフを探しに行ったんだろ」


「……そう。ウルミ連邦で色々聞いたけど、兄さんの情報は何もわからなかったわ。でも……」


「でも……?」


「ヒアマ国である事件があった事を聞いたわ。人が目の前で消えたって」


「えっ……」


「光に包まれ、その光が消えたらその場にその人はいなくなったって。ヒアマ国では『神隠し』って言うらしいけど……」


 俺が神埼と揉み合った時も一緒だ。光が俺を包み、光が無くなったらここに居た。確かに神隠しみたいだ。


「それがヒアマ国であったのか? そういうことが」


「そう。確認されたのは二回。だから、はじめから東陽もそういう目にあったんじゃないかって思ってたの」


「バカバカしい!」


 ハルトトがため息をつきながら言った。


「じゃあ、なに? いなくなった兄さんも東陽の世界に行っちゃったとかってわけ?」


「ハルトト……!」


 ファビオが語尾を強く言い、ハルトトを戒めた。


「あ、ごめん…… で、でも、やっぱり洗礼を受けないのには納得できないわ!」


 そういうとハルトトが外に飛び出してしまった。静まり返る室内。重苦しい雰囲気になった。


「わりぃ、俺のせいで」


「東陽が悪いわけじゃないわ。ハルトトを嫌いにならないでね」


「あぁ……」


「私が追いかけるわ。女同士で話してくるわね」


「頼むわ」


 そういうとマリタは出て行った。俺はファビオの方に向き直った。


「わりぃ、ファビオ」


「いや……」


「まあ、信じられないよな……」


「そんなことはない」


「そうか?」


「あぁ。着ている服だって見たことないし、料理も見たことがないものを作る。東陽には不思議が多い」


「不思議ねぇ……」


「考え方も戦い方も、全部ひっくるめて、このシャル・アンテールという世界と違う気がしている。だから別世界から来たって言われたら、そうかもって思える節があるんだ」


「……おれは、言っても信じてもらえないかもって思っているし、何より今だって信じていない所があるというか、信じたくないというか、夢かもしれないなんて思っている所があるけど……。自分なりに馴染んでいきたいというか、何というか……」


 話をしててちょっとわからなくなった。異世界に来たという事をまだどっかで信じていない自分にビックリしているし、信じたくない自分がいるのも知っている。この心のグチャグチャを、ジェイド団で旅をして忘れていたい、忘れたいって思っていただけかもしれない。


「東陽。無理するな。俺らは仲間だ」


「あぁ……助かるよ、ファビオ」


 ジェイド団には救われる。今はここを拠り所にするしかないんだなって思った。だから、甘えないように洗礼は受けた方がいいって覚悟ができた。


「ファビオ。あいつらの所に行こう。俺らはジェイド団だ。みんなで解決しよう」


「そうだな」


 そう言ってファビオと二人で部屋を出て、マリタとハルトトの後を追った。


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