ロストエタニティ

~異世界シャル・アンテール編~
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ラウラからの依頼

公開日時: 2022年7月12日(火) 13:32
文字数:5,220

 村へ戻ると、すぐにロサを病院へ連れて行った。幸い骨に異常はなく、打撲のみとなった。空中で噛みつかれたので威力が半減したのだろう。光魔法での治療なら数日で治るそうだ。


 治療を終えて、ホテルのロビーで三人はまた集合した。今後の事について話し合うためだ。マリタは二人の怪我治るか、ハルトトたちと合流するまで中止すべきだとした。だが、俺は明日にでも魔物は討った方がいいと進言した。気がかりが一つあるからだ。それは、アルムデナの事だ。


「アルムデナはまた妹を探しに、あの森へ行くだろう。そうなれば確実にやられる。何とか助けてあげられないか」


「わかっているけど、二人がそんな状態だと……。運良く、今回みたいに本体を見つけられたとしても魔法感度は高いし、逃げられる可能性の方が高いわ」


「だけど、時間が経てばアルムデナが、あの魔物に再接近する可能性は高い。俺の腕は大丈夫だ。俺が囮になるから、マリタが魔法で攻撃なり、何なりで、倒せないか」


「そうね……」


 アルムデナに、俺は助けてもらった。このまま見過ごすわけにはいかない。

 そんな俺の顔を見て、マリタが一つため息をした。


「東陽の恩人だもんね」


「助かるよ」


「明日も行くわよ。ロサはサポートに回って」


「は、はい」


「東陽が餌に食いつき、私が仕留めるわ。場合によっては捕縛も考えるけど、基本は倒す方向で」


 俺とロサはマリタの言葉に頷いた。

 そのまま三人は分かれた。二人は部屋へと戻っていったが、俺は軽く酒をあおりたくて、ランチで行ったバーへと向かった。


 バーは相変わらず盛況で、西部劇さながらの雰囲気が一層殺伐感を出している。木の扉に、木のテーブル、木のチェア。森林にいるような香りに酒と不潔な調査団たちの臭いが充満していた。

 その間を通り抜け、カウンターへと行く。アギュラ族のマスターが話しかけてきた。


「注文は?」


「あぁ……。パジェリをくれ」


 マスターは返事もせずに、パジェリを用意して、目の前に出した。それに口を付けると、若いフォウマンが話しかけてきた。


「おい、お前ジェイド団か?」


 随分と高圧的で、顔はニヤニヤとしている。つまり舐められているって事だ。


「だったら?」


「何だか随分と手柄を立てているみたいだな。お国の仕事は楽しいか」


「……お前はどこの誰だよ」


「あぁん? 誰だろうといいだろうがよ」


 男の取り巻き、二人も寄ってきた。新参調査団へのイビリか、嫉妬か……。厄介ごとに巻き込まれたくはないが、舐められても体裁が悪いだろう。少し強めに言っておくか。


「じゃあ、名無しの兄ちゃん。何かようか?」


「あんまり調子コイていると足元、すくわれるぜ」


「この状況で調子コイているのはそっちじゃないのか」


「口の減らねぇ野郎だな」


「お互い様だろ」


「シメられなきゃわかんねぇのか、てめぇ」


 三人は少し身構えた。ここら辺が潮時だろう。これ以上はめんどくさい事になる。


「目的はなんだよ?」


「ふん! イキがっている新人にはよぉ。ちょっとお仕置きしなきゃな」


「調査団の仕事をしているだけで、なんでイキがっているって話になるんだ?」


「うるせぇ! 生意気だって言ってんだよ!」


 その時、入り口付近から女性の声が聞こえた。


「うるさいのはあんただよ」


 そこには雪豹戦士団団長、ラウラが立っていた。齢四十近くというがしなやかな筋肉や肌の張り、眼光などはアギュラ族の中でもトップクラスに鋭い。

 男たちはラウラの姿を見ると後ずさりした。さっきまでの威勢を委縮させるほどの力を持っているのか、ラウラは。


「あ、いや……俺たちは何も……」


 周りの人たちもラウラの登場に騒ぎ始める。


「星の十傑のラウラだ……」


「こんな所に珍しい……」


 どうやらラウラは星の十傑の一人らしい。ラウラが鋭い眼光で俺に絡んでいた男たちに凄んだ。


「用がないなら出ていきな」


「ちっ……」


 男たちは俺を睨みながら店を出て行った。ラウラが近づきながら話しかけてくる。


「新進気鋭のジェイド団は有名になりつつあるぞ。あーいう輩も増えてくるだろう」


「助かったよ」


「勝手に出て行っただけだ」


 ラウラは俺の隣に座り、パジェリを頼んだ。


「飲むのか?」


「一杯だけな。少し話、いいか」


「あぁ……」


「魔物に会ったと聞いた」


「森でな。取り逃がしたよ」


「それも聞いている」


 その時、思い出した。ラウラがアルムデナ=アルアバレナを探していたことを。


「そうかそうか。アルムデナに会ったよ」


「やはり。どうだった」


「それを話すにはちょっと予備知識がいるけど、いいか?」


「あぁ。話してくれ」


 俺はラウラに魔物の特性を話した。疑似餌で人間を釣り、食らいつく事を。


「なるほど……それでアルムデナが横入りしてきたのか」


「あぁ。すぐにいなくなってしまったけど。だけど、妹の名前を言っていた。その疑似餌が妹さんに見えたんだろう。早く見つけないと餌食になるぞ」


「わかっている……」


 そういうとラウラはパジェリを飲み干した。


「明日、俺らは魔物を探す」


「私たちからもお願いするわ。こっちはアルムデナの事で手一杯だから」


「そのさ。この村の雪豹戦士団の団長さんがさ、人一人の人探しに躍起になっているのは何故だ。アルムデナってどういう人なんだ?」


「……」


 ラウラは一点を見つめたまま、何かを考えこんでいるようだった。


「いや、言いたくなければいいよ」


「……幼馴染だったんだよ、私とはね」


「なるほど」


「小さい頃は私よりアルムデナの方が優秀だった。だけど、病弱な双子の妹アリオナがいたから彼女は軍からは抜けたんだ」


「双子……」


「よく似た姉妹だったよ。両親を大戦で亡くして、二人はずっと一緒だった。本当に仲の良い姉妹だった」


 俺の身体を看病してくれたアルムデナの手際の良さは、妹をずっと看病をしていた経験によるものだったのだろう。


「それで妹さんが病気で亡くなって、アルムデナが森へと行ったって事か?」


「えぇ。妹のアリオナが病気で死んだ翌日、アルムデナは姿を消した。だけど、嗅覚や俊敏性が高いアギュラ族の追跡からは逃れられない。程なくして発見して、接点を持てたんだが……」


「だが?」


「妹を探しているなど、わけのわからない事を言っていることが分かった。アルムデナはショックでおかしくなってしまったんだろう。妹を死んだと受け止められないんだ」


「仲が良すぎ代償か……」


「事実を突きつけるのが正解かわからないが、今のまま放ってはおけない」


「無理矢理、連れ戻すのか」


「わからない……。つい先日、彼女はより深く森の方へと消えてしまっていた。だから、あんたたちの話は渡りに船だったわけさ」


「そんなすごいアギュラ族の追跡を振り切るなんて、アルムデナの能力の高さが分かるな」


「昔から、感情の起伏が激しい子で爆発したときは大人たちも手を焼く程だった。でも、妹には優しかったよ」


「話は分かった。見つけたらすぐに連絡をする。たださっき言っていた魔物の良いカモだ。自分直属の組織を持っているなら使った方がいいんじゃないのか」


「そういうわけにはいかないよ。仲間として力を貸してくれる人たちはいるけど、一個人の感情で軍は動かせない。だからあんたたちに頼むんだ」


「って事は、ジェイド団への正式な依頼ってわけか。別に知らせるぐらい依頼ってわけでなくてもいいぜ」


「いや。話を聞いていて信用できると思った。ジェイド団宛てにギルドで申請しておく。情報だけもらえればいい。あとはこっちでやる」


「わかった。アルムデナは、俺の命の恩人だ。必ず伝えるよ」


「じゃあ、頼んだぞ」


 そういうとラウラは手で挨拶をして出て行った。少し騒然となった店で、俺はパジェリを飲み干して、あとにした。ホテルへ戻ると、そのまま就寝し、次の日の朝を迎えた。


 ホテルのロビーに行くとマリタとロサがすでに降りてきていた。ロサは杖を付いている。まだ満足に歩けそうもない。マリタが話しかけてきた。


「おはよう。東陽」


「あぁ、おはよう。二人とも早いな。ロサは平気なのか」


 ロサは足を気にしながら答える。


「は、はい。つ、杖は補助的にです」


 アギュラ族の身体能力は全種族で一番俊敏だ。多分、片足でも俺より素早く動けるだろう。


「すぐに行くか?」


 マリタが頷く。


「えぇ」


「その前に、ギルドに寄ろう。昨日、リアス村のラウラ団長から依頼を受けた」


 二人が驚く。


「えっ?! ラウラって星の十傑のラウラさん?!」


「あぁ、昨日バーで会ったんだ。この前、ロサと一緒にいた時に遭遇してさ」


 マリタはロサの方に振り返った。


「えっ?! ロサも会ったの?!」


「は、はい。わ、私と誰かを見間違えたようで……」


「いいなぁー私も会いたいー」


 意外にミーハーなマリタ。身体をウネウネさせて、嫉妬を表現している。


「そのラウラ団長から依頼だ。俺を救ってくれて、ロサによく似たアルムデナを発見次第、ラウラに連絡をする」


「昨日、ロサが助けた人ね」


「あぁ。確実にあの魔物のいいカモだ。魔物を退治するのが先か、アルムデナを助けるのが先かの勝負になってきたからな」


「わかったわ。ギルドに向かいましょう」


 俺とロサは頷くとマリタの後に続いて、ギルドに向かった。ギルドは相変わらず、人でごった返していた。マリタが受付に向かうと、すぐに知らない奴が俺とロサに絡んできた。


「おい、お前らジェイド団か?」


 周りの奴らの視線が一気に俺らに集まる。有名になりつつあるという話は本当らしい。


「だったら?」


「いいや、別に……」


 そういうと男は去っていったが、周りのざわつきは更に大きくなった。


「ちっ……。意外にめんどくさいんだな、こっちの世界も」


「こ、怖いですね。な、なんか見られています」


 ロサが少しすくんでいる。


「気にすんな、ロサ。ここで騒ぎは起こさないだろう」


「は、はい」


 ギルドには大体、その国からの治安維持部隊が配備されている。何か起きた時、鎮圧、捕縛などに特化した魔法を使用して一気に抑える。騒ぎを起こせばどうなるかは、火を見るより明らかだ。


 ざわめきは、受付にいるマリタにも向けられたようだ。マリタが少しピリっとした顔でこちらに振り返った。「大丈夫?」という意味だろう。俺は静かに頷いて、「平気」だと答えた。マリタも頷いて、受付を急かした。


 十分程度でマリタが戻ってきたが、その間にもざわめきが止むことはなかった。


「受付、終わったわ。ラウラ団長からの個人的な依頼になっていたわ」


 マリタが言うと、それを盗み聞きしていた奴らがまた騒ぎ出した。


「おい、星の十傑から単独指名だ」


「どうなってんだ、あんな新参に」


 マリタが「しまった」という顔をした。


「もう行きましょう。歩きながら話すわ」


 マリタがギルドを出ていく。それを俺とロサは追い駆けた。ギルドはまだその騒ぎの余韻を残していた。


 リアス村を出てしばらく、歩くとマリタが話し始めた。


「ここら辺ならいいわね。驚いたわ、なんか私たちって注目を集めているわね」


「ナイシアス連邦での一件が大きいかもな。俺とハルトトは死にかけたけど」


「そうかもしれないわね」


「それに加えて、さっきのラウラからの依頼。村に戻ったらもっと騒ぎが大きくなっているかもな」


「失敗したわ。変な気分だけど、影響力を持ってきているって事だから、気を付けないといけないわね」


「俺とロサも変な奴に絡まれた。ハルトトたちにも言っておいた方がいい。絶対、喧嘩するぞ」


「わかったわ。確かにハルトトは爆発したら怖いわね」


「でも、まあ、調査団をやっていれば、大なり小なり有名になっていくんだからしょうがないんじゃないか。そうじゃないと良い依頼も来ないんだろ」


「そうだけど。その分、危険度は増すから、戦力が足りなくなるわ。ハンガクチームが入ってくれたとしても、師範代のハンガクさん以外は未知数よ。私に負けているようじゃね」


 いや、あんたのあの三位一体の魔法は強い分類じゃないのかね……。


 話をしながら、出現ポイントまでやってきた。相変わらず、草木がこすりあう音と、虫、動物の声しか聞こえない場所だ。

 三人は身を潜めて、周辺を確認。この前のように三方向に分かれて索敵を開始した。だが、なかなか見つからなかった。何度か集合して、また分かれてを繰り返した。時間も夕方になり、そろそろ引き上げようとしたその時だった。

 ロサが魔物の匂いを感知してくれた。三人はすぐに現場に向かうと、そこには無気力な千堂がいた。つまり近くに魔物がいる。


「ロサ、でかした」


「は、はい。で、でも本体の場所はわかりません」


「いや、この距離でいい。どっちにしろ、疑似餌に近づかないと本体は行動を開始しない」


 マリタは少し待ってのポーズをして魔法を詠唱している。一瞬に決めなきゃいけないので、先に魔力を練っておく必要があるようだ。


「あ、そうだ。ロサ」


「は、はい」


「ちょっと耳貸せ」


 ロサに耳打ちをすると、マリタの詠唱が終わったようだ。


「いいわよ、東陽」


 マリタと目でアイコンタクトをして、頷いた。


「よし、行くぜ」


 俺はゆっくりと疑似餌へと歩き出した。


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