プルル族とグラン族は縄で縛り上げられ、ジェイド団の前に座らされている。マリタも少しは落ちついたようだ。静かにファビオが二人に語りかけた。
「それで。君たちの名前は」
プルル族が答える。
「俺はアオトト。こっちはニールだ」
それを聞いてハルトトが顔を見に来た。
「あ、この前の。この森で会ったよね」
「あ、あぁ……」
「あの時から狙っていたの?」
「い、いや。あの時はあんたたちがジェイド団とは知らなかった」
「で、なんで私たちを襲ったの?」
「腕試しだ。実は救ってほしい人がいる」
マリタの顔がゆがむ。
「救ってほしい人がいるっていうのに、腕試しってどういう事?」
「恩人が病気で……。 このマハルベク熱帯雨林にいるという魔物を一緒に倒してもらいたいんだ。その魔物の角を煎じて飲むと治るらしい」
ハルトトが鼻で笑いながら言う。
「迷信よ、そんなの。昔、流行った治療方法だけど治った試しはないわ」
「そ、そんな……」
「マリタ。とりあえずはその救ってほしい人の様子を見に行きましょう」
マリタが腕を組みながら考えている。
「でも、まだ信用できないわ。こんな不意打ちをしてくる二人を。そもそもそれだったらギルドで頼めばいいでしょ。なんでジェイド団に入ろうなんて嘘を言ったのよ」
「お、お金がなくて……」
「病気なら国に相談すれば色々と支援があるでしょ。普通はそっちに頼まない?」
「それが……」
アオトトとニールが顔を見合わせる。そして、意を決したようにアオトトが話し始めた。
「網死病なんです……」
その病名に俺を除く全員が固まった。フォウマンだけがかかると言われる網死病(あみしびょう)。以前は致死率百パーセントの伝染病であったが、現在は早期治療すれば治る病気になっている。
ハルトトが話を聞く。
「だったら、早く病院に……」
「それが……」
「何よ」
「不思議な網死病で……」
「どういう事?」
「あ、網のあざが二本……」
「え? 二本?」
「は、はい……。それに彼女はヒアマ国の有名な剣術道場の指南役でして……」
「それってすごくない? ヒアマ国の剣術は世界でも随一よ。あれ? 彼女って? 女性なの?」
「はい……。俺とニールは彼女の従者でして……」
「ちょっと話が混みあってきたわね……。彼女とあなたたちの関係、今の状況をまとめるとどういう事かしら」
「えっと……。俺とニールはヒアマ国の戦争孤児で、夜道で盗みを働いた所、下手をうって殺されかけました。そこを偶然通りかかったハンガク様に助けられて、従者となりました。その後、ハンガク様は女性ながら最年少で道場の免許皆伝を取得。その直後に網死病となりました。しかし、網死病の治療を施しても良くならず、よく見ると体には二本の網のあざが出ていたのです。知っての通り、網死病は伝染病で指南役がかかったとなれば道場に迷惑が掛かります。しかし、ヒアマ国には治せる人は少なく、また治療費もかかるので治療法があると言われるナイシアス連邦にやって来ました。しかし、途中でハンガク様の具合が悪くなり、ここからほど近い廃墟で寝ております。俺とニールはナイシアス連邦に、藁をつかむ思いでナイシアス連邦に相談しに行ったのですが、門前払いをされました」
「……そりゃ、正体もわからない人に支援はできないわ。ギルドに登録もしていないんでしょ」
「はい……。その後、そのギルドを紹介されたんですが、結局はお金という事になり……。そこで魔物の話を聞き……」
「それはバカにされたのよ」
「そ、そうだったのか……。そして、だったらどこかの調査団に一瞬だけ入って、魔物を倒そうと唆して角を得ようと……。新しい調査団のジェイド団が隊員募集をしていたので応募したというわけで……」
「舐められたもんね、てか舐め過ぎよ、あんたたち。少し安易だけど、話は分かったわ。とりあえずは、その病人を見せて。それで対策を練りましょう」
「ど、どういう事で……」
「まず本当に網死病なら、ナイシアス連邦の病院に連れて行くわ」
「しかしお金が……」
「お金はジェイド団が肩代わりするわ。その代わり、生き残ったらそのハンガクさんと一緒にあなたたちもジェイド団に入りなさい」
「えぇ?!」
「どう? マリタ」
マリタはニヤリと笑って答えた。
「いいわね、さすがだわ、ハルトト。ヒアマ国の剣術、免許皆伝って事は相当の腕前よ。あなたたち二人は根性に矯正が必要だけど、それを補って余りある戦力かもね」
「ハンガク様が元気な時は、数ある剣豪を相手に連戦連勝。女性でなければ世界一の剣豪と言っても過言ではないです」
「そ、そんなに?! それは嬉しいわね。じゃあ、その人の所に案内して」
マリタが前のめりになった所で、ファビオとハルトトがマリタを止める。
「フォウマンのマリタと東陽はホテルで待っていた方がいい。網死病にかかるかもしれないぞ」
「そうよ。二人はホテルに行ってて」
確かに、フォウマンだけがかかる病気なら俺とマリタも気を付けた方がいいな。てか、俺もフォウマンなのか……。
「そうね。じゃあ、ファビオとハルトト、ロサの三人にお任せするわ。私と東陽はナイシアス連邦に戻っておくから。何かあればすぐに連絡頂戴」
そういうと俺とマリタはナイシアス連邦へと戻った。五人はそのまま森の中へと消えていった。アオトトとニールは一応、縛られたまま連れていかれていた。
マリタと二人でナイシアス連邦に戻るとホテルのロビーで連絡を待った。その間に一応、俺から診療をしてもらったミツトトの診療所へ連絡をしてみた。すると、すぐにやってくるという。変にイキイキとしていたのが気がかりだが……。
三十分程度経つとハルトトからマリタに連絡があり、確かに網死病らしく、網の目が縄のように体を這っており、その先端が首元に二本出ているらしい。通常は一本なので、これは亜種か新しい病気かという事だった。この先端が首に巻きつくと死んでしまうという伝染病だ。また、すでにハンガクの意識は無くなっているようだった。
それをミツトトに伝えるとすぐに森へと向かった。一時間もしない内に合流したと連絡があり、その網死病は変異したものだという。幸い、現在ある薬で治るらしい。一週間も安静にしていれば大丈夫なようで、ジェイド団が治療費を肩代わりし、ミツトトの診療所へ運ばれる事となった。
マリタと二人で診療所へ向かった。数時間後に運ばれてきたハンガクを見たが、顔は幼く、恐ろしくやせ細り、息も絶え絶えだ。ただ、呼吸をするたびに揺れる大きな胸だけが印象的だった。
その後ろをやたらと長い刀剣二本を持って、アオトトとニールが追いかけて、一緒に診療所へと入っていった。
その様子を見届けて、ホテルへ戻ろうとするとファビオとハルトト、ロサと鉢合わせた。五人は一旦、ホテルに戻ることにした。
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