面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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SlapStick4

公開日時: 2023年1月25日(水) 20:00
文字数:2,274

 連続殴打。それに続いてアッパーによる浮かし。飛び上がっての密着、ホールドから体を反転させて垂直落下。数瞬の後に七緒の頭部が地面に激突し、地を割る轟音とともに土煙が舞った。

 間もなく重い打撃音が連続しだす。倒れた彼女を殴り続けているのだ。

 一頻り殴打した後は足を掴んで空に向かって放り投げ、それを追って飛んで右ストレート。顔面に減り込んだ拳の力により緩い放物線を描きながら地面へ飛ぶ。そしてそれを追って巨体が空中を飛ぶ。


「ちょっと待って……もしかしてあのヘラクレス空飛べるの? 今、空中で静止してたのにいきなりジェットみたいに加速したんだけど……。俺の目がゲームのし過ぎで悪くなったわけじゃないよね?」


 地上に向かって飛ぶように落ちていくアマテラスに、追いつく直前で体を横回転させ、ボクシングのようにリバースナックルを叩き込む。それをまともに受けたアマテラスは先ほどよりも急加速して地に到達、小さなクレーターを穿って停止した。


 しかし次の瞬間にはアマテラスの眼前にクレスが迫り、次いで勢いを利用したアッパーカットが顔下から襲い掛かる……。

 浮かし、右ストレート、左リバース、右アッパーの浮かし、跳び上がり掴み、パイルドライバー(かの有名なマッスルドライバーである)、追い打ち連打→最初へ戻る。その無限ともいえる連撃は、三桁を超えてループし、街は隕石群が落下したかのようにクレーターだらけとなった。それでもクレスは止まらない。


「おーい! そのコンボいつまで続くんだー!? それに女性を殴るとキャラクター人気投票ランク外どころか、作者のSNSアカウントも燃え上がっちまうぞー!?」


(なぜだ……。なぜ倒れない……? 今まで私が対峙してきた敵は、みな私の力に屈してきた……。それがなぜ……。なぜ彼女だけは…………)


 アマテラスが倒れないのはナノマシンによる再生能力のためである。彼女の体は常に発火状態であるが、七緒水月の体が発火しているわけではなく、彼女の全身を覆った膜のようなナノマシンが発火している。それらが強固で柔軟な盾の役割を果たし、彼女への衝撃を吸収している。そしてクレスの怪力を受けても容易には破壊されず、損傷しても瞬時に再生するのである。


『修復不可能なエラーを検知しました。』


「みんなが何を思ってるか当てようか? いまさらナノテクw。これだろ? ハハハ! シャーロック・ホームズが別の映画でやらなかったらこのネタボツってたよねー、ぜったい」


 でもそういうオーバーテクノロジーは無理だとしても、もう少しランク落とした発明か何かできないとまずいよね。人類の進化滞っちゃってる気がするのは気のせい? などと他力本願な志津馬がくっちゃべっている。


『理解不能な文字列〈コード〉を確認しました。記憶装置〈メモリ〉に重大な欠落があると思われます。管理者権限によるリカバリを推奨します。』


「ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 突如、クレスが雄叫び、というより狂った声を上げ始めた。無傷の七緒の前で、天に向かって吠えている。その声で志津馬の鼓膜が破裂し、それは次の瞬間には元通りになった。


「あー。やっぱりこうなったか……。どっかでこうなるとは思ってたけど、割と早かったな……」


 げんなり肩を落とす。





「ふっ!」


 クレシュの殴打が七緒の顔面に突き刺さる。


「はっ!」


 左の殴打も。


「ふっ!」


 右。


「はっ!」


 左。


 それが幾度か繰り返され、


「もうやめろって! いーあるふぁんくらぶみたいになってんじゃねえか! 可愛くねえんだよお前みたいなガチムチがやっても!」


「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」

 両の拳を引き、息を吸いながら力を溜めるクレス。それが止み、


「フンッ!!」

 拳同士がぶつかり合うと、


「……Wha?」


 辺り一帯が瓦礫の山になっていた。



「――What the hell is!!!?」


 先ほどまであった住宅街、その前の商店街、ビル群、当たり前にあった道路から車、公共物や草木、瞬きする間に衝撃波で塵芥にまで崩壊させたのである。クレスはそれを拳のみで為した。

 万物流転。彼が神の権能を持つのなら、それを操ることも可能だろう。


「……あんたまさか」


 口を押さえて戦慄している。


「あんたまさか! ヘラクレスじゃなくてクレイトスだったのか!?」


 パンタレイはギリシャの哲学者、ヘラクレイトスが提唱した哲学の概念である。だがヘラクレイトスはヘラクレスとはおそらく関係がない。


「戦いの神だったのか!? あんた! ロキが息子で、フェイがワイフの!?」


 額に手を当てながら深く息を吐いて、


「なんてこった……。こんなところでモニョモニョの亡霊に会えるなんて……」


 志津馬が塵になっていないのは再生したからである。それは七緒も同じようだ。


「ハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!」


 先と同じように力を溜め、


「ヌゥンッ!」


 一帯を壊滅させた一撃を七緒に向かって繰り出した。


 鉄塊同士が激突したような轟音が鳴ると……。

 七緒を覆っていた物質――アマテラスがひび割れ、いくらか剥がれ落ちた。


「ハァアッ!」


 すかさずクレスの追い打ちが襲い掛かる。

 それは七緒本体の胸に迫り、アマテラスの再生がそこまで至るか否かというところで……。


 ――巨大な物体が衝突した。


「…………」


「…………え」


「…………」


「――エ?!」



 ソレは泳ぐ人食い鮫であった。

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