私は院長の部屋を訪れた。
「院長先生、ちょっとお聞きしたいんですが」
「聖女様、如何なさいました?」
「一人だけみんなに馴染めていない10歳くらいの女の子が居ますよね? あの娘はどうしてなにも喋らないんでしょう? 喋れないって訳じゃないんですよね?」
すると院長は顔を顰めた。
「あの娘は...マリーは実の両親から虐待されていたようなんです...」
「虐待...」
「この孤児院に保護された時には既に心を閉ざしてしまっておりまして...カウンセリングを受けても効果が無く、私達もどうしたらいいのか分からなくて困っているところなんです...」
「そうなんですね...それで虐待していた両親というのは?」
「あの娘を置いて蒸発してしまったようなんです。可哀想にマリーは、誰も居ない家の中で一人震えていたそうです。近所の人が気付かなかったら、そのまま餓死していたかも知れません...」
「虐待していた上に育児放棄ですか...最低ですね...」
私は怒りで手を握り締めていた。
「事情は良く分かりました。私に任せて貰っていいですか?」
「おぉっ! 聖女様が直々に! どうぞよろしくお願い致します!」
辛い目に合った女の子一人救えないでなにが聖女か! 私はマリーの心を絶対に解放してあげようと心に誓った。
◇◇◇
「やぁ、また来たよ」
「......」
「マリーって言うんだね。辛い目に合ったね。痛かったよね。苦しかったよね。でも、もう大丈夫だよ? ここにはマリーを虐める人は誰も居ないから。安心して?」
「......」
全くなんの反応もない。ずっと本に目を落としたままだ。だが読んでる様子は無い。なぜならページを捲っていないから。
その時、マリーの長い髪が本に掛かった。私は髪をかき上げてあげようと手を伸ばした。
ビクッ!
目に見えてマリーが怯えた。私は慌てて手を引っ込める。
『...なさい』
「えっ!?」
その時、マリーの心の声が初めて聞こえた。
『ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい...』
マリーはずっと謝り続けていた。そして...
『生まれて来てゴメンなさい...』
その言葉を聞いた途端、私はマリーの体を抱き締めていた。涙が止まらない。
「マリー! そんな悲しいこと言わないで! この世に生まれて来てダメな人なんて誰も居ないんだから! 私はマリーに会えて嬉しかったよ! 親になんて言われたか知らないけど、私はこう言うよ! マリー! 生まれて来てくれてありがとう!」
最初は強ばっていたマリーの体は、やがて少し力が抜けて私にしがみ付き、
「......」
声を出さずに涙を流していたのだった。
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