ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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星の十傑 マッテーオアレンシュタインVSカスイマサムネ

公開日時: 2020年11月25日(水) 13:03
文字数:6,987

 ハルトトの後を追って宿舎を出る。村はグラディー村と一緒で、アゼドニア湖の周りには柵がある。特産品は露店がまとまった場所があるので、そこで買い物ができる。

 マリタとファビオもそこに向かったのだろう。


「早く! 東陽!」


「わかってるよ」


 ハルトトに急かされながら、後を追うと二人の姿が見えた。一定の距離を保ちながら、尾行する。


「おい、ハルトト」


「何よ」


「これは何?」


「見守り隊よ」


「み……なんて?」


「これは来るわ……ブチューまで行くかしら……」


 いかんやろ……

 十分程度、歩くと露店街に着いた。マリタとファビオは露店に並んでいる野菜や保存食を選びながら買っている。マリタが買い物をし、ファビオが荷物を持つ。

 俺とハルトトは影からそれを見ている。


「いいわねぇ~……」


 何故かその光景を見てハルトトはうっとりしている。妄想もここまでいくと凄いな。


 マリタとファビオは三十分程度かけて買い物を済ませた。そのまま湖沿いを歩いていく。

 そして、着いていく俺とハルトト。


 ふと、二人は足を止めてアゼドニア湖の方に目をやった。何やら話しているようだ。

 それを聞こうとギリギリまで聞き耳を立てるハルトト。


「な、なにを話しているのかしら……」


「そんな身を乗り出したらバレるって……」


「え? 何? あとにして」


 へいへい。

 まあ、あの二人は一緒に長く旅をしてきたからな。色々あるんだろうな。


 確かにマリタとファビオの話し合いは少し気が抜けたような雰囲気だ。二人とも良く笑っているし、ボディアクションも大きい。


 結局、五分ほど立ち止まって話し、そのまま宿舎に戻っていった。それを悔しそうに見つめるハルトト。


「おしかったわね」


 何がだ。


「戻ろうぜ」


「あの二人、絶対にくっつくわよ。そしたら、マリタは玉の輿ね! すごい!」


 すごいのはお前だ。よく妄想でそこまで盛り上がれるな。


 ハルトトと二人で宿舎に戻り、見守り隊は一旦解散となった。もう結成してほしくないが……。



 次の日、ロンダ村を出発し、シュロ―川付近まで歩いた。ちょっとした森林を抜ける感じだったが、大きな船が見えていたので、あそこまで歩けばいいのかと目的がはっきりしていた。終わりがわかるというのは気持ちが楽になるもんだ。

 半日も歩くと、シュロ―川下りの大船乗り場に到着した。そこからは、一日船の上で過ごす。


 シュロ―川は対岸まで300mくらいある大きな川だ。流れは穏やかで、アゼドニア湖に大量の雨が降らない限り、洪水などはしないようだ。

 船の大きさは平たく長い。一階だけの作りで、小判みたいな風貌だ。カプセルのように透明なガラスだか何だかで屋根が作られていて、宇宙船にも似ている。甲板に出れるのは後ろの一部だけだ。広さは座った状態なら百五十人は行けるだろう。だが、一日船にいて横になったりするので、そのスペースを考えると五十人程度が限界だろう。

 船の外壁は魔物に襲われてもいいように、棘が多い。魔導具で電撃も流せるようだがシュロ―川はアゼドニア湖に比べてそんなに凶悪で大きな魔物はいないようだ。


 四人は手続きを終えて乗り込むと大部屋に通された。密度は全体のスペースの半分強といったところか。まあ、快適に過ごせる人数だ。

 大部屋にはテーブルや椅子は無く、地べたに座ったり寝たりする感じだ。学生時代の体育館みたいだ。トイレは前と後ろについており、大部屋の前の方には売店もある。

 四人は、後ろの入口近くに荷物を置いてスペースを確保するために、毛布やシートを敷いた。


「ファビオ、なんでこんなに船は平たいんだ?」


「橋の下を通るためだ」


「あぁ……なるほど」


 背の高い船を作れば、その分、橋も高い物を作らなければならない。まだその技術は確立されていないんだろうな。


 その時、ゴゥン! っと大きな音が鳴り、船が振動し始めた。エンジンか。いや、エンジンはない。じゃあ、何の音だ?


「この船って動力は何? なにで前に進めているの?」


「魔導具だと思うが、詳しくは……そういうのはマリタが詳しいんじゃないか」


 マリタに話を振るファビオ。マリタは地べたに敷いた毛布の上で、もう横になっていた。


「マリタ。この船って何の魔道具で動いているんだ?」


 マリタが体を起こして答えてくれた。


「え? 多分、船底に水の魔力が出るような魔道具ね」


「スクリューとかだったら、風かと思ったけど、水なんだ」


「スクリューって?」


「あ、いや」


「水を動かすために風も使っているだろうけど、基本は水ね」


「複合的なモノも作れるんだな」


「違うトワイコンを入れれば問題ないわ。トワイコンは性質上一つの魔力しか入れられないけど、複数入れればその分の魔力を得ることは可能よ」


「なるほどね。トワイコンの魔力は無くならないのか」


「無くなるわよ。使いきったら終わり。トワイコンは大きさによって含有量が増えるんで、大きければ大きいほど魔力の量を多く持つことができるわ。ただ、こうやって自然に近い場所で使う魔道具はその自然から常に魔力を吸収する事になるんで、ここだとあんまり関係ないかもね」


「でも風は?」


「サイオリウムという液体があって、属性魔力を無属性の魔力に変換できるのよ。それで吸収した水魔力の一部を無属性に変換して、更に風魔力に変換しているんだと思うわ」


「ふーん……」


 さっぱりわからなくなってきた。それにしてもマリタは魔道具について良く知っている。さすが魔道具を作った国、セロストーク共和国の国民だな。


「仕組みはよくわからないけど、理論的にはそんな所ね」


「じゃあ、補充とかしなくてもずっとって感じか。燃料も必要ないって便利だよなぁ」


「魔導具自体が壊れなければ、ずっと使えるわね。でも、大体五年から十年もすれば壊れるわ」


「なんで?」


「他の金属が耐えられないからよ」


 そりゃそうか……。あんな爆発的な力をずっと支えている他のパーツが持たないか。


「今は、耐えられるような金属の開発をしているわね。国の開発局は」


「セロストーク共和国は工業が発展してんだな。ハルトトの故郷ナイシアス連邦は魔法だろ? レイロング王国は何かそういう特色みたいなのはあるのか?」


 ファビオは少し考えながら、答えた。


「うーん……そうだな……他国との違いは建造物とかかな」


「建造物?」


「あぁ……首都カルタスのカルタス城を見れば驚くぞ」


 セロストーク共和国のハイル城は、現代で言えば中世的な城だった。周りに高い壁があり、中に町がある。一部の畑や鉱山は城の外にあるが、外敵から守る時はあの城壁の中に避難するのだろう。

 あれよりも立派な城があるのか。それは何か楽しみだ。ちょっとした観光気分だな。


 船の振動がより大きくなってきた。船員たちが忙しなく動き始めた。いよいよ出発だ。


 窓の外を見るとゆっくりと動き始めたのが確認できる。じわりじわりと川岸から離れ、川の中央へと寄っていく。しばらくすると、川の中央に到着。一旦、魔道具が止まったが、ウーン、ウーンという音は鳴り止んではいない。


 数分後、静かに船が振動し始め、魔道具もフルパワーで動き始めた。その瞬間、船がゆっくりと加速していく。船の頭が上がりそうで上がらない絶妙な速度だ。

 船は低い風貌を利用して、水面を滑るように進んでいった。時速はそんなに出てはいないが振動も少なく、乗り心地は良い。


 四人は船の中で好きなように過ごした。船外に出たり、風景を楽しんだり、横になったりして、時間を潰す。夜になっても船は止まらず、そのまま川を下って行った。特にやる事もないので暗くなったらみんな眠りについた。


 透明な屋根から朝日が入ると、否が応にも目が覚めた。眠い目をこすりながら、船外に出るとひんやりとした風が更に目を覚まさせてくれる。周りを見渡すと、行く先に巨大な城壁が見えていた。


「うわ! でけぇー!」


 思わず声が出るほどの城壁の高さだ。あれがカルタス城だろう。確かに自慢するだけはある。城壁の高さだけで二十メートルは超えている。現代の建物だったら六、七階に匹敵するだろう。更にその奥に本城が見え、その大きさと高さは優雅というほかなかった。


「ヨーロッパの古城のような雰囲気だな……凄いわ、これ」


 口を開けてそれを見ているとファビオも甲板にやってきた。


「おはよう、ファビオ。すげぇな、あの城」


「あぁ……」


「中は凄そうだな。案内してくれよ」


「……ふっ……俺があの城に行くことはもうないって言ったろ」


 うっかり忘れていた。ファビオは行方不明になるんだったな。


「そうか、そうだったな。悪い」


「いや……自分で決めた事だ」


 ファビオは目の前の大きな城を眺めていた。いろんな感情がうごめているだろう。だが、弟のため、レイロング王国のため、身を引いている。男として尊敬する覚悟だ。


「まあ、その……宿舎で楽しくやろうや」


 努めて明るい声を出した。


「あぁ……そうだな。美味い飯作ってくれ」


「ふっ……いいぜ」


「その変わり、しっかり稽古つけてやる」


「いや、それはお手柔らかに……」


 マリタとハルトトが洗礼を受けている間、よく考えたら俺も修行みたいなもんだ。魔法が使えないから体術をあげると言われても……あんなドッカンバトルに参入できるのだろうか。何か不安しかないなぁ……。



 それから約一時間、見える川幅が大分狭くなってくる。水深も浅いようで、この船が平べったくしている構造がよくわかる。多分、川幅は百メートル、水深も三メートルはないだろう。

 港が見えてきた所で船はゆっくりと速度を落とした。静かに船をコントロールし、ゆっくりと川岸の停泊場に寄せた。


 こうして、遂に船はレイロング王国の港に着いたのだった。


 船から降りると目の前にはあの大きな城壁がある。四人は口をあんぐりしながらその城壁を見上げた。情けない声でハルトトが言う。


「たっかいわね……」


 マリタと東陽は無言で頷いた。


 港から200メートル先に城門があり、そこを通る際には軽いチェックがある。ファビオはなるべく城には近付かないように、ここでマリタたちと別れることになった。


「じゃあね、ファビオ、東陽。何かあったらリフォンで知らせるわ」


「ちゃんと修行するのよ、東陽」


 ハルトトがニヤニヤしながら言ってくる。


「わかっているよ。洗礼、頑張れよ。てか、洗礼って何するんだ?」


「一日に三回お祈りを捧げるだけよ。あとは基本自由時間」


「え? そうなんだ。何か簡単だな」


「そうね。苦しい事はないわ。ただ魔法を得られるかどうかは個人差があるんで、長くかかる人もいれば、短くてすむ人もいる」


「二人はどれくらいだ?」


「まあ、一週間もすれば平気じゃないかしら。ね、マリタ」


 ハルトトがマリタの方に振り返る。


「そうね、それくらいだと思うわ」


「じゃあ、一週間後だな」


「えぇ。それじゃあね」


 マリタとハルトトは手を振りながら城門に向かい、俺とファビオはそのまま城を背に歩き始めた。

 ファビオは川を歩いて渡り、森の奥に行くようだ。港から少し離れた所から、川に足を入れて進み始めた。川の水はひんやりとして冷たい。だが、流れは穏やかだ。三分の一くらいになると深さが一メートルを超えてくるので、ここからは泳ぎになる。平泳ぎをして、反対側の足が着く所まで泳いでいく。ファビオは長い手足でスピード感のある泳ぎをしている。


「うっぷ……おい、ファビオ。泳ぎ、うまいじゃないか」


「毎日のようにこの川で泳いでいたからな」


 なるほどね。セレブや貴族って言ったら家にプールだろうけど、これだけ近くて、流れが穏やかな川があるならプールはいらなそうだな。まあ、プールっていう施設があるのかわからんけど……。


 川の反対に着くと、そこからは歩きで川沿いを南下していく。昔作っていた宿舎までは五時間程度はかかるようだ。

 結構遠いな……軍事用の施設だからかな。


 森の中に入り、二人で歩く事一時間程度。空気がうっすらと凍っているように感じた。気のせいかと思って、また歩き始めると後ろの方から何やら音が聞こえてきた。魔物の類ではなく、誰かが戦っているような物音だ。


「ファビオ……」


「わかっている。俺は少し気配を消す」


「ん? レイロング王国の人達か?」


「あぁ……」


 そういうとファビオは魔力を抑えたように感じた。こんな森で何かをやっているって事は、兵士とかの類かもしれない。それはさすがに見つかっちゃあ、マズいよな。俺も息を潜めよう……。

 少し忍び足になった所で、ドカンバコーンと大砲のような音が響き渡った。


「?! すごい音だな」


「多分、蒼龍騎士団団長マッテーオ=アレンシュタインだ」


「星の十傑の次男坊だっけか?」


「あぁ……早くこの場から離れよう」


「わ、わかった」


 二人は少し速度を上げて、その音から遠ざかって行った。途中、小高い丘があったのでそこを登った時に、背後に強烈な寒気を感じて振り返った。


 ずーっと遠くに見える森の拓けた広場に、雪柱がピサの斜塔のように立っていた。透明で美しく、雄大な氷柱だ。そこからここまで何百メートルあるかわからないが、ここまで届く冷気を感じる。天気は晴れ。気温も25℃前後と自然に氷ができる事なんてありえない。つまり、あれは魔法で作られたものだ。

 だが、今まで見てきた魔法とは雲泥の差。質量が異常だ。


「な、なんだ、あれは……」


「……おそらくだが……誰かと手合わせしている感じだ」


「手合わせ? 手合わせであんなの出しているのか……」


 信じられなかった。あんなのを産み出す事も、あれと闘う事も。ぶっ飛びすぎている。俺はその氷柱から目が離せなくなった。

幸い、この小高い丘があの広場をよく見せてくれる。少し角度を変えると槍を持った青い甲冑に身を包んだ男が見えた。あれがマッテーオ=アレンシュタインだろう。彼の目の前に氷柱が立っている。

 その氷柱の上を滑るように下りていく男が一人。和風の着物に漆塗りの甲冑を身体に巻いている。


 その姿を見て、ファビオをは驚いた。


「カスイマサムネ……あれは、カスイマサムネだ……」


「だ、だれ?」


「星の十傑、ヒアマ国の隻眼、隻腕の侍。カスイマサムネだ」


「さ、さむらい? こっちにも侍っているの? え? 日本があるのか?」


「ヒアマ国だ。ニホンという名前ではない」


 何が何だかわからなかったが、こっちの世界でも日本と同じような文化を持つ国があるのか?

 ヒアマ国だって……侍だって……


 頭が混乱してきた。だが、その二人の戦いは更に衝撃的なモノだった。



 氷柱を滑り下りてきたマサムネは、片腕で日本刀を振り回し、マッテーオに切りかかるが、大きく後ろに飛びそれを避けた。そこからマサムネは電光石火のごときスピードでマッテーオの懐に入り、腹にめがけて横切り。それを槍で防ぐと、その槍をそのままマサムネに叩きつける。


 だが、またしてもその場から消えるがごとく、移動するマサムネ。身体に雷をまとい、無理矢理身体を移動させているようだ。


 マッテーオも氷柱を消し、魔力を戻した。その魔力で今度はマサムネの上からつららを落とし始めた。その数、数百本。


 それを最短距離で交わしながら、またしても横切りを見舞うマサムネ。だが咄嗟に出した分厚い氷に阻まれた。かと思ったが、マサムネの刀はその氷ごとぶった切った。


 マッテーオが何とか槍でその刀を止めたが、マサムネはここから目にも見えない連撃を繰り出していく。何とか対処しているマッテーオだが、その斬撃は速度と威力が段々と上がっていく。

 前に進んで刀を出しているのではなく、後ろに移動して勢いをつけて、飛んでいってるようだ。正に電撃の弾丸。


 防戦になったマッテーオは一瞬の隙を付き、氷柱を地面から突き出させた。だが、マサムネの刀は、その氷柱をこんにゃくのように切って、マッテーオを追う。しかし、その切るという行為に費やした時間が連続で氷を発生させるには十分な時間だった。


 目の前に盾のように出すのではなく、マサムネに向けて槍で突く度に先端から氷柱を飛び出させた。マサムネの連撃に勝るともと劣らないスピードで突きをくり出すマッテーオ。片手のマサムネは防戦になると弱そうだ。その攻撃から逃げるように電撃移動する。


 マッテーオはそれを追うが、やはりスピードでは敵わない。仕方なく、マサムネが逃げないように逃げ道に氷を出したり、取り囲もうとするが、逃げられてしまう。


 すると、真っ赤な鎧を着た男が二人の間に割って入ってきた。彼が二人に声をかけると二人とも刀を下ろした。そして、三人で集まり話し合っているようだ。


 その一部始終を見ていた俺とファビオは息を呑んだ。


「あれが星の十傑の戦いか……」


「あぁ……最後に出てきたのが赤龍騎士団団長、アッティリオ=アレンシュタインだ」


「なるほど……」


「……行こう、東陽。見つかると厄介だ」


「あぁ……」


 俺とファビオはそのまま丘を越えて、更に森の奥へと歩いて行った。世界を救ったとされる英雄、星の十傑。そのとんでもない力をまざまざと見せつけられた。

 魔法があっても勝てない、いや、勝てるとか勝てないとかそういうレベルじゃなかった。

 わかりやすく言えば、道端に落ちている棒でロケットランチャーとマシンガンに挑みに行くようなものだ。これ、勝てるか? てか、そういう話じゃないだろって。


 ほんとに俺は……異世界で魔法すげーなんて軽く思っていたけど、とんでもなかったな……


 あれほどの力をもってしても、簡単には勝てなかった魔神という存在の恐怖が、ブスリと心に刺さった気がした。


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