絶望召喚士、今日も元気に生きています

~ロリ巨乳上司と下顎の無い犬との冒険者ライフ~
珈琲豆
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闇の力…疼くぞ…疼くぞ…

公開日時: 2020年9月1日(火) 18:00
文字数:2,378

「さて、まずはヒデオさんの魔力の種類を確かめましょう!」

そう言って代表が取り出したのは、1枚の紙だった。

「この紙に魔力を流すと、ヒデオさんの魔力の種類がわかります」


あ、これ某忍者漫画のチャクラを確かめるあれだ。そんな事を思いながら紙を受け取る。

でも、魔力ってどう流すんだ?


「どうしました??」

「魔力ってどう流すんでしたっけ…」

「学校で私は習いましたけど…学校に行かなかった人?」

「魔力を使わない学校にいた人」


少しの間を代表は笑顔で言った。


「頑張って!」


丸投げである。


仕方がない。小学生の頃に習っていた合気道を思い出す。気を感じるのだ。臍下丹田に意識を集中し…


すると、手に持っていた紙が黒く変色しドロッと溶けた。


「え、なにこれ。汚ねぇ」

代表の方を見ると、彼女も俺と同じくらい困惑した顔をしている。


「闇ですね。これ…」

「闇」

「あんまり見ない種類の魔力なので驚いちゃいました。いるもんですねぇ…」


俺は…闇の力を持っている…?

「ククク…ついに表に出てしまったか。12年前に封印した邪悪なるこの力が…」

「大丈夫ですか!?」

「あ、すいません、闇と聞いてつい出ちゃいました」

「つい出るんですね、その痛いオーラ」


やっぱ封印したままにしようと思う。


「しかし闇ですか…資料あったかなぁ…」

しばらく棚を漁っていた代表だったがなんとか見つけたらしく、1枚の羊皮紙を持ってきた。


「これが記録の残っている唯一の闇属性魔物召喚方法ですね」

羊皮紙には薄汚れた文字で5つの魔物が記されていた。


『マッドドッグ』

闇の力を持った犬。召喚材料(黒曜石、生肉、動物の血)

『デルグ・ゲルジ』

巨大なムカデ。召喚材料(木炭、昆虫の乾物、鶏の頭、麦)

『ポイズ・スライム』

毒沼に生息するスライム種。召喚材料(沼地のコケ、コロリダケ、ダベラフラーゲの皮膚)

『骸鳥クロムグロム』

死を告げる怪鳥。召喚材料(牛の骨髄、動物の眼球、氷塊、人間の頭蓋骨)

『毒牙竜ヨーグ』

毒の牙を持つ竜。召喚材料(怪鳥トルネスの羽根、毒蛇の牙、黒曜石、毒牙竜の逆鱗)


なるほど、これを書いた奴はやる気が足りないことはわかった。なんだこの説明。せめて何の肉か、何の昆虫かくらい書いてくれ。


「5体ですか…少ないですね…」

隣で見ていた代表が呻く。

「風属性はどれくらいいるんですか?」

「召喚法が確立している魔物でしたら70くらいかなぁ…」

「少ないですね。闇」

「少ないですよ。闇」


何度目になるかわからない沈黙が部屋を包む。

「しかし召喚材料を見る限り、マッドドッグくらいなら今召喚できそうですよ。ちょっと待っててください!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しばらくしてから代表が大きな麻袋を抱えて戻ってきた。

「これで揃いました!早速マッドドッグの召喚をしましょう!」

代表は大きめの羊皮紙を床に敷き、インクで円を描く。その円の中に麻袋の中身の肉を置いていく。

俺も手伝おうとして麻袋に手を突っ込む。

「痛っ」

掴んだものを引っ張り出すと、鋭利な形をした黒い石だった。

「大丈夫ですか!?」

「えぇ、少し切っただけです。大丈夫」

そう言いながら石を円の中に置く。


その時だった。

円の中心から黒い煙が噴き出し、置いたものを飲み込んでいく。

「え、まだ全部置いてないのに!」

煙が晴れた時、目の前には紫と黒のまだら模様の大型犬が座っていた。紫の部分には毛は無く、代わりに時々気泡が出てきていた。どうやら液体のようになっているらしい。


「これが…マッドドッグ?」

「わ、わ…わからないけど…とりあえず契約ができるか試してみましょう!」

代表はそう言って俺の腕を掴む。


「え、何するんですか?」

「…この魔物に触れて、自分の魔力を流します。もし契約できれば相手は自分の意思通りに動くでしょう」

「失敗したら?」

「攻撃されるかもしれません」


いやいやいやいや、待ってくれ。この大型犬、間違いなく危険。

そんなことを思っていると大型犬は顔を上げてこっちを見てきた。俺はその顔を見て唖然とした。


下顎がないのだ。上顎から生える歯がギラリと見えるほどに。舌はだらんと垂れ下がり、喉の奥まではっきり見える。口の中からは唾液の代わりのような赤黒い液体が垂れ、ぽたぽたと羊皮紙に染みを作っていく。


隣の代表を見ると固まっていた。

「代表、やめましょうよ、帰ってもらえませんかね?」

「すみません…契約をするか失敗するかしない限り帰っていくことはありません…」


すると目の前の大型犬は不意に立ち上がった。

俺が逃げ越しでいると、代表は俺の腕を思いっきり犬の頭に押し当てる。

「い、い、い、犬ってのは頭撫でられると喜ぶものです!!あと早く魔力流さないと何されるかわからないですよ!私は巌窟王に噛まれましたし!」

「あの小型犬と一緒にしないでください!どう見てもこれ違うでしょ!?ヤバいって!!!!」

そう言いながらも今は一刻を争う事態。何とか気を集中させて魔力を流す。


すると、先ほどまで立ち上がっていた犬は急におとなしく座り込んだのだ。


「これは…?」

「成功…だと思います。試しに命令を下してみたら…?」


不安に思いながらも犬の目の前に手を出す。

「お手」

犬は前足を俺の掌に重ねる。


「すげぇ!!!」

「成功みたいですね…良かったです。

そうと決まれば名前を付けてあげてください!可愛い名前が良いですかね~」


まるでペット感覚だな、と思いながら名前を思案する。だが…もう頭にこびりついて仕方ない名前があった。


「バイオ…ハザード」

「え?」


この見た目の悪さ…近いものが昔やったゲームにあった。あれはゾンビと戦うゲームで…出てきた犬も…


「ハザードって呼ぼうかな…」

「ふむふむ…実はネーミングセンスのある人だったんですね!」


若干照れ臭く感じたが、以後このゾンビ犬モドキを「ハザード」と呼ぶことにした。


この召喚がまさかあんなことになるとは思いもせずに。

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