面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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ArcHive2

公開日時: 2022年8月27日(土) 00:00
文字数:2,238

 注:ここは面白くないので、自力で空でも飛んでいてください。




 五月病を発症しそうな陽気を過ごして。



「ふむ。まだ時間があるな」


 部長は袖をずらして呟いた。


 俺は生返事をし、頭上に伸びる高速道のさらに先、赤と青のグラデーションを振り仰ぐ。場所はカフワの前の四ツ辻であり、店を出てから十分も経ってはいない。


「どこか行きたいところはあるか?」


 さっと向き直って訊いてきた。


 そうだなあー……あっ、ぼく、ゆうえんち行きたい! ね~ね~、ゆうえんちゆうえんちぃー。おーねーがーいー! ……ああ、マジで遊園地行きたいな、女子と。……部長? いや、部長は女子じゃないから。地球外生命体だから。俺、こんな人間見たことないしね。地球外生命体なら俺はETをデート相手に選ぶよ。ETマジ心の友。


「そうですね……」

 行きたいところ。うーん、家って言いたいけど、そう言うと家まで付いて来そうだしな。食べるところはもう行ったし。……ゲーセン? それもどうよ。…………。ないな。ない。この人とゲーセンとか。どうなるかはわからないけど、どうにかなってしまうことはわかるし。そうなると……。


「図書館に行こう」


 考えあぐねる様子を見かねてか、案を提示された。


「何か用があるんですか?」

 そんなガリ勉タイプのチョイスしなくても……。遊ぶとこなら他にあるだろうに。いや、部活だから遊んじゃだめなのか。いやいや、喫茶店でくっちゃべっといて何をいまさら。だめも何もないじゃないか。……よし、じゃあ行こう。ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターに。いやマジでさ。


 修学旅行どこだったかなあ? と割と真剣に頭を捻っていたら、なんと(別の)ETがしゃべった。


「君が借りている本は明日が返却期日だから、早いに越したことはないかと思ってね」


 おお、そういやそうだったわ。確かに一度返しておいたほうがい…………。うーんと、どういうことかな、それは。


 不意に、そしてさりげなく、空恐ろしいサジェスチョンが与えられた。


「なんでそれを……」


 俺の中で、部長のストーカー疑惑が浮上中。ゴゴゴゴゴゴゴゴ、というジョジョ擬音付きで。


 容疑者は指で揉み上げを後ろにやりながら目を逸らし、


「いや、鞄開けたままトイレ行くからつい……」

 プリン。

「ついじゃねえよ!」


 もう怒った。すでに怒った。もう部長だからって遠慮しない。知ったこっちゃないよそんなの。ていうか…………。『――――――――――――――――――――』←あなたの考えたセリフを入れてみてね。(この章のどこかに私の考えたセリフを置いておきますので、それと内容が同じであれば、続編を買いやがってくださればよろしいのではなきにしもあらずねんねこりんグマイベルdella benedizione〈デラ・ベネディチオネ〉。これは命令でございます)


「ということでだ。その中のめくるめくカンノウ世界とはおさらばしてもらおう」


 急に態度を変え、俺の鞄をジョジョ立ちで指差す。


 かんのう? 感応……完納……間脳…………エロス!? なに言ってんだこの人!? 


「そ、そんな言い方したら、俺がいかがわしい小説持ってるみたいじゃないですか……」

 持ってない。持ってないからね? 少なくとも鞄の中にはない。それだけは断言できる。


 すると視線を逸らしてもじもじし、


「だって……」


「だって……?」


 猛烈に嫌な予感がする。だってってなんだ、だってって……。そこでだってはおかしくないか……? だってそう言うってことは……。


「私は与えて震え、彼女は受け止めて震えた、とか書いてたし……」(もじもじ)。


 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 


 あまりの衝撃に顔を覆って天を仰いだ。そして思考した。


 いかん! いかんいかんあかんあかんあかんぜよ! ……これでは俺の趣味がエロ小説になってしまう! ……釈明を。釈明をせねば! 今すぐに! 


「あ、あれは、海外小説だとよくあることで……その……」

 そうなんです。だから別にエロってわけじゃ……。エロと純愛は別物だと思うし……。だからいやらしいものじゃないっていうか……。


 ……って。


「読んでるやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


 絶叫した。一頻り。人目も憚らず。高架橋の下で、反響する自分の声が、自動車の走行音にかき消されるのを感じながら。


 がっつり目、通してるやんこの人! しかもよりにもよってそんなところだけピンポイントで! ……ああ、最悪だ。親にエロ雑誌見つかった時より気まずいよこれ……。うう、ぐすっ。


「すまない。だから私は、少しでもお詫びになればと思って……」


 本当に、すまないと思ってる……と、否バウアーみたいに言う。それを聞いて開き直った。


 ははあん。読んじゃったから、せめてもの罪滅ぼしに返却期限を教えてあげようって? そりゃありがたい。じゃあ行こうか、入部届の取り消しをお願いしに。


「……はぁ。わかりましたよ。行きましょうか。返しに」


 とまでは言わない。言わないけど、そんなお詫びするくらいなら最初から読むな。


 うんざりした気持ちを言葉に込め、図書館に足を向ける。と、


「志津馬君」


 出し抜けに呼ばれた。


 振り返り、


「なんです」

 まだ何かあるの? もうこりごりだよ……? プライバシーの侵害は。


 冷めた口調でそう訊くと、


「もう一冊の方も読みたいんだが……」


 すってんころりんすってんころりん。


「……反省してないだろあんた」

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