【完結:怨念シリーズ第1弾】怨念~怨みの念~

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白い旅立ち

公開日時: 2021年10月1日(金) 23:37
文字数:4,671

雲仙市内にある美篶の実家に聖夜と堅斗そして伶菜を預けると、入所をしている染澤セツさんに会うために杵島郡江北町にある老人ホーム彩々へと走らせた。


走らせること1時間10分。ようやく、老人ホーム彩々に辿り着くと、二人で受付に向かった。


時間は11時ごろの事だった。


すると、受付の女性の方から、3日前に風邪の状態が悪化し、医者の検査を受けたところ肺炎であることが分かり、すぐに入院が決定し、現在は病院にいることが判明した。すぐどこの病院にいるのか教えてほしいと美篶が訊ねるも、「病院に運ばれるまではわたしたちも見ていました。しかしどこの病院に搬送されたかまではわたしたちにはわかりません。染澤セツさんの成年後見人だった弁護士の反町淳史さんに聞かれたほうがいいかと思います。連絡先は名刺に記載されています。そちらにかけていただき、どこに入院されているかを聞いたほうがいいかと思います。」と説明後、すぐ受付の女性の方は成年後見人の反町の名刺を渡してきた。


「これが成年後見人の反町さんの名刺です。」


そういって美篶が確認すると、「ありがとうございます。」といって名刺を受け取ると、芽衣氏に記載されてある固定の番号のほかに個人の携帯の連絡先が記載されてあることに気が付き、美篶が隆治に「個人の携帯なら、日曜日でも繋がるかもしれない。」と話すと、隆治は名刺を手に取り「俺が連絡をする。」といって反町の個人携帯へ連絡をすることになった。


7コールぐらいはしただろうか、留守電に切り替わらず、仕方なく着信履歴だけは残すことにした。


「成年後見人の反町さんが着信履歴を見て折り返し連絡をしてくれるのだろうか?」


美篶が気になり、隆治に話しかけた。


「日曜日に弁護士事務所に電話をするにしても、休みであることは想定されるから、緊急の連絡先として掛けるのは致し方がないだろう。それは向こうだってわかっていて、何かあった際にと思って記載してあるのだろうから、そうじゃなかったらそもそも記載はしないだろう。」と隆治が話し終えると、隆治の携帯のマナーモードがブーブーと振動し始めた。


「この番号は、反町さんじゃない!折り返し連絡をしてきてくれたのよ!!」


美篶が気付き、隆治の電話に出る。


「もしもし、突然の電話をかけてしまい申し訳ありません。わたしたちは、あなたが成年後見人をされている染澤セツさんが大家を務める不動産の物件で住ませていただいている荻窪といいます。今まで染澤セツさんが管理をされていらっしゃった不動産物件を斡旋する不動産屋が大変なことになりました。今すぐにでもお話がしたいです。」と説明すると、反町は頷きながら美篶の話を聞くと「一体何があったのですか?」と訊ね、美篶が答えた。


「不動産の斡旋業者だった鈴村不動産の社長の目黒治さんと二代目で後継ぎだった息子の修一さんが杵島郡白石町の大石という地域の山中で首吊り自殺を図り、二人で切り盛りをしていた関係上、後継が誰もいない状態になり、鈴村不動産が廃業してしまいました。」


その話を聞いた反町が「えっ!?」となって言葉を失うと、美篶が思わず「亡くなられたことは聞かされていなかったのですか?」と訊ねるが、反町は「いえ、こちらには何も電話など入ってきていません。一体いつどのタイミングで聞かされたのですか?」と聞かれたので、美篶は「昨日の15時過ぎの事です。二代目の修一さんの奥様から廃業になる旨を伝えられ、他にも聞きたかったことがあったのですが、他のお客様がいますのでと一方的に言われ電話をブチぎられました。もう頼るところがどこもありません。」と話すと、反町は「今はセツさんが運ばれた病院にいて長々と話すわけにはいきません。どこかゆっくりとお話しできるところでお話をしませんか?」と切り出してくれたので美篶は隆治に「反町さんが会いたいって言っているけどどうか?」と質問をすると、隆治は「ああ。いいよ。3人でじっくりと話し合いたい。」と答え、美篶も「良いですよ。どこで待ち合わせをしましょうか?」と話し始め、反町が「それならセツさんが入院されている病院の中にある喫茶店で落ち合いましょう。」と話し、セツが入院している病院の場所を案内すると、美篶は「ありがとうございます。早速向かわせていただきます。」と話すと、反町は「わかりました、今が12時前ですから、13時ごろに喫茶店の入り口近くで落ち合いましょう。」というと、美篶は「わかりました。ありがとうございます。」といってから電話を切った。


そして反町から教えてもらった美藤総合病院に二人で向かうと、老人ホーム彩々からそんな大した距離ではなかったため途中でスーパーで今晩のご飯の買い出しをした後に、病院へと向かうことにした。13時前には待ち合わせ場所の病院内の喫茶店に辿り着くと既に、反町らしきスーツの男性の姿がそこにはあった。美篶が「反町さんですか?」と聞くと、反町は「そうです。お待ちしておりました。」と話すと、中の喫茶店へ3人で入ると、窓際のテーブル席へと案内され、早速コーヒーを頼むと注文したコーヒーを飲みながら、3人は話をすることにした。


まずは、反町が話し始めた。


「もともと、この成年後見人をするようになったのは、セツさんにとって頼れる身内がいなかったためです。セツさんが戦地で赴いた旦那さんを亡くされ遺族年金などを給付されていたようではありますが、支給された遺族年金の大方はセツさんが家賃収入を手に入れたいがために不動産に多額の金額を投資されたそうです。そんなセツさんの功績もあって国立の伊万里大学の経済学部に進学すると、武雄市内にある闐闐どんど設備会社に就職をされましたが結婚を機に独立しました。その一方で息子のためにと思って始めた不動産投資に無心になってまでセツさんが続けるとやがて借金までするようになり、そんな姿をかねてより見ていた、兄弟や父方母方の親戚も含め、呆れかえって、それぞれ借金に巻き込まれたくない一心でセツさんと距離を置いていきましたが、潤一郎さんだけは”そんな母でも俺を産んでくれたのだから見捨てることはできない”と言い、最後までサポートをしてきました。息子さんが志半ばで無理心中を図ったときは発狂したように、セツさんは泣き崩れたと聞きましたが、親族の大方はそんなセツさんを冷ややかな目で見るだけだったそうです。セツさんが成年後見人の話を持ち掛けられたのは、セツさんが認知症の症状が少しずつ出始めてきたころです。意識のあるうちに今ある財産をどうするべきか、相続のことも考え相談したいといってうちの事務所に来てくれたんです。そこからセツさんが認知症の症状が悪化するまで、色々なことを、セツさんとは色々なことでお話をさせて頂きました。」


反町の話をじっくりと聞いていた隆治と美篶。


美篶が反町に「不動産屋に斡旋するようになったのはやはりセツさんの認知症の症状が悪化したためですか?」と語ると、反町は「そもそも個人で数ある不動産の大家として一軒一軒を管理し清掃していくのは一人では無理があると僕が判断してセツさんに大家としての形を残しながら、管理業務は不動産に任せるべきだと言ってアドバイスをしました。でもまさか、こんなに不動産業者に呪われるとは僕も思ってもいませんでしたよ。最初にお世話になった渋谷不動産が全焼した後継に今回の鈴村不動産が選ばれたことを知り、僕はどんな不動産屋なのだろうかと気になり行って見ました。客の一人なのにお茶すら出さない、安さだけが売りのいい加減なイメージしか思い浮かびませんでした。あの丸眼鏡をかけていたのが二代目の息子さん、後でごり押しをするように”良いですよ、良いですよ”しか言わない社長の父親の姿勢に、ここはきっと”敷金・礼金を払う必要はありません”とかそういう理由で食いつく利用者をターゲットにしていたんだろうと思いますよ。」と話した。


痛いところを突かれたと思った隆治は黙り込んで聞くしかなかった。


そんな隆治を見かねて美篶がさらに質問をする。


「潤一郎さんが無理心中を図った家に私たちは住まわせているのですが、あの家には封印された地下の部屋があることはご存知でしょうか。悪霊と化した潤一郎さんの御霊を鎮めるために、地下室を作りそこへ封じ込めたと聞きましたが、知っていましたか?」


反町がその話を聞くと、「ええ。セツさんから聞かされていました。亡くなった息子の心を少しでも癒やしたい気持ちで、賃貸の家として再リニューアルをしたそうですが、本来ならあの家には殺人事件が起きていますから”事故物件”だと説明するべきところをセツさんはそれを嫌がり、最後まで息子の御霊を弔いたいという気持ちで、”事故物件”であることは伏せていたそうです。しかし、可愛がっていた同志の裏切りにより、社会的にも追い詰められた潤一郎さんの末路は悲惨なものでした。そんな潤一郎さんの御霊がそんな簡単に成仏できるようなレベルではなかったのだと思います。相次ぐ無理心中事件に、近隣どころか多久市内も含め悪い情報だけがあっという間に広がると、今度は地方を目に向け、売り出すようなことをしてみたが、呪われた物件であることを誇張するだけに過ぎませんでした。悩みに悩んだ結果、セツさんは元々納屋だった部屋を改造して、隠し部屋を作ると、そこに潤一郎さんの遺影や位牌、そして大事にしていた宝物やアルバムなどを祭壇に置き始めると、もう悪さが出来ないようにあの部屋に潤一郎さんの御霊を霊能力者を呼び出して封じ込めたと聞きました。しかしそれでも、潤一郎さんの無念の魂だけは、事件から何年経てど癒やせるものではなかったんです。僕は今もあの家は取り壊し、それこそ供養のためにお地蔵さんを置くべきだと何度もセツさんには説得しましたが聞き入れてはもらえませんでした。」


反町が話し始めているうちに、反町の携帯に誰かから電話がかかってきたようだ。


反町が「失礼します。」といって立ち上がると、電話の対応に出た。


何も言えなくなってしまっていた隆治に美篶は「何か言うことはないの?」と聞くが、隆治は「ごめん。いや、俺があまりにも衝動的に決め過ぎたなあというのがあって、いろんな話を聞いて決断するべきだったと、思うと自責の念しか出てこなかった。」と語りだした。


美篶は「今更反省してもう遅いわよ。今は新しい引っ越し先を探すことを真剣に考えましょう。」と語ると、反町が戻ってきた。


「セツさんの状態が悪化したそうです。一緒に病室に行きますか?」


反町がそう話すと、美篶は「ええ。わたしたちで良ければ一緒に連れて行っていただけませんか?」と話すと、反町は「わかりました、ご主人はどうなされますか?」と聞くと隆治は頷きながら「ついていきます。」といってレジでお会計を済ませた後、セツが入院しているICUに案内をされると、自力では呼吸が出来なくなっていたために人工呼吸器をつけていた。心拍数を見ただけでも、今にも息を引き取りそうなのは確実だった。


3人でセツの様子をじっと見守ること、数十分が経った頃だった。


「ピーピーピー。」


心臓が止まった音と同時に、懸命に蘇生治療に携わっていた医師が病室の前まで現れると、「たった今、息を引き取られました。」と言って、安らかに眠るセツを見て美篶は、「やっと楽になれましたね。お元気だったら色々とお話がしたかったです。どうぞ安らかにお眠りください。」と一言いい残し、隆治と共に病院を後にしたのだった。

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