五限の後もC組を見に行ったが、さしたる変化はなく、六限が終わり、放課後になった。
悠の調査により、七緒の中学時代の同級生に話を聞くことになった。
彼女は初め、話をするのを躊躇っていたが、何度も頼み込んでなんとか説得した。
生徒のいなくなった教室で、互いに他人と知人の中間のような距離間を保ち、言葉を交わした。
「中学時代の七緒さんはどんな感じだった?」
先生から話は聞いているが、情報は多いに越したことはないだろう。
「えっと……活発で、いつも元気というか、ムードメーカーでみんなのまとめ役、みたいな……」
俯き加減で呟くように話す。人のことを影で言うのは気が引ける、さらにはそれがどこかへ漏れてしまって自身の立場が危うくなる、そういった事を気にしているのだろうか。学校という場所では無理もない。
「今の七緒さんとはぜんぜん違うね」
「それは……」
口ごもる。なにか後ろ暗いことでもあるのか。先程のことか?
「そんなに固くならなくていいよ。このことは誰にも言わないから」
と言っても、簡単には信じてくれないか。今、知り合ったばかりだしな。
「はい……」
「じゃあ、こうしよう。もしこの事がバレたら、俺に無理やり話すよう脅されたって言えばいい」
「え……」
顔を上げてこちらを見る。そんなに意外だったのか。
「そうすれば、まあ、確実とは言えないけど、ほとんどの罪を俺が被ることで収まるんじゃないかな? 丸くとは行かないかもしれないけど」
「で、でもそれじゃ……!」
小鳥のような声が少し甲高くなった。
「大丈夫。俺のことは心配しなくていいから。これでも喧嘩には慣れてるし、色々格闘技もかじってる。前に住んでたとこの中学では、番長で通ってて、高校生や悪い大人まで俺には手出しできなかったくらいだから」
えっへん。ボク、やんちゃ坊主だったのら!
しかし、
「そんなあからさまな嘘でごまかさないでよ……」
彼女は視線を落としていて、
「いや、嘘じゃ……」
「志津馬君は知らないんでしょ……」
「え?」
次に視線を上げたときには、
「いじめられることがどれだけ怖くて苦しくて悲しいか、知らないんでしょ!」
小鳥遊さんの瞳は泣いていた。
彼女は立ち上がり、俺を置いていこうとする。
だから彼女の手を掴み、こう言った。
「知ってるよ」
続けて、
「知ってる。俺はそれが原因で自殺したんだ。未遂だけどね」
すると彼女は振り返り、俺の瞳をじっと見つめてきた。
まるでその時の記憶を、瞳を通して確かめるように。
「だから言ったろ? 嘘じゃないって」
「ううん。あれは嘘。絶対ウソ」
ありえないから、そんな漫画みたいなの、と続ける小鳥遊とは、いつの間にか打ち解けていた。
彼女の話によると、中学時代の七緒は、先述の通りの人物だったらしい。七緒とクラスが同じだった時、小鳥遊はいじめに悩まされていたそうだが、彼女を励まし、いじめから守ってくれたのが七緒だったそうだ。
中学時代の七緒は、いつもそんな感じだったらしい。快活で、悪を許さず、弱きを守るヒーロー、いや、ヒロインか。
昔の彼女を知る人は誰もがこう呼ぶ。正義の味方、と。小鳥遊の話によればだが。
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