極光は相殺した。
太陽光と月光はどちらに被害を及ぼすことなく露と消えた。
その衝突は大地を揺るがしたが、なぜだろう、それはまだ止むことがない。
まるで天変地異の前触れ。
破滅の予兆。
意思持つ星の胎動。
星が意思を持つならそれは瞋恚か。
ほどなくして、揺れは収まった。
◆
光が相殺した後、志津馬は完全に無防備であった。そしてそれを見逃すアマテラスではなかった。
「ぐぎぎぎぎぎぎ……! 行動不能攻撃とか……ありきたりで面白くないボス戦にしやがって……!」
超高温の炎による檻。それは焦熱地獄に落とされた罪人の刑罰のようだ。出ること能わず、延々とその身を燃やし焦がされ焼死以上の苦痛を与え続けられる。それが地獄でなくて何であろうか。
「原子の~♪ 塵まで~♪ 熱~量に変えてしまえ~♪」
「種田さんの声がする!? どこ!? どこにいるんですか種田さん!? あれ? でも井口さんの声にも聞こえてきた?! どこ? どこですかいんなんとかさん?!?」
全身を火炎に包まれながら、志津馬は右手だけを突き出し、サムズアップした。
「ああああああイルビーバックはこのシーンじゃないっあああああああああああああああこのシーンじゃないんああああああああああ! あつ、あつあつあつああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアァァァァァ……!」
声とともに、彼は燃え尽きて灰になった。
ここで志津馬の運命は終わり。ここが終着点だ。
同時にこの物語も終わりを迎える。
このくだらない話を、やっと書かなくて済むようになる。
このほとんど意味のない自慰行為がようやく已む。
つかれた。
疲れた。
とにかく疲れた。
ただただ疲れたのだ。
だからもう、いいだろう?
自分は十分頑張ったのだから、もう休んでもいいだろう?
ああ、これで私は死ぬことができる。
周りの生命に危害を加える人生を、罪を、止めることができる。
それはなんて……。
……それなのに。
私はそれでも生き続けるのか。
何と愚かな。何と憐れな。
だがそれもよかろう。
周りを傷つけてでも生きるのが生命〈いのち〉だと言うのなら、他人を殺してでも利己を得るのが人だと言うのなら…………私はその命を喰らってでも生きることを甘受しよう。
たとえ死ぬまで、「仕方がない」や「理不尽」などを許容できず、それを諦めることができずに自分の喉を締め続けることになったとしても、窒息死するまで己が信条との葛藤に苦悩し続けよう。
それが終わるまで、私は生き続ける。
それが終われば、私は私を赦すことができる…………かもしれない。
――ゆえに私は生きる。
……なんだ。当たり前のことではないか。
◆
「……え?」
と、志津馬は言った。
「え……? 撃ち切りマロン砲、撃ったのに終わりじゃないの……? ……え?」
「アアアアア……! アア! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
突如、アマテラスは天に向かって絶叫し、その体は苦痛に悶えるようにぐにゃりとうねった。
次いで、行き成り全身反り返ると、背中から触手のようなものが伸びて先端から開き、複数の傘のようになったそれは繋がり、アマテラスを円状に包み込んだ。
「…………。ahー……っと? これはどうなるかなんとなく予想がつくぞ……うん。でも推敲してるときにラーの翼神竜を思い出したのは久曽神が読者の思考を読めてない証拠だよねうんうんち」
顎に拳を当て、うんうんと頷きながら楽観的に喋る。
球体のアマテラスはドクドクと胎動するように脈打ったのち……。
傘が花開いて尻尾のようになり、四足歩行の獣の形態となった。
「あー……。それでネコミミだったのか……。というか狐耳だったのね。……まあ、アマテラスとくればそのネタだけどなんで今更? てかネコ好きと狐を掛けるのはどうな――」
と言い止して、
「――お狐様や!!!」
嬉々として声を大きくすると、巨大な狐のようになったアマテラスに瞬時に近づき、
「モフモフや! モフモフのしっぽとケモ耳や! ……ああ~! 癒される~!」
「……あれ? なんでしっぽが七つしかないの? これじゃなると海峡のうずまきの七尾じゃない? あれカブトムシじゃなかったっけ? ま、いっか」
しっぽや耳を弄〈まさぐ〉ったり頬ずりしたりし始めた。
「…………」
それを数十秒繰り返していると、
「こんなモフモフのケモは今まで見たことがな――」
アマテラスが口を大きく開け、
「ちょwai――アハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!」
そこから放たれた超高熱の熱線で焼き払われた。
灰燼に帰した志津馬は復活せず、代わりに巨大な……。
「わー! これはヒュドラですかねー!」
巨大な八首八尾の竜、のような生物が現れた。
「違います。ヒュドラには首一つ負けてるけど、せめて日ノ本のヒュドラと呼んでください。ちなみに撃つと近距離の敵が蜂の巣になって吹っ飛ぶ三銃身の怪物ではありません。私は遠距離の敵もブレスで殲滅可能です」
「でもヘラクレスの物語に出てくるヒュドラには勝てませんよねー。知名度的にも。再生力的にも。人気的にも?」
「いや、私にできてハイドラガン――ファウダ――こすぎじ――ヒュドラにできないこともあります。なんと! 私はクシナダヒメとその姉ちゃんズ七人を喚び出すことができる! 美人八姉妹のハーレムを持っているのだ! フハハハ! 何せいずれも神の娘だからな、大抵の男のストライクポイントはズキュンする女子〈おなご〉揃えだぞ? フハハハハ!」
「あ~! いけないんです~! そんなこと考えてるならくっしーに言い付けますよ~?」
「ハッハッハッハッ! それはちょっと販促じゃないかな? お姉ちゃん……?」
竜の頭の一つがツクヨミにずいと近寄ってきた。
「言霊、間違ってますよ? それじゃあ、大規模同人誌即売会のシスコンネタのグッズみたいになっちゃいます」
「俺は(男)神を信じちゃいないが、女神(俺の嫁)は信じてる。そして男でも女でもない神はかわいい系かきれい系なら信じてる」
「最低ですね」
竜はハリウッド映画のシリアスシーンの表情で、
「……What's goin'on?」
と小さく鳴いた。
やおら頭を擡げ、元の位置に戻す。
そして地上で警戒しているアマテラスを見据え、
「……あとでデ・ニーロとパチーノ二人とも連れてくるから言わないでお姉ちゃん……」
満面の笑みでウフ顔ダブルピースするツクヨミを尻目に、勢いよく青白い大炎を吐いた。
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