白い、部屋だ。
なぜこの空間を『部屋』と思ったのかは解らない。ただ『解る』。理屈などすっ飛ばして、常識など無視して、不思議と断定的に『理解できた』。
真っ――白――――。
継ぎ目も、境目も判別できない。ここが『部屋』と呼ばれるべき場所であるなら蓋然的にあるはずの、壁、床、天井、扉。あるいは窓や家具。ここにはそれらが所狭しと並んでいるようであるのに、それがどこにあるのかが目視できない。
圧――。あえて言うなら、『圧』。それをひしひしと感じる。いま目の前に壁があるのに、手を伸ばせば、次の瞬間には僕の腕の長さだけ遠ざかる。そんな息苦しさで僕を――僕らを、その部屋は包んでいた。
真っ白い、部屋という姿で。
「くそ……なんだよ、これは」
隣から声が聞こえた。しかし、目を向けるも、誰もいない。
誰もいないような白。いや、もはやこれは、虚無。
「おい、とにかく進むぞ」
その声は、僕の手を取った。だから気付く。
この腕は、僕のものだ。生まれてからたった十七年だし、これを僕だと、僕が認識し始めてからという意味では、もっと短いだろう。それでも、これはまごうことなく、僕自身の腕。白い部屋に浮かぶ、黄色人種の腕。
この白い――どこまでも限り無く白い部屋だからこそ映える、わずかに茶色い肌。決してアウトドア派ではなく、むしろインドア派と呼ぶべき僕ですら、これだけの色を有している。これだけの色を発して、この世界に存在している。
だから、僕は思った。
これは、現実だ。
夢や幻なんかじゃない。確実にいま、ここで起きている事実。僕は、ここにいる。この、気味が悪いくらいに真っ白な、部屋の中に――――。
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まばたきを、した。大きく目をひん剥き、そして、眩しさに目を細める。
「……夢かあ……」
それは、限り無く現実的に、非現実的な現実だった。
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