ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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森の中へ

公開日時: 2021年12月25日(土) 15:46
文字数:4,053

 シュウトトの話で大体の状況は把握できた。こちらもゼントトやその時に起きた事などの情報を渡す。シュウトトは軍の司令部にそれを伝えた。そして、ジェイド団はゼントトを追う事となり、フユトトはシュウトトが家まで送り届け、両親に内容を話すことになった。ハルトトが心配そうにシュウトトに話しかける。


「嫌な役割でごめんね」


「そんな事はない。それよりゼントトの方を頼む」


「うん」


 二人は焦燥しきったフユトトを一旦見た。


「生かして……連れて来てくれ」


「抵抗して来たらわからないけど……わかったわ」


「もしかしたら、これが最後の任務になるかもしれないな」


「そんな事ないわよ。シュウトト兄さんとゼントトは関係ないわ」


「そんな事あるよ。家族だから」


「……」


 シュウトトは義理堅く、思いが強いのだろう。ハルトトはドライな所があるが、それでもシュウトトの心持ちは凄いと思った。


 シュウトト、フユトトと別れ、俺たちは街の外へと出た。ゼントトがどこに飛んで行ったかはわからないが、ハルトトの魔法感知で無理矢理にでも見つけるつもりらしい。ハルトトが静かすぎるのは、それほど怒りの深度が高いからだろう。


「ハルトト、クールにだぞ」


「……わかっているわ。で、大体でいいけど、どっちに飛んで行ったの?」


「森の方だな。昼間にトレーニ……」


 その時、言葉を遮るように後方の街の中で爆発が起きた。轟音と共に激しい閃光が瞬いている。ハルトトと二人でそちらの方を振り返る。


「……今のは街の中じゃないのか」


「いよいよ、本気で無差別になってきたわね」


「昼間、トレーニングした所から右だ。港に近い方だ」


「わかったわ」


 そういうとハルトトは俺でもわかるくらいに強い魔力を発した。これで相手が見つかればいいし、感付かれてもその足跡を追う事ができる。アンチマジックしているなら、ポッカリとそこだけ魔力が抜けるはずだから更に見つけやすくなるだろう。


「このままいくわよ、東陽」


「大丈夫かよ……それって消耗激しいんじゃないのか」


「舐めないでよね。この状態でも二時間程度平気よ」


 恐ろしいやっちゃ……。


 そのまま二人は森の中へと入っていった。軽いジョギング程度のスピードを維持している。魔法で障害物を取り払いながら進んでいくとハルトトが足を止めた。


「どうした?」


「二人かしら……いるわ」


「ゼントトか?」


「どうかしら……とりあえず行ってみましょう」


 ハルトトは一気にスピードを上げて、俺を置いてけぼりにした。


「あ、おい! ったく……」


 何とか見失わないようにハルトトを追う。まあ、障害物をハルトトが倒してくれるから楽ではあるけど……。


 しばらく進むと、グラン族とプルル族の二人が見えた。ハルトトが戦闘態勢で二人に近付く。


「あなたたちは誰?!」


「は?」


 いきなり声をかけられた二人はキョトンとしている。プルル族の男が話しかけてきた。


「いきなりなんだよ」


「どうしてこんな時間にこんな所にいるの!」


「うちらは食料を調達しているんだよ。夜の方が動物たちは眠っているからな」


「ゼントトはどこ?!」


「ゼ、ゼントト? 何の事だよ」


「いいから吐きなさい!」


 ハルトトが攻撃を仕掛けようしている。


「待て! ハルトト!」


 何とか追い付き、ハルトトの攻撃を制した。狼のような唸り声が聞こえてきそうな程、いきり立っている。


「落ち着けって、ハルトト」


「……はぁはぁ」


 ハルトトが肩で息をするほどムカついている。だが、彼らがゼントトと関わり合いがあるかどうかは別の話だ。

 俺は二人に向き直った。


「すまなかった。俺は東陽。お二人の名前は?」


 二人は顔を見合わせて、プルル族の男が答えた。


「僕はアオトト。こっちのグラン族はニール」


「なるほど。この時間に狩猟を?」


「あぁ……」


「他に見かけないけど」


「この辺は僕らの縄張りだからな。それぞれ暗黙の了解で決められた場所で狩りをしているんだ」


「縄張り? どうやって?」


「そこに魔導具があるだろ」


 プルル族の男が指をさした所に、小さい筒状の物が木に刺さっていた。


「これか」


「そう。それに微弱な魔力が常に流れていて、他の所にあるそれと繋がっている。要は魔力の糸が貼られているってわけだ」


「これに振れるとどうなる」


「どうもならないよ。僕の持っている魔導具に反応が出るだけさ。それである程度の縄張りを守っているって事さ。なあ、もういいだろ。一体何なんだ?」


「街で爆発が起きているだろ。その犯人を追っている」


「えっ…… あれって軍の練習とかじゃないのか……」


「いや、テロだ。だから俺らはそれを追ってここまで来た。何か変わった様子はなかった?」


「……特には……」


「そうか」


 ハルトトに目配せして、こいつらは関係ないと伝えた。ハルトトは少し苦々しい顔をしながら、再度魔力で感知を始めた。勝手に歩き出すハルトト。


「あ、おい。それじゃ、これで」


「……はい」


 二人に別れを告げて、ハルトトの後を追った。更に奥地へ進むとまた反応があったようだ。


「どうした、ハルトト」


「北に建物があるわ……でも、南に私の魔力を感知した瞬間、更に南に逃げた奴がいる……」


 どちらかと言えば、逃げた奴が怪しいな。


「狩猟している奴かもしれないけど、南に行ってみよう。建物は後からでも行ける」


「わかったわ。付いてきて」


 そういうとハルトトは魔法で草木をなぎ払いながら進んでいく。ほとんど飛んでいるようなもんだ。それに乗り遅れないようにダッシュで付いて行く。十分程度進むと、ハルトトが大声を上げた。


「障害物を壊しながらじゃ、ダメだわ……」


「はぁはぁ…… 俺にかまわず先に行け! 逃げられるぞ!」


「わかったわ!」


 返事をするとハルトトは風魔法で一気に空中に飛び上がり、森の上へと抜けた。上に出ると大きな声で叫んだ。


「いた! ゼントトよ!」


 ゼントトもハルトトの感知から逃れようと森の上に飛び出したらしい。いいタイミングだった。ハルトトは一気に加速してゼントトに向かった。

 俺は森の中を飛んだり跳ねたりしながら、何とか追い付こうと必死に走った。


「ちくしょー…… こんな訓練うけたことないわ……」


 自然の中を走るというのは非常に大変で、身体中草木や枝などで傷だらけになりながら進んだ。多少は水の羽衣が弾いてくれるが、それでも小さい擦り傷などを負う。

 そんな最中、空中でハルトトとゼントトが戦い始めたみたいだ。轟音と叫び声が聞こえる。


「これ以上、来るな! 来るんじゃねぇ!」


「いい加減にしなさいよ! ゼントト!」


 ハルトトが気合を入れると稲妻がゼントトに命中。地上へと叩きつけられた。鈍い音の後に小さいうめき声を発するゼントト。ハルトトもゆっくりと空中から降りてきた。

 俺も何とか離されずに追い付いた。


「はぁはぁ…… 大丈夫か、ハルトト」


「大丈夫よ。さあ、ゼントト。これは一体どういう事。話してもらうわよ」


 ゼントトは仰向けになりながら、中空を見つめている。その間に、ハルトトが闇魔法でリングを作り、ゼントトの身体をロックした。


「黙ってないで、話してよね。それにその輪っかはあなたの魔力を半分にするわ。どう足掻いても勝ち目はないわよ」


 すると、ゼントトが静かに語りだした。


「ハルトト姉さん…… すまない…… 俺はもうダメだ……」


「何がよ」


「フユトトを頼みます……」


「あんたに言われてなくてもそうするわよ。だから、何がダメなのよ」


「僕は港で働いていた時に、大事なお客さんの高価な荷物を壊してしまったんだ…… それを弁償するためにそのお客さんから紹介された人にお金を借りた…… しかし、借りた直後から途方もない利子をつけられ…… 借金を無しにする代わりに荷物を運べと……」


「それが爆弾?」


「爆弾とは知らなかった…… 教室に置いてくれって言われて…… 持っていった時に水が漏れていたので荷物を開けたんだ…… そこで荷物の中身を知った…… ちょうどその場面をフユトトに見られて…… パニックになってフユトトを連れてその場から逃げたんだ…… そしたら大きな爆発がして…… 僕はバカだ…… バカだった……」


「だからってフユトトを誘拐して、監禁する事ないんじゃないの」


「フユトトもパニックになって話を聞いてくれなかったから…… もう僕も何も覚えていない…… わけがわからない……」


「ふざけないで! 今だってこうやって無差別に人が死んでいるかもしれないのよ! 洗いざらい吐いてもらうからね!」


 ハルトトはゼントトの胸倉をつかんで叫んだ。怒りが身体から湧き出して、ワナワナしている。


「あんたのせいでね! シュウトト兄さんやカトト兄さんも職を追われるかもしれないし! もしかしたら私たち家族は、二度とナイシアス連邦の土を踏めないかもしれないのよ!」


「……すまない 本当に……」


「それで済む話じゃないって言っているのよ!!」


 このままじゃあ、殺しかねないので止めに入った。


「ハルトト…… もうその辺で…… あとはシュウトトに任せよう」


「ハァハァ…… わかったわよ…… でも、黒幕は誰? それは話してもらうわ」


 ゼントトはおびえたように首を横に振った。


「わからない…… 金を借りたのはリュウトトという男だ…… 僕はそいつから荷物を渡された……」


「じゃあ、そのリュウトトはどこに?」


「知らない…… いつも港にフラってやってきて…… この森の中に消えてしまう……」


 この広大な森の中に消えてしまうというのはキツい。人海戦術でどうこうできる広さではない。さっきの奴らみたいに狩猟目的で入っている場合もあるし、しらみつぶしでやるには時間がかかり過ぎる。


「リュウトトに繋がる手がかりは?」


「こっちから連絡する手段はない…… いつも来てくれたから……」


 リュウトトが現れる昼まで待つわけにもいかない。状況は切迫している。


「ダメね…… まあ、あなたはこのままシュウトト兄さんに引き渡すわ」


 ゼントトは全てを受け入れて、ぐったりとした。ハルトトはリフォンでシュウトトに連絡をし、事の詳細を話した。シュウトトはすぐに軍を派遣し、こちらに来てくれるそうだ。

 ハルトトは怒りを抑えながらも、まだ爆発を続けるナイシアス連邦を見つめていた。

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