面白くないラノベの見本

必ず一次選考落ちする作品
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第10章 私の人生は終わるが、この物語は終わらる(!?)

INCOM(E)ing

公開日時: 2023年10月27日(金) 06:00
文字数:6,308

「ア゛~……ア゛~……ア゛っ……ア゛~ア゛ッ……ア゛~……対日本製SNSアプリ市場寡占対策SNSアプリ、昨日筏船・マーヴェリックアルファパワー・原初の神々……etc……etc…………。ジャバニーズは杭茂野に……九位者にされ……あ゛っ、う゛っ、え゛っ、う゛っ、お゛っ、う゛っ、ノォ゛~……」


 部長が家から帰った後、どっと疲れが出た俺は、ふらつき、壁に打ち当たりながらなんとか自室にたどり着いた。


 そうしてベッドに向かって、


「……Finally……」


 ぶっ倒れながら気絶した。





         ◆





 目が覚めたら、志津馬になっている。



 わからないということは、恐怖そのものだ。

 人は見かけで判断できない。目を合わせただけで怒りを露わにする人もいれば、自分が何もしていないと思っていても反感を抱く人もいる。好感を持たせておいて騙す人もいれば、いきなり罵倒してくる人、暴力を振るう人さえいる。善人、良識人、そうでない人、奇人変人、悪人。その区別でさえ千差万別。社会には違いが溢れていて、それを感じることは気持ちの良いことばかりではない。我慢ならない不快を伴うこともある。

 あまりに違いが多すぎて、その全てを覗き見ようとすれば、精神が摩耗してしまう。それが怖い。傷つくのが怖い。だからわからないものが恐い。だから遠ざけ、知らないふりをして、自分を守る。……それは、人にとって防衛本能も同じ、仕方のないことだ。

 それでも人は、人を求める。その性質は、呪いのようであり、救いのようでもある。人の中に自己を見るからなのか、違いから自分自身を感じたいからなのか、理由は数あれ、その性質を止めることはできない。どうあっても、どのような形であれ、人は誰かとつながろうとする。つながってしまう。それは人の不思議だ。どういうわけか、人は人を理解しようとする。傷つくかもしれない、どうでもいい……そう思いながらも、知りたい、わかろう、と思う心は尽きることがない。止め処なく溢れ、留まるところを知らない。

 そして、一度できたつながりは、簡単に断てない。良くも悪くも。良きにつけ悪しきにつけ。湯に浸かる充足を得られることもあれば、目隠しで温かい沼にはまることもある。どちらにせよ、そこから抜け出すことは容易ではないのだ。


 だから、俺は抜け出せないのだろう。布団から。

 ……え? いや布団だけど。……違う? いやいや、間違ってないでしょ。微温湯に浸かってるようなこの感覚こそ、底なし沼みたいなもんでしょ。いつまでも浸っていたくて、時には頭の天辺まで吸い込まれて、はまってしまう。それこそが、一番人間の堕落性を表してるじゃないか。誰かに頼りたくて、構って欲しくて、知らないうちに寄り掛かっている、人の本性をね。突き詰めて言えば、人間は生まれてから死ぬまで堕落してるってことだよ。ほとんど寝てなかったアインシュタインみたいな人以外はね(彼もわからないけど)。……でもね。それでも、人は抜け出す力を持ってる。どれだけ底なしの沼にはまっていようと、這い上がる力を持ってる。それが人間のすごいところだと、俺は思う。つまり……――俺は何を言いたいの? わかんにゃい。自分でもわけわかんなくなってきたとこだよ。ただ俺が一つ思うことは……いい加減起きるべきだな、ってこと。だってもう十時だから。いくら土曜日だからって、これは寝過ぎだよ。堕落もほどほどにしないと、地獄に落とされちゃうかもしれない。

 そう考えて自分に活を入れ、鈍い動きで半身を起こした。

 瞑目を解き、ぼーっとする頭で部屋を見ていき、最後に左、吹き抜け窓を通して外を見る。すると、


「あ」


 Peek-a-boo.どろぼうさんと目が合った。思わず二度見した。

 どろぼうさんは屋根に四つん這いならぬ三つん這いで、開けた窓に手をかけたまま目を丸くしている。

 目を細めて言ってあげた。


「あじゃねえよ」

 なにその見つかっちゃったみたいな顔。かくれんぼしてる幼稚園児か。いくら自由な幼稚園児でも、人んちの屋根上って部屋に隠れようなんて思ってもやらないから。もう少し常識を考えてくれないかな。スパンキングされたいの? ママに。

 小洒落た白のワンピースを着ている盗人は、臀部をこちらへ向け、いそいそと後ろ向きに這って部屋に入ってきたので俺は目をつむって顔をそらした。……ああもう。


「これはだな。男子の部屋に入る時は、こうするのが礼儀、と教科書に書いてあったから……」


 脱いでいた靴を屋根の上で揃えながら、言い訳を始めるどろぼうさん。意外と細かい。


「何の教科書だ何の」

 と訊くと、ポニテ眼鏡の侵入者は向き直り、


「無駄に大きい箱に入ってた。ディスクが」


「それギャルゲーだろ!?」

 紛うことなきギャルゲームですやん! 

 平然と恐ろしき事実を公開したメガネに対し、思わず叫んでしまう。

 されどメガネは動じない。


「ギャルゲー?」


 なにそれおいしいの? と首を傾げ、ポニテをぽにぽにする。眼鏡を外し、ケースにしまいながら。

 ぽにぽにっていうのはポニーテールをフリフリすること。さらに余談だけど、ポニテの人がぽにぽにしながら走ることは「ぽにぽにだっしゅ」って言う(某コミックと間違えた人は読んでるか見てる)。グラウンドを走っているポニテ女子を窓から眺めて、(あれはいいぽにぽにだなあ……)って感嘆したり、女子のマラソンを他の男子と鑑賞しながら、「あのぽにぽにいいよな?」と意見交換したりする際に使ってほしい。

 あら? 眼鏡なしのぽにぽに女神ちゃまは初めましてかしら? どうも初めましてぽに、女神ちゃま。眼鏡がないとすこぶるスポーティな感じぽにね。弓道の袴姿がはまりそうな凛々しさぽに。――ぽにぽに! 

 それはともかく、ギャルゲーの話はなしにしよう。俺には祈ることしかできないんだから。部長の買った大きな葛籠に、丸くてキラキラしたシールが貼られていませんように、と。

 ということで話題を転換することにする。


「そんなことより、家宅侵入罪ですよ?」

 家宅侵入罪。つまり住居侵入罪。廃墟でさえ、正当な理由なしに立ち入ればその罪に科せられるらしいが。


「いや、お母様には許可をもらった。というか、そうして、と言われた」


「そうですか。それならまあ。――って良くねえよ」

 それならオッケーだにゃ☆ ってなるわけねえだろ。

 そう言うと、


「ねえか」


 と部長。


「ええ」

 と俺。


「すまねえ……」


 銭形の親分みたく言った。謝る気ないわーこいつ。ホント、いろいろとただではすまねえな。

 てか母さんも許可すんなよ。たとえうちの屋根が、他所様に比べて平らだとしても。よしんば刺激が欲しくて、面白いかも……! って思ったとしても。息子が部活にも行かず、午前中ゴロゴロゴロゴロしてても、だよ。昨日ちょっとおしゃべりしたからってオープンになりすぎでしょ。俺の部屋は新装開店《リニューアルオープン》したファミレスじゃないのよ? 

 とノルアドレナリンが大量分泌されているのをノルノル感じていると、


「ノルー!」


 ポケモンみたいに叫んだ。ノルットが。しかしすぐに冷静さを取り戻し、


「じゃなかった。えっと、そう、身包み剥いででも叩き起こして、と梯子を手渡されたんだ」


 自身の奇行を一顧だにせず、さらっと怖いことを言う。いやそのセリフおかしいから。身包み剥がされたら俺素っ裸になっちゃうじゃん。普通そこは布団剥いででも、だろ。言ってること鬼婆じゃねえか。

 五十歳でやまんば、百歳でバーバ・ヤーガだろ? で、そのあとランダになるか、ヘカテー(BBA)になるんだ。すげえな、我が母ながら。女は弱し、されど母は強しってやつか。そんな強さいらんて……。

 俺はため息を漏らしてから言った。


「ノルー!」


 部長と同じように両手を上げて。しかしすぐに平静を取り戻し、

「で、わざわざ家にまで来て何の用ですか? それも休日に」

 で、わざわざ家にまで来て仁王立ちですか? それも休日に。ここは長坂橋じゃないんだけど。曹操軍が迫ってて、劉備が絶体絶命なわけじゃないんだけど。そのポーズ好きなのは十分わかったけどさ、ワンピースで脚開くのはやめてくんないかな? いやマジでさ。

 そんな気持ちを込めて訊くと、


「いや、特に用はないけど来てみた」


 いや、特に他意はないけどイラッときてみた。今ならポーズを取りつつ、目だけ笑ってない笑顔を作れそう。イラッ☆ 流星にまたがった美少女が急降下してきてー、ぼくは花火になっちゃうのらー!!! 

 そんな、自棄っぱちの感情を言葉に込めようか。

「気まぐれで来たと」

 俺をひつまぶしに使う気なら、他を当たってほしい。マムシとか、宇治丸とか、江戸前辺りを。なんなら電柱にぶち当たってもいいよ? 

 花火も電柱もなんなく躱し、部長はそうなの、とでも言うように頷いた。


「うんそうなの」


 そうか、流星にまたがった美少女は部長だったのか。どうりで俺だけが花火になったわけだ。しかしあれだ。美少女は美少女でも、頭にフランスパンを括りつけた美少女という、それはもう美少女じゃなくて変人じゃね? と思えるヘンテコァテリーナだったわけだ。それを考えると、我が身の不運さにある種の感動を覚えてしまうのだが、泣いてもいいだろうか。


「昨日はどうも寝付けなくてな。三十分しか寝ていない。起きてからも気が急いて仕方ないというか、情緒不安定な感じで、躁鬱病にでもかかったのかと思ったよ。でも違うと言われてな。で、ここへ来た」


 で? で、ってなんだ。なにそので。でじゃないだろ。での意味がわからないから。違うって言われたらなんでうちに来ることになるの? バカなの? バカね? もおうバカ~ん。……はぁ。


「はぁ、元気ですね……」


 こっちは昨日・一昨日と散々振り回されたせいで、十四ラウンドにきついのくらったロッキーだってのに。


「ああ、色々と漲って仕方がない」


 そんなマッチョみたいなこと言うなよ。試合前のロッキーじゃないんだから。俺にまでやる気が移っちゃうじゃないか。


『……もし、十七時まで部長のおふざけに耐えられたなら、自分がただの高校生ではないことが証明できる』

 てな具合に。

「じゃどっか行きます? 俺が準備するまで待っててもらわないとですけど」

 超高校生級に、俺はなる! そんな意気込みで告げると、


「いいのか?」


 なんて訊いてきた。ここまで来ておいて何を今さら。


「押し掛けておいてよく言いますよ。しかも屋根を伝って」

 呆れ気味にそう言うと、


「それもそうか。まあ、なっちゃんには許可もらったから、押し掛けじゃないが」


 聞いたことのない単語が飛び出した。……な、なっちゃん? なっちゃんてまさか……。


「バヤリース!?!」

 違った。メーカーさえ合ってなかった。でもさ、関係ない話なんだけど、昔の人で、場合を『ばやい』って言う人、たまにいない?? いるよね? ね? それを噂してる女子学生が「やばくなーい?」って嗤ってるのを聞いて、(このばやいやばいのはばやいをやばいやばい言ってるあなたたちのばやいよ)って思うの。でもそれだけじゃなくて当人たちの前で気づいたら口にしちゃってたわ、この前。すごく引かれたけど、よく見たらリーダー格の女子が意外と可愛くて、その子のスカートの裾と太腿のことしか考えられなくなってたわね。……あら? 何の話だったかしら? バヤリース? 違うわね。……。そう――セントリーの話だったわ。私の大事なダイヤを保管する話だったわね。じゃあその話に戻りましょうか、セバスティアン。


「な、菜摘……?」


「うん」


 なにそのオレンジジュースみたいに瑞々しい名前。

「いや、なっちゃんは年齢的にも息子的にも無理があ――」

 コンコン。

 おや、誰か来たようだ。


 ノルー……。





         ◆





 テーブルの前で正座している部長を他所に、俺は布団を畳んでいる。

 ふと、昨日帰ってから考えたことが頭に浮かんだので、なんとなく訊いてみた。

「今更なんですけど、昨日のあれって、なんかデートみたいですよね」

 掛け布団を畳みながら言う。


 え?


 部長はそう思ってないだろうが、俺たちを端から見た人はどう思っただろう。マスター・七鳥・花崎・悠など。いや、悠は正直に言っていたか。冗談だったが。


「まあこれ、家に帰ってから気付いたんですけどね」

 畳んだ布団を、押入れの敷布団の上へ載せながら言う。引き戸なので、斜めに差しこむように入れなければならない。(あれ? ベッドなのに布団を押し入れに片すのはおかしくない? いつもは放ったらかしじゃなかったっけ? 人前だから体裁を気にしてんの? 部長は宇宙人なのに? ……。……あ、わかった。ここ、作者の設定ミスだわ。ははは。へっぼー。そんなんだから同業者に『ガバガバの緩ま○設定』とか、『暗に熟女好きの自己主張が激しい作者』とか言われんだよ。……ロリコンのくせに。俺はロリコンじゃないぜ? 俺は大体なんでもイケる派設定だからね。忌々しいから口に出して言ってやろう)

「……FUCK'n Lolita complex author!」


 デ、デエト……?


 部長に引っ張り回されていたせいで、そんなことを考える余裕はなかった。しかし能く能く考えてみると、そういう関係に見られることをしていたのではないか。

「部長がそんなつもりなかったから、俺も気付かなかったのかもしれませんね」

 未だ離れることのできない二枚目の掛け布団を畳み、部長の方を見る。そうすると――


 りんごがあった。


「デ、デ、デ……」


 違った。りんごみたいな部長の顔だった。

 りんごの部長は、目がグルグルメガネみたいになって回り始め、体まで円を描くように動き始めたかと思うと白目になり、


「はぅ……」


 ぶっ倒れた。側頭部が床に激突し鈍い音が響く。


 倒れた部長を一時見つめる。それから、

「……部長」

 と声を掛けるが返事はなく、またかと呆れを感じながら注意した。

「はぁ。そういう、質の悪いおふざけはどうかと思いますよ」

 されど部長はぴくりともしない。

 そこで俺は近づき、投げ出された腕を足でつついてみた。つんつん、と。

 しかし動かない。身動ぎ一つしない。

 それじゃあと屈み込み、横向きになっている部長を仰向けにしようとしたのだが、思いの外重たく、少し力を込めて肩を押すと。


 バタッ、と、気味の悪い音が響き、人形のように手足が放り出された。


 一瞬で胃が縮んだ気がした。

 え。

 え……。

 え……? 

 えっ……!? 

 えええっ!?

 その時ようやく、部長が気を失っていることを理解した。

「ちょ、ちょっと! どうしたんですか部長! 部長!」

「母さん!? ちょっと、ちょっと来て母さん!」



 部長はこの一時間後に目を覚まし、ケロッとしていた。




















 この後、談話同好会が作られ、俺も会員として活動していくことになるのだが、その話は一先ず置いておこう。機会があれば、語ることもあるかもしれない。

































































 部長のほしかったもの。それは――――。












































 これは……僕の走馬灯だ。


 忘れたくない記憶だ。


 忘れたくない、想いだ。



 かけがえのない……感情〈こころ〉だ。




 ……。


 …………。


 ………………。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ………………。


 …………。


 ……。





 初夏のような暑さの中、白いワンピースをはためかせながら、その子は言った。



「わたし、志津馬君に逢えてよかった!」



 満面の笑みで。




 僕は、その時のために生きていた。


 僕は、それだけのために頑張っていた。


 僕は、この女の子に逢うためだけに努力していた。







 ――ああ、そうだ。


 ぼくは、それだけで……。



 ……。


 …………。


 ………………。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――













































 ここまで読んでくれた人に最高の感謝を――――。


































 ここまで読み飛ばしてくれた人にこの上ないあ…………


































           ――――Fucking love you! 

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