今回の船旅は比較的短く、二日程度となっている。港を近くに作ったようだ。ただ海域は常に荒れている危険地帯。巨大な豪華客船でもたまに揺れを感じるほどだった。
船を降りる最終日に、ジェイド団は食堂へと集まった。ハンガクたちからヒアマ国の説明があるようだ。俺も千堂がヒアマ国にいる可能性が高いので、詳しく知りたかった。
ハンガクとアオトト、ニールが話し始める。
「では、まずはニールから。今までのヒアマ国の歴史を」
「わかりました」
アオトトとニールは小悪党という雰囲気がバンバン出ているが、本当にハンガクには礼儀正しく忠誠心が高い。この三人にも何かがあったのだろう。
ニールが続ける。
「ヒアマ国は元々我々グラン族が住み着いていたんだが、とにかく争いが絶えなかった。また、かなり原始的な生活をしていた事により、知能なども遅れて、共通の言葉も持たない始末だった。グラン同士が殺し合い、絶滅の危機に瀕した時、そこへフォウマンたちが入ってきた。一部のグランと友好関係を結ぶと、オウブを発見し、フォウマンとグランの国「ヒアマ」を建国した。それが始まりだ」
ジェイド団はうんうんと頷きながら聞いている。みんなも始めていく国なので、しっかりと耳を傾けている。ニールは続ける。
「その後、友好関係を結ばなかったグランとヒアマが争い、フォウマンから流れてきた言葉や武器などでグランの知能も大きく向上し、いろんなところに拠点、村、国が出来上がり、戦国時代へと突入していった。約百年続いたこの戦国時代は、ミナモトサイゾウの手により統一される」
つまりは、始皇帝みたいなもんか。
「それでミナモトサイゾウがトップに立ったって事か」
「いや、違う。ヒアマ国は最初にオウブを発見し、国を建国した一族を神と認定した。ヒアマ国全体の首都セントに、対魔神戦闘用の城ヒアマ城にオウブと共にいる。神は神で崇め、政府は別にある。ミナモトサイゾウは政府のトップという事だ」
ますます日本に近い。天皇家があり、政府がある。国の象徴と政治が離れている。
「神が政治に関わることはない。意のままに操れるのは、あくまで政府のトップだ。その後、内政面で台頭してきたタイラ一族と何度か政権交代を繰り返しながら、発展してきたがオウブ大戦で壊滅的被害を受けてしまった。オウブ大戦後は、復興しつつも、またもや戦国時代に突入しており、今では十二国が政府の座を狙っている」
「十二国も……」
「こっからは俺が」
アオトトが割って入ってきた。
「ヒアマ国のあるガンゴゼ大陸は大きく分けて四つに分類される。北海、東海、西海、南海となっていて、政府があるのはその中央だ。そこを目指して十二国で争っているような状況だ。とはいえ、趨勢は決まりかけている。西海にある午国(うまこく)が政府を握っていると言っても良いだろう。今は、全国を統一すべく兵を出したり、外交をしたりと周りに圧力をかけている状態で、対抗できる国は今のところはない。午国が政権を握るだろう」
「ある程度平定し始めているって事か。国民はどうなんだ? つらい時代なのか」
「いや、そうでもない。ヒアマ国は今やもっとも大きく成長し、もっとも安全な時代と呼ばれている。経済が大きく回っているから、民は民でそれなりに暮らしている。戦争や政治はある意味、上流階級の揉め事になっている。国民もそれなりに力があり、一揆などを起こされたら国力を削がれる。どの国もそんな事を起こさせないように、仁政を行っているよ」
なんだか戦国時代と江戸時代がごっちゃになった世界だな。面白そうだけど……。
「シャル・アンテール調査協定でヒアマ国の技術や民芸品が、世界に伝わることになり、莫大な利益を上げている。金持ち喧嘩せずってわけだな」
ことわざまで同じじゃないかな。つまりは経済が回っているから、内戦のごたごたとは切り離されているって事か。だけど、そんな事、現実的に可能なのか。
「以上が歴史と現在の状況だ」
なるほど……。日本に近い国と思っていたが、本当にそんな感じだ。このシャル・アンテールで千堂が腰を下ろすとしたら、ここかもしれない。とはいえ、あまりリンクして考えるのもよくはないだろう。ここはあくまで日本ではないのだから。
「そのヒアマ国の技術とはなんだ?」
ハンガクが答える。
「このヒアマ刀を作った製鉄技術と、私が着ている衣服の技術、それに産出されるオウキン……。こちらではトワイコンと呼ばれる魔法を蓄積できる金属が主な資源でござる。それを応用して他国で使用されておる」
「それで経済が回っているって事か。なるほどな。向こうに着いたらまずはどうするんだ」
「皆をオウブのあるヒアマ城へ連れて行くでござる。そこで洗礼を受けるものと受けないもので別れてはいかがか」
黙って聞いていたマリタが声を上げる。
「ヒアマ城へは港からどれくらいかかるの?」
「スプルで二日程度でござる」
「近いわね。すぐに着けそうね。他に気を付ける事とかある?」
「ヒアマ国は独特の文化があるでござる。例えば天候や占い、魔物などを制御する陰陽師と呼ばれる者たちや、国のために命をとして戦う戦士の侍などには手を出さない方が賢明でござる」
侍……。侍がいるのか……。日本刀……じゃなかった、ヒアマ刀を差してウロチョロしているのかな。まさか頭は……。
「なあ、ハンガク。侍はみんなちょんまげか?」
「ちょ……なんじゃ、それは」
「いや、頭の恰好というか、髪の毛というか」
「おお、大体結んでおるな。陰陽師などは剃髪しているが」
ちょっとそこは違ったみたいだな……。
ハンガクたちの説明が終わると、今度はマリタがこれからの予定を話し始めた。
「ヒアマ国の事は大体わかったわ。でも、何か起きた時は都度サポートをお願いね」
ハンガクたちが頷く。
「ヒアマ国で洗礼を受けるのは、私、ファビオ、ハルトト、ロサの四人ね。その間は基本、自由行動だけど、東陽を中心にそっちも四人で連絡が取れるようにしていて。私たちが洗礼に入ったら東陽は毎回、トラブルに巻き込まれているんだからね。気を付けてよ」
「好きで巻き込まれているわけじゃないけど、わかった」
「特に治安がいいのか、悪いのかわからないヒアマ国の事情も考慮して。何かトラブルがあっても洗礼が終わってから、みんなで片付けましょう」
ジェイド団は頷いた。
その後、ジェイド団は食堂で解散。数時間後には、客船がヒアマ国の港へと入った。
荷物を持ち、いつも通りに港に常設してあるレンタルスプルへ。港はあまり変わらず、倉庫などが立ち並び、観光客目当ての出店も豊富に出ていた。そこで米を発見。アマツという名らしいが、久しぶりの米という事もあり、購入した。他にも醤油や日本酒に似た調味料も買い込んだ。
周りはフォウマンが多く、みんな着物を着ている。女性の方がより派手な着物を着ているな。
まげは結っておらず、後ろに縛ったり、短くカットしたりとそこは現代っぽい。商人たちは刀を差していないようだ。
はっきり言って日本に酷似している文化が開いているな。そう思うと、この港も横浜に見えてきたような、こないような……。
レンタルスプルへ行くと、スプルは一番小柄だが一番筋肉が発達していた。荷物を多くそして、遠くへ運ぶために、このような進化を遂げたという。人数分を借りて、早速首都セントへと向かい始めた。
首都セントへと続く街道は整備されており、人の往来もなかなか盛況だ。ここら辺は午国が支配しており、国境近くでなければ治安も良いという。
日が傾きかけた頃、一日目の野営地に着いた。横には川が流れており、水源もある。スプルから降りると、身体が締まっている感じがして、背伸びをした。
「ん~……さすがに一日中、スプルは疲れるね」
マリタが荷物を卸しながら、答える。
「お尻と腰をやられるわね。さて、東陽。今日のごはん頼むわよ」
「あぁ。今日はこめ……じゃなかった。アマツがあるんでバーベキューと行こうか」
俺は早速、鍋を取り出して、食材を持って川へと向かった。川には他の野営する人達がたくさん居たが、ギチギチというわけではない。間をぬって場所を取り、食材を洗い始めた。川の流れは穏やかで足を取られる心配も無さそうだ。ただ、下流では用を足したりしているようで、衛生面が気になるな。
食材を洗ったら、アマツも洗い、鍋に入れる。そこにビーノ貝、醤油に近い調味料のアーラユ、日本酒のようなお酒のアマツ酒を入れて炊きこみご飯にする。
他にも雉のような鳥、パージで出汁を取ったすまし汁を作った。スープがないとファビオが嫌がるからな。
みんなのいる場所に戻ると風のテントやたき火が出来上がっていた。その、たき火に鍋を入れる。パチパチという音が心地よい。みんなでワイワイ言いながらアマツとすまし汁が出来上がるのを待った。
三十分もすると炊き込みアマツは出来上がり、すまし汁も十分出汁が出た。器に盛ってもみんなに配るとそれぞれの国の「いただきます」で食べ始めた。
アオトトとニールが雄叫びを上げる。
「うまい! これはうまい!」
「うほー! これは止まらん!」
二人はかきこむように炊き込みアマツを食べまくる。ハンガクは病み上がりという事もあり、少し小食だが、おいしそうに食べている。ハルトトが食べながら、二人に言った。
「どう? これがジェイド団名物東陽ごはんよ」
いつの間にそんな名前が付いたんだ……。
「最高だ! 東陽兄貴!」
「兄貴! 兄貴!」
二人はお祭りでもするように食べながら、踊っている。陽気な奴らだ。
そんな明るい食事を終えたみんなはそのまま就寝した。明日には首都セントに着く。果たして千堂に会えるだろうか。
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