全部が詰まってた。
当時の不安や期待も。
窓辺から差し込む、眩しい街の色も。
「本当に、過去に…?」
呆気に取られながら、私は猫を見ていた。
もし、時間を飛び越えられるなら——
そう思いながら、電話の番号を押した。
この場所、——この景色。
過去を蒸し返そうってわけじゃないんだ。
後悔しているわけでも、あの頃に戻りたいわけでも。
…いや、後悔してないっていうと、それは嘘になるかもしれない。
本当はわかってるんだ。
時間は巻き戻せないって。
戻りたくても、“戻れない”って。
ずっと言い聞かせてた。
踏ん切りがつかない自分に、強く言い聞かせてた。
だからわかってた。
頭の奥では、ずっと心残りだった。
やり直せるなら、やり直したいんだってこと。
…追いかけられるなら、ずっと追いかけていたいんだってことは。
貼り紙は破ったはずだった。
オリンピックのポスターも。
表彰状や、大会の日にちが記載されたカレンダーも。
いつの日からか、飛び方がわからなくなっていた。
そんな自分が嫌になって、シューズやユニフォームを捨てた。
不安に押し潰されるくらいなら、いっそ何もかも綺麗にしてしまおうと思ってた。
飛ぶだけが全てじゃないって思った。
あの頃の自分は、——いつも。
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