隆治と美篶が伶菜を連れて保育園の面接に行っている際に、聖夜と堅斗は志穂の息子の蒼佑とテレビゲームで遊ぶのに夢中になっていた。
「暫くの間はずっとゲームに夢中になりそうね。」
志穂が夫の和則に話しかける。
台所の冷蔵庫からお茶を取り出し、リビングのテーブルへとお茶を運ぶ志穂。
和則が「ありがとう。ちょうど飲みたかったところだったんだ。」といってコップに入れたお茶をゆっくりと飲み始めた。
「こんなだだっ広い家が家賃7万円ってか。凄い不動産を見つけたもんだな。」
和則が志穂にそう話しかけると、志穂は「何だか訳ありっぽくってね、引っ越してきたときにこの家はゴミだらけで結構汚かったみたい。結局掃除費用も負担しなければならなかったらしくってね、もともと家賃7万円での賃貸契約だったところを、不動産の管理不足だと言って、1万円値下げしてもらったらしいんだよ。」と話し始めた。
和則がそれを聞くと、「ハハハ。ゴミ屋敷だった上に、掃除費用を負担したから、家賃1万円値下げはとんだ災難だったな。引っ越す前にちゃんと下見するべきだったんだよ。」と苦笑いをしながら話すと、志穂は「昨日、美海と二人、保育園帰りに遊びに行ったときに、美海が嬉しさあまりにはしゃぎすぎて、収納庫の壁を壊しちゃってね。その時に、わたしもいろんなお宅を見に行ったりはしたけど、これはわたしも恐怖のあまりに悪寒と冷や汗が止まらなかった。カズ君にも見てほしい。」と和則に話した。和則は志穂に「うん?何か宝でもあったのか?」と聞くので、志穂は「ついてきて見てほしい。」といって和則と二人、収納庫へと向かっていく。
向かっていこうとした、廊下を歩いていた時だった。
美海の声が聞こえてこないことに志穂が心配になった。
「あれ?美海の声がしない。どこにいるんだろう?」
気になり、志穂は2階へ上がる階段を上り始めた。
美海の声が聞こえてきた。
「もーいいかいー?」
「まーだだーよー。」
「もーいいかいー?」
「もーいいよー。」
美海の声が聞こえてきた。
しかし聞き覚えのない男の子の声が聞こえてきた。
不審に思い、声が聞こえてきた部屋に駆けつけたが、そこにはタンスを開けたり、押し入れを開けたりなどをして、一人で闇雲に何かを探している美海の姿があった。
志穂が美海を見つけて、「美海。こんなところにいたのね。一人で何をしていたのよ。」と話しかけた。美海は志穂の問いに「智紀君が”遊んでほしい”っていうからね、”かくれんぼしよう”って言われたの。智紀君が話し始めると、近くにいた宏親君と靖典君と4人でかくれんぼをしていたの。とても楽しかったよ!」と笑いながら話し始めた。
志穂は思わず耳を疑った。
「美海。何を言っているのかな。この家には、智紀君や宏親君、靖典君なんていないよ。それは美海だって知っているでしょ?子供は聖夜君に、堅斗君、伶菜ちゃんの3人だけなのよ。」
志穂がそう話すと、美海が志穂の背後に指をさし始めた。
「後ろに立っているよ。」
そう言われ振り返った志穂。
振り返るとそこには寂しげな表情が印象的な3兄弟の姿がそこにあった。
一番小っちゃい男の子がおかっぱ頭で黄色いTシャツにベージュのズボン、2番目に小っちゃい男の子がスポーツ刈りで赤いTシャツ、ライトグリーンのズボン、この中では一番年上だろうと思われる子が坊主頭で青いTシャツ、白いズボンを着用していた。
志穂は思わず絶句をした。
「わたしは霊感なんてなかった筈だ。これは夢だ、夢なんだろう。」
そう言い聞かせて、美海に「下に降りよう。蒼佑や聖夜君、堅斗君たちと皆でゲームしよう。こんなところで一人でかくれんぼをするのなんて寂しいだけじゃない。」と話し始めた。
美海は頷くと、志穂に連れられ、1階へ下りようとした時だった。
3兄弟の中の、一番上のお兄ちゃんが、志穂たちに話しかけた。
「お父さんを止めることはできない。助けてほしい。」
志穂は少年たちの訴えに理解が出来ず、美海と二人、逃げるように下へと降りた。
その間に、待っていたはずの和則の姿が無かった。
志穂と美海は、和則が収納庫に行ってしまったのかと思い、足を運んでみた。
「パパ!パパ!」
美海の声に何の反応もなかった。
待っていた間に、和則は収納庫に何があるのか気になって気になってしょうがなかった。
じっとしていられず、一人で収納庫に入ると、その奥にはぽっかりと真っ暗闇の空間が広がっていることに気が付き、「隠し部屋があるなんて忍者屋敷みたいだな。行って見よう。」と言って、スマートフォンの懐中電灯の灯りを頼りに、下へ下り始めた。
「ここは何だ?何をする部屋なんだ?」
そう思い辺りを散策してみる。
このドアを開けたと同時に和則は悪寒が止まらなかった。夏の暑い時期だというのに、急に悪寒のあまりに冷や汗が止まらなくなってしまった。
スマートフォンの懐中電灯の灯りを頼りに見回したら、お焼香をする台や、木魚やおりんなどの仏教道具があるのは見受けられた。
そして立派な祭壇のセンターに30代半ばだろう男性のにこやかな笑顔の遺影が飾られてあった。手前には”悲願潤徳院信士”と書かれた位牌が置かれており、思わず言葉を詰まらせると同時に足がくらんでしまい、その場で座り込むような形で祭壇を眺めた。
「ここは何なんだ!?」
そう思い、立ち上がろうとした瞬間だった。
人の気配がする。
そしてそっと足音が近づいてくる。
「だっ、誰だ!?」
和則が声を上げ振り返ると、般若のお面のような怒り心頭の表情で見つめる男がいた。
思わずライトで照らし始めると絶句した。
「あの遺影の男じゃないか!」
気が付き、逃げようとした瞬間だった。
男の右腕で首を掴まれた和則は、壁に叩きつけられると、左腕で掴まれ、首を絞められた。
「ウッ、ウッ、ウッ・・・!」
抵抗しようと、必死で足を蹴りあげたら、男の腹部に当たった。何とか死だけは免れた和則が急いでドアを開けて階段を上り始めた。上がるとそこには心配になって探していた志穂と美海の姿があった。美海が「パパ、どこに行っていたの。美海とママ、二人で必死になって探したよ!」と話しかけられ、和則は「心配をかけてしまってごめんね。」といって謝った。
志穂は和則の無事を知って、「一人で勝手に行かないでよ。わたし、隠し部屋のことも、下の部屋に遺影や位牌が放置されてあることも伝えていなかったじゃない。」と話した。
和則は「てっきり宝があると思って、どんなものが眠っているんだろうかと思うと気になって気になって一人で勝手に行ってしまったよ。」と志穂に話すと、美海が何かに気が付き、志穂の後ろへと隠れ始めると大きな声で悲鳴を上げると同時に恐怖のあまりに泣き始めた。
思わず志穂が「美海、どうしたの?何があったの?」
志穂の質問に美海が泣きじゃくりながら、「パパの後ろ、血まみれの人がいる。」と言い出した。
美海は笑いながら「美海。何怖いことを言っているのよ。パパの後ろには誰もいないじゃ・・・!」
恐怖で言葉が出てこなくなった。
腹部には切腹をしたであろう痕跡が生々しく残る、怒りの感情で満ち溢れた男の姿があった。
志穂は身の危険を感じ、「カズ君!もう外に出よう!危険すぎる!」といって3人で収納庫をすぐ後にした。リビングに戻ってきた3人は、蒼佑と聖夜と堅斗が、呑気にゲームを満喫している姿を見て「この子達はゲームに必死になっていて気が付かなかったのね。」と志穂は和則に話しかけた。
和則は「いや、何事もなかったからよかった。俺が殺されかけた、でもあの男は、生きている人間じゃない。あの祭壇に飾られてあった遺影に瓜二つだった。きっと、この家には忌まわしき過去が眠っているのだろう。」と話すと、「俺の知り合いに、このあたりの事件や事故を報道する伊万里通信で働く記者の桐生丈一郎がいる。この家で起きた事件や事故など報道してある記事があるかどうか話をしてみるよ。」といって携帯を手に取り、記者の桐生に連絡をし始めた。
その間に、志穂の携帯に美篶から連絡がかかってきた。
数秒化喋った後に、電話の報告を話し始めた。
「伶菜ちゃんの保育園が無事決まったよ。」
志穂の説明を聞いた聖夜と堅斗が「伶菜の保育園が決まったのか!?」といって反応を示した。
「伶菜ちゃん、新しいお友達が出来たらさらにこの家も賑わうことだろうね。お兄ちゃんたちも益々お兄ちゃんとして気掛かりなことが増えるんじゃないの?例えばボーイフレンドとかできたら気になってしょうがなくなるんじゃないの?」と志穂は笑いながら話した。
それを聞いた堅斗は「伶菜にすぐボーイフレンドはないでしょ。」と言い出すと、聖夜は「伶菜に仮にボーイフレンドが出来て気掛かりだと思うのは俺や堅斗じゃなくて、パパだと思うよ。伶菜のこと凄く可愛がっているし、彼氏!とかっていったらそれはそれはもうショックでショックで眠れなくなるんじゃないの?」と話し始めた。
志穂は「ハハハ、そうかもしれないね。」といって同調するように語り掛けた。
伶菜の保育園への入所が決まり、保育園を後にした隆治と美篶と伶菜。
まんてん保育園を後にし、スーパーに立ち寄りたいと美篶が言うので、途中立ち寄ることにした。「美篶と伶菜で行ってきなよ。俺は鈴村不動産に電話するから車の中にいるよ。」
そう言って、二人がスーパーの中へ入っていくのを見守った。
そして鈴村不動産に電話をかけた。
「荻窪だ。社長の目黒を出せ!」というと電話対応をした男性が慌てふためき社長を呼び出す。「社長の目黒です。」と話すと、隆治は「お前!俺たちに隠していることがまだまだあるのにそれを黙殺していただろ!管理不足にも程があり過ぎる!俺たちは怒っている!謝罪に俺たちの家に今日中に来いい!!絶対姿を現さないと鈴村不動産を訴える!!」と言い出すと、目黒は「申し訳ありません。お詫びに本日には荻窪さんのお宅へ次期社長の息子を連れて、謝罪に行かせていただきます。」といって隆治が電話を切るのを待って、目黒も電話を切ると、荻窪家へ向けて急いで向かった。
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