面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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FAll of You2

公開日時: 2022年11月27日(日) 00:00
文字数:1,603

 七緒が校外に出ると言うので、鞄を持って来ていなかった俺は教室に戻り、帰る準備をして生徒玄関に向かった。彼女がそこで落ち合いましょうと言ったので、そうした次第だ。


 生徒玄関に着くと、彼女はすでに外履きに履き替えて待っていた。やや急いでスニーカーに履き替え、謝りながら近付く。


「それほど待っていませんから」


 と答え、


「じゃあ、行きましょうか」、と誘〈いざな〉った。


 やや斜め後ろに控えて歩き始め、運動部が練習に勤しんでいるのを尻目に校門までの道を通過する。

 そういえば、先日、ここを通った時、部長はいやに大人しかった。おそらくあれは、目立って周りの者に七緒水月だとばれるのを避けるためだったのだろう。


 校門で立ち止まり、すぐに昨日と同じ道を行き始めた。これまで一言も言葉はなく、今も何かを話す気配はない。


 あの時は、校門で部長がふざけ始め、中国人もどきの口調で話し始めたり、突然罵倒し始めたりで対応に疲れた。しかも、中国人もどきの口調を追及したら、全力で走って逃げていく始末。あまりの驚きに唖然としてしまったが、あれはあれで得難い体験だったかもしれない。


 と回想していると、路地裏に続く細い道に入り、自分もそれに続いた。


 ここでは嬉しそうに笑いながら走る部長を追いかけた。町中を全力で走ったことなど最近を除けば小学生の時以来で、年甲斐もなくわくわくしてしまったことは記憶に新しい。


 路地裏を抜け、一時歩道を歩いていると、カフワに辿り着いた。彼女は立ち止まり、店内をガラス越しに見ている。


 店内は幾らか客が入っているようで、メイド服姿のウェイトレスが忙しなく行ったり来たりしていた。今は七鳥の姿は見当たらない。


 ここのコーヒーは美味しかった。インスタントや、自宅でドリップするのでは満足できなくなるほど、薫りが深かった(素人意見だが)。

 マスターは元レディースのような人で目つきが怖かったが、実際は気前のいい良店主だった(愛想以外は)。コーヒーとケーキを奢ってくれ、さらにはヴァイオリンの生演奏まで聴かせてくれた。人は見かけで判断できないという言葉は、カフワのマスターのような人のためにあるのかもしれない。見かけで判断できないという言葉は、マスターだけに言えたことではないが。

 七鳥ことりは俗にいう天然の女子生徒だった。部長が好き勝手にしゃべり、彼女の天然発言が炸裂すると、自前の処理能力では収拾がつけられない事態となった。もし談話部が存在し、彼女が実際に入部していれば、部活動は混沌を極めたかもしれない。


 部長がカフワで部長のままでいられたのは、マスターと七鳥、他の従業員が七緒水月を知らなかったからだ。要するに、マスターと七鳥、他の従業員が部長の側面だけを知っていてたから、自然体でわだかまりなく接することができた、ということだ。


 とっくり思考に耽っていると、横にいた七緒がいつの間にかいなくなっていた。首を回らして歩道の先を見ると、すでに十メートルほど先まで歩いて行ってしまっている。

 小走りで追いかけていき、斜め後ろの定位置まで来ると、歩調を合わせ始めた。


 カフワを出た後も、一悶着があった。部長が図書館に行こうと言い出し、なぜか俺の借りている本の返却期限を知っていて、それを心配するという、変梃な様相だ。俺が中座している間に鞄の中を漁ったようだが、さて、どれほどの腹積もりがあって返却期限のことを言い出したのか。おおよそ気まぐれで鞄の中を物色し、偶然、花崎が通っている図書館の本を見つけ、都合が良いと判断したのではなかろうか。まさか、俺が図書館でどの本を借りたかまでは把握していなかっただろう。部長に目をつけられたのは水曜日であるし、図書館で本を借りたのは一週間前だ。あるとすれば、花崎を観察しに来ていた部長が、偶然、本を借りている瞬間を目にし、記憶していた、ということだが……どうだろう、それはあまりにも暗合がいきすぎている気がする。

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