面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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SlapStick5

公開日時: 2023年2月3日(金) 20:00
文字数:2,082

 巨大な物体の衝突直後に、桃色の丸太い光線が激突し、よくわからない大爆発が起こった。


「――フクセンカイシュウの時間なの!!!」


 ひらひらのレースやフリルが目一杯施された、ピンクと白を基調とした可愛らしい洋服を装う少女――日本人なら小学生中学年くらいであろうか、大きな円い目に他の造作も円形が多く、口は小さく、鼻のラインが薄い。一言で言ってしまえば少女なのだが、服と同じ桃色の髪は肩を越えて少し長く、結いも編みもせず下ろしていることが仄かにギャップを感じさせる、しかしながらそれは子供の背伸びのようでもあり、見方によっては微笑ましく、いじらしさに拍車をかけ、蕾の可憐さにアクセントを添えているようにも取れる。


 そんな一般常識を度外視した少女が空中で何もなしに浮遊し、身の丈に合わぬ長大なメイスか杖らしきものをクレスに向けて突き出し宣言していた。

 そしてその傍らには足のようなものをはみ出させながら何かを咀嚼する巨大な人食い鮫が……。


「いけー! ぷりてゅあー!! がんばれー!」


 どこからか小さな応援が響いた。

 声の主は大して特徴のない、脇役のような少女であった。

 名を志熊三日月と言う。彼女は魔法少女が大好きで、毎週その手のアニメを、早起きして幾つかの前番組から見ているほどである。魔法少女のアニメを見ているときは、感極まって先のように大きな声で応援してしまうの――


「これまでのラノベで地上戦闘中にホオジロザメが突然出現してボスを喰っちまうシーンがあったろうか! いやない! 知らんけど!!!」


 志津馬が少女の応援を打〈ぶ〉ち壊した。


「そのありえない髪の色って変身した時だけ変わるんだろ!? もとは普通の黒髪!? 茶髪!? それとも金髪でハーフだったりする!?」


「え、江戸時代の先祖に外人がいて、その人がブロンドだったらしいです! でも今回はゲスト的立ち位置なので、元の髪色はまだ決まってないみたいです! 読者の反応を見てから決めるのだそうです!」


 空飛ぶ少女は地上の志津馬に向かって声を大にして言った。


「君は礼儀ができているいい子だな! 探偵の俺が察するに日本人だろう!? 今度の日曜、一緒にどこかへ行かないか!? ランドでもシーでもスタジオでも君の好きなところで構わない!」


 志津馬の性質を一つ予想するならば、彼はおそらく可愛いものに目がない。理由はユニコーンのぬいぐるみで自慰行為ができるからである。


「え、えっと! ごめんなさい! 今度の日曜は友達と遊ぶ約束をしていて……だからご一緒できません!」


 甲斐甲斐しく空中でお辞儀をする。クレスはどうやら根が真面目なようで、二人の会話に割って入らず、終わるのを大人しく待っているようだ。


「では友達と君、全員で家〈うち〉に遊びに来るがよかろう! 空飛ぶヘンテコロリータよ!」


 志津馬はああ言ったが、ロリータとはあのような少女のことを言うわけではないらしい。なので言うならば、狭義(オタク用語)としてのロリであろう。となると空飛ぶ……。


「……。それってお兄さんのお家に遊びに行くってことですか!!? 今知り合ったばかりなのに!?」


「今さっきそう言ったじゃないか、――この愛くるしい浮遊〈ふわふわ〉ロリめ♪!」


 驚する少女に対し、愛玩動物を愛でるような顔つきで返答した。


「どどどどうしようべるーが君!? これって……これって…………――お家デートのお誘いなのかな!!? かな!??」


 慌てふためく少女は傍らの大きなサメに向かって問う。

 すると人食い鮫は咀嚼を止めてペッ七緒を吐き出した。

 七緒が地面に到達する前にクレスの連続打撃が再開された。


「……ah-、そこは繰り返さないでくれるかな? トラウマが蘇……え? べるーが? べるーがって確か……」


 人差し指を立ててお願いし、急に頭を捻り出した。


「べるーが君! すごいよ! あのお兄さん、べるーが君のこと知ってるみたい! 今まで誰もわからなかったのにね! ね!?」


「フィリア、これは予定調和と言ってね、何かが起こる、もしくは何かを起こすための調整のようなものなんだ。しかもこのカテゴリの予定調和は質が低くてね、食べてもおいしくないんだよ……」


「キャ……キャ……キャ……」


「うんうん! がんばってお兄さん! もうちょっと!」


「僕はもうちょっとフィリアに頑張ってほしいんだよ……」


「……ここまで出かかってるんだ……」


 そう言いながら目が飛び出るジェスチャーをする。


「キャバ……キャバ……」


「違うよお兄さん! それは教育上よくない言葉な気がするよ!?」


「キャ……陰キャ……陽キャ……バリピ……ウェイ……ゲッラウトヒァ……ランナウェイ……ゲッラウトフォーミー……ドントタッチミー……キャラ崩壊……陽キャ爆発……キャ爆……キャバク…………」


「だめだよお兄さん! それ以上奥に進んじゃダメぇ!! いろんなところに引っかかって、こすれちゃうからぁ!!!」


「ブーーーッ!!!」


 鮫が鼻血を噴出した。


「――――――!!!」


 それを聞いた瞬間、志津馬はハッとして顔を上げ、手をポンッと叩き、


「――――フォアグラですねッ!!!」


「――――キャビアだよッッッ!!!」


 血塗れの人食い鮫が大口を開けた。

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