部長は家では部長部長してた。つまり生き生きしてたってことだ。捕れたての鯛みたいに。飽くなきおふざけは周囲の人間を尽く巻き込み、朝食の納豆を撹拌するが如く掻き回し、混ぜっ返し、引っ掻き回すこと請け合いである。ともすると掻き混ぜの速度が通常のそれを優に超え、アジテーションともなりかねない勢いで泡立ってしまうこと不可避である。
兎にも角にも、夕月家の人とカレーを食べ、しばしの談笑を楽しみ、お土産としてではないけれどカレーと納豆(自家製の樽を丸ごと)をお持ち帰りさせられた。帰りは双嗣〈そうじ〉さん(夕月家の家主)が飲んでしまったため、深雪〈みゆき〉さん(双嗣さんの奥さんで魔法科の妹が成人したようなニヴルヘイムビューティ)に送ってもらった。部長もついてきて、俺がエロティックな小説を読んでいる、という楽しくて仕方がない話題を提供してくれたので緊張することはなかった。本当にありがとう部長。
家では部長の人格しか見られず、親御さんが別人格のことを知っているかはわからなかった。二人から聞かれたり話されたりすることもなかったし、団欒の時に雰囲気を壊すようなことはとてもじゃないができなかった。
で、今は自宅。玄関先では我が母上と深雪さん、そして部長がガールズ? トークに花を咲かせている。……花か。部長のお母さんは花だが、ウチの母上はただ化けているだけである。花咲かじいさんが使う灰みたいなもので(花咲かじいさんを批判する気は毛頭ない。むしろ尊敬している)。「枯れ木に花を咲かせましょう」、なんて言うと、拳骨が脳天にぶち込まれるので、俺のお口のチャックはいつもYKKである。Y(読まない)K(空気)K(危険)、これ重要。
我が母ながらとてつもない化け具合よ、と感嘆しながら居間に入った。そうしたら、
「よう、貞之助。おかえり」
頭髪に白髪の入った、渋いハンサムが現れた。
彫りの深い顔のハンサムは、ソファにゆったりと身を預け、煎茶を飲みながらテレビのチャンネルを切り替えている。
俺はすかさず、「ヘイ、ジョニー!」と返し、アームレスリング的握手を交わした。そんなわけはなく、俺の親父はもちろん整形手術など受けてはいない。ただのそこそこなハンサムだ。そのハンサムが俺に遺伝することはなかったので、親父の顔を見るたびにちょっとがっかりして、うっちゃりしたくなったり、うっかり楽しみにしてるプリンを食べたくなったり、ホントに食べちゃったりするのが物心ついた頃からの悩み。とまあ、そういう切実な悩みは置いといて……。何日か会えなかった親父と、少し話でもしてみようか。
親父の話を聞くと、俺達は先日、似通った体験をしていたことがわかった。親父は、新人の部下(女性である)の体に図らずも触れてしまい、下顎に張り手のようなビンタを食らって気を失ったらしい。
つまり、親子で似たようなことをして張り倒され、同じく気を失った、ということになる。奇妙なこともあるもんだな、と思った。
‘The curious case of Shizuma and Keisei?’
No.
‘The curious case of Halleluiah and Hallelujah’
What I am saying...?
Can you understand...?
Are you gay...?
...uh huh.
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