七緒さんはしばらく目を見開いていたが、突然、何かに気付いたように後ろを向いた。それから、うつむき加減で手を持って行き、顔を拭う。
それをひとしきり繰り返し、おもむろに、
「そ、そうですね……。部長、ですしね」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。そして拭うのを止め、近くを自動車が通リ過ぎるまで沈黙し、やにわに動きを見せたかと思うと――、
「では問題です! ここはどこでしょう!」
バッと向き直ってそんなことを抜かした。
「……え?」
俺は間の抜けた返事しかできない。ど、どこって言われても……。この辺普段歩かないからなあ……。
「では言い換えよう。次の目的地は、どこだ?」
仁王立ちし、腕を組んでふんぞり返る。
顎に指を当てて考え始めると、彼女はすっと近付いてきて、
「はーい! 目を閉じてくださいねー! 薄目を開けるのも禁止ですよー!」
と言いながら背後に回り、目隠しをしてきた。
「え、ちょっ……」
「目は閉じたかな? 閉じるまで目隠しは止めないぞ?」
慌てる俺をよそに、目隠しを続行する。
大人しく目を閉じることにした。
「と、閉じましたよ」
と言うとさっと手が離された感じがして、温かさが逃げていった。
「それじゃあ改めまして問題です! 次の目的地はどこでしょう!」
少し離れた背後から、元気な声が聞こえる。
「え、えーっと……。どこって言われても……」
お家にごしょうたーい! とか? いやいきなりそれはないか。
「早く答えないと不正解になるぞ? その場合は即刻ここで解散だ」
「そ、そんな横暴な……! なにかヒントとかないんですか!? ヒントとか!?」
相変わらずの無茶振りと言うか。テンポが戻って来たというか。まったくこの人は。
「そうですねー。うーん……。そうだ! 私達が最後に行き着く場所! とかどうですか!?」
ちょっとわかりやす過ぎましたかね……? なんて続ける七緒さん。だが俺は煩悩と戦う羽目になっていた。
……ま、ま、まさか。あの場所なのか……? 特に親しい男女二人が夜に行き着く場所……。Oh My god damn HOTEL!!!???
「まだなのか? あと十秒で時間切れだが、それでもいいのか?」
いやいやいやいや! ホテェル! なわけがない! そう、初期の頃は慎ましく、あそこしかないはずだ!
「三! 二! 一! z――」
「――七緒さんの家ですか!?」
ぎりぎりのところでそう叫んだ。
すると、暗闇の中で背後の足音が徐々に大きくなり、それが突如止んで、気配が最大になった時――
「――正解だにゃ!!!」
――俺の体は、異物に貫かれた。
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