スキルが芽生えたので復讐したいと思います

~スライムにされてしまいました。意外と快適です~
北きつね
北きつね

第二十七話 謎?

公開日時: 2023年11月6日(月) 17:12
文字数:3,480


 透明な壁の中に充満していた煙?が消えた。

 その後で、ムクドリ?スズメ?種類までは分からないが、鳥が一斉に飛び立った。


 どこに、これほどの鳥がいたのか・・・。

 それだけでも不思議なことだが、透明な壁の中にいた魔物たちが・・・。倒されている?


 なぜだ?何があった?戦闘音だけではない。”何も”音がしなかった。


「円香!」


 隣にいる円香も、俺と同じように、魔物たちがいた場所を見つめている。


「孔明」


「円香。何が見えた!」


「・・・。聞きたいか?」


「俺も聞きたい」


 蒼も俺と同じ考えのようだ。

 俺には、何も見えなかった。煙の動きから、何かが動いている様子は伝わってきた。だが、中は見えなかった。円香の言葉から、円香には何かが見えていたのだろう。


「蒼。透明な壁を確認する。”何も”見えなかった。見えたのは、お前たちと変わりがない。と、思う」


 円香の様子からなにかを隠しているのはわかるが、この態度では話してはくれないだろう。


「わかった」


 円香を先頭にして、俺と蒼で透明な壁を確認する。

 マスコミたちは、警官と自衛官が抑えている。


「は?」


 蒼の言葉は、俺たちの感情を過不足なく表現している。

 透明な壁が消えている。


 魔物が居ない・・・。とは、言えない。


「孔明。あれ?」


 円香が指している方向を見ると、人骨のような物や、カメラや機材がまとめられている。


「ん?あれがどうした?」


「不思議に思わないか?」


「なにが?」


「あの人骨とカメラの残骸だ」


「ん?」


 円香が何を言いたいのかわからない。

 人骨になるのは早いと思うが、魔物たちが食べたのなら理解ができる。確か、メキシコあたりで似たような事例が報告されている。他の荷物も魔物には必要がないものだ。まとめられていても不思議ではない。


「孔明。円香。カメラのメモリが抜かれている。バッテリも外されている。スマホが見当たらない」


 人が関係している?

 俺たちの目をごまかして、透明な壁・・・。結界を展開して、鳥を使役?して、魔物を駆逐した?狂っている。何が目的だ!


「蒼。その機材の中に、キャンプ場の備品はあるか?」


「あ!」「ない」


 そうか、円香が言っていた”不思議”なことはそれだ。

 違和感がある光景だ。戦闘があった。それは、間違いではない。なのに、備品の破壊が最小限に抑えられている。備品を避けている?違うな。備品に考慮した戦いをしている。極力、備品を壊さないように戦ったように思える。

 遺体が置かれた場所も、積まれているのではない。まとめられている。骨になってしまってわからなくなったものは、重ねられているが、確実に人だとわかる遺体は重ねられていない。


「蒼。見た感じで構わない。人以外の死体や骨はあるか?」


「ん?調べてみないと、正しいことは言えないけど、見た感じだと、人だけだな。それがなんだ?」


「孔明。蒼。魔物になってしまった動物の話は?」


 もちろん、知っている。

 魔石に触ってしまったり、魔物を倒してスキルを得たりした動物は、魔物と同等の力を得てしまう。動物を倒しても、スキルは得られない。だが、魔石が身体の中に顕現している。人には、同じように魔石が生まれることはないと言われている。動物にだけ発生する事象だ。

 そして、魔物になった動物は、通常の魔物と違って倒されたあとで霧散しない。


「そうか、野良犬が一緒に・・・。ん?円香?」


 円香が、何を拾った。

 魔石か?確かに、魔物が居たのだから・・・。少なすぎる?確かに、魔物が存在していた。魔物を誰かが倒したのなら、その誰かは魔石とメモリカードとスマホを持ち去った?どうやって?


「おい。円香。それは?」


「魔石・・・。の、ような物だな」


「ん?魔石じゃないのか?」


「あぁ純粋な魔石ではない。だが・・・」


 魔石を”電池”代わり・・・。以外の使い道があるのか?魔石にスキルを書き込む実験は各国で行っている。”成功した”と、いう話は聞いていない。


「円香?」


「多分だが、これが”透明な壁”の正体だ」


「え?」「はぁ?魔石が?」


「正確には、この魔石には、スキルが付与されている」


「おいおい」


 蒼の軽い言葉だが、同じ感想だ。

 スキルの付与。実験は行われている。ただ、魔石への付与は、不可能だと言われている。誰がやったのか知らないが、そいつは世界で唯一の技術を持っていることになる。


 魔石の大きさから、ゴブリン程度だろう。それなら・・・。ん?


「円香。魔石に、スキルが付与されているのだよな?」


「あぁ分析は、ラボに送る必要があるが、間違いない」


「なぁその魔石が一つで、あれだけ大きな透明な壁。結界が張れると思うか?」


「!!」「無理だろうな」


 そうだ。

 違和感の正体。それは、魔石が一つしか見つからないことだ。

 あれだけの規模で、発動していた結界が一斉に解除された。それだけなら、術者が居たと思うのだが、中には魔物が溢れていた。スキルの発動は、同時にはできない。ダブル以上のスキルホルダーの中では有名な話だ。俺も、トリプルだが同時には使えない。結界がスキルだとして、結界を維持しながら戦闘ができるだろうか?

 難しい・・・。違うな、不可能だろう。そうなると、魔石にスキルを付与して、同時に使うことができれば、戦略の幅が格段に広がる。


 円香も蒼も、その可能性に気がついたのだろう。


 そして、ここで魔物を殲滅した奴は、すでに魔石にスキルを付与する技術を・・・。方法を、確立している。


「孔明。マスコミを抑えるのは、警官に任せるとして、この遺体や遺品はどうする?今なら、魔物に関係するとして、ギルドが優先権を主張できる・・・。はずだよな?」


「止めておこう。マスコミとの交渉は、面倒だ。どうせ、メモリやスマホがないから得られる情報は、ないだろう。警察に任せよう」


 円香の|漢《おとこ》らしい決断を、承諾する。

 実際に、マスコミをいつまでも抑えられているとは思えない。それに、俺たちは”魔物”に関しての考察を行う必要がある。


「孔明。蒼!」


「どうした?」


「すまん。遅かった」


「ん?」


 円香が見ている方向を見る。

 言っていることがわかった。これから向かおうと思っていた山小屋にマスコミが殺到していた。


 確かに、”絵”になるのは山小屋だろう。

 こちらと同じなら、大した情報は得られないだろう。


「戻るか?」


 蒼の提案ではないが、俺たちが出張るような状況ではない。

 それに、円香が見つけた、”スキルが付与された魔石”だけでも大事だ。


 そして・・・。


「なぁ円香?」


「なんだ?」


「ファントムは、本当に人か?」


「どういう意味だ?」


 地面を指差す。

 円香は、地面を見るがわからないようだ。遺体がまとめられていたことも、遺品がまとめられていたことも、魔物が一体も見つけられないことも、魔石が落ちていないことも、素材が落ちていないことも、全てが不思議な状況だが、俺には、それ以上に不気味なことがある。


「孔明?」


「すまん。円香。俺たちは・・・。蒼の部隊で、樹海に入ったときに・・・」


「なんだ?」


「まずは、足跡を探す。魔物の足跡は特徴的でわかりやすい。動物の足跡とは違う。二足歩行の特有の跡が残る」


「そうか・・・」「ん?孔明。なんだ?」


 円香は、気がついたようだ。

 地面を見ている。特に、水が合ったのだろう。ぬかるんでいる場所はわかりやすい。


「蒼。現場を離れて感が鈍ったか?」


「ん?足跡は・・・。あぁぁぁ!魔物の足跡しかない。正確には、足跡が消えている場所もあるが、戦闘が行われたのなら、足跡が残る。でも、人の足跡。靴を履いている者の足跡がない?ないよな?」


 確かに、不思議な状況だ。

 魔物同士で戦った?それも違うように思える。特に、円香が見ている場所・・・。ぬかるんでいる場所は、はっきりと足跡が残っている。ゴブリン種が3体。同じ方向に移動している。そして、倒されている。足跡からの判断だが、間違っていないだろう。

 スキルで攻撃した?

 ぬかるみに居たのが、ゴブリンの上位種や変異種でなかったとして・・・。それでも異常なことだ。一撃で倒している?ゴブリンがバランスを崩した様子は、足跡からは確認ができない。いきなり倒せるだけの強力なスキルを使った?


 円香が、千明嬢を呼び寄せて、できる限りの足跡を撮影させている。

 あとで解析を行うのだろう。


 ファントムか・・・。

 本当に、存在していると思えてくる。それなら、偶然・・・。なのか?でも、それなら?わからないことだらけだな。


 天子湖から魔物が消えれば、問題は解決すると思っていたが、気持ちが悪い疑問が残った。

 表面上は平穏を取り戻した。


 そう・・・。平穏だ。


 でも・・・。


 天子湖に吹いている風は、魔物が現れる前と何も変わっていない。


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