ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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魔物探索開始

公開日時: 2022年4月19日(火) 16:57
文字数:3,467

 ロサを追いかけた三日間の疲れが出たのか、目が覚めたのは昼近くだった。チェックアウトギリギリに荷物をまとめてロビーに行くとマリタとロサもそんな感じだったらしい。

 今日の予定はソフィアトトからの依頼、魔物退治。マリタから詳しい依頼内容を聞く。


「みんな揃ったわね。ロサも大丈夫?」


「は、はい。色々すいません!」


 ロサが頭を下げる。


「いいのよ。今日からロサの魔法練習もしていくわ。ゆっくりやってきましょう」


「よ、よろしくお願いします!」


「それで魔物退治だけど、対象は一体。退治理由は人を襲う事と放置すると危害が広がる可能性があること。現在、四名の調査団員が犠牲になっているわ」


 シャル・アンテールの調査団の戦闘レベルは高い。現世の一般人とは比べ物にならないほどの危機管理能力と魔法を持っている。それにも関わらず四名か。


「調査団員って事は、それなりの準備や装備をしていたんだろ?」


「ええ。気を引き締めた方がいいわ。一体とは言え、舐めない方がいいわね」


「四名は一度に?」


「いえ、バラバラよ」


「一件ずつの詳細はないのか?」


「そこまではないみたいね。ただ……」


「ただ?」


「生還した人達が、少し辻褄の合わないことを言っていたりするのよ」


「どういう事だ?」


「森林調査に行ったのに、村にいたとか。水を飲んでいないのに、飲んだとか」


「錯乱しているのか?」


「かもしれないわね。襲われた人のほとんどがそんな状態よ」


「恐怖でおかしくなっているのか、それともそういう魔法があるのか」


「魔法ってよりそういう成分を出すんじゃないのかしら」


「成分?」


「キャナの実などは食べると高揚感と幻覚、幻聴をきたしたりするわ。そういうのを食べる魔物や動物もいるから、それを武器にしたりすることも考えられるわね」


 マリタが推測で話すのは訳がある。シャル・アンテールではまだ動物学などは発展中なのでカテゴライズされてはいない。いや、すべての分野において現世より劣っているだろう。だからこそ調査団が必要でその情報を基に様々な分野が活性化しているのが実情だ。

 だからマリタは推測で言う。そういう動物、魔物もいるかもしれないと。


「大体わかった。それで魔物の主な特徴は?」


「大きさは二マウくらいで、口が大きく、手足は短い。動きは鈍いが捕まえたとかの記録はないわ」


 二メートルくらいか……。


「口が大きいってどれくらい?」


「身体のほとんどよ。口の魔物といっても過言ではないわね。歯は、鋭い歯というより人間に近い嚙み砕く歯みたいね」


 頭の中で口に小さい手足が付いているのを想像した。色々な魔物を見てきて、大体想像の域を出なかったが、これは魔物と言ってもかなり気持ち悪い分類だな。


「……確かに魔物だな」


「なかなか風貌的には気持ち悪いかもしれないけど……。やるしかないわ」


「わかった。そういえばハルトトには連絡したのか」


「ハルトトたちには朝、連絡したわ。ハンガクの治療が終わればナイシアス連邦のすぐ後ろにあるプルト湖を渡ってリアス村へと来る予定よ。私たちはどっちみちここで待っていればいいわ」


「そうか。治療はどれくらいかかりそうなんだ?」


「あと数日って言っていたわ」


「え? 死ぬか生きるかの病気だったのに?」


「それだけ網死病は怖くない病気になったのよ」


 現世でも似たような話がある。ペニシリンが発見されてから、不治の病が不治の病ではなくなったとか。俺は今、シャル・アンテールの歴史的瞬間を目のあたりにしているのかもしれないな。


「場所はリアス村から西の方角よ。三時間程度で着くから、今から準備しておいて。十分後に出発よ」


「了解。見つけやすい魔物なのか?」


「どうかしら。遭遇した人は多いけど供述が良く分からないし。ただ、移動はしているけど広範囲ではないみたいよ」


「一発で見つけられればいいけどな」


「そうね。とりあえずは魔法での探索をメインに今日は進めましょう。ロサの教育も兼ねてね」


 ロサがマリタの言葉に緊張をした。


「は、はい。よ、よろしくお願いします」


「じゃあ、準備して。行くわよ」


 マリタの号令と共に三人で素早く荷物をまとめた。野営はしない予定なので荷物は軽い。素早く身支度を整えて、リアス村を出た。

 リアス村周りも亜熱帯森林であり、ジャングルのような所だ。ここを三時間も移動する。マリタが魔法で道を整えながら、進んでくれるのがありがたい。ロサも見様見真似でやってみたりしている。歩くスピードは遅いが、こうやって行けばロサも上達するだろう。

 時折、魔物が襲ってくるが、猫型以外は大丈夫そうだ。一度、木の上から巨大な豹のような魔物が襲って来た時はビビったが、マリタがうまく魔法で退治してくれた。シャル・アンテールは相変わらず気が抜けない。


 三時間後、魔物が出現するという場所へと着いた。まあ、何の変哲もない森林の奥地だ。周りを見渡しても樹木が生い茂っているくらいで特に問題もない。


「マリタ、ここか」


「えぇ。でも、一応ベースを作りましょう」


 そういうとマリタは風魔法で小さいスペースを作った。そこに荷物などを置いて、水分補給などを行い、一呼吸入れた。


「で、これからどうするんだ。まずは魔法で探索とか言っていたが」


「私とロサでまずは魔法探知してみるわ。その魔物にどんどん当たっていきましょう」


「しらみつぶしだな……わかった。その魔法探知の範囲はどれくらいだ」


「うーん……最初は飛ばせるだけ飛ばすから三百マウくらいまでは飛ばすわよ」


「じゃあ、二人は魔法探知してもらって、俺が当たりに行こう。ビンゴだったらみんなで集合って事でいいかな」


「えぇ。それで行きましょう。リフォンも使いながらね」


「わかった」


「ロサは身体の前方だけに魔法探知をして。方向を固定して、濃度と精度をより高めて」


 ロサは頷いた。


「わ、わかりました」


「じゃあ、始めるわよ」


 そういうとマリタがゆっくりと深呼吸して、魔法を展開し始めた。魔法の波動というのか、そういうのが身体を通った気がした。そのまま魔法はマリタを中心に円状に広がっていく。何かをつかんだマリタはロサに指示をした。


「ロサ、私の左手の方向へ、魔法探知を伸ばして」


「は、はい」


 ロサはマリタの左手の前に出て、魔法探知を行った。すぐに何かを感知したようだ。


「い、います。で、でも、これは動物だと思います」


「了解。じゃあ、今度はこっち」


「は、はい」


 また、マリタの左手の指示通りにロサが動き、魔法探知をする。初めてにしては、なかなかのコンビネーションだ。何度かそのやり取りをした後に、あやしいのを見つけたようだ。マリタが俺の方を向いた。


「東陽、この先よ。五十マウくらいかしら」


「了解」


 俺は魔導銃を構え、聖水の羽衣を着て森林の中へと入っていた。身体に樹木が当たるが、聖水の羽衣が弾いてくれる。四十マウくらい進んだ時にゆっくりと音を立てずに構えた。周りの草木に身体を当ててしまわないように神経を配りながら、目視をする。

 見るとワニのような……。つまりリガーニがいるだけだった。マリタの所に戻り、リガーニがいたと伝える。


「じゃあ、今度はこっちをお願い」


 マリタとロサが違う所を指す。同じように俺が見に行く。これも違った。


 結局、二十回程度見てきたが、お目当ての魔物には出会えなかった。時間も夕方になってきたので、今日はリアス村へと戻る事になった。ロサは戻ってきた後にマリタと居残り練習をしている。俺は軽く村を歩いたり、バーに行ったりと夜は気ままに過ごしていた。


 次の日も、その次の日もベースを変えながら探索をしたが、魔物とは出会えなかった。なかなか手ごわいようだ。


 四日目の朝、ハルトトからの連絡でハンガクが歩けるようになるまで回復したとの知らせが来た。となると、あと三日か四日程度で合流できることになるだろう。合流してからでもという意見も出たが、まずは見つけることを優先しようという話になり、今日も探索へと向かった。


 現場に着くと同じようにマリタの指示する方向に、ロサが更に調べて俺が見に行くというのを繰り返した。夕方、あと一回でそろそろ終わろうかという話が出た。今日もダメだったかと思いながら、最後の探索へと向かった。


 俺がマリタとロサの言う方向へと向かう。


「東陽、ここから百マウくらいね」


「わかった」


 草木をかき分けていくと、いつもと違う違和感を感じた。何かがいる。そういう息遣いを感じる。静かに魔導銃を構え、草木の陰から違和感のある方を見ると、とんでもない奴が目の中に飛び込んできた。そして、俺は反射的にそいつの名前を叫んでしまった。


「千堂!!」


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