いやあ、あのラスボスには何度やって勝てなかったねー。
俺、ゲームはあまり上手くないからさ、もう片方のラスボスにさえ勝てなくてね。それが理由の一つかな。あのゲームを時々思い出すのは。もちろん内容が面白いのも一つなんだけどね。
当時、パソコンやスマホがなくて、攻略サイトとか動画とか見ることができなくてね。攻略本も買うお金がなかったから、ゲームは自力でクリアするのが基本だったんだよ。友達に聞いたり、話し合ったりもしたけどね。(ちなみに自力は仏教用語なんだって)
あのラスボスは倒せないままハードが壊れて捨ててしまったけど、今なら…………。今なら攻略動画の真似をすれば勝てるかもしれない。
どうかな……。視力はあの頃の二十分の一くらいになってしまったし、育ち盛りの動体視力も……いや、並の動体視力さえも乱視になって失いすぎてしまった。
チートを使えば誰だって勝てるけど……。でも、それで勝ってもあまり面白くないし意味がないよね。本当の達成感は味わえないし、エンディングやスタッフロールを見たとしても、それは多分別物だ。
簡単に手に入るものほど詰まらなく――退屈――そしてそんなものはない。
でも私はお金が欲しい。「苦労せず手に入れた金は泡銭と一緒で、すぐになくなってしまう。苦労していないから」と周りは言うけれど、簡単にお金が手に入って一切危険がないのなら、ほとんどの人が手を伸ばしてしまうように私もそうする。要するに十億円くらい当てたい。
「ところでみんな、メガネの女神って知ってるかな? 知ってたら――」
「我は神www。いつの時代のRPGwww。…………。――って二重人格じゃん!!!?」
両頬に両手を当てて驚いた。
「……え? ちょっと待って……あれ……もしかして……」
片手を口に添えてどこか上品に、
「…………ネコミミじゃね?」
ネコミミであってる? 犬耳じゃない? ところで今、思ったんだけど、なんでネコミミは漢字でも違和感ないのに犬耳はカタカナだとちょっと違和感あるの? ネコミミ。イヌミミ。あれ、そうでもないか……。
「――ってライン丸わかりじゃねえか!??」
ラインの黄金。(注:サッカー漫画)
「ふう。すっきりしたー……。さ、クソ野郎の神頼みは置いといて……と、あれ? ちょっ……あれやばくない? セイヤ人同士のバトルみたいじゃない?」
肘をついてゴロ寝したまま、鼻を穿っている志津馬。その視線の先、数十メートル向こうには……。
「ヌゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
巨躯と火の化身が戦っていた。
いや、巨躯が化身を滅多打ちにしていた。
両拳の応酬。豪腕が、人には視認できない速度で連続で繰り出されていた。
それが化身の体を直撃する。幾度も幾度も。
どちらかを指差し、
「あっちが覚醒前のブロッコリーで、あっちが海王拳何倍にもしすぎた斉天大聖。な? 地の文(モノローグ)なくてもわかるだろ?」
次に片方を指差してからあなたに向かって言った。大半のあなたは「わかる」と言い、多数のあなたは「もじりが寒いんだよボケ!」と言った。
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