ストーリーはアリアナ・グランデの曲から始まる。
時間は停止し、全てが止まった世界から。
動くのは、君とソレが見ているこの「世界」だけだ。
中世の城かと見紛う、とある豪邸の書斎。
剥製や宝石などの調度品が数多く据えられた部屋で、全身スパンデックスのような姿の男は拳銃を突き付けられていた。
屈強な三人の武装者に、眉間、胸部、腹部を狙われている。
富豪の前に立ちはだかる彼らが所持しているのは、所謂マグナムと呼ばれる、拳銃の中でも大口径の物。人を撃てば肉を捻じり裂き、ほとんどの場合、貫通する威力を持った銃である。前述した部位を一箇所でも撃たれれば、致命傷は免れない。
三人の部下の後ろに立つ富豪は、絶対的有利を確信し、不敵な笑みを浮かべていた。それもそのはず、部下に急所を狙われている男は丸腰。銃はおろか、刃物の一つも持っていない。
しかしただ一つ解せないのは、両手を上げた男の感情である。銃口を向けられ、一言で殺される状況にありながら、彼の感情は読み取れない。恐怖に怯え震えるでもなく、命乞いをするでもなく、怒りに打ち震えているわけでもない。
無感情。たとえ顔が見えなくとも、富豪はそのようなものを雰囲気から感じ取っていた。
(……この男はおかしい。どこか常軌を逸している)
富豪の顔に一筋の汗が流れる。その不快感からか、言葉は自然と発せられていた。
――殺れ。
直後に銃声が響き渡り、時間は少しだけスローモーションで進み始める。
一二三、四……五六七、八九……十十一十二。
弾丸は間違いなく急所を捉え、撃たれた男は衝撃と痛みで体を布のように揺らし、音が止んだ後に背中からこちらに向かって倒れた。
硝煙の噎せ返るような臭い。目の前で落雷があったような耳鳴り。そして鉄混じりの生臭さ。
身動ぎ一つしない死体を一時見つめ、部下の一人に生死を確認させ、全てが終わったところでようやく富豪は安堵した。
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
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