【完結:怨念シリーズ第7弾】潤一郎~怨念のサークル~

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浮遊

公開日時: 2021年10月2日(土) 16:16
文字数:6,236

饗庭との電話のやり取りが終わって、30分後に米満の携帯に饗庭からLINE電話がかかってきた。


待ち受け画面に饗庭からのLINE通話であることが分かった米満は、花山と熊に「饗庭から連絡がかかってきました。早速鑑定の結果を伺ってみることにします。」と話すと、花山は「スピーカーを大にした状態にして、話のやり取りを聞こえるようにしてほしい。」とお願いし、米満は「わかりました。」と返事した後に実施した。


「もしもし、米満です。」


米満の応答に饗庭は話しかけた。


「何だか話し方が余所余所しいな。さては俺達の話が聞かれている状況にあるってことだな?」


饗庭に指摘された米満は「はい。すみません。霊能力者としての率直な意見を教えて頂けませんか?」と訊いてみることにした。饗庭は「わかりました。お話をしましょう。」と返事をして解説をし始めた。


「解説に入るまでに質問をしたいことがあります。14号トンネルにいた段階から何かこう背筋にスッと寒気が走ったとかそういったのは感じたりしませんでしたか?」


饗庭の問いに花山は「背筋に寒気?トンネル内にいたから、まあ冷ややかな空気は感じたのは感じた。」と答えると、熊も「そんな悪寒がするほどのってレベルではなかった。トンネル内ならではの空気感だった。」と語り、米満も続けて「悪寒というのは一切しなかった。」と話し出した。


3人の答えを聞いた饗庭は、「なるほどですね。では早速解説に入りましょうか。実は14号トンネルを映し出したあの映像に、事故で殉職されたであろう作業員の男性が複数名見受けられました。まだ死んでしまったことすら理解を示しておらず、作業がまだ続いている、そんな自覚のまま今もなおあの地で彷徨い続けているのでしょう。その霊達が、ヘルメット姿の貴方達を見て新たな作業員がやってきたと思ったのでしょう。しかし挨拶をすることなく素通りをされたことに不審に思い13号トンネルまでついてくると、13号トンネルにいた作業員の霊達も不審に思い、貴方達の後を追った。それがトンネルの入り口に映し出された白い靄です。あれは浮遊霊の集合体です。浮遊霊には色々な種類があります。死んだと分かっていても生前に思い入れがありもう一度訪れたいと思った場所に現れる場合と、そして死んだ自覚のないまま昇天されたため最期の地となった場所を彷徨い続ける場合があります。今回の動画を見る限りでは、最後に説明をした霊達の可能性があります。禍《わざわい》を齎すようなことはないかと思われますが、念のために供養のための御経を唱えます。」


饗庭はそう語ると御経を唱え始めた。


3人は御経を唱えたと同時に手を拝み始めた。


そして御経を唱え終えると、熊が質問をした。


「米満の先輩の熊です。先ほどの説明で、気になったことがある。最後に説明した死んだ自覚のない霊達による最期の地を迎えた場所に今もなお彷徨い続けているという話だが、地縛霊とはまた違うのだろうか?」


熊の質問に饗庭が解説した。


「地縛霊と浮遊霊は根本的に違います。浮遊霊というのはこの世の中に浮遊をする霊と意味するように、決して禍を齎すまでの強い怨みは示しません。しかし地縛霊はまた意味が異なります。地に縛られる霊とあるように、この地に縛りついてまでこの世に強い憎しみを持ち、禍《わざわい》を齎すのは地縛霊のほうです。こういった霊は過去に事故や事件、さらには自殺があった場所などに見受けられます。この作業員の霊達は”自分はまだ仕事をしている”と思いながら、死んだことがまだ分からないままお亡くなりになっています。トンネルが完成して時だけが過ぎていくことを理解していないのでしょう。」


熊の質問に饗庭は丁寧に解説をすると続けて花山が質問をした。


「多治見市内のオカルト雑誌出版社の怪奇調査団の記者を務める花山です。13・14号トンネルでは相次いで事故や飛び込み自殺が多発したために地蔵を祀るなど、開通しても死亡者が後を絶たなかったが、そういった霊達は地縛霊にはならないのか?今回の霊は果たしてそうでないと言えるのか?」


花山の質問に饗庭は逆に質問をした。


「オカルト系のネタを取り扱う出版社にお勤めなら、北海道の常紋トンネルは御存知でしょうか?」


饗庭の質問に花山は「勿論、知っている。」と答えると、饗庭は解説をした。


「常紋トンネルがどうして怖いと言われるのか。同じことです。過去の工事の段階で殉職をされた方々がいた場合、完成時の際に本来ならばトンネルの完成に力を注いでくれた殉職された方々の供養も同時に行うのが通例です。しかし、いい加減に扱われた上に、死んだ後にトンネルが完成したことにすら理解を示せず、そういった御霊が自分たちの存在感を示すために幾度も現れた可能性は十分あり得ます。彼らの哀しみに触れたことで次第に同情が湧いてきたのでしょう、同時にこの世の中に対して嫌気がさして彼らと同じ場所で命絶ったのでしょう。決して死ぬことを誘発したわけではないと思われますので、地縛霊ではないと言い切れます。」


饗庭の話に花山はさらに突っ込んで話をした。


「死ぬことを誘発したわけではない。だとしたらどうして地縛霊ではないと言える根拠はあるのか?」


その質問にも戸惑いの様子を見せることもなく饗庭は淡々と語りだした。


「東京の心霊スポットに三原山があるのは恐らく御存知だと思われますが、1933年(昭和8年)の1月と3月に実践女学校の生徒だった学生が火口へ投身自殺をしたのを同じ同級生が立ち会っていたことが大きく報道され、報道を機に生徒の死を哀れに思った方達による後追い自殺が続きました。同じメカニズムです。知って触れたことによりその方を偲ぶ気持ちが募りに募り、哀れだと考える思いが強くなっていくにつれて同じように死を選ぶのです。自分たちの御霊がこの場にいることを主張したに過ぎず、それは決して死を招くように行動を仕向けたとは言い切れないためです。対する地縛霊は必ず死んだ地へ向かわせるよう意図的に行動をさせます。そして同じような手段で死ぬように仕向けます。そこが決定的な違いです。」


饗庭の答えに「なるほどな。そういうことか。大体理解は出来た。」と語ると、米満が饗庭に話しかけた。


「何から何まで本当にありがとう。花山さんも熊さんも、饗庭と喋りたがってたんだよ。最後の投稿が、2020年12月の犬鳴ダムで終わっていたからね。俺はてっきり前に見せてもらったあの腕を引っ張られた際に生じた痣が気になっていたんだけど、それが理由で投稿をしなくなったのかなって思った。でもそれならば俺に御祓いなんて出来ないよな。どうして最近は行っていない?ボランティアぐらいなら捜査機密でも何でもないわけだし、怒られるような事じゃないからね。」と語ると意外な答えが返ってきた。


「あの痣は段々と薄くなってきた。自殺者達の地縛霊が憑いてきたから、あのような痣が生じたのだと思うが、必死で鏡を見ながら御経を唱えたり、”絶対に屈したりしない”って強い気持ちで抵抗をすることが出来た。すると段々と薄くなった。でもさすがに襲われたことを知られてしまっては、御祓いをする上においても弱点でしかない。一度弱みを抱えてしまうと、悪魔は俺の弱点をとことん突いてくる。だから銀河の時にやっていたことは、これからは侑斗がやってほしいと思っている。俺は臨時の時だけにしたいと考えている。」


饗庭の答えに「侑斗が饗庭家代々に伝わる警察官になればまた違うのか?」と聞くと饗庭は笑いながら「侑斗は警察官にはならないと思う。きっと違う道を行くだろう。ただ霊能力者にはならないことは断言できる。忙しい時期は忙しいし、かたや閑散期に入れば本当に暇で暇でしょうがなくなるから、収入が安定しないんだよ。」と答えた。米満は饗庭に「本当に何から何までありがとう。助かったよ。」とお礼を言い、饗庭は「とんでもない。それから岐阜にいるってことは朝鮮トンネルに行く了承を得たってことだよな。侑斗には連絡したのか?ずっと米満のことを心配していたよ。」と語ると、米満はあっとなって「そういえば、連絡をするのを忘れていた!ごめん!侑斗君に連絡する。分かったことがあるんだ。」と話すと、饗庭は「その様子だとさては、ネタになることを発見したってことだな。」と語ると、米満は「まあ、そんなところだな。分かったことがあるんだ。」と答え、饗庭は「俺の経験から言わせると丸山ダムのほうが危ないように感じた。朝鮮トンネルも分岐点に入ったときに、かつてあの地で多くの命が失われたのだろう。あの地には何かがあると思った。その時に霊視を行った結果、多くの作業員の霊が彷徨っているのが見えた。まあ行って見たらわかることだし、ネタバレするようなことは俺の口からあまり言わないほうがいいよね。では皆様さようなら。御機嫌よう。」と話すと、米満は「忙しいのに長々と話をしてくれてありがとう。」と話し電話を切った。


念願の銀河こと饗庭に話すことが出来た花山は満足していた。


「霊能力者ならではの意見が聞けて大変貴重だったよ。でもあんな面白い性格なんだから少なくとも悪霊には憑かれないだろ。ボランティアなら警官になっても慰霊の旅路を続けても良いとは思うけどなあ。」と語ると、米満は「まあ饗庭なりに、これまで数々の死闘を繰り広げてきたから、饗庭にしかわからない苦悩もあったと思いますよ。こればかりは霊能力もない俺達には理解できない話になってきますけどね。」と語ると、熊は米満に対して「分かりやすく言うならば活動休止状態にあるってことだよな?」と聞き出すと、米満は「まあそれが一番近いと思います。」と答えた。


3人は一仕事を終えた後、夕飯を食べ、さらにはお風呂にも入らせてもらった後、かつて子供部屋だった場所で寝ることにした。


そして夜が明けた。


2022年3月17日 木曜日。


朝食を食べ終え、朝の8時に出発した花山、熊、米満の3人が先ず向かったのは丸山ダムだった。


「まずは丸山ダムから向かうことにしよう。昨日の饗庭君が言っていたように一番やばいと霊能力者が言っているところから調べ、そして朝鮮トンネルへと向かうことにしよう。調査可能な場所からまずは調べ、手応えを感じてから朝鮮トンネルに向かっても良いんじゃないだろうか。3月22日までは滞在が許されているんでしょ?だったら岐阜県を代表するこの丸山ダムも調査のし甲斐があると思うよ。」


ゆったりとした口調で花山が話すと、熊は「実は朝鮮トンネルと同様に、丸山ダムについても調べてみる予定にありました。朝鮮トンネルと同様に過酷な強制労働により多くの朝鮮人労働者が働き犠牲になったとも伝えられていますが、建立された慰霊碑には40人近くの日本人労働者の名前しかありませんでした。1997年11月22日から丸山ダム建立に携わった朝鮮人労働者の御霊を供養するための”丸山ダム犠牲者鎮魂祭(オグィセナムクッ)”が開催されている。そしてその工事に携わった関係者はどうして投身自殺ではなく首吊り自殺を選んだのでしょう。謎が謎を生みますね。」と語りだすと、花山は「どうして投身自殺ではなく首吊り自殺なのかは、いまだに解明されていない謎の一つでもあるな。丸山ダムはかつて殺人事件の被害者の死体遺棄現場としても使われた暗い歴史を持つ。さらには2009年から2017年の12月にかけては18人の投身自殺による自殺者が続いた。新旅足橋のフェンスをよじ登り、200m下の旅足川へ身を投げる。自殺者が相次いだ今はフェンスを高くし、投身自殺がしにくい環境にはなっている。」と語った。


2人の話を後部座席でだらだらと聞いているだけだった米満は、「そうだ!侑斗君に連絡をしなければ!」と思い、LINE通話で侑斗に連絡を取ることにした。


だがコールのみで連絡はつかなかった。


そして一行は丸山ダムに到着をすると、早速丸山ダムを一望できる場所にある慰霊碑にまず追悼の意を込めて両手を合わせてから取材を行うことにした。


熊が「このために定点カメラを3台会社から持ってきましたよ。後の3台は個人的に購入した定点カメラになりますけどね。持ってきた定点カメラ6台を使い、ダムの高さが一望できるこの場所に定点カメラを2か所設置し、そして自殺者が相次いだ新旅足橋にも2か所定点カメラを設置、更に旅足橋のところにも2か所設置して、あとは不審な点がないかどうかを見守ることにしましょう。」と打診すると、花山は「いいね。霊が映る可能性は高い。早速設置の作業にうつろう。」と話し、定点カメラの設置作業に3人は取り掛かった。


その間にも熊はポラロイドカメラで写真撮影を行い、また米満はヴィクトリー出版の公式Instagramのアカウントにログインし、写真撮影を行ったものをアップロードをしていた。同時期に花山は怪奇調査団のオフィシャルYouTubeサイトにアップロードをするための動画撮影を行っていた。


そんなさなかに、米満の携帯に侑斗からLINE電話がかかってきた。


「米満さん。朝早くから何?兄ちゃんから聞いたよ。岐阜にいるんだったら呼んでほしかったよ。3月で御祓いとか除霊とかのバイトなんてないんだもん!楠木先生のお手伝いするにも占い喫茶でひたすら店員をするだけの仕事しかないんだもん!人助けをこれからも続けなさいってお婆ちゃんは言ってくれたけど、これじゃあ人助けってより俺を助けてくれ~という感じだよ。超絶と言ってもいいぐらい店は暇だし、交通費を払ってくれるんだったら今すぐにでも佐賀から向かうよ。」と切り出した。


米満は「侑斗君、ちょっと待っていて。」と話すと、近くにいた熊に話しかけた。


「饗庭の弟で大学2年生の侑斗君が俺達の取材の手伝いをしたいと言っています。彼の交通費は僕が負担します。侑斗君は高校1年生の時に高い霊能力を生かし、霊能力者のところへ長年修業を積んで今では除霊や御祓いなども行うことが出来て、かつ透視も行うことが出来るんです。最強と言ってもいいぐらいの霊能力者の立ち合いの元で取材を行うのは悪くないと思いますので、侑斗君を呼んでもいいですか?」


米満の提案に熊は遠くにいた花山に「花山さん、今の話聞きました?饗庭君の弟が立ち会いたいって言っているそうですよ。」と語りかけると、花山は「霊能力者の弟か?ここまで来てくれるんだったら反対はしない。こちらはウェルカムだよ。」と答え、熊も「米満の依頼で呼ぶのだから、交通費を米満が負担してくれるのなら俺はOKだ。」と答え、米満は渋々電話の向こう側で待ってくれている侑斗に答えた。


「領収書はしっかりと残してきてね。交通費はこちらで負担する。だからお願い。今丸山ダムで一日を通して取材を行う予定だから、新幹線やタクシーの乗り継ぎなどで使えば間に合うだろ。今はちょうど10時前だし、着替えて猛ダッシュで電車に乗れば行けるはずだ。」と語ると、侑斗は「自家用の軽自動車があるから高速の乗り継ぎで向かうことにするよ。高速代とあとガソリン代さえ払ってくれればOKだよ!」と笑いながら語ると、米満は「わかった、負担する。」と落胆した様子で語った。


侑斗は「わーい!毎度ありがとうございます!早速向かいます!」と言って電話を切ると、米満は「どうして俺交通費負担!?」と納得のいかない様子だった。

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