ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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ソフィアトトからの依頼

公開日時: 2022年4月13日(水) 14:57
文字数:3,783

 山頂で待ち合わせをしていたが、そこはプテトアーレの巣窟だった。どう待ち合わせをするかと考えている間に、ロサはプテトアーレの巣窟の真ん中を全力疾走で突っ切るという無謀を行った。もちろん、あえなく咥えられて反対の方向へと運ばれて行ってしまった。

 それの一部始終を茫然と見つめていた、マリタと俺はやっと正気に戻った。


「ど、どうするよ、マリタ」


「そうだね……。ロサを追うしかないわね。もう、何も考えずに突っ走るんだから……」


「二日もプテトアーレに咥えられて、大変だったんだろう。連絡がきて、色々な感情が爆発したんだ。しょうがないよ」


「かもしれないわね。それにしても、ロサにはちゃんと魔法を教えておくんだったわ。よく考えたらきっとまともな魔法練習をしたことがないわ。基礎からしっかり教えていかないとダメだったわ」


「とにもかくにも、反対側に行かなきゃな」


「山頂はほとんどプテトアーレの巣だらけね。その影に隠れて、気付かれないように行くしかないわね」


「隠密か……。俺が先に行く。マリタはゆっくり付いてきてくれ」


「わかったわ」


「三つだけハンドサインを教える」


「ハンドサイン?」


「声を出すとマズいだろ。手のポーズで合図を決める」


「なるほど」


 俺は素早く、待て、来い、周りを見ろを教えた。伏せなどは俺の動きを見て同じように進むことを前提すれば三つもあれば十分だ。


 教え終えると、二人は顔を見合わせて、覚悟を決めて、頷いた。そして、静かにプテトアーレの巣の影に隠れながら進み始めた。



 約三十分程度。ちょっと危ない所もあったが、何とか山の反対側に抜けることができた。そのまま山頂を降りていく。木が生い茂る所に入ってやっと一息付けた。


「ふぅー。お疲れ、マリタ」


「気付かれなくて良かったわ」


「無事に抜けられて良かったが、意外に時間がかかったな。すぐにロサを探そう」


「えぇ」


 二人は飛んで行ったであろう方角へ歩き始めた。こちらの斜面はかなり急で獣道もギリギリの所にあり、マリタの魔法で進むような感じになった。風魔法で道を作り、倒れた草木を踏みしめて歩いた。リフォンを使おうと思ったが、咥えられていたら出れるかどうかわからない。とりあえず、声掛けをしながら進むことにした。


 少し進んでは、ロサを呼び、また進むを繰り返した。日が沈みかけた時、ロサからマリタのリフォンに連絡が入った。


「もしもし? ロサ?」


 しばらく話して、マリタがリフォンを切った。


「なんだって?」


「山を降ろされたらしいわ」


「こりゃ今日も別々に野宿かな」


「いいえ、今日中にロサと合流しましょう」


「どうやって?」


「日が沈めばプテトアーレも少しは私たちを見つけにくくなるわ。それに斜面で降りる方が更に見つけにくいはず。まずは山を飛んで下りましょう。そこからロサの場所をリフォンで正確に教えてもらって、合流よ」


「ロサは近くにいるのか」


「ほぼこの真下に落とされたみたい。多分、巣を狙う動物と勘違いされたのね。食べる目的で無くて良かったわ」


「食べる目的の場合もあるのか……」


「産卵の時期とかならね。もう産卵は終わっているみたいだし、タイミングが良かったわ」


 マリタと俺はそのまま、日が沈むまで少しでも山を下りようと歩いた。日が沈むと、荷物を全部俺が持ち、マリタに担がれて木の上まで出て、一気に下り始めた。


「くぅー! さすがに重いわね!」


「こっちはこえぇぇー-!」


 木の上をギリギリ通っているが地上からは十数メートル離れている。命綱がない分、非常に怖い。落とされたら魔法を使えない俺は一発で死んでしまうだろう。


 山は十五分程度で下りてこられた。幸いプテトアーレにも見つからなかった。山から下りたとはいえ、森林には変わりはない。目印になりそうな所もない。

 マリタはすぐにリフォンを取り出してロサに連絡をした。するとマリタが空に向かって、小さい光る球を打ち上げた。それを目印に来いという事らしい。


 マリタはリフォンを切ると、俺に向かって言った。


「一応、あれを目印にロサが来てくれることになっているわ。ただ……」


「ただ?」


「魔物もやってくるんで、少し頑張るわよ」


「え?」


 マリタの言葉が終わりそうな時に、俺の後ろに大きな威嚇音が響いた。ゆっくりと振り向くと大きな猫型の魔物が牙を剝いていた。


「嘘だろ……おい……」


 そこからしばらくの間、光る球をめがけて興味本位でやってくる魔物たちを倒したり、返り討ちにしたりを繰り返した。そんなに強くはなかったので苦戦はしなかったが、とにかく数が多かった。

 ロサが現れたのは、それから二時間後の事だった。


 ロサと合流し、光る球を消し、その場から少し離れた所で野営の準備をする。ロサは憔悴しきっていて、少し食べ物を食べたらそのまま寝てしまった。

 ロサにはよく寝てもらうために、マリタと俺で火の番をすることにした。


 ちょっと練習に出たつもりが飛んだことになったものだ。


 日の出を迎えると、みんなが目を覚ました。マリタはリフォンでハルトトたちに連絡を取り、もう山を渡ってしまったので、アギュラ族の村、リアス村で落ち合う事となった。治療をしていたハルトトもほぼ回復、網死病にかかっていたハンガクも急速に回復に向かっているとの事だった。

 ロサはひと眠りして大分落ち着いたようだ。ただ、魔法には少し恐怖心が残っているようで弱く出すようになってしまった。まあ、仕方がないだろう。


 三人は荷物をまとめて、リアス村へと歩き始めた。ここからリアス村までは北へ一日くらいだという。今日も長旅になりそうだ。


 山を越えた森林も樹木が高く、生い茂っていて、亜熱帯を思わせる。そこに巨大な豹のようなものが居たり、恐竜のようなものすらいる。そんな中を素早く、静かに通って行った。

 マリタが先頭を歩き、魔法を駆使して、獣道をより広くして進んでいる。ロサが真ん中でしんがりは俺。二人は棒などで草を払い、虫や動物を威嚇しながら進んだ。


 日も落ちかけた頃、リアス村は急に現れた。視界が開けると入り口のような門が見えた。左右は盛り土で高い壁が作られている。途中からは木に変わり、高さは十メートルくらいだろうか。門の左右には門番が二人立っていた。マリタが話しかける。


「ジェイド団のマリタと言います。リアス村に入りたいんだけど手続きはどこかしら」


 門番の一人がゆっくり近づいてくる。アギュラ族で猫のような顔に、耳も頭の上にある。筋肉はしなやかで強靭。手には木で作った槍を持ち、背中には弓と弓矢、腰には小さなナイフを携えていた。着ている服は、針金を編み込んだ楔帷子のようで装飾がしてあり、左の者は赤、右の者は青を主体としていた。


「調査団か?」


「はい」


「リアス村のギルドは村の外でそっちにある」


 男が指差した左の方向にボロい二階建ての建物が見えた。意外に大きい。


「あそこね」


「ここはナイシアス連邦だが、リアス村自治区だ。手続きは別になる。すまねぇな」


「いえ。ありがと」


 マリタがその門番に手を挙げて歩き始めた。俺らも着いていく。ギルドの中に入ると色々な調査団がごった返していた。カウンター式の受付の他に待てるように椅子やテーブルが並べてある。

 マリタはさっさと受付へと足を運び、手続きを開始した。俺とロサは飲み物を買って近くのテーブルで待つことにした。十分もしないでマリタは戻ってきた。


「もう終わったのか」


「えぇ。それに依頼を一つ頼まれたわ」


「依頼?」


「それもソフィアトト雷星魔珠隊隊長様からよ」


「え……。なんでだ……」


「しかも、破格だわ。この依頼にしてはとんでもない金額よ」


「どういう事だ」


 困惑していると、俺のリフォンが鳴った。ポケットから取り出して出る。


「ん?もしもし」


「シュウトトです」


 ナイシアス連邦の土星魔珠隊にいるハルトトの兄貴からだ。


「あーこの前はどうも」


「ハルトトがこっちにいるので、皆さんもこっちにいるのかと思いましたが……」


「まあ、色々あって……」


「そうですか。リアス村のギルドにいらっしゃるようで」


「えぇ、まあ」


「依頼を受けられた事、確認しました。一応、説明しようと思いまして、連絡しました」


「びっくりしましたよ、まさかソフィアトトさんからとは」


「はい。依頼内容はリアス村近辺に現れるという魔物退治です。報奨金は通常の十倍をお支払いいたします。建前は依頼報酬金という事ですが、この前の捜査協力に対する恩賞だと思っていただいて結構です」


「なるほど、だからこんな金額なんですね」


「調査団に表立って渡すのもどうかと思いますので。口止め料も含めての報奨金です」


「了解です。納得しました」


 とはいえ、本当にもらっていいのだろうか。結局、最後に事件を終わらせたのはソフィアトトで、俺とハルトトは命まで救ってもらった。治療費も出してもらい、こっちとしてはこれ以上何も望まないんだけどな。


 シュウトトとはその後、軽い挨拶を交わしてリフォンを切った。マリタに報奨金の事を伝えると納得してもらえた。魔物退治は明日からという事で、今日はこのままリアス村へと入り、ホテルに泊まることにした。


 先程の門番の所に行き、ギルドでもらった通行手形を見せ、村の中へと入る。村はナイシアス連邦より更に質素だ。道は入り組んで作られており、左右に木造住宅が建っている。


 ホテルを見つけると、チェックイン。三人は連日の疲れもあり、そのまま就寝することにした。

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