ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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貴族の責任

公開日時: 2021年2月4日(木) 01:31
文字数:5,309

ルカの魔法で辺り一面を泥沼化された。足の踏ん張りはきかない。ルカは身構えて飛び込んできた。


「これで逃げられねぇだろ! 殺してやるぜ!」


俺は泥沼に足を取られながらも照準をルカに合わせて、銃を構えた。


「終わるのはお前だ!」


引き金を引いて、弾が飛び出す。空中にいるルカは、避ける事も出来ずにそのまま食らった。弾が命中すると、強烈な雷がルカを襲う。

バリバリバリバリ! っと凄まじい音が響き渡る。先程の魔導弾の弾で体が濡れていたルカは、半減されたとは言え、電気をより通した。高威力の雷魔法が全身が駆け抜ける。


「カッ……ハッ……」


ルカは体の穴から黒い煙を出しながら、倒れた。その拍子に漆黒の鎧は解かれたようだ。

俺はゆっくりと立ちあがり、ルカの首の後ろの衣服を持ちながら泥沼から引きずり出した。


「ハァハァ……威力が半減されても、雷ならな。火じゃ火種が無ければ、熱は一瞬だけ。土も考えたが、もし石じゃなくて砂にされたらって考えたら雷しかなかったよ」


ルカはジジッ…… と感電の音を立てながら、白目を向いている。仰向けにひっくり返して、胸倉をつかんで顔面にビンタした。


「おい! 起きろ!」


「あ……あぅ……」


ルカは目を覚ましたが、体は痺れたままのようだ。俺は救護兵の方を見た。


「姉ちゃん、平気か?」


救護兵の女性は、こくりと頷いた。


「あ……はい。ありがとうございます!」


「何かこいつを拘束する魔法とか使えない?」


「あ、えっと……拘束魔法は使えますが……その……貴族様には……」


いつの世にも……貴族だ、上級国民だって……

……特別な奴らがいるもんだ。


「……ダメなのか?」


「私の一存では……」


「じゃあ、しょうがない」


「えっ……?!」


俺は救護兵に銃を向けた。


「こいつに拘束魔法をかけろ」


いきなり銃を向けられて、驚いて、震えだす救護兵。


「あわわ……」


ほんとに撃つ気はない。こうやって脅されてやりましたって言えば、救護兵に罪は行かないだろう。


「何か言われたら、俺に脅されたって言え。わかったか」


「……は、はい」


「やってくれ」


救護兵はルカに近付いた。ルカの目はうつろだ。


「ご、ごめんなさい……」


救護兵は貴族という身分にお詫びをして光の環をかけた。自分に襲いかかってきた人間にすら、権威や身分で何もできなくなる。胸糞の悪い光景だった。

ルカは身体に何重もの光の環をかけられ、ミイラのようになった。その胸倉を、俺はまた乱暴に持ち上げた。


「おい、聞こえるか。お貴族様よ」


ルカは朧気ながらも、東陽を認識し、ニヤリと笑った。


「……て、てめぇ……俺にこんな真似してどうなるかわかってんのか?」


「知らねぇし、興味ねぇよ。それより聞きたい事がある」


「あぁん?」


俺の脳裏に埋めた女性死体が浮かぶ。


「お前、今までこういう事、どれくらいやってきた?」


「覚えてねぇよ。お前は今までトイレに行った回数を覚えていんのか? キヒヒ……」


「そうかい」


俺は立ち上がり、そのままルカの顔面を踏みつけた。救護兵が小さい悲鳴をあげる。

グチョっという鈍い音がして、ルカの顔面が潰れた。


「口くせぇからよ。もうしゃべんなくていいぞ」


そのまま頭をゴミ袋を蹴っ飛ばすみたいに無造作に蹴った。ルカは顔面から血を出しながら、気を失った。


救護兵の方に行こうと歩き出した瞬間、クラっと目眩がした。よく考えたら鼻と頬骨が折られて、血が止まっていなかった。したたり落ちる血を見て、頭がぼーっとなってきた。救護兵の姉ちゃんが何か話しかけてきたが、段々と声が遠くなり、俺はそのまま意識を失った。




しばらくして、目を覚ますと馬車の中だった。スプルが引いてる。ダリオがルカにやられた手に光魔法をかけていた。その傍らにはサラとレラもいる。


「ダ……ダリオ?」


俺が声を発すると一気に視線が集まる。そして、サラとレラが俺の首元に剣を当ててきた。


「呼び捨てだと……?!」


「貴様……無礼だぞ!」


それを静かに制するダリオ。


「サラ、レラ。止めなさい。兄さんの友達だよ」


「ハッ!」


二人は声を揃えて、剣を収めた。


「あーすまない。驚いただけだ。ありがとう、ダリオ様」


一応、敬称で呼ぶ。ほんとはファビオもこういう扱いなのだろうな。


「いえいえ。サラ、レラ。兄さんをここへ」


「ハッ!」


二人はまたしても声を揃えて、馬車の外へ出て行った。俺はそのままダリオの光魔法を横になって受けながら、話を始めた。


「すまない」


「二人の事は悪く思わないでくれ。私を思っての事だ」


「あぁ。悪く思ってはいない」


「兄さんと旅をしているんですか」


「あぁ。調査団でな」


「そうですか……帰ってきたと思ったら、調査団になってらっしゃるとは」


「そりゃしょうがないだろ。追われていたんだから」


「……追われて……いたんですね」


「知らなかったのか?」


「はい……リチャード様が亡くなった際、兄さんは容疑者として捕まっていました。その真偽を探っている最中に王国から姿を消してしまい、うやむやになってしまいました」


「襲われたってよ。口封じにさ」


「はい……先程、聞きました。まさかアミーリア夫人が関与していたとは思いませんでした」


「わからんけどよ……その夫人が自分の持っている身分や権力を使ってファビオを消そうとしたんだ。持っている力の使い方を今一度考えた方がいいんじゃないのか」


「おっしゃる通りです……面目ない」


ダリオはファビオと違って、屈託がない。優しくもあり、厳しくもあり、芯もある。次期王候補と言われるだけの事はある。


「……ふっ、いや。出しゃばったわ」


「いえいえ」


「あ……そういえばルカは?」


「ルカさんは捕縛しております。あなたが抑えたようですね」


「裁くかい? 俺を」


「とんでもない、逆にお礼を言いたいくらいです。ルカさんは、王国で起きていた連続行方不明事件の犯人です。アミーリア夫人と共に私の名に置いて、裁判にかけます」


「アミーリア夫人も捕まえたのか」


「もちろんです。リチャード様の件もありますし、今回の件は王国への反逆です。今はミケーレさんが見張りとして一緒に馬車に乗っています」


「あの魔女みたいなのを捕縛したのか……すごいな……てか、大丈夫なのか。見張りはミケーレで」


「はい。あの方の王国への忠誠心は非常に高いものです。私は信頼しております」


「ふーん。そうだそうだ。ルカに拘束魔法をかけた女性の人は俺が脅してかけさせた。あの娘の罪は俺が償うよ」


「ん? そうだったのですか。彼女は名乗り出て頂いています。協力という事で褒賞の話が出ていたのですが……」


「あ、そうなの?」


「えぇ」


あの救護兵、ちゃっかりしてやがる。


「じゃあ、今の話は忘れてくれ」


「はい。東陽さんは優しいのですね」


ダリオは優しく笑った。俺も釣られて笑ったが、何か若い奴に褒められて少しこそばゆい気がした。そこへファビオが馬車の中に入ってきた。


「東陽……大丈夫か」


「あぁ……そっちも疑いが晴れたみたいだな」


「いや、まだだ。ダリオとミケーレに話を聞いてもらっただけだ。王様に報告して、その後裁判にかけられる。もしかしたら、俺は旅を続けられないかもしれない」


「そうか……」


その話にダリオが割って入ってきた。


「兄さん。旅を続けたいのなら、そのまま続けて頂いて結構ですよ」


「ダリオ……」


「話は聞くことになりますが、長い時間は拘束されないでしょう。裁判は私の白龍騎士団が中心となって王の裁決を待つことになるかと思います」


「そうか……ありがとう、ダリオ。……父上、母上は元気か」


「はい」


「どうか父上、母上の名誉を回復してやってくれ」


「もちろんです、兄さんも」


「俺はいい」


「そういうわけにはいきません」


「俺はいいよ、ダリオ」


「兄さん……」


このやり取りでファビオの心の傷の深さが分かった気がした。でも、それでも。ファビオは家の事を考えているんだな。


「ファビオ。それはダリオに任せなよ」


「あぁ……」


「それより、マリタからは連絡あったのか」


「洗礼が終わったってさっき連絡があった。今、この馬車はレイロング王国に向かっている」


「そうか。着いたらレイロング王国、案内してくれよ」


「わかった」


俺は会話が終わると少し目をつむった。ダリオとファビオも少しの間、たわいない話をしていたが、それぞれの持ち場へと戻っていった。


それから馬車は数時間走り続け、夕方にはレイロング王国に着いた。

俺の腐った腕はダリオの魔法で大分良くなり、顔の骨折の痛みは飛んではいたが、治ってはいないとの事。マリタの魔法でしばらくは治療を続けることになりそうだ。

現世で読んだ漫画やゲームでは光魔法ってもっと簡単に治癒できるんだがな……。現実は厳しいって事か。


軍はそのまま城内の軍事施設へと入っていき、俺とファビオは一旦サラ、レラの護衛&監視付きで宿舎に向かった。宿舎でマリタたちの分も予約を取り、洗礼が行われているオウブ神殿へと足を運んだ。

その間にレイロング王国を眺める。街並みは石畳があり、建物も古代イタリアを彷彿とさせる。立派な下水道も通っており、文化の高さを感じた。バルド族は背が高く、体つきも良いので、建物や道具などに色々と豪快さがある。また装飾に龍をあしらう事が多く、力や権力の象徴にもなっているようだ。


歩いて十分程度でオウブ神殿へと着いた。セロストーク共和国と同じように、パルテノン神殿みたいな白くて大きな柱と階段がある。だが一つ違っている所があった。それはレイロング王国は女神を祀っているという事だ。

レイロング王国は歴史上一番最後にオウブを見つけた国で、最初の洗礼者が女性だった。その人の名前が「フロリアーナ」と言い、やがて信仰を集めフロリアーナ教へとなった。

他国のオウブ信仰とは、また別の信仰が発生しており、オウブ神殿の上には大きな女神がせり出している。


「何かセロストーク共和国とは違うな、神殿も」


神殿に圧倒されていると、マリタとハルトトが出てきた。ハルトトが俺の顔を見て、一言。


「あ、東陽。またボコボコじゃん」


「色々あったんだよ!」


「東陽って行動する度に、誰かにボコボコにされてない?」


「うっせ!」


マリタがファビオに話しかける。


「誤解は解けたんだって?」


「いや、まだだ。だが、信じてはもらえた。これから数日は裁判になるだろう」


「そっか。それでその二人は?」


マリタがサラとレラを見た。サラとレラは気を付けをしてゆっくりと頭を下げた。


「マリタ様。私たちは白龍騎士団団長のメイドを務めております。サラと……」


「レラと申します。ファビオ様の護衛と監視を兼ねて同行しております」


「監視なんだ」


マリタが不安そうにファビオを見る。


「名目上だ、心配ない。それに俺からも王に謁見し、話をしないといけない」


「そう……無理しないでね」


「あぁ」


久し振りに四人そろったジェイド団は、ファビオを城まで送った。マリタとハルトトもちょっとだけ魔法を出したりして、洗礼の効果を試している。

ニ十分程度、歩くと城の内門に着いた。ここからは貴族や軍関係者以外は立ち入り禁止だ。内門の前でダリオが待っててくれた。


「兄さん、おかえりなさい」


「ダリオ……ただいま」


マリタとハルトトはダリオとは初対面で、バルト族の貴族に興奮気味だ。


「凄いよ、マリタ! 貴族様だよ!」


「金髪のバルト族なんて初めて見たわ!」


いや、一応ファビオも貴族様なんだけどな……。


「それでは皆様、兄さんを数日お借りいたします」


ダリオはみんなに一礼をした。それを見た俺らも何となく一礼。何か日本みたいだ。


そこに内門からキンキン声で怒鳴り込んでくるメイドが現れた。


「こらー! サラ! レラ! 何やってんの! この荷物持ちなさーい!」


サラとレラがハッとなってそのメイドの方に振り向く。メイドというよりロリィタと言った方が近い服装で、小さい顔が印象的なフォウマンだ。


「トモノスケさん……?!」


「すぐ向かいます!」


二人は猛ダッシュでそのメイドに駆け寄った。俺はファビオに聞いた。


「誰だ、あれ」


「メイド長のトモノスケだ」


「あぁ……上司みたいなもんか。男みたいな名前だな、俺の国では」


「王様のメイドだ」


「へー。じゃあ、仕事バリバリって感じだ」


「そんな事はない。ドジだ」


「ドジ? でも、あの一騎当千のメイド二人を従えているぜ?」


「サラとレラにとっては姉であり、母であり、上司だからな」


「……姉で母で……なんだって?」


「サラとレラは孤児だったんだが、それを拾ったのがダリオとトモノスケだ」


「なるほど。だから二人はダリオにベッタリなんだな。でもなんでメイドはフォウマンばかりなんだ」


「偶々だ。バルト族のメイドもいる」


「そうなんだ」


トモノスケは二人が来ると地面に荷物を置いた。二人はそれを持ち、トモノスケの後を追う。だが、荷物が多くて二人が持てなかった荷物に躓き、ずっこけるトモノスケ。サラとレラがおろおろしながらトモノスケを起こす。

その光景を見て、俺はクスって笑ってしまった。


「はは……確かにドジだわ」


ファビオもダリオに連れられて、中へと入っていた。今日はこれから色々とあるから夜まで城にいる。明日からの話し合いは朝と昼だけで夕からは宿舎に戻ってくるらしい。

俺はマリタとハルトトと三人で宿舎に戻る事にした。

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