ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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真の狙い

公開日時: 2021年12月28日(火) 11:38
文字数:3,574

 シュウトトが来やすいように、ハルトトは火を灯し、空中に向けて魔法を放った。それは花火のように上空で光輝き、ゆっくりと消えて行った。


「これですぐにシュウトト兄さんが来てくれるわ」


「そうか。やっぱり魔法って便利だな」


「当たり前でしょ。魔法がない東陽の世界がおかしいのよ」


 常識とはいとも簡単に崩れ落ちる。シャル・アンテールに来てからは崩れ過ぎているが……。


 そこから三十分程度でシュウトトたちがやってきた。五名程度の部隊だ。シュウトトがハルトトに駆け寄る。


「ハルトト、よくやった」


「まぁね~」


 得意気なハルトト。シュウトトは仲間に命令をし、ゼントトを連行した。


「ゼントトの件は私に任せてもらいたい」


「頼んだわ。私たちはそのリュウトトを追う事にする。ね、東陽」


「あぁ」


 返事をしたもののリュウトトの手がかりは少ない。深夜で聞き込みも出来ないだろう。そこにシュウトトが疑問を抱いた。


「だが、そんなに少ない手がかりで追えますかね……」


 だよね、と素直に思った。たまに港に来るというだけの情報で、リュウトトを追うにはかなりの時間を有するだろう。シュウトトが内情を話してくれた。


「街も既にパニック状態で、軍も非番の奴らを叩き起こして、全員導入しています。ゼントトの情報が司令部に流れればリュウトトという輩を追うために森全体に厳戒態勢を敷くと思います。そうなると街の人出が足りません。避難経路を確保していますが、どこに爆弾が仕掛けられているかわからず……。今は市民たちが教育部や大統領府の近くに押し寄せています」


「厄介だな。対処を間違えれば、市民が暴動を起こしかねない」


「そうですね。そうならないように信用できる調査団にも声をかけて色々と協力を要請しています。既に炎王ムラトト率いるシリウス団や人数の多いアケルナル団、アンタレス団、ハダル団も協力してもらっています。もし森林にも捜査が及ぶなら、森林に詳しいアギュラ族の猛虎団、鼬(いたち)団にも協力を要請するでしょう。もはやこれは戦争です。戦火はナイシアス連邦全てと言っても過言ではないでしょう」


「こんな大それたことができるテロ組織って目星はないのか」


「犯罪者をアンチマジックかけて逃がしていますからね……そいつらが何らかの手段でアンチマジックを外し、徒党を組んでもおかしくはないですが……。こんな大掛かりな事をする犯罪者を知りません。もし前科でここまで大きなことをしていたら死刑になっていると思いますし……」


 まだ、野蛮な形が残っているとするなら、そういう所だろう。悪はすぐに死刑。どういう法律なのかわからないがアルトトも絡んでいるのだろうか。それとも権力を持つものを選定しているか……。


「ハルトトと東陽さんは一旦、私と行動を共にしましょう」


「わかった。ハルトトもいいよな」


 ハルトトに向き直ると頷いた。


「えぇ。この犯人は絶対に許さないわ」


 俺らはシュウトトの隊と一緒に大統領府近くにある司令部へと向かった。街に入ると逃げ惑う人、略奪する人、それを制する治安部隊などが入り乱れていた。その中を掻いくぐり、結局戻るのに二時間程度かかってしまった。その間に爆弾が二つ爆発した。刻一刻とタイムリミットが近付いている。

 すでに空は日の出を迎えていた。


 司令部は石造りの大統領府の中の一室にあった。シュウトトと中へ入っていく。


「失礼します。爆弾を仕掛けた犯人を捕まえたジェイド団も連れてきました」


 視線が俺らに注がれる。そこにはナイシアス連邦水星魔珠隊(すいせいまじゅたい)隊長、シモントトと土星魔珠隊(どせいまじゅたい)隊長、シストト、そして星の十傑で雷星魔珠隊(らいせいまじゅたい)隊長のソフィアトトが作戦を練っていた。


 シモントトは水色の鎧を着ており、シストトは茶色いフードを被っていた。

 一際目を引くのはソフィアトト。黒いフードを被り、体は甲冑、目は水色で髪の毛は金色と異彩を放っていた。

 テーブルの上にはナイシアス連邦の地図があり、爆破されたところにバツ印がついていた。


 血気盛んなシモントトが話しかけてきた。


「よく来た! そして、良く捕まえてくれた!」


 声が大きい……。

 やれやれと言った表情で知的なシストトが話す。


「とはいえ、まだだれが犯人かわからないですね。一時間ごとに群衆にまみれて爆弾を仕掛けられて爆破される。今のようにパニック状態になったら、群衆を制するだけで犯人探しもままならない。相手からの要求は到底受け入れられない。こっちは防戦一方だ。先手を取られていますよ、犯人に」


 その話を聞いてゆっくりとソフィアトトが口を開いた。


「困ったものね。これが隊長格の会話かしら」


 一気に緊張感が増す。


「調査団をうまく使っていきましょう。群衆を制するのは治安、防御を任されている土星が抑えなさい。水星は親衛隊としてしっかり大統領と大統領府の警護を強固に。風星、火星もまずは群衆を押さえてもらいましょう。私の雷星は機動力を活かして情報収集をします。犯人探しは調査団の方が群衆にも溶け込みやすいし、情報も持っている事だと思いますので、積極的に動いてもらいましょう」


 シストトが話を聞きながら。


「了解です。捕まえた犯人の話だと、何か負い目を持たされて爆弾を運んでいます。今は荷物を持たされている人は、明らかにそれが爆弾だと気付いているでしょう。最初の頃とは違って意図的に設置していると思います」


「そうですね。より見つけにくくなっていますね。すでに爆発のターゲットは居住区や商業区にまで及んでいますし、負傷者も現段階で数百人レベル。病院も負傷者で人が溢れています。そこを狙われたら更に被害は拡大します。まずは人が集まっている所を重点的に監視を強化しましょう」


「既にタイムリミットまで四時間を切っています。スピード勝負になります」


 その時、扉が開いて一人の男が入ってきた。


「失礼します! 爆発する前の爆弾を発見しました!」


 すぐにソフィアトトが応答する。


「どこですか?」


「居住区の外れです! 今、何人かで氷魔法をかけています!」


「シストトさん。すぐに向かってください。また、その近くを封鎖。できる限りの感知魔法で監視してください。更にその周りにいた人、全員の身体をチェックしてください」


「はっ!」


 男とシストトは素早く部屋を出て行った。爆発する前の爆弾が発見されたのは大きい。魔法をかけた相手が近くにいたら、その魔力との波動が合えばビンゴだ。

 黙って話を聞いているハルトトに話しかけた。


「ハルトト、俺らも行こう」


「そうね。シュウトト兄さん、ちょっと」


 ハルトトはシュウトトに話をして現場に向かう事を承諾してもらった。シュウトトも一緒に来るようだ。俺らはシストトと一緒に現場に向かった。

 街の中は更に混沌を極めており、既に暴動のような騒ぎとなっており、あちらこちらで魔法を使った攻防が繰り広げられている。その中を駆け抜けて、街の外れへと向かった。


 その間にも爆発が一つ……二つ……。既にタイムリミットまで二時間を切っていた。


 現場に着くと三人の土星魔珠隊隊員が小さい箱に氷魔法をかけていた。その周りは人払いされており、ポカンと空いている。居住区から少し離れており、どちらかというと町はずれの森に近い場所だ。


 シストトと一緒に近付く。この爆弾が次の爆弾か、最後の爆弾か……。シストトがすぐに現場を統率し始めた。シュウトトにも命令が下され、その場を離れた。

 俺とハルトトも少し離れた所から、その様子を見ている。


「統率はしっかり取れているな」


「そりゃあ、オウヴ戦争を体験している世代だからね。シストト隊長は」


「これ、どっちの爆弾だと思う」


「次か、最後って事? うーん。次かな」


「なんで」


「ここまで派手にやったのよ。最後はもっと花火みたいにするんじゃない。ナイシアス連邦を爆発するとまで言っているんだから」


「そうか……確かにな。それにしても随分と街の端っこを爆発させるんだな」


「街の中心部は、暴動でメチャクチャだからじゃない」


「犯人があそこに紛れ込めてないって事か? 既に負傷者が出ているんだから爆発させるなら、あの近くがいいだろ。そっちの方が脅しにもなる」


「そうかもしれないけど……」


「……この場所。引っかかるなぁ……」


「何がよ…… どこがよ…… まさか、何とかの勘?」


「何とかってなんだよ。刑事の勘だよ」


「ケイジ? 何それ」


 最初の爆発は大統領府……。その後、どんどん居住区に流れてきて、最後近くにこの町はずれ。これは意味があるはずだ。何故、ここなのか……。

 爆弾を仕掛けられている場所は……無差別じゃない?

 決められたルートに沿っているんだとしたら……。


 狙いは大統領じゃない?!


 つまり、ここから一番遠い場所!


「ハルトト! 行くぞ!」


「えっ?! どこに?!」


 俺はハルトトが付いてくるのを確認もせずに走り出していた。

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