ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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マリタの怒り

公開日時: 2022年2月7日(月) 14:51
更新日時: 2022年4月13日(水) 13:59
文字数:3,220

 ハダル団から聖樹ウヴヴを守った俺とハルトトはそのまま気を失った。目が覚めると木で作られた屋根が見え、ここが安心して寝れる場所だとわかった。プルル族用のやたらと低いベッドに寝かされ、横には白衣を着たプルル族が世話をしてくれていた。

 俺が目を覚ますと、白衣のプルル族が気付いた。すぐに大声で先生を呼んだ。


「あ、ジェイド団の方が目を覚ましましたよ! ミツトト先生!」


 すると、同じような白衣を着て、丸い眼鏡をかけたプルル族がやってきて、顔を覗き込んだ。


「うん、大丈夫だね。あとは家に帰ってもらって」


「はい」


 ミツトト先生は俺の方を振り向いて、言ってきた。


「あなたは滋養強壮に良い食べ物でも食べて、身体の腫れが引いてきたら動いていいからね」


「あ、はい。ありがとうござ……」


 ミツトト先生は俺のお礼を最後まで聞かずに、部屋から出て行ってしまった。残った白衣のプルル族が医療器具をまとめている。

 どうやら俺はあの後、入院をして、そして今退院のお墨付きをもらったようだ。外が明るいから約半日程度寝ていたのだろう。


 身体の節々に多少の痛みは残るものの、体力自体は大きく回復している。光魔法は免疫や自己回復能力を高くしてくれる。現代とは違う、不思議な医療の発展の仕方をしていた。


 ホテルに戻るとジェイド団全員がそろっていた。体調も悪くないので、そのままロビーに集まり、マリタたちの洗礼中に起きた事をハルトトと一緒に話した。暇な日々から、アルトト博物館、そしてハダル団の事件を。

 もはや軽い冒険談だ。マリタが一つため息をしながら言う。


「はぁ……。でも、まあ無事で良かったわ。二人ともブレーキが効かないから心配していたのよ」


 俺もブレーキ効かない方に入っているのか……。


「ジェイド団の知名度も上がって、事件も解決して、二人も無事で。まあ、結果オーライだけど」


「悪かったよ、マリタ」


「いいえ。じゃあ、明日は新規の二人に会いに行くから。東陽もハルトトも大丈夫そうだから、みんな準備してね」


 マリタの言葉にみんなが頷き、それぞれの部屋に戻っていった。その日はまだ疲れもあって、朝まで眠りこけてしまった。


 翌日、朝食を市場で済ませると全員で町のはずれにある、あの広場へと向かった。一応、力を見るために模擬的に魔法を見せてもらおうという事らしい。ジェイド団は揃ってその広場へと着いた。

 相変わらず、殺風景でここだけポッカリと森に穴が空いたようになっている。三組くらいの団体が魔法の練習をしていた。とりあえず、みんなで荷物を置いて、新規のメンバーを各々の暇のつぶし方で待った。

 そういえば二人の詳しいプロフィールは聞いてなかったな。


「なあ、マリタ。新規に来るっていう二人はどんな奴なんだ」


 水筒で水を飲んでいたマリタが飲み終わると答えてくれた。


「プルル族一人、グラン族一人よ」


「となるとシャル・アンテールの五種族が揃うな」


「そうね。基本は同じ種族で調査団を組んでいる所が多いから、ジェイド団は豊かな顔ぶれになるわね」


 そういうとマリタが嬉しそうにクスリとした。


「どういう経緯でジェイド団に?」


「ギルドよ。あそこで募集をかけたの。いずれセリオの濃縮された世界(コンセントゥレイティドワールド)にも出場するつもりだからね。人数は多いに越したことはないわ」


「マリタはそこまで考えて調査団を作ったのか」


「うーん、そうだね。最初はお兄さんを探すためだったかもしれないけど。でも、ここまでオウブ参りをしてきてわかったわ。仲間と一緒に苦楽を共にするのも悪くないなって。そうやって絆って深まっていくんだなって」


「……」


「だから、今はジェイド団を良くしていく気持ちの方が上だと思うわ」


「そっか」


 シャル・アンテールでは、いつでも命のやりとりが発生する。ワンミスで誰かが死ぬ事態にもなり兼ねない。ハルトトもぶっ飛んだ性格をしているが、俺より無鉄砲ではないのは、その事をわかっているからだ。

 現世で一般人を逮捕する場合、銃を持っていないと言われれば飛び道具はないと考えてしまう。追い詰めた時に反撃を少し意識するが、シャル・アンテールほどではない。ここでは手ぶらでも何が出てくるかわからない。一瞬で魔法を放つ事だって可能なわけだから。

 今一度、自分の行動を反省してしまった。ヴァルティペの時や、グラディー村の時など一人で、思いだけで、突き進むべきではかったかもしれない。


「なんか……色々と世話になっているな、マリタ」


「何? 急に」


「いや……みんなには助けてもらっているよ」


 マリタが答えようとしたその時、森から巨大な影が現れて、ファビオとハルトトを斧の平らな所でぶん殴った。二人はうめき声を出しながら吹っ飛ばれた。それと同時に小さい影も現れて、ロサと俺を炎の魔法で攻撃された。爆発と共にファビオ、ハルトトと同じ所に吹っ飛ばされた。


「み、みんな!」


 マリタが焦燥して、俺らの方を見る。四人とも致命傷ではないが、不意を食らい身動きできない。

 黒い影の正体は、プルル族とグラン族だった。プルル族の方が口を開く。


「これじゃあ、アサリさんに紹介できないな……新進気鋭のジェイド団と聞いていたが、しょぼいな」


 グラン族も大きく笑う。


「ガハハハハ! 弱いな!」


 不遜な二人の態度にマリタが怒った。それを見たファビオとハルトトがビクっとした。


「あんたたち…… 覚悟はいいわね……!!」


「ま、待って…… マリタ」


「マリタ…… 待て……」


 ハルトトファビオの制止の声を振り切り、マリタの魔力が凝縮した。向こうのプルル族がニヤリと笑う。


「お? できるじゃないか。さすがジェイド団団長さんだ。ちょっとあそ……」


 プルル族が身を乗り出した瞬間、上空から光の矢が通り過ぎ足元へ刺さった。プルル族が上を見上げると、三重の大きな光の輪が形成されていた。そして、その輪の中へ向けて無数の光の矢が降り注いできた。


「や、やばい! ニール! 逃げろ!」


「おう!」


 二人は逃げ出そうとした瞬間、彼らに三本の光の鎖が飛んできて手足に光の輪が結ばれ、動きを鈍くした。


「クソ!」


 プルル族が腕を動かすと簡単に切れたが、その一瞬を逃さずに光の矢は降り注ぐ。そして、切れたと当時にまた三本の鎖が彼らに光の輪をかけた。


「なんだ、この魔法は?!」


「ぐおおお! 逃げられん!」


 二人は絶え間なく降り注ぐ光の矢と、動きを鈍くする三本の鎖に翻弄された。

 それを見ながらハルトトとファビオは立ち上がった。


「あーあ…… マリタ、切れちゃったわ」


「これじゃあ、近づけないな」


 二人はその光景を見ながら、俺とロサに振り返った。


「あんたたち、もう動けるでしょ」


「え? あ」


 ハルトトに言われて、手を動かすと先程までのダメージが抜けていた。ロサも不思議そうに立ち上がった。


「あれ? 白魔法かけてくれました?」


 ハルトトがニヤリと笑って、上空の光の輪を指さした。


「あれよ、マリタの独自の魔法。マリタの三つの感情(マリターズスリーエモーションズ)。あの光の輪の中には光の矢が無限に降り注ぎ、鎖が出ている所に小さい三角があるでしょ。あれから鎖が襲ってくる。そして、私たちの足元に四角い光があるでしょ。これで仲間を回復させているの」


 ファビオが自慢気に言う。


「攻守に加えて、味方を回復までするマリタ最強の魔法だ。他の誰も使えない、マリタだけの魔法」


「すげぇな…… そんなの持っていたんだ」


「ただ、問題がある」


「何?」


「あーなったら相手が倒れるまで止まらない。マリタの感情がおさまるまで……」


「そりゃ問題だ……」


 ファビオが懸念した通り、プルル族とグラン族が倒れるまでその攻撃は続いた。二人の意識が飛んで、やっとマリタの気持ちが落ち着いたようだ。


「何、寝てんのよ!!」


 いや、まだだったようだ。死体蹴りに向かう前に、みんなでマリタを落ち着かせて、その間にロサがプルル族とグラン族を縄で縛り上げた。

 やっとの事でマリタも落ち着き、話ができるようになった。これから二人を尋問していった。

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