ルイス王子の皮を被ったケダモノが近付いて来た。
私は怯えたフリをしながら、触れそうになる距離になるまで待った。やがてもう少しで肌と肌が触れ合うという刹那、自分からケダモノの胸に飛び込んだ。
私が抵抗すると思っていたのだろう。ケダモノは私の予想外の行動に驚きながらも、反射的に私の体を受け止めるように、自分の腕を私の背中に回した。
「な、なんだ、リタ。君もその気だったんだね?」
ケダモノが自分に都合の良いように解釈する。そんな訳あるか! コイツに触れられるだけで虫酸が走るくらい嫌なんだが、これも作戦のためだ。我慢する。
「ルイス王子...私は...」
目をウルウルさせてケダモノを見上げる。演技とはいえ辛い。ケダモノの喉がゴクンと鳴った。めっちゃキモい。
「あなたなんか死んでもお断りですわ!」
そう叫んで膝をおもいっきり叩き付けた。ケダモノの股間に。
「ぎょぴっ!」
そんな奇声を発してケダモノが崩れ落ちる。泡を吹いて気絶したようだ。
ざまぁ!
本当は触りたくなかったけど、ケダモノの体を探ってこの部屋の鍵を探した。
「あっ! あった! ん!? 鍵束!? まぁいいや。この中のどれかだろう」
部屋を出る前にちょっとだけドアを開けて外を確認する。良し。誰も居ない。私はそっと部屋を出て鍵束の鍵を一本ずつ鍵穴に差す。何本目かで鍵が掛かった。ケダモノの捕獲が完了して一息吐く。
そして改めて自分が今居る場所を確認する。どこかの家の地下室なのは間違いない。だが一体どこなのか分からない。
私は慎重に歩を進め、取り敢えず階段を探すことにした。廊下の所々に仄かな灯りがあって助かった。それがなかったら真っ暗闇だろうから。
しばらく進むとやがて階段が見付かった。足音を忍ばせて階段ゆっくり上がる。階段を登り切った所にドアがあった。ドアノブを回してみる。鍵は掛かってないようだ。
ゆっくりとドアを開ける。人の気配は無い。それも当然で、どうやらここは衣装部屋らしい。それも屋敷で働く使用人のための衣装のようだ。執事服にメイド所狭しと並んでいる。
「これはラッキーかも!」
ここがどこのお屋敷か相変わらず不明だが、メイドの格好に変装すれば簡単に屋敷から抜け出せるかも知れない。少なくとも脱出したのがバレて捕まるようなことは無いだろう。
私は着ている服を大急ぎで脱いでメイド服に着替え、何食わぬ顔で屋敷の中を歩いて行った。その際、目立たぬように伏せ目がちでいることを心掛けた。
そしてある部屋の前を通り掛かった時、私は聞き覚えのある声を耳にした。
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