【完結:怨念シリーズ第7弾】潤一郎~怨念のサークル~

退会したユーザー ?
退会したユーザー

決着

公開日時: 2021年10月2日(土) 16:44
文字数:5,292

朝鮮トンネルを後にした一行は、移動中の車内で過去の思い出について話し合っていた。


「いよいよ最終の時がきたね。朝鮮トンネルを建設された際に事故で犠牲になられた方々が流れ着いた場所でもある丸山ダムで、死んでいることすら理解が出来ず未だなお彷徨い続ける御霊達に心からお祈りを捧げよう。」


夜明がハンドルを握りながら語ると、助手席に座る饗庭は「そうですね。肉体は伊勢湾に流れ太平洋へ漂流をしてしまったとしても、魂はまだこの地で”自分はまだこの地で仕事をしているんだ。”という思いで長年ずっと助けを求めてこの世を彷徨っていることでしょう。」と語ると、夜明は饗庭にあることを語り始めた。


「星弥君がまだ高校1年生だった時のことを覚えているわ。楠木さんの霊能力者見習いとして同伴する形で一緒に現れたときはまだまだあどけなさが残る少年だったのを今でも鮮烈に覚えている。”俺は最強だから絶対に屈したりしない!”ってよく言っていたのを今でも忘れられない。」と夜明は饗庭に語りだすと、饗庭は苦笑いをしながら「やめてくださいよ。僕の中での封印したい思い出ですから。」と話すと、後ろの座席に座っていた野澤が笑いだしながら「そういえば、星弥君の名セリフってそれ以外にもあったよね。”俺は霊能力マスターになるんだ!そのために滝行でも修道院での修業でもドンッとかかってこおい!俺は絶対に負けたりしない、強い男だ!”といってね、その場にいた人は皆笑いをこらえるのが必死だったよ。あのときの饗庭君を思うとね、社会人になって結婚も経験して、人として饗庭君は成長したように見えるよ。」と懐かしみながら話すと、続いて楠木も語りだした。


「星弥君がわたしの働く霊能力事務所に来た時のことは覚えているわ。とても衝撃的だった。ドアをノックもしないでバンッと入ってくるといきなり、”饗庭大光を知っているな。父さんの知り合いだと聞いてここにやってきた。俺は息子の星弥だ。饗庭家伝統の警察官にならなければいけないしきたりをこの俺が変えて見せる。史上最強を誇るこの俺が、この世への未練たらたらな霊達に成仏しろとって説得してやる。俺は霊能力者になりに来た。父さんは楠木先生なら信頼が出来ると言っていた。だからわざわざやってきた。俺を弟子にしてくれ。」


楠木の話し出す内容に、野澤と夜明は苦笑いが止まらなくなっていた。


兄のまさかの横暴ぶりともいえる言動を知った侑斗は腹を抱えて大爆笑をした。


「まさか。兄ちゃん、そんな発言をしていたなんて!初耳だ!面白過ぎる!」


一方饗庭は、自分の恥ずかしい過去を語られたことにより、顔は真っ赤になりその場にいることに耐え難くなったのが思わずこう言った。


「嗚呼穴があったら入りたい・・・。恥ずかしすぎて、過去の暴言ともいえる発言を申し訳ありません。今更ながらどうか許してください。」


饗庭が顔を隠しながら話すと、その様子を楠木が見て笑いが止まらなかった。


「あのあと、大光ひろみつ君からも連絡があってね。正義感は誰よりも強く、侑斗君の面倒をしっかりと見れる良いお兄ちゃんだとは聞いて居たからね。そのときに大光ひろみつ君は、息子たちは全員警察官にさせるつもりだと言っていてね。霊能力者にさせることには大反対だった。大光ひろみつ君も、警察官ながら強い霊能力を誇っていた。大光ひろみつ君には強すぎるがゆえに、その場でたった今お亡くなりになった方の御霊と話すこともいともたやすく喋ることが出来るレベルだった。だから事故後だったり事件後だったり、大光ひろみつ君だけは操作方法が他の警察官と違っていた。死んだことに理解を示せず魂だけが浮いている状態の被害者の御霊を呼び出すと自らの肉体を使い交信を行うことで犯人の逮捕に繋げることに幾度か成功した。少なくとも霊を呼び出し話し合うなんてイタコ的なことが出来る人だったというのは非常に印象的だった。」


楠木がそう話すと、野澤が振り返るように語った。


大光ひろみつ君は確かに霊能力者としては有望だった。だが我が身を犠牲にしてまで行う除霊方法は自らの寿命を短くさせるのも同然の行いだった。僕は何度も、大光ひろみつ君には家族の事を思い、交信するのは良いことだが、我が身を使わない方法でやれることを模索するべきだとは言い続けてきた。だが大光ひろみつ君の意見は変わらなかった。取り憑かれることにより、霊が俺の頭で映し出されるモニターを通して教えてくれる。これは俺にしか出来ないことだ。急にやり方を変えろと言われても出来ない。彼はそう言って旧染澤邸の心中事件に携わると、地下の隠された部屋に行き、潤一郎の悪に憑かれてしまい、最終的に自死に追いやられてしまった。悔やんでも悔やみきれない。親友としてもっときつく叱るべきだったとか、残された星弥君や侑斗君、そしてレベッカさんの事を考えたら気の毒で気の毒でね。教会には今も先代の神父が執り行った星弥君、侑斗君、賢汰君の洗礼の儀式を行っている様子の写真が今もなお残っている。それを見ると本当に幸せな家族そのもので、大光君は愛妻家でまた子煩悩だった。左手薬指の結婚指輪をどんな時でも外したりは決してしなかった。レベッカさん一筋で、家族のために身を粉にしてでも必死になって稼ぐ、そんな男だった。」


父親の話題になったところで、野澤が饗庭に話しかける。


大光ひろみつ君も星弥君や侑斗君のことをきっとどこかで見守っていると思うよ。恥ずかしがり屋だから、決して表には出てこない。それだけだと思う。」


野澤の話す内容に饗庭は「そうですね。父さんはきっとどこかで僕たちの活動を叱咤激励をしながら見ているんだと思います。」と静かに語った。


話し合っているうちに車は旅足橋を渡り、丸山ダムへとやってきた。


「さあ、到着をしたよ。ダムで早速御祓いを開始しましょう。」


夜明がそう語ると、車から降り、丸山ダムのダム湖が一望できるスポットへと足を運んだ。夜明がそっとダム湖を覗くとそこには、夥しい数の無数の白い手が空へ空へと伸ばしている光景だった。


その様子を見た夜明は、「ダム湖にはダム工事関係者でこの地でお亡くなりになられた方、そして朝鮮トンネルの事故でお亡くなりになられた方たちなど、たくさんの報われない形で命を落とした未成仏霊が集まりだしている。天国へ昇天できるための道筋を提供してあげよう。」と語ると、一行はダムの前へと集まり供養のための祈りの言葉と御経が唱えあげられた。


その様子はダム湖に限らず首吊り自殺を図った木々などにも見られ、必死になって一行を見て叫んでいる表情が無数にもちらほらと見えていた霊の集まりは、読み上げる言葉に理解を示し、次第に淡い黄色い光となってポンポンと上へ上へと昇っていく。


この地で彷徨い続ける霊達がやっと消えたのは、3時間が経過したころだった。


そのころには日が暮れて、時計の針はもうすぐ19時をまわろうとしていた。


「やっと終わりましたね。」


侑斗がそう語ると、「皆さんのおかげでこの地で彷徨い続ける御霊達に天国へ行けるための道筋を案内できたと思います。本当に何から何までありがとうございました。僕もまだまだ修行を積まなくてはいけません。」と謙遜しながら語ると、饗庭は侑斗に語りだした。


「まだ仕事は残っているだろ?」


饗庭の言葉に侑斗は思わず「兄ちゃん、何を言っているんだ。この地で報われない形で命を落とした御霊の供養は行った。仕事って何だよ。」と聞き出すと「米満の遺体はどうするんだよ、そのままダム湖に沈んではい終了ですか?違うだろ。通報してご遺体をご遺族の元に帰さなければいけないだろ。」と語ると侑斗は「あっ。」となって「ねえねえ兄ちゃん、俺まさか逮捕されたりなんてしないよね?」と気になって聞くと、饗庭は「事情聴取は受けなければいけないだろう。全ての現場を見た侑斗がそこはしっかりと説明責任を果たさなければいけない。」と語り、一行は再び朝鮮トンネルへと戻ることにした。


朝鮮トンネルへと向かう道中の、旅足橋を渡ろうとしていた時だった。

対向する丸山ダムへと向かっていく車に思わず目が留まった。


夜明がハンドルを握りながら「今時珍しい古いトラックだね。」と語ると、後部座席に座っていた野澤がある点に気が付いた。


「今先程通ったトラックだが積んでいるのは、人の亡骸じゃなかったのか?」


助手席に座る楠木が思わず振り返ると、荷台に積んであった無数の白い塊から、明らかに人の腕が夜明の乗る車へと伸ばそうとしていた。


楠木はそれを見ると、たちまち窓から顔をのぞかせると御経をすぐに読み上げた。


するとその人の腕と思われる白くて長い腕は何かのリアクションを示してきた。


楠木はそれを見て「何か訴えている。」と話し出すと、夜明は「供養がまだ足りなかったのか?Uターンが出来る場所まで行ってまた戻ろうか?」と楠木に話し出すと、楠木はあることに気が付いた。


「トラックが停止した。わたしたちの車を見て、あの無数の白い塊は、この地で命を落とした工事関係者の亡骸・・・!わたしたちの御経を聞いて、”ありがとう、ありがとう”って、気付いてくれるようにみんな一斉に手を振っている。」


楠木がそう語ると、窓から大きく身を出して手を振ると、続けて野澤も窓を開けて手を振り、そして饗庭と侑斗もその様子を車の天窓を開けて眺めた。


「侑斗君。大活躍だったね。」


野澤が侑斗の肩をポンポンと叩くと、侑斗は「そんなことはないです。」と照れながら話すと、野澤は続けて話した。


「日本全国、今回の朝鮮トンネルや丸山ダムのような悲しい歴史を抱えるところはまだまだある。侑斗君は優しすぎるがゆえにその弱点を霊に憑かれてしまうことになり苦労をすることになるだろう。侑斗君を見ていたら大光ひろみつ君を思い出させるよ。親子だし、遺伝的に似てしまうのはしょうがないことだ。大光ひろみつ君にも強い霊能力と同時に透視能力を持っていた。僕として今の侑斗君にアドバイスが出来ることは、哀れみの感情を持ち、霊と接するのは良いが、その霊に対してあまりにも憐みの感情を抱きすぎないことだ。時には自分の意見を持ち、強く主張をすることも必要になってくる。そうなったときに、御経を唱えることはできても自分の意思が弱ければ弱いほど、悪意のある霊は強いエネルギーにひかれ命までも狙ってくるだろう。同じことは星弥君にも言える。決してボランティアであれど、常に自分を強く保ちなさい。そして闘わなければいけないときは闘う姿勢をはっきりと示しなさい。大光ひろみつ君はきっと息子達の孫の誕生を心待ちにしているはずだ、悪に負け、息子たちの成人を見届けられず、旅立った大光ひろみつ君は息子達に自分の犯した失敗の二の舞を踏んでもらいたくないといつも見えないように、ほら。前のほうにあるあの木陰にこっそりと隠れているよ。朝鮮トンネルでも、丸山ダムでも霊になった大光ひろみつ君は星弥君と侑斗君の後ろに隠れるような形で我々と共に御霊達が天国へと導くための御経を唱えていたんだよ。」


野澤がそう話すと、2人はハッとなって前を振り返る。


しかし2人が見ても、父の姿はなかった。


「あれ?父さん一体どこ?父さん!父さん!!」

饗庭と侑斗が口を揃えて話し出すと、楠木はそんな2人の様子を見て笑った。


大光ひろみつ君は見られたと分かってまた消えちゃったわ。」


楠木の話す内容に、侑斗は「父さんにせめてでも御礼を言いたかった。」と話すと、野澤は「大光ひろみつ君は父親としてできることをやっただけに過ぎない。御礼なんてきっと求めていないだろう。星弥君や侑斗君が無事なだけでも大光ひろみつ君は嬉しいんだよ。」と話した。2人はその言葉を聞いて、改めて自分たちには力強い味方がいることを実感させられたのだった。


そして夜明の乗る車が再び二股隧道へと入ると、出口付近に車を停車させ、電話を電波が繋がる場所にまで饗庭が行ってから通報した。


饗庭が小走りで車を停車した場所まで戻ってくると、「最寄りの警察が駆けつけてくれる。暫く俺達はここで拘束されることになる。」と語ると、侑斗は「仕方ない。あっところで川へ飛び込んだ熊さんの遺体がどうなっているか心配だ。」と話し、木曽川が流れる川の下を覗き込むと、川岸にはまだ熊の遺体が横たわっていた。


それを見て安心した侑斗が米満と花山の遺体の近くへと駆け寄ろうとした時だった。川岸から白くて長い腕が伸びると侑斗の顔を両手で抑え始めた。


「その表情から察してお前は熊さんじゃないな。潤一郎だな!そうやってまだお前はルシファーの子分としての役割を果たしたいのか。残念ながら俺はお前の目論見に決してハマったりはしない!!ルシファー共々地獄へ堕ちろ!!」


侑斗が力強くし、右手に握り始めた数珠で潤一郎の頬を強くパンチをすると、朝鮮トンネルで発生した事故でお亡くなりになられ昇天したばかりの霊達に取り囲まれると潤一郎は沢山集まりだした霊達に吸い込まれるようにして雄叫びのような悲鳴を上げたと同時に闇夜へと消えていく。


饗庭が侑斗へと駆け寄ると、「大丈夫か?」と気になって聞き出すと、侑斗はいいねのポーズをしながら「大丈夫だ!」といって返事をした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート