野営したところの荷物を持ったら、二人を追い始めた。マリタは何度か空に出て追おうとしたが、プテトアーレが多く、なかなか上手く行かない。地上から追っている俺は、草木が邪魔して思うように進めてない。
「クソ! これじゃあ追えない!」
マリタも上手く追えていないようで、苛立ちが下から見ててわかる。その間にもロサを咥えたプテトアーレはどんどん山の方へと飛んでいく。より深い森の中へ連れて行かれている。
草木を切り刻みながらの全力疾走には限界がある、それをマリタに伝えようと上を向いたときに、顎に強烈なダメージが走った。どうやら張り出した太い枝にラリアートを食らったようだ。勢いもマックスだったため、身体が一回転してうつ伏せに地面に叩きつけられた。
「ぐえ……?!」
体内の空気が口から噴き出し、変な声が上がった。全身を強打した俺はそのまま静かに意識を失ってしまった……。
目が覚めると、小さい木の小屋にいた。かび臭い匂いと木の香りが入り混じっている。ベッドから体を起こすと節々に激痛が走る。
「あつつ……」
その時に、ロサとマリタを追っていた事を思い出して、顔を上げた時にロサの声が聞こえた。
「……思ったより元気ね」
「えっ……。ロサか」
声の聞こえた方に振り向くとロサが木の椅子に座っていた。だが、どことなく違う雰囲気がある。
「ロサ? いえ、私はアルムデナ=アルアバレナよ」
「アル……バレさん?」
顔も姿もロサによく似ている。ただ、漂う雰囲気はどことなくアンニュイだ。
「アルムデナでいいわ」
「アル……ムデナさん。看病してくれたのかな、ありがとう」
「いいえ。あんな所で倒れていたら、魔獣や魔物にすぐに食べられちゃうわよ」
「それでここは……」
「ここは私の……そうね、別荘みたいな所よ。森の中の一軒家」
「森の中……?!」
あの森林の中で俺を見つけてくれたのか……。話を聞いてる最中も身体が痛む。どれくらいの時間寝ていたのだろうか。
「いてて……あの、俺ってどれくらい寝てたか、わかる?」
「一時間くらいよ」
一時間……。プテトアーレのスピードで飛ばれていたら、山まで行ってしまったのかもしれない。とりあえず、荷物の中のリフォンでマリタに連絡を取ろう。
「あの、俺の荷物って……」
「ベッドの横に置いてあるわ」
そう言われてベッドの横を見ると荷物が置いてあった。その中からリフォンを探したが、どうにも見つからない。
「あれ……。ねぇな……」
「あ、そうそう。リフォンを借りたわ。もうすぐ仲間が来るはずよ」
「えっ?」
「鳴っていたからね。出てみたら、マリタって人が出たわ」
「そうか。ありがとう」
アルムデナはリフォンを俺に渡してきた。そういうとアルムデナは立ち上がった。
「一応、ここの場所は教えてあるわ。仲間が来たら好きに出て行って」
「ありがとう。世話になった。アルムデナはどこへ?」
「私は……。森の中で探さなきゃ……」
「何か探しもの?」
「えぇ……。妹が魔物にさらわれたの」
「え?」
「だから……探しにね……」
そう話すアルムデナの顔は焦りや怒りというより虚無に近い気がした。
それにしてもそんなにやばい森なのか……。確かにシャル・アンテール一の亜熱帯林って響きだけでもやばい気もするけど。
「それは大変だな。助けてやりたいけど、俺も仲間を追って森の中に入ったんだ」
「別に……。助けなんて必要ないわ」
「そっか」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「あの、マリタと言います! 東陽いますか?!」
ドアの外でマリタが大きな声を出している。
「マリタだ。入れても大丈夫か?」
「えぇ。私が出るわ」
アルムデナはドアを開けて、マリタを招き入れた。マリタはアルムデナに一礼すると俺の所へ駆け寄ってきた。
「良かったわ、東陽……。意識不明って聞いていたから」
「よく寝れたよ」
「ふざけないで。心配したわ」
「わりぃ。それでロサはどうした?」
「ごめんなさい。見失ったわ」
「あのスピードだと難しいよな。でかいから一回の羽ばたきでも凄まじい加速するし」
「上に行けば私も狙われるし……。東陽と合流しようと思ったら、いないし……」
「木にぶつかってしまったらしい。そのまま地面に叩きつけられて、気を失った所をアルムデナに助けてもらったみたいだ」
「そう。リフォンを何度もかけても出ないからヤバいって思って……。アルムデナさんが出てくれて助かったわ」
マリタは再度、アルムデナさんに向き直った。
「ありがとう。アルムデナさん」
アルムデナはニコリともせずに答えた。
「いえ」
そして、その顔を見たマリタが驚いた。
「あら! ロサによく似てるわね」
やっぱりマリタもそう見えるか。
「だろ?だろ?」
「えぇ……。アギュラ族は似ていることが多いけど、ここまで似ているのはすごいわね」
「俺もびっくりしたよ」
こちらで盛り上がっていてもアルムデナは特に感情を表に出さない。
「アルムデナさんはロサ=コロムって人を知ってます?」
「さあ……」
眉一つ動かさずに答えるアルムデナ。俺を助けてくれた割には無感情で無表情だ。
「そうですか。随分と似ているから親戚かもって思って……」
「……私の親戚は魔物に連れ去られた妹だけだわ」
「妹さんがいらっしゃるのね。って、大変じゃない?! この森の中にいる魔物なの?」
「えぇ……」
「私たちも今、仲間を探しているの。救出したら、手伝うわよ」
「結構よ……」
「そう……。まあ、押し付けはしないけど。何かあったらこのリフォンに連絡ちょうだい。登録して」
マリタは自分のリフォンを差し出した。しかし、アルムデナは目も合わさずにマリタの手を押し返した。
「大丈夫よ。ありがとう」
「じゃあ、何かあったらギルドに連絡して。ジェイド団って言えばわかるわ」
「何かあったらね……」
そういい残して、アルムデナは小屋を出て行った。マリタと俺は顔を見合わせて、少し不可解ねって顔をしてから、行動を開始した。
小屋を出て、ロサが連れ去られたであろう山へ向かった。完全にナイシアス連邦とは逆の方向だ。ナイシアス連邦は山の間にできた大きい湖、プルト湖を水源にして発展した国だ。ナイシアス連邦を入り口から見た時に、両背面は山になっており、右側にシャル・アンテール一の亜熱帯林マハルベク熱帯雨林が広がっている。ロサはそのマハルベク熱帯雨林でプテトアーレに咥えられて、ナイシアス連邦の裏山へ連れて行かれたことになる。こっち側の斜面ならいいが、反対側の斜面に連れて行かれたら完全に山越えになる。そうなるとかなり厳しい道のりになるだろう。
道は相変わらず獣道でマリタが魔法で切り開いてくれる。半日も歩くと山にたどり着いた。結局、今日は日没になり、ここまでで空き地を作って野営する事にした。
次の日、夜明けと共に行動を開始した。まだまだ草木の生えている山道を歩き、上へと登っていく。一応、マリタと俺のリフォンでロサにつながるかも一定時間ごとにかけているが一向に出ない。ただ電池切れがなく、魔力がなくなればまた自然の魔力を勝手に吸収して使えるようになるのはすごい。魔力の容量が少ないので、一回三分という規制はかかるが、また一時間後に連絡が取れるようになるのは、各地を飛び回り、定住しないシャル・アンテールの人たちにとっては必須だろう。
昼頃、山の山頂近くで、マリタのリフォンが鳴った。二人で顔を見合わせる。
「は、早く出ろ、マリタ」
「うん……。もしもし……ロサ?! 良かったぁ~」
ロサからのようだ。一通り、ロサと話すとマリタが電話を切った。
「なんだって?」
「ロサよ。怪我はないみたい。今、山の反対側にいるって。山頂で待ち合わせすることにしたわ」
「これで一安心だな……」
「早く山頂に向かいましょう」
マリタが駆けだしたのでそれを追いかける。ロサも大変だったろう。二日も咥えられていたのか? いや、その辺は会ってから話そう。
そう思ったが、山頂付近について驚いた。周りにはプテトアーレの巣がわんさかあり、おいそれと通れるような感じではなかった。巣の大きさも身体に比例してて大きい。ガリバーの小人になった気分だ。
「参ったな、マリタ」
「ちょっと危険すぎるわね……。どこか通れる所を探しましょう」
「その前にロサに連絡とった方がいいんじゃないか。また咥えられるぞ」
「そうね」
マリタがリフォンを取り出した時、山頂付近のプテトアーレが騒ぎ出した。二人が驚いて、その様子を確認するとプテトアーレが騒いでいる真ん中をロサが全力疾走していた。
「嘘だろ?! おい!」
かなりのスピードを出していたが、あえなく一匹のプテトアーレがロサを咥えて、山の反対側に飛んで行ってしまった。
それをマリタと二人で茫然と見つめるしかなかった。
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