【完結:怨念シリーズ第1弾】怨念~怨みの念~

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解体の瞬間

公開日時: 2021年10月1日(金) 23:39
文字数:4,317

家を引越し、もう潤一郎の御霊は襲ってこないだろうと確信した隆治。


引越の作業を少しずつ始めたいところではあったが、忙しさもあり、なかなか捗らないでいた。



「日曜日が来ないかな。土曜日は俺が仕事だからなあ、休みの時に皆で一斉になってやらないと段ボールの海が片付けられそうにない。」


隆治がそう話すと、美篶が「わたしだって、土曜日は仕事なのよ。」と言い出した。


隆治が「仕方ない。出来る限り整理を行っていくしかない。」と美篶に話すと、美篶が「そうするしかもう方法がないじゃない。」と言い出した。



新しい住まいに引っ越しをしてきてから一夜が明けた。


朝の7時の事だった。


美篶は改めて亡き染澤セツさんの成年後見人だった反町に連絡をすることにした。

反町がすぐ電話に出ると、引っ越しをしたと聞いて「安心しました。あの忌まわしき家は我々で引き取ることになりました。昨日に実は報告を受けていまして、電話をしてくれた佐藤という野原不動産の営業の担当の方からもあの土地をどうするべきかという話になりました。我々としてはこれ以上の犠牲者を出さないためにも建物を解体して、緑あふれる公園にするつもりです。供養のためにもお地蔵さんを祀ることにしたいんです。」と語った。


美篶はその答えを聞いて「そうですね。そのほうが潤一郎さんの怒りの念を封じ込めることが出来てかつ浄化してくれるかもしれませんからね。」と話し頷いた。


電話で話し終えた後、美篶はほっと一安心したと同時に拭えない不安があった。


佐藤が話していた「御祓いを受けるべきだ。」というあの一言が美篶の中で痛烈に残った。



隆治に「新しい家に引っ越しをできたのは良いけど、御祓いを受けないと、潤一郎の呪いから解放されたとは言い切れないと思う。」と話すと隆治は「お前何を言っているんだ!?潤一郎はあの地下の部屋に封じ込められているんだぞ、動くことが出来たとしてもあの部屋以外に動ける場所はないんだぞ。」と言い出すと、美篶は「佐藤さんが撮ってくれたあのポラロイド写真を思い出してよ。血まみれの手がわたしたちの肩にべったりとついていたじゃない。あんな生々しい心霊写真は初めてよ!気持ちが悪すぎてしょうがないわ!それでも御祓いを受けないなんて考えが間違っている!」と説明をした。隆治はそう言われると反論をすることが出来なかった。


暫く黙り込むと隆治は美篶に「わかったよ。霊能力者に見てもらって御祓いを受けよう。」と話した。そして持ち込んできたパソコンのインターネットを繋げると早速御祓いをしてくれるところを真剣に探し出し、ある霊能力者のWEBサイトに行きついた。


「九州が誇る最強の霊能力者 静原美佐子」


そう書かれたWEBサイトには、50代半ばぐらいだろう、町でよく見かけるごくごく普通のおばちゃんが大きくアップされて写っていた。そこには過去の除霊実績などが詳しく上げられていた。


その記述を見た隆治は美篶に「この人ってどうだろう?信頼してもいいんじゃないか?」と聞くと美篶は「このおばちゃんのWEBサイトならわたしだって見たわ。ヒョウ柄のワンピースで胸元に大きく描かれているヒョウの目に青いビーズがついていて光っているデザインのものを着ている時点で九州の人かどうか怪しすぎるわ。」と言い出すと、隆治は「それとこれは別!会ってみないとわからないだろ!そりゃあ俺もこの服のチョイスを見ただけで俺は大阪のおばちゃんだろって思ったよ。でも違うだろ。これだけの実績があるんだから信頼してもいいと俺は思うんだ。」と話すと美篶は「そうね。連絡をしてみる価値はあるね。」と語った。


WEBサイトの右下に記載されてあるお問い合わせの連絡先に、緊急用と書かれた固定の電話番号を見て、隆治が連絡をかけてみる。電話はすぐにつながると、女性の担当の方が出てきて、「すぐ先生を呼んできます。」と話し出すと、30秒ぐらいだってようやく別の女性の方に変わった。


「はじめまして。霊能力者の静原です。メールフォームもあるのに緊急の連絡先に電話をしてくるなんて珍しいですね。何か早急に対処をしなければいけない事態でしょうか?」と話してくれたので、隆治が「悪霊に取り憑かれたかもしれない。何とかしてほしい。」と話すと、静原は「是非立ち会ってお話を伺いたい。いつなら会えそうですか?」と話すと、隆治が「明日は水曜日でしたね。明日ならはやく帰れそうですので、僕たちは佐賀の多久市内に住んでいるのですが、静原さんのいる場所が遠距離なら近くまで行く必要があるならそこまで行きましょうか?」と聞くと静原は「近くまで行く必要はない。助手の中村胡桃を連れて多久市内へと向かいますので、今お住いの場所を教えていただけませんか?」と聞かれたので、隆治は美篶と相談をした結果、明くる日の水曜日の夜18時から、静原の御祓いを受けることにした。



御祓いの日程が正式に決まった中、美篶の携帯に見知らぬ番号からの電話がかかってきた。


何かと思い美篶が電話に出ると、志穂の両親からだった。


美篶は「この度はご愁傷様でした。志穂にはいつもお世話になってばかりで不謹慎ですがこんなことになってしまうとは思いもしませんでした。」と話すと、母親だろう女性が「美篶ちゃんに是非とも見せたいものがある。今晩に立ち寄ってもいいか?」という話になり、美篶は「家で良ければいいですよ。」と話し出し、18時に志穂の母親の工藤泰子が来ることになった。



いつも通りに出勤した美篶は、仕事を定時に終わらせると、伶菜の御迎えを済ませ、家に帰るとすぐお茶の準備などに取り掛かった。


そうこうしているうちに、時間は17時55分になろうとしていた。


「やばい!志穂のお母さんが来る時間じゃない!!」


そう思いさらに慌てた時だった。玄関のインターホンが鳴る音がして、美篶が「はい!」と玄関に出てくるとそこには泰子の姿があった。



美篶は「すみませんね。まだ家の中が整理しきれていなくって汚いんですけど、中へどうぞ。」と言って案内をすると、泰子は「良いのよ、玄関だけで充分よ。」と話すと、鞄からあるものを取り出しそれを美篶に渡した。美篶が思わず「お母さん、これは一体何ですか?」と聞くと、「事件が起きる前に、志穂がわたしに何かあればこのノートを美篶に渡してほしいと言っていてね、その翌日に事件が起きてね。きっと美篶ちゃんに伝えたかったことが志穂にはあったのだと思う。」と語ると、美篶は「遠いのに、わざわざ持って来てくださりありがとうございました。」と一礼をした後に、泰子が運転をする車が遠くなるまでを見届けた。


泰子が帰った後に、志穂が遺してくれたノートを開くことにした。



最初に開いたページには何も記されてはいなかったが、徐々にページを開いていくとあるページに辿り着いた。そこには新聞の記事が切り抜かれたものが貼り付けられてあった。



「その先の未来へ進み続ける企業でありたい フェニックス・マテリアル社長 小鳥遊悟」


その記事の切り抜きを見て「何でこの記事が切り抜かれているのか不思議でならなかった。


しかし横の記事には染澤潤一郎の事件とは関係のない事件の切り抜きがあった。



「妻子殺害後、観音の滝へ身を投じ自殺 35歳元社長の凶行」


1974年12月28日 モチヅキ・ドリーム・ファクトリーの社長であった望月裕が会社の倒産と同時に妻の絹子さんを絞殺、さらに息子の哲也君と和保君を殺害後、家にガソリンをまき火をつけると車で唐津市内の観音の滝へと向かい、観音の滝の滝面へ身を投じ自殺を図った。



その記事を見て、潤一郎の無理心中事件の因果関係がわからなかった。



しかし1ページ先をめくるとそこには1970年の大阪万博を伝える記事がありそこには、「九州博覧会の大成功」を伝える記事があり、紹介されてある写真には、先程の望月裕の左隣に、見た事がある人物が写っていた。


「これは、ひょっとして!?」


美篶がそう思い、名前を見つめるとそこには”ソメザワ・マテリアルの代表の染澤潤一郎さんとモチヅキ・ドリーム・ファクトリーの代表の望月裕さん”と記されてあった。


「どうして大阪万博に出たのに、経営危機の末路になってしまうのだろうか。」


不思議で不思議でならなかった。


その次のページをめくると、志穂の手書きの字で「YouTubeで幽幽のアカウントを探しだせ。」と記されてあった。思わずパソコンを開き、YouTubeを閲覧してみた。


「幽幽、確かにあるね。」


アップロードをされた動画の中に「自滅の瞬間」と記されてあるのがあり、開けてみることにした。

そこには生前の染澤潤一郎さんであろう、切腹自殺を図る前に映し出された彼の最期の姿だった。


「1974年7月24日夜の2時を回ったぐらいだね。俺は愛する家族をこの手で殺してしまった。豊子に、息子の宏親、靖典、智紀、皆ごめんな。でもこうするしかなかった。俺は小鳥遊を悪魔になってでも復讐を果たしてやる。地獄できっとサタン様が俺のことを見守っていて下さっているだろう。怨念で漲るこの俺に大いなる力を授かるためにはこうするしかなかった。誰かに殺され怨念を抱きながらこの世を彷徨うより、怨念を抱きながら自らの手で殺したほうが、より悪の力が増す。霊の存在は俺は信じないが、本で読んだこの内容だけは俺は信じてならない。俺は死んで悪魔になる。そしてのうのうと生き続ける小鳥遊悟を追い詰めてやる。今迄支えてきてくれた、皆ありがとう。」



映し出された動画を見て言葉を失った美篶。


続く、生前の望月が遺した動画を見てさらに驚愕の真実を知り、出てくる言葉もなかった。



隆治が家に帰ってくると、このことを早速報告をすると、隆治も動画の内容を確認した。


「まさかな。あのフェニックス・マテリアルの小鳥遊悟前社長のこんな裏歴史があるとは、まあ企業規模を拡大していく上で、最初からこの二人の会社を潰すつもりで近付いたんじゃないのか。倒産にまで追い詰められたら、そりゃあ温厚な人間でも、恨みを持って死ぬのは当然だな。」


美篶が隆治に「この望月さんって御霊もどうなっているんだろう?」と話すと、隆治が「美篶、観音の滝っていったらあれだぞ。自殺の名所として有名なところだぞ。望月が怨念を抱きながら自殺を図ったのなら、望月の御霊だって、彷徨っているに違いないだろ。」と話した。



明くる日の金曜日の朝、美篶は出勤前にかつて住んでいたあの旧染澤邸の前を通るとそこには家の解体作業が行われていた。最近まで住んでいた家を壊されていく様子を見て、美篶は「やっと怨念から解放されるんだ」という思いで、建物が解体していく様子を眺めるのだった。

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