痛みに耐えながら、何とか起き上がろうとしたが全く起き上がれない。痛みは身体の力を奪う。気合をいくら入れようとも、脳が身体を動かすことを拒否する。
「クッソ…… 動かねぇ……」
レウスたちはズカズカとこちらに近付いてきた。ハルトトの方を見るも、ピクリとも動いていない。
「お、おい! ハルトト!」
ハルトトが応じる気配がない。呼吸はしているので死んではいないだろうが、致命傷を受けている可能性もある。
「ちくしょー…… 動けや……」
無理矢理身体を反転させて四つん這いになる。そこから頭を上げて、何とか片膝まで立った。だが、レウスたちは臆することなく、近付いてくる。咄嗟に魔導銃を構えて、レウスたちに撃ったが、当たる直前に軽く腕を払う動作でかき消されてしまう。
「もう魔導銃の威力も落ちているね。だが、弾を変える力もないだろう」
「はぁはぁ…… うおぉおお!」
思いっきり声を張り上げて、身体を起こす。痛みはまだ走っているが、何とか我慢できる程度には回復した。素早く土の弾に入れ替えて、レウスたちに向けて撃った。最大出力での土魔法は、こぶし大の岩石が散弾銃のように飛び散った。さすがにこれには面食らったレウスたちは歩みを止めて、後方に下がり、土魔法で壁を作り、防御した。
「最後までめんどくさい奴らだな。なら息の根を止めてやろう」
レウスは手の中に濃縮された風の塊を作りだした。シュゴゴゴという凄い音が鳴っている。
その時、ハルトトが飛び上がり、東陽の元にやってきた。
「ハルトト?!」
「もうキレたわ!命のやり取りでいいなら何でもアリよ!」
「平気か、ハルトト」
「自分に光魔法で回復したわ。やってやるわよ!」
シャル・アンテールで命の駆け引きは日常的に起こる。ゆえに覚悟の仕方が尋常ではない。現世の現代人には想像がつかないだろうが軽々と一線を越えていく。相手を本気で殺すという気持ちへのリミット解除がここでは簡単に行っている。ハルトトも今の攻撃と、レウスがチャージしている風魔法を見て、リミット解除したようだ。
俺は不思議と笑みがこぼれていた。俺も現世はリミット解除を安易にする人間だった。そうでなければ悪と戦えなかった。任務を行えなかった。だから、ハルトトのこの行為が嬉しくなった。
「はは……。やるぜ、ハルトト」
「当たり前よ!」
「見せてやろうぜ、ジェイド団魂をよ!」
「何それ! よくわかんないけど、全部ぶち壊してやるわ!」
そういうとハルトトは魔力を増大させ、地面を両手で叩いた。その瞬間、地面は割れてレウスたちの方へと向かって行った。レウスたちはそれを避けるために空中へ飛ぶ。
その瞬間を見逃さず、俺は空中にいるハダル団に向かって、土の魔導銃を撃ちまくった。だが、それぞれが避けたり、砕いたり、弾いたりして一向に当たらない。
そこへハルトトの雷魔法が炸裂。
ハダル団に直撃したが、全員上手く受け流された感じだ。向こうも黙ってはいない。
何人かが水魔法や風魔法で攻撃を仕掛けてきたが、ハルトトが上手くさばいてくれる。
魔導銃に風魔法を入れて、最大出力でハダル団に放った。巨大な竜巻がハダル団を襲ったが、レウスが腕を払うと嘘のように消え去った。
だが、そのわずかな間にハルトトは巨大な火球を作ってハダル団に向けて放った。しかし、若干スピードが遅い。そう思った矢先にとんでもない量の触れると爆発する光の弾を上空へ放ち、雨のように降り注がせた。
それの処理に追われている間に巨大な火球がハダル団を襲う。何人かが避けようとしたが、俺は素早く土魔法を魔導銃に入れ込み、左右に土の壁を作り出した。ハダル団の逃げ場は後ろか前にしか無くなった。
ハルトト、渾身の魔法が炸裂する。その思いを体現するようにハルトトが叫んだ。
「いけーーー!」
火球がハダル団を通り抜けていく。先頭のレウスはニヤリと笑うと、後ろの団員に一声かけた。
「おい」
すると、後ろにいたプルル族にしては少し体の大きな男が魔刻紋をまといながら、その火球へと突進した。
ぶつかった瞬間、大きな音を立てて火球は破裂。土魔法の壁も吹き飛び、俺らもその爆風で後ろに吹っ飛ばされた。
その爆発の中から、突進した男がほぼ無傷で出てきた。
信じられない光景にハルトトも俺も戦慄が走った。
「う、うそでしょ……」
「マジかよ……」
ハダル団たちは適当に、空中から降りてきた。レウスが話しかけてくる。
「終わりか? じゃあ、そこをどけ」
後ずさりする俺らの後ろから、この騒ぎを聞きつけたオウブ神殿の神官、防衛隊が出てきた。それを見たレウスの顔が曇る。
「もう遊んでいられないな。やれ」
レウスが号令をかけると、周りの男たちが返事をし、魔法を放ち、神官、防衛隊を蹴散らした。レウスたちは俺たち、聖樹ウヴヴの方へと歩き始めた。
レウスたちに銃口を向け、何発か打つがいつも簡単に弾かれてしまう。魔力の差がここまでの戦力差になるとは思わなかった。ハルトトも先程の火球の一撃で全魔力を放出したようだ。魔刻紋も消えかかっている。
「大丈夫か、ハルトト」
「ハァハァ……。ちょっとしんどいわね……。もう……」
そう言ってハルトトは片膝をついた。それを見た俺もダメージの蓄積で意識が飛びそうになる。
「くそ……」
その姿を見たレウスがゆっくりと腕を上げた。
「今、楽にしてやる……」
レウスの腕にしなやかな風がまとった瞬間、こちらに向けて放たれた。ハルトトと俺は無抵抗のまま聖樹ウヴヴの入口まで吹っ飛ばされた。
またしても全身を強く打ち、痛みが身体を突き抜ける。ハルトトは意識がなくなってしまったようだ。
「ハルト……ト……。くっ……くそー……」
薄れていく意識の中で、レウスたちが聖樹ウヴヴへ入って行こうしている姿を眺めていた。
その時だった。
空から一人のプルル族の女性が降りてきた。
その姿を見たレウスたちは顔色が変わり、一気に後方に下がり距離を取った。明らかにハダル団は動揺している。
降りてきたプルル族の女性の名を俺は知っている。先程、作戦本部にいた「ソフィアトト」だ。星の十傑にして、ナイシアス連邦雷星魔珠隊隊長だ。
ソフィアトトはレウスたちを一睨みすると、こちらに向き直った。
「よく持ちこたえてくれましたね。あなたたちは?」
「あ、えー……。ジェ、ジェイド団だ」
「そう。よくやってくれたわ、ジェイド団。私より先に気付くなんてお手柄よ」
そういうと軽く手をかざし、光魔法で俺とハルトトに意識が戻るくらいの回復をかけてくれた。
「ハルトト!」
「うぅ……う……」
ハルトトの所に行き、抱きかかえたがまだ痛みは残っているようだ。ダメージは深刻だが生きていてよかった。
「そちらで介抱していなさい。もう大丈夫よ、私が来たから」
そう言うとソフィアトトは浮いたまま、レウスたちと向き合った。レウスたちも戦闘態勢を取っている。
「レウストト……。追放されたあなたが、よくおめおめと戻ってきたわね。こんなに手の込んだ事をやって……」
「レウスだ」
「ふふふ……。あくまでアルトト様を否定するのね。器の小さい男……」
「黙れ、ソフィア」
「何がそんなに気に食わないのかしらね」
「お前らとは思想が違い過ぎる。話し合っても無駄だ。ここから消えろ!」
「消えるのはあなたたちよ!」
二人の魔力が増大。更にレウスは魔刻紋を浮かび上がらせた。
さっきまで本気じゃなったって事か。
ソフィアトトは身体に稲妻をまとった。バリバリと凄まじい音を発している。
「いい音でしょう」
「ふん。雷魔法が得意な事は知っている。迅雷の女王なんて呼ばれていたっけか」
「いいえ、あなたは何も知らないわ」
「ほざけ。全員で一気に攻撃だ! 聖樹ウヴヴ及びオウブ神殿ごと破壊せよ!」
レウスの号令に団員たちが大きな返事をした。そして、大気や地面が振動する程の魔力を高め始めた。もはや何の魔法が飛んでくるのかすらわからない。全魔法が巨大な形で練り上げられている。もしそれが聖樹ウヴヴに当たったら、確かに致命的なダメージを負うだろう。
だが、そんな様子を見ているソフィアトトに焦りはない。その態度にレウスが苛立った。
「いつまでその余裕を保てるかな……」
「もう少し頭が柔らかく、良ければね。だけど、ここまでやったらあなたは死刑しかないわ」
「へらず口を……。死ぬのはお前たちだ! 打てー!!」
レウスの号令で団員たちは巨大な数種類の魔法を放った。
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