面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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SlapStick9

公開日時: 2023年4月21日(金) 06:00
文字数:6,667

「このレイニャンドだか、イフーッ! (猫怒)リートだかはいつになったらチルのさんす――、チルるんだ?」


「アマテラスは今のままでは無限とも言えるエネルギーを持っています。それを打破しない限りチルることはないでしょうね」


 今までとは打って変わって、神妙な面持ちで答える患者衣の少女。


「え? あら? 語尾が……??」


「……アマテラスの主砲発射まで猶予は余りないはずです。となると……」


「え? あら? 語尾が……???」


 デジャビュかしら? と顎に指を当てて可愛らしく志津馬は疑問を浮かべた。


「しおりちんは何者なんだ? 吸血鬼なのか? ストブ――」


 言い終わる前に志津馬の首は胴から跳ね飛んだ。

 ねばつく不快な音と、固い地面に落ちたにしては嫌に柔らかい質量を伴ったそれ。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! あ? ……あれ? これさっきと同じ状況じゃない? ……天丼? 天丼なの? 汁〈つゆ〉でふにゃふにゃにふやけて箸で挟んだらズルッて衣が剥けちゃう、なんか自分で言ってて妙にエロい感じがする天丼なの? さっきのシーンと今のシーンが一セットの箸で、擬人女体化して姉妹丼でエビの天ぷらは俺だったの? ごめんみんな。俺、ゆにこーんをもうずっと我慢してて、頭がどうにかなっちゃってるんだ。みんな一度は経験したことあるんじゃない? 我慢しすぎて頭と体が発狂同然になっちゃったこと。やりすぎもいけないけど、抑制しすぎもいけないよ。思春期の人とかは心と体の変化に対応するのが大変だろうけど、男の子に一つ忠告するね。寸止めは絶対にやめた方がいいよ? 聞いた話だと金色の丸いアレが爆発する可能性があるらしいから。気を付けてね。女の子がいるかどうかはわからないけど……女の子は女性ホルモンが増えるときれいになるらしいけど、女性ホルモンの増加が原因なのかな? 乳がんの危険性が高まるらしいので注意した方がいいかもね。……どうして急に真面目っぽい話になったのかって? 君たちに間違えてほしくないからさ。神の子とその妻が罪を犯して知恵の実を食べたから今のぼくたちは存在しているという話があるけれど、いろんなことを知って、感じられるようになったぼくたちは本当に幸せかな? 神様が食べることを禁じていた果実は、それを破って得た知識は、ぼくたちにとって本当に良いことだったのかな? 蛇に唆されたとしても、それは一瞬の幸せだけを求める刹那的行動みたいじゃないか? 知恵の実はどうして食べてはいけないことになっていたのかな? 何か悪いことが起きるからじゃないのかな? 戦争、犯罪、不条理、この世の悪い事すべて。それだけ? 平和、善行、道理、この世の良いことすべて。そしてその間にあるものすべて。……無から有に変われば、有はいつか必ず無に帰る。神は知っていた。創造物が知恵の実を食べることを。神は知っていた。善悪その他を知った私たちが互いに殺し合うことを。私たちが知識を得ることで、滅亡の道をたどることを。果実を食べることを禁じたのはなぜであろうか。もしかすると、私たちには準備が必要だったのでは……? 神はそれを知っていたから、果実を禁じたのでは……。だとすると、私たちは予定より早く果実を得、地上に堕ちてしまった。人類のたどった道が間違っていたとするなら……、人類はそこから間違っていたのかも。神の想像したものは、創造神ほどではないかもしれないが、ある程度の神性を有した神と言えないか? 各地域に根付く神話や伝説に登場する半神半人のように……。北欧神話に登場する戦乙女もまた神であるように……(諸説あるだろうが)。神の創りしものは神性を有することが多い。神の子とその妻の子供――その末裔が私たち人類であるなら、私たちはみな神の血をひいている、もしくは何らかの神性を帯びている、と言えなくもない。つまり……。私たち人類は「神やそれに類する存在となるはずだったもの」、とも言える。翻って見れば、私たちは本当は天使で、地に堕ちたことで堕天使となり、悪魔となった(もしくはされた)のかもしれない。であれば、この世の混沌・進化の低迷・幼年期を経て未だ母から巣立ちできぬ肉体と精神など……私たちの世界こそが地獄なのではないか? とさえ思えてくる(戦場を地獄だという言葉はよく聞くが、戦場だけでなく、この世界にはありとあらゆる地獄が犇めき合っている)。神の世界――天国が私たちの空想や幻想、夢であり、現実こそが地獄。人こそが悪魔であり、知識は呪文書で、地獄への片道切符。無垢こそが天使であり、天国への門。知識の代償として無垢を失い、悪魔と化して御使いの座から堕ち、片道切符を手に天国から地獄へ。

 それでは、我々の祖が禁忌を犯し、天から地へと堕ちた際の代償とは何だろうか? 無垢という名の翼だろうか? 知識は無垢と対に、悪魔は天使と対に、地獄は天国と。常世から現世という黄泉へと続く罪人列車が存在すれば、それに乗る咎人は乗車賃として何を差し出したのか。三途の川の渡し賃が六文銭であるように、天から地上への通行料も同じく必要であろう。天上人〈てんじょうびと〉であった時の我々の祖と、地上へ堕ちた祖の違いは何か? それが答えである。我々の祖が地上へ堕ちる際に差し出し、後の子孫にまで影響を及ぼしている『咎人の咎』。そしてそこに隠された『神の咎』とは……」



 目をかっと見開き、


「ブル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ル゛ッ!」


 ひどい悪寒がしたような身震い、ならぬ顔振るいをした。


「はー! びっくりしたー! いきなりカルト教団のネット勧誘にあったかと思ったー!」


 生首の志津馬が言う。


 と、


「しおりちんいきなりぱっつんはヴぁ――ッ!?」


 転がった志津馬の頭に槍のようなものが勢いよく刺され……生き別れた母と子が波乱の果てに鉄道駅で出会うシーンのような音楽が流れ始めた。

 槍らしきものはゆっくりと脳髄を擦り裂きながら、頭皮を貫通して地面まで穿つ。

 志津馬の眼球は刺し込まれた方向に眼窩へと埋没するように動き、頭部はやがてぴくりともしなくなった。そこで曲は止む。


「それじゃあそっちの志津馬さん、こっちへ来てくれますか?」


 生首のことなどすでに忘れた、とでも言うように白衣の少女。


「なんだ、しおりちん?」


 魚のように引き寄せられた別の志津馬も生首の自分はどうでもいいようだ。


「このままだと地球は焦熱地獄になり一瞬で生命が死に絶えるでしょう。それどころか地球自体がアマテラスの主砲に耐えられない可能性もあります。そうなれば地球は――」


「レンジに入れたゆで卵みたいになるって? それか十回ぐらいチンした唐揚げとか? しおりちん、冗談にしてもセンスなさすぎだよ。もう少しニヒルに笑えるくらいのやつを――ヴぉぐ!?」


 そう言った志津馬はまたしても胸を貫かれた。


「手っ取り早くいきますね」


 白衣の少女がフィンガースナップをすると、十数人いた志津馬の近くに黒い槍が現れ、独りでに志津馬たちを横殴りに叩き飛ばし、一か所に集めると、


「「「「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょty……!」」」


 取り囲んで一斉に襲い掛かった。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 といった悲鳴が響き渡り、


「ぁあああああああああああああああああああくせになるぅうううううううううううううううううううううううううううううううんんんんんんぅーッ!!!」


 嬌声も上がった。



 白衣の少女は一人だけ残っていた志津馬にそそそと近づいて行き、彼の胸に撫でるように手を触れた。


「仕方ないとはいえ、私、初めてなので、その……恥ずかしいですけど……」


 潤んだ瞳で見上げるしおり。それを見て志津馬は納得した。


「大丈夫しおりちん。俺も初めてだ。こういうアリアみたいな展開はいろんな作品で腐るほど見てきたけど、いざ自分が体験するとなると新鮮だな」


 しおりの潤んだ瞳を、今までに見せたことがないような真摯なそれで見つめ返す。


「それじゃ、目を閉じてもらえますか? は、恥ずかしいので……」


「ああ。俺は目を閉じてる。そしていつまでも君を待つ。君が勇気を出してくれるまでずっと。永遠にだ」


 そういって志津馬は目を閉じた。


「じゃ、じゃあ、いきますね……?」


「ああ」


 志津馬は瞑目したまましおりの気配がそっと近づいてくるのを感じ、


「……えい」


 胸部に激しすぎるほどの違和感を覚えた。


「……え゛ ?」


「うーん、なかなか……。それ……!」


 不審に思って目を開けると、


「しおりちん……? い、いきなりそんな高度なプレ――」


「ほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?_?!」


 しおりは志津馬の胸に――心臓に――悍ましい何かを突き立てていた。

 いや、それはすでに心臓など突き破り、背中の皮すら貫通していた。

 同時に大量の血が突出部分から噴き出し、刺突部分からも溢れ出す。


「し、し、しおり、ちん……ちゅ、ちゅ、Kissingじゃなかったの……? それとも……しおりちんは……アクナイのスレンダーな方のウサギちゃんのオマージュなの……?」


「そうですね……ぶちゅー、というか、ずぶー、の方がしっくりきますかね?」


「い、いや……いやいや……。それはしおりちん…………」


 最後の力を絞って息を吸い、



「――どっちもえっちくないぶすー! いや――――ぶっすー!! じゃまいか!! Jesus Christ Superstar!!!」


 いつの間にか立っていた、もしくは他の個体と入れ替わっていたのか、叫んだあとに頽れ、


「……しおりちん……もういちど……もういちどだけでいいんだ…………。ずぶー……って……ずぶー、を……もういちd……」


 腕と頭をだらりと垂らして力尽きた。




 すると、志津馬の体は輝き始め、串刺しの山となっていた志津馬がそれに吸い寄せられ…………。




 視界を覆う白光が辺り一帯に拡散し、それが収束した後に現れたものは…………。





「私はΣ〈シグマ〉。六にして十八の世界を体現し管理する存在であり、システム・Σ〈シグマ〉の中核を担い、端末として小宇宙および大宇宙を存続、保護することが役目の管理機構です」


 機械的に言った後、棒読みで「……ベター……」と言った。


 髪が文字通り怒髪天となっており、瞳がダークブラウンから尖晶石(レッドスピネル)と菫青石(アイオライト)のような二色となった以外は先と変わらぬ志津馬であった。しかしなぜだろう、彼が醸し出す雰囲気はまるで違うように感じられる。それは髪型や目色、無表情だけが理由ではないはず…………。いや――――もう、いいだろう。ここまで来て自らのことを他人事のように言うのは馬鹿らしい。

 ――断言しよう。


 私が、私こそが、――――シグマだ。


「これは姉上。私のような不肖の弟を呼び出すとは、よほどのことが起こったようですね。まあ、先ほどから見ていてわかってはいますが……。また大姉上ですか……」


「その口ぶりではあなたが私たちに迷惑をかけていないように思えますね。不肖と言うからには、そう思ってはいないのでしょう? シグマ……いえ、――スサノオ」


 ……スサノオ。

 システム・スサノオと呼ばれるそれは、アマテラスと同時期に開発され、そう名付けられた。アマテラスの開発者は■■■■■。スサノオの開発者も同様である。


『連結ファイルの欠損を確認しました。データの復旧を要求します。…………。…………。…………。要求……承認――拒否されました。』


「その呼び名はあまり好きではありません、小姉上」


 からかいに親しみを込めて否定を示す。白衣の少女を姉と呼ぶその言葉に虚偽はない。


 ツクヨミ。

 彼女は、アマテラスとスサノオの間に作られた三つ巴のシステムの一。システム・ツクヨミ。ツクヨミシステムの中核を成す、月を司る存在である。


「今は小話をしている時間はないのです。……手伝っていただけますね?」

 予想通りの反応である。姉上ならこう言うと知っていた。姉上もそれを承知の上で私の児戯をおざなりにしなかったのだ。そしてそれすらお互いに承知の上。

 

「それはもちろん。姉上の頼みとあれば」

 我々には同じ血が流れている。それも濃い血だ。お互いの行動のほとんどが読み取れる。読み取れてしまう。


「ふふ、それでこそです」

 それなのに小姉上は心の底から笑う。笑うのだ。笑っているように見える。楽しんでいるように見える。嬉しがっているように……。

 それは彼女だけの特権。私にはおそらく模倣することもできず、学習することもできないであろう特別。……私はそれを、羨ましく思うのと同時に、恐ろしく、そして愛しく思う。



「――あのー? そこのお二人さん? 姉弟でイチャイチャするのはいいけど、あれどうするんだ?」


 そう訊いたのは合体する前の志津馬であった。なぜ彼はそこにいるのだろうか。なぜ彼は合体を免れたのか……。


「お前は俺なんだろう? だったら自分のことに気付く奴がいても不思議じゃないさ。それよりあのレイニャンドだよ。鬼のような形相でかっ飛んで来てるぞ?」


 志津馬の言う方向からは、クレスの猛攻から抜け出たアマテラスが音速を超える速さでこちらに飛んで来ていた。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア! オマエハ! オマエハ! オマエハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 鬼というより般若の形相である。

 志津馬たちの上空に到着したアマテラスは、


「オマエハ! オマエハ! ス、ス、ス……!」


「もう少し……もう少し……! あとちょっとで出そう……! ここまで来てるんだろあれ!?」


 喉元をなぞるように手を動かしながら、物を吐く動作で茶々を入れた。


「ス、ス、スサ……」


「奥さんもう少しです……! ひっひーふー! はい、息んで! 息んで! ひっひー――ヴァ゛!」


 黒槍に顎下から頭部を貫かれた。瞳が半分見えなくなった。


「須佐…………! ――――コロス!!!」



 槍を頭上から強引に引き抜いて、


「部長が…………――空気を読んだ!?」


 驚叫。


 アマテラスの肩甲辺りから触手のようなものが生え伸び、変形し筒形となって肩に搭載された。

 おそらく火砲であろう。

 彼女が殺すと宣言したのなら武器に違いなく、それがかのような形状であれば、まず間違いなく……。


「Incoming! cannon's printer!!(来るぞ! キャノンのプリンターが!!)」


 雲は晴れ、今まで見えなかったものが空に映りだす。

 それは星。筒状の人工物。人が作りし星である。

 そこから一筋の光が投射され、アマテラスの背中の受信部にエネルギーとして供給される。

 太陽エネルギーである。太陽光発電を制御する人工衛星が貯蔵した超大容量の燃料。


 アマテラスの肩の砲口から光が漏れ始め、それはすぐに臨界に達し準備が整った。


 ――A.Sキャノン。


 光線の疾走。極大の熱線が放たれた。


「エプソン! エプソンだ! こっちはエプソンで対抗するんだ!!」


「その競争図は古くないですか?」


「じゃあ何でもいい! あれに対抗できるブランドをもってくるんだ、早く!」


「ブラザーでいいです?」


「だめだ! ブラザーだとゲイっぽいからヒューレットパ――――ッ……!?」


「じゃあシスターにしましょう。それなら内々で秘密にできますし」


 手の平から生えた黒槍を志津馬の口内に突き込み、後頭部を貫通させながら言った。

 すると雲間の月から細く青白い光線が放たれ、それは志津馬の後頭部を貫通した黒槍に当たって槍を輝かせた。

 青白く光る槍は自動で志津馬の後頭部を突き抜け肩に移動し、その大きさを質量に見合わぬ大筒に変形させた。そして肩と融合し、一体となる。

 大筒の中で光が増し、それは瞬く間に溢れる寸前になり止まった。


 ――瞬間。


 迫りくる熱線を見ていた志津馬がすっとこちらを向き、神妙な面持ちで、


「皆様、ご覧ください。こちらが新進気鋭のブランド……シスター――シスターのプリンターでございます」


 その声はデパートや百貨店のアナウンスの女性、もしくはプレゼンをするOLが細い縁なし眼鏡を片手の指の腹でくい、と上げながら出しているとしか思えないものであった。


 OLの声は鳴りを潜め、


「新人類は――!」




「幻想じゃねぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!」



 ――――――S.キャノン。



 かくして青の極光は放たれ、赤の極光と相剋する。

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