「さて、まずはヒデオさんの魔力の種類を確かめましょう!」
そう言って代表が取り出したのは、1枚の紙だった。
「この紙に魔力を流すと、ヒデオさんの魔力の種類がわかります」
あ、これ某忍者漫画のチャクラを確かめるあれだ。そんな事を思いながら紙を受け取る。
でも、魔力ってどう流すんだ?
「どうしました??」
「魔力ってどう流すんでしたっけ…」
「学校で私は習いましたけど…学校に行かなかった人?」
「魔力を使わない学校にいた人」
少しの間を代表は笑顔で言った。
「頑張って!」
丸投げである。
仕方がない。小学生の頃に習っていた合気道を思い出す。気を感じるのだ。臍下丹田に意識を集中し…
すると、手に持っていた紙が黒く変色しドロッと溶けた。
「え、なにこれ。汚ねぇ」
代表の方を見ると、彼女も俺と同じくらい困惑した顔をしている。
「闇ですね。これ…」
「闇」
「あんまり見ない種類の魔力なので驚いちゃいました。いるもんですねぇ…」
俺は…闇の力を持っている…?
「ククク…ついに表に出てしまったか。12年前に封印した邪悪なるこの力が…」
「大丈夫ですか!?」
「あ、すいません、闇と聞いてつい出ちゃいました」
「つい出るんですね、その痛いオーラ」
やっぱ封印したままにしようと思う。
「しかし闇ですか…資料あったかなぁ…」
しばらく棚を漁っていた代表だったがなんとか見つけたらしく、1枚の羊皮紙を持ってきた。
「これが記録の残っている唯一の闇属性魔物召喚方法ですね」
羊皮紙には薄汚れた文字で5つの魔物が記されていた。
『マッドドッグ』
闇の力を持った犬。召喚材料(黒曜石、生肉、動物の血)
『デルグ・ゲルジ』
巨大なムカデ。召喚材料(木炭、昆虫の乾物、鶏の頭、麦)
『ポイズ・スライム』
毒沼に生息するスライム種。召喚材料(沼地のコケ、コロリダケ、ダベラフラーゲの皮膚)
『骸鳥クロムグロム』
死を告げる怪鳥。召喚材料(牛の骨髄、動物の眼球、氷塊、人間の頭蓋骨)
『毒牙竜ヨーグ』
毒の牙を持つ竜。召喚材料(怪鳥トルネスの羽根、毒蛇の牙、黒曜石、毒牙竜の逆鱗)
なるほど、これを書いた奴はやる気が足りないことはわかった。なんだこの説明。せめて何の肉か、何の昆虫かくらい書いてくれ。
「5体ですか…少ないですね…」
隣で見ていた代表が呻く。
「風属性はどれくらいいるんですか?」
「召喚法が確立している魔物でしたら70くらいかなぁ…」
「少ないですね。闇」
「少ないですよ。闇」
何度目になるかわからない沈黙が部屋を包む。
「しかし召喚材料を見る限り、マッドドッグくらいなら今召喚できそうですよ。ちょっと待っててください!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくしてから代表が大きな麻袋を抱えて戻ってきた。
「これで揃いました!早速マッドドッグの召喚をしましょう!」
代表は大きめの羊皮紙を床に敷き、インクで円を描く。その円の中に麻袋の中身の肉を置いていく。
俺も手伝おうとして麻袋に手を突っ込む。
「痛っ」
掴んだものを引っ張り出すと、鋭利な形をした黒い石だった。
「大丈夫ですか!?」
「えぇ、少し切っただけです。大丈夫」
そう言いながら石を円の中に置く。
その時だった。
円の中心から黒い煙が噴き出し、置いたものを飲み込んでいく。
「え、まだ全部置いてないのに!」
煙が晴れた時、目の前には紫と黒のまだら模様の大型犬が座っていた。紫の部分には毛は無く、代わりに時々気泡が出てきていた。どうやら液体のようになっているらしい。
「これが…マッドドッグ?」
「わ、わ…わからないけど…とりあえず契約ができるか試してみましょう!」
代表はそう言って俺の腕を掴む。
「え、何するんですか?」
「…この魔物に触れて、自分の魔力を流します。もし契約できれば相手は自分の意思通りに動くでしょう」
「失敗したら?」
「攻撃されるかもしれません」
いやいやいやいや、待ってくれ。この大型犬、間違いなく危険。
そんなことを思っていると大型犬は顔を上げてこっちを見てきた。俺はその顔を見て唖然とした。
下顎がないのだ。上顎から生える歯がギラリと見えるほどに。舌はだらんと垂れ下がり、喉の奥まではっきり見える。口の中からは唾液の代わりのような赤黒い液体が垂れ、ぽたぽたと羊皮紙に染みを作っていく。
隣の代表を見ると固まっていた。
「代表、やめましょうよ、帰ってもらえませんかね?」
「すみません…契約をするか失敗するかしない限り帰っていくことはありません…」
すると目の前の大型犬は不意に立ち上がった。
俺が逃げ越しでいると、代表は俺の腕を思いっきり犬の頭に押し当てる。
「い、い、い、犬ってのは頭撫でられると喜ぶものです!!あと早く魔力流さないと何されるかわからないですよ!私は巌窟王に噛まれましたし!」
「あの小型犬と一緒にしないでください!どう見てもこれ違うでしょ!?ヤバいって!!!!」
そう言いながらも今は一刻を争う事態。何とか気を集中させて魔力を流す。
すると、先ほどまで立ち上がっていた犬は急におとなしく座り込んだのだ。
「これは…?」
「成功…だと思います。試しに命令を下してみたら…?」
不安に思いながらも犬の目の前に手を出す。
「お手」
犬は前足を俺の掌に重ねる。
「すげぇ!!!」
「成功みたいですね…良かったです。
そうと決まれば名前を付けてあげてください!可愛い名前が良いですかね~」
まるでペット感覚だな、と思いながら名前を思案する。だが…もう頭にこびりついて仕方ない名前があった。
「バイオ…ハザード」
「え?」
この見た目の悪さ…近いものが昔やったゲームにあった。あれはゾンビと戦うゲームで…出てきた犬も…
「ハザードって呼ぼうかな…」
「ふむふむ…実はネーミングセンスのある人だったんですね!」
若干照れ臭く感じたが、以後このゾンビ犬モドキを「ハザード」と呼ぶことにした。
この召喚がまさかあんなことになるとは思いもせずに。
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