ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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王の裁決

公開日時: 2021年2月17日(水) 16:41
更新日時: 2021年2月18日(木) 13:17
文字数:4,852

カルタス城の街並みはイタリアの市場のようだ。色とりどりの野菜や果物が綺麗に陳列されている。また、日よけのタープもおしゃれなのが多い。

 また、飲食も盛んで屋台などもたくさん出店されている。セロストーク共和国と同じように石がメインの街並みだが、装飾などはこちらの方が多く、貴族を称えている。特に龍は至る所にある。


「バルト族は、龍が好きなんだなぁ」


 ボソッと言った言葉にマリタが答える。


「その昔ね。マヌエル=アレンシュタインって人が、悪さをする龍神バルタリヌスを倒したの」


「アレンシュタインって……今の三貴族のご先祖様?」


「そう。それで傷ついた龍神バルタリヌスを不憫に思い、介抱したのがフロリアーナなのよ」


「へー……龍を介抱って、またすげぇな」


「龍神バルタリヌスは感謝し、フロリアーナをオウブの所に案内して、そのオウブでレイロング王国ができたわけ。その後、龍神バルタリヌスはアラルゴ大陸南部を中心とした第二次魔神大戦で亡くなるまでオウブを守り続けたというわ。だからバルト族は龍と共に生きたという意識があって、神格化しているのよ」


「なるほどな……」


 バルト族と龍ってそういうつながりがあったんだな。だからみんな龍が好きなんだ。

 まあ、街並み的には龍というよりドラゴンか。


 宿舎に着くと荷物を部屋に置いて、ロビーの待合室でファビオを待ちながら三人で談笑をした。俺はマリタに顔と手を光魔法で癒してもらっている。

 話の内容は、マリタとハルトトのオウブ洗礼の事、ファビオのお家騒動の事……。別れた間に起きた事を語り合った。

 特に盛り上がったのは、俺が魔道銃でルカを捕まえた話と二人の洗礼の話だった。

 ハルトトが目を丸くして聞いてくる。


「嘘でしょ?! 相手は三貴族だよ!」


「この魔導銃のおかげだよ。使えるぜ、これ」


「信じられないわ……そんなに魔道具って凄いのね……勉強になったわ」


「考えて戦わないとダメだけど、これがあれば十分戦えるぜ」


「確かに……三貴族を倒すなんてよっぽどだよ」


 ハルトトは魔道具に驚きを隠せないようだ。生活に便利だとは思っていたが、魔法を使う戦闘に耐えられるレベルではないと思っていたようだ。


「へへへ……だろ?」


「でも、顔面はボコボコだよね」


「うるせぇ」


 マリタが俺の両手を癒しながら、その傷の状態を見ていた。


「この手は凄いわね。握って一瞬でここまで……。闇魔法でも相当な使い手よ」


「そうか? 大した事ねぇよ」


 ちょっと鼻高々で話す俺に、ハルトトが止めを刺す。


「向こうは顔と火傷。こっちは顔と手の腐敗。傷で言ったら、こっちの惨敗ね」


 どうしても俺を貶めたいらしい。


「すぐに治すよ。マリタ、完治までにはどれくらいだ」


「そうね……でも、数日だと思うわ。闇魔法でやられたのなら光魔法は通じやすいから」


 魔法攻撃は魔法で治しやすいのか。それは好都合だったな。

 でも、ちょっと違うよなー。異世界の魔法ってもっと即効性があった気がする。


「魔法ってさ。こう一瞬で治ったりできないのか。俺の世界のゲームとか物語とかだと傷なんて一瞬だったし、何か毒とかも一発で浄化してたし、死んだ奴だって生き返らせてたぞ」


「そんな事できるわけないでしょ。光魔法はあくまでその人の能力の促進。一瞬で治る傷もあるけど、毒やウィルスには直接は効かないし、死んだ人を生き返らすなんて夢物語よ」


 マジか……。うっすらと気付いていたがやっぱりな……。

 光魔法はあくまで免疫や再生能力の促進。痛みを和らげるが、強力な毒やウィルスなどを直接攻撃するわけではない。まして死者を生き返らすなんて……。

 もし可能だったら、ずっと不老不死になり、人口は増え続けるよな。魔神で殺されても生き返せるなら、悲しみもない。

 ちょっとだけ異世界で変な現実を見せられた気がした。


 ハルトトが笑いながら言う。


「アハハ! そんな魔法みたいな魔法あるわけないじゃない」


 魔法みたいな魔法って……。

 現世では聞かない言葉だな。


「……んで、二人の洗礼はどうだったんだ。セロストーク共和国とは違うのか」


「当たり前よ。こっちではフロリアーナ教があるからね。オウブ信仰ってよりフロリアーナ信仰だね」


「へぇー」


「信仰の自由があるから洗礼方法を押し付けられる事はないけど、フロリアーナ信仰の人達は熱いものがあったわ」


 信仰の自由なんてちゃんとあるんだな……。でも、確かにこの異世界の治安は悪くない。また、隣国間での争いも極端に少ない。共通の敵、魔神がいるという事だけでは説明がつかない程だ。


「そういう治安維持の知識とか、法律とか……。凄いよな」


「ぜ~んぶ、アルトト様のおかげよ。国という仕組みや魔法の形式化、生活知識など全てアルトト様が残してくれた『アルトトの書記』があるおかげ。私達プルル族は、その功績を称えて、名前の後ろにアルトト様と同じ『トト』をつけているわ」


「『トト』にそんな意味があったとはね。じゃあ、それぞれの国でそれを解釈して守っているって感じか」


「正確に言うと違うわね。大きな枠組みとしてはシャル・アンテール貿易協定とシャル・アンテール調査協定があり、そこにアルトト様の知識がふんだんに使用されているわ」


「その二つの協定ってどんなのだ」


「貿易協定は、共通言語、統一通貨などの制定だね。それに流通などを良くするために関税などの取り決めをしたわ。調査協定は、調査団が得たもの全てをシャル・アンテールの役に立たせる協定よ。隠し事などを無くし、得た知識や素材は全てシャル・アンテールで使って行こうというね」


「ふーん、でもさ。そんなの守るやついるのか」


 後で思ったが、仕事柄の嫌な面が出た。常にモラル欠如や法令を無視する人間を相手にしていると、そんなもんは言っているだけで守る奴の方が少ないと思ってしまう。

 マリタが割って入ってきた。


「守らない人のための協定なのよ。守らなかったらオウブの洗礼も受けられない、国にも入れない、調査団にも入団できない。つまり流浪民になるしかないの」


 なるほど。だからセロストーク共和国ではあんなに嫌っていたんだな。


「流浪民ってシャル・アンテール全土にいるのか」


「もちろん。流浪民には大きく分けて三種類いるわ。一つ目は戦争孤児や何か理由があって洗礼を受けられなかった人達、二つ目はオウブの存在すら知らない人達、三つ目は大きな犯罪を犯した人達よ」


「オウブの存在を知らない人達なんているのか」


「国に属さない村や集落はそれなりに存在するわ。調査団ができて、世界中を飛び回って何個は見つけたけど、きっとまだ全部じゃないと思う。魔法を使わずにどうやって生活しているか、全くの謎よ。もしかしたらオウブを使わずに魔法を使う方法を持っているのかもしれないって噂もあるわ」


 確かに、現世でも百年前まで未発見先住民が見つかったりしたもんな……。だが、この世界で魔法を使わないなんて信じられないな……。


「それで三つ目の犯罪者たちは? そんな奴らを野放しにしたら危ないんじゃないのか」


「魔法を使えなくさせる魔道具を付けられるの。取ったら死んじゃうような感じでね。事実上の島流しみたいなものね。野垂れ死にさせる刑だわ」


「組織的な犯罪だったらどうなるんだ? もし先住民の場所とか、まだ未到達な所に逃げて、魔道具を外す方法を得ていたら、それこそ大きな犯罪組織になるんじゃないのかな」


「そうね……そこまでは私もわからないわ」


「あ、わりぃ。詰めるつもりはなかったんだ」


「わかっているわ」


 知らない事があると詰めて行ってしまうのは、職業病だ。綻びを見つけようとしてしまう。


 その時、入り口が開いてファビオが入ってきた。少し疲れた表情だ。


「みんな、お揃いだな」


 マリタが心配そうに声をかける。

「どうだったの? 捕まったりするの?」


 ファビオは一つため息をついて話し始めた。


「三日後に王の裁決が下される予定だ。俺のリチャード様殺人容疑、ルカの女性連続殺人容疑、アミーリア夫人のリチャード殺人容疑と国家反逆罪の三つについてだ。俺のリチャード様殺人容疑についてはほぼ容疑は晴れている。二人の裁決が中心になるだろう」


「そう、良かった」


 マリタがほっとした顔をした。


「あ、それで旅はどうするの?」


「王の裁決が終われば、俺も旅を続けられるだろう」


 ハルトトが立ち上がってガッツポーズをした。


「やったね! みんなでオウブ参りしよう!」


 その後、みんなで軽く談笑をして、部屋に戻った。


 次の日から各々の時間をレイロング王国で過ごし、三日後、王の裁決が下された。


 内容は、アミーリア夫人の自供により、ファビオの罪は許された。


 アミーリア夫人は国家反逆罪の一環として、リチャード殺人を犯したとし、その二つの事件の主犯とされる。三貴族としても、あるまじき行為で処刑を言い渡された。

 しかし、ダリオの執り成しにより、処刑を免れ、その変わりに三貴族の権利のはく奪、禁固百年が言い渡され、事実上の終身刑となった。


 また、ルカの凶行も「ワルデマール森林連続殺人事件」として詳しく調査。被害女性は十三名を数え、アミーリア夫人と同じく三貴族の権利はく奪、禁固百三十年が言い渡された。


 バルディーニ家として唯一残ったミケーレも追及されたが、特に問題は見当たらずに無罪放免。今後のバルディーニ家の命脈は彼の手に委ねられた。


 王の裁決が終わり、城から出てくるファビオ。後ろからダリオとサラとレラも付いてくる。ジェイド団は旅支度を済ませてみんなで迎えた。


「みんな……」


 マリタがファビオの荷物を手渡す。


「さ、行くわよ」


「ありがとう……みんな、色々とありがとう。心配かけた」


「気にしないで。でも、これでさっぱりしたんじゃない。家族に誤解も解けて」


 ファビオが少し笑いながら言う。


「そうだな……色々と決着ができて良かったよ、感謝する」


 ハルトトがファビオにテクテク歩いていく。


「ジェイド団に三貴族がいるなんてね! とりあえず市場と武器屋に行こう!」


「えっ……」


「心配をかけたんだから、奢りなさい! 行くわよ!」


 そういうとハルトトは市場の方へ走り出した。その後は、マリタとファビオが追う。


「ちょっと、ハルトト!」


「お、おい……」


「早く早く! ほしい杖があったのよ!」


 その三人の背を見ている俺とダリオ達。


「ったく……まだまだガキだな」


「……東陽さん」


 ダリオが話しかけてくる。


「ん?」


「兄を……お願いしますね」


「あぁ……」


「それにしても兄があんな人だとは思いませんでした」


「あんな人って?」


「家にいた兄はほとんど話しませんでした。両親に疎まれた顔の痣や僕の事もあったでしょう。笑顔も何回か見たくらいです。僕にはどうしようもありませんでした」


「……」


「ジェイド団……ですか。あそこにいる兄はとても魅力的に笑います。このレイロング王国にあるしがらみから解放されているんでしょうね」


「でも、いずれ戻ってくるぜ。そん時、どうすんだよ」


「……僕が作りますよ。兄の居場所を」


「わかってるじゃん」


「よく見て、よくわかっていますね。東陽さんは」


「まあ、年の功って奴?」


 正直、ジェイド団は若い。全員二十代。俺だけ三十二だ。ちょっとくらいは視野が広いだろう。

 サラがダリオに申し訳なさそうに話しかける。


「ダリオ様……そろそろ……」


「わかった。それでは東陽さん。また是非レイロング王国に寄ってください」


「あぁ……」


 と、言ったもののこの旅の目的はオウブ参りと俺の現世へ戻る方法を探す旅なんだよな。次に来れる保証はないけど、こう言っておくのが大人ってもんだよね。

 ダリオが戻ると聞いて、ファビオを呼び止めた。


「おい! ファビオ! ちゃんと弟に挨拶してけ!」


 先を行くファビオは振り向いた。


「ダリオ。父上、母上を頼むぞ」


「はい。兄さんもお気をつけて」


 そういうとまたファビオは二人を追って行った。俺は足元にあった自分の荷物を持った。


「んじゃ、俺も行くわ」


「はい」


 俺は軽く手を挙げて三人の後を追った。ダリオは俺らの背に手を振り、サラとレラは深々と頭を下げてくれた。その佇まいには気品が満ちていた。

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