レウスたちのフルパワーの攻撃は凄まじい。聖樹ウヴヴすら吹き飛ばしそうな巨大で禍々しいものを放ってきた。倒れて動けない、俺とハルトトは死を覚悟する。
だが、それを見たソフィアトトは一笑した。小馬鹿にした笑いだった。身体にまとった稲妻を消すと、軽く腕を伸ばした。レウスたちの魔法が当たる瞬間。その魔法が急激に縮小したように見えた。そして、あとは払うような仕草をすると魔法は跡形もなく消えてさってしまった。
その場にいた全員がキョトンとなった。ただ、一人ソフィアトトだけが笑っている。
「あら? あなたたちのフルパワーって今のかしら?」
レウスすら驚きを隠せずに、唖然としている。
「な、なんだ? 何をした?」
「何って? なんか飛んできたから払っただけよ」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてなんていないわ。あれくらいの魔法なら何発撃っても無駄よ」
「バ、バカな……くっ……もう一発!!」
レウスの体の魔刻紋から魔力が漏れる。それを見たレウスの仲間たちも先ほどより、さらに集中して魔力をため込んだ。魔力を感じない俺でもその異様で巨大な魔力を感じることができる。大気が揺れ、地面が振動し、気温も何もかもがランダムに変化していく。
ソフィアトトはその光景をただ見つめていた。どこか中空を見るような、呆れたような視線で。
魔力を貯めきったレウスが叫ぶ。
「聖樹ウヴヴごと、吹き飛ばせ!!」
「おぉおおぉぉお!!」
レウスの号令でハダル団全員がソフィアトトに向けて、魔法を放った。その魔法たちが幾重にも重なり、もはや何属性なのかわからない塊となってミサイルのように飛んできた。
だが、ソフィアトトはまたもや冷笑しつつ、今度は両手を突き出した。そして、当たる一メートルくらい手前でその魔法は急激に縮小し、バレーボール程度の大きさになった魔法を軽く手で弾いた。
弾かれた魔法は、ものすごい勢いで上空へと飛んでいき、大爆発を引き起こした。爆風が全員の間を通り抜けた。
俺は、爆風を避けるように目を閉じた。そして、ゆっくりと目を開けるとハダル団の連中が、魔法を使い切って片膝をついたり、その結果に唖然としていたりした。
レウスが震えながら口を開いた。
「ど、どういうことだ……何が起きている?!」
ソフィアトトは再び、身体に稲妻をまとった。
「だから、あなたは知らないのよ。知らないことが多過ぎるのよ。あなたが知っている私は……」
そう言った瞬間、ソフィアトトはハダル団に突っ込み、ハダル団の二人が電撃にやられて弾け飛んだ。しかし、レイロング王国で見たマサムネの攻撃や、ウルミ連邦で見学したシゲザネの雷魔法より若干の見劣りを感じた。速さや威力、確かに申し分ないが彼らのようなインパクトがない。
ソフィアトトは元の位置に戻り、話を続けた。
「こういう私でしょ?」
みんながソフィアトトの言葉に耳を傾ける。ハダル団は誰一人、動けない。確実に全力で魔法を放ったようだ。かろうじてレウスが受け答えをした。
「ハァハァ……何が言いたい……。星の十傑や迅雷の女王を誇るつもりか……」
「その称号と私がリンクしていると思っているわけでしょ? 確かに私は雷魔法を使えるわ。でもね、私が最も得意としている魔法属性は違うのよ」
「な、なんだと……」
「冥途の土産に教えてあげるわ。私が最も得意としている魔法属性は闇。あなたたちの魔法も闇魔法で減退、減少、縮小させて消しただけよ」
「確かに闇魔法にはそういう使い方もある。だが、あのスピードであの威力の魔法を……」
「普通はせいぜい二十パーセント程度でしょうね。レイロング王国にいる漆黒の魔女なんて呼ばれているご淑女でも五十パーセントがいい所かしら」
「ご、五十パーセントなら、このウヴヴを消し飛ばすくらいの魔力は残っていたはずだ……」
「はぁ……。だから知らないでしょ。私が闇魔法を操れば即座に九十パーセント以上を出せるわ」
「なに……?!」
「どんな魔法を使ってきても無駄よ。私の闇魔法で消せなかったのは魔神の魔法くらいかしら」
「バカな……。どうやってそんな魔力を……」
「知らないでしょ。あなたは学びを放棄したから。魔力というのは自然から得るものなの。あなたは自然に好かれるような事をしたかしら?」
「ふざけたこと……。魔力の器は個人的才能だ」
「そんなことはないわ。オウブによって得られた魔力は、自然と調和、鍛錬によって、より大きくなっていくのよ」
そういうとソフィアトトは恍惚の表情を浮かべながら語り始めた。
「自然とは雄大だけど、破滅的で刹那的なものなのよ。どんな人間もどんな魔物もどんな魔法も自然には勝てないわ。私は自然と一体になるためありとあらゆる事を試したわ。だけど手に入れるのは魔力のみ。自然は私の愛を受け止めてはくれなかった……」
「何が自然と一体だ! 魔力は手に入れた時点で多少の増減はあるもの、そんな爆発的に増えるものではない!」
「だ~か~ら~。それはあなたが知らないだけ。魔力を手に入れてからあなたは自然に感謝したかしら? してないでしょ? だからあなたは弱いのよ」
「この……自然バカ女が! そういう古臭い考えや風習が他国より劣っていく原因になっていると、俺は言っているんだ!」
「他国には他国のやり方があるのでしょう。でも、ナイシアス連邦は自然と調和して、魔力と対話していく事を選んでいるわ。古い慣習すべてが悪いものだと言うのは知識が足りない証拠よ。シャル・アンテールで最も魔力、魔法に精通しているのはナイシアス連邦。これは揺るぎない結果であり、事実じゃないかしら」
「ちっ……。話にならないな」
「話なんてしていないわ。教えてあげているのよ」
「お前らはいつでもそうだ。上から目線で……。俺らのように新しい魔法の使い方を模索した連中を全員、国外追放した。そうやって俺たちの成果を、権力で握りつぶしたんだ!」
「あなたが研究していたのは、確か魔力を閉じこめるトワイコンを使った次世代エネルギーの開発だったわね」
「あぁ、そうだ」
「あんな不安定なもので研究所を何度も爆破し、危険物対策もしないで、何人もの優秀な研究員が殺したことは何とも思わないのかしら」
「あれだけ危険なものを扱っていたんだ! 多少の犠牲は仕方ないだろう! 逆に出来上がったことのメリットを考えろ! あのエネルギーが完成していたら世界を一変させられたんだぞ!」
「あら? やっぱりあなたは知らないのね」
「な、なにをだ!」
「セロストーク共和国のアクセルという人物が、トワイコンを利用し、次世代エネルギーとなるトワロン(ナノカプセル魔力エネルギー)を開発したわ。魔力を極限まで小さくして、トワイコンで包み込み、無属性魔法を排出するの。さらに使った後のカプセルは再利用できるという画期的なエネルギー源よ。これで、さらにアルトトの書記の研究も進むわ」
「え……。どういうことだ?」
「だ~か~ら~。あなたがやっていた研究より、もっと優秀なエネルギーを開発した人がいるのよ。誰一人、犠牲者を出さずにね」
レウスが愕然とした。ソフィアトトが更に続ける。
「あなたが無知だったばっかりに、研究所は何度も爆発で壊れ、周りの人は死んだのよ。そりゃあ、国を追い出されるわよ。それで挙句の果てに逆恨みをして、今回のこんな事態を引き起こし、またナイシアス連邦の人を殺した。もう弁明の余地はないわ」
「くっ……」
「あ~それと……あなた星の十傑を舐めたわね」
「なに?!」
「星の十傑はね。このシャル・アンテールという星を、命を投げうってでも、守ろうという『行動』が称賛された称号よ。決して、称号ありきじゃないの。それを舐めるって事は、この事件の罪よりも重いわよ。そうでしょ、マサムネ」
ソフィアトトから意外な名前が出た瞬間、レウスを抜いたハダル団の間を稲妻が通った。そして、一斉に稲妻が落ち、それぞれが倒れた。
「その通りだよ、ソフィアトトさん」
すると、いつの間にかソフィアトトの隣に隻眼、隻腕の男が刀を鞘に納めながら出現した。
レイロング王国で見た男、カスイマサムネだ。星の十傑の一人で人類史上初めて魔神を倒した男と名高い。
はだけた紺色の着物を着ながら、美しい刺繡がしてあり、一本の刀を腰に差している。
「遅くなりました、ソフィアトトさん」
「よく来てくれたわ、マサムネ」
レウスの表情が変わる。
「バ、バカな……。こんなにも差があるのか……」
がっくりと膝をつくレウス。それを見ながらマサムネが一言発した。
「立て。星の十傑を舐めたんだろ? 最後くらい立って、男らしく戦って死ね。俺が相手してやる」
それを聞いたソフィアトトが慌てて、中に割って入る。
「あら、そんな情けをかけるのはやめてよね、マサムネ。こいつは捕まえて拷問にかけて死刑よ」
「あーあ、残酷だね~。そんなんだから自然への愛が届かないんじゃないのか」
「自然が私の愛を受け止めるのが怖いのよ。だから私は自然に嫌われて、闇魔法の能力が高くなったんだわ」
「そうなのかな……。よくわかんねぇけど……」
「とりあえず……」
ソフィアトトが左手を軽く出すとハダル団全員に光の輪がかかった。そして、この騒ぎを聞きつけて、土星魔珠隊の精鋭たちもやってきた。そのまま、レウスとハダル団は軍に連行される。一気に現場が騒々しくなった。
ソフィアトトとマサムネが雑談しながら、こちらに向かってきた。
「あとは軍の方でやるわ」
「了解です。何人か連れてきていますから、手伝わせますよ。遅れていますけど」
「ありがと。やっぱりあなたに頼んで正解だったわ」
「まあ、星の十傑の方々は忙しいですからねー。俺はもう隠居の身ですから」
「何言っているのかしら、一番若いくせに」
「ヒアマ国は時代のサイクルが早いんでね。ビクトルトトさんは遠征中ですか」
「マハルベク熱帯雨林にこもりきりよ。本当は新しい魔法研究に専念してもらいたいんだけどね。自分の修行に夢中みたい」
「ビクトルトトさんらしいや」
そんな話をしながら、倒れている俺とハルトトの前までやってきた。ソフィアトトが更に強い光魔法をかけてくれて、優しく話しかけてくる。
「二人とも、ありがとうね。聖樹ウヴヴとオウブは守られたわ」
「あ、あぁ……」
ソフィアトトの魔法のおかげで、身体の痛みは大分抜け、細かい傷も塞がった。ハルトトも立ち上がれるくらいにはなった。
「ジェイド団には国から褒賞を出させてもらうわ。こちらからギルドを通して通達するわ」
そういうとソフィアトトとマサムネは現場を指揮している軍の所へと向かっていった。それを見送っていると後ろから見知った声が聞こえた。
「東陽、ハルトト。どうしたの?」
振り向くとそこにはマリタとファビオ、ロサの姿があった。洗礼が終わってちょうど出てきた所だろう。俺とハルトトのボロボロの姿を見て、マリタがいう。
「東陽は毎回、洗礼の時に何か起こしてボコボコだけど、今回はハルトトもなのね」
俺とハルトトは顔を見合わせて、そのボコボコの顔と、マリタの声の安堵感に緊張が途切れ笑いあった。そして、その場に大の字に倒れこんだ。
昨日の夜からの長い一日がやっと終わった気がした。
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