丈一郎が持ってきた資料にはさらに続きがあった。
丈一郎は「ここで起きた事件はまだある。続けてみてほしい。」というと次のページをめくる。
「1986年3月31日に山口県下関市から引っ越してきた秋山元啓さん(32歳)、妻の麻沙子さん(32歳)、長男の龍也君(8歳)、次男の佑汰君(6歳)、末っ子で長女の胡桃ちゃん(3歳)が引っ越してきてから1ヶ月後の4月26日の午前24時過ぎに事件が発生した。元啓さんが就寝中の妻の麻沙子さんの首をロープで絞めて絞殺すると、台所にあった包丁を使い、長男の龍也君の腹部を何か所も刺して殺害すると、次男の佑汰君と長女の胡桃ちゃんを同様の手口で殺害した後、染澤潤一郎と同じように元啓さんも風呂場で切腹自殺を図り死亡した。」
話をじっくりと聞くだけの隆治だったが、流石に疑問に思うことがあった。
「どうしてここまで事件が起きているのにそれでもなお、不動産物件として存在できたのか?」
その問いに丈一郎が答えた。
「まあ、普通に考えればね。立ち入り禁止にするのが妥当なところだろう。でも跡地を今後どう再利用するのかといった話になった際に、こんな呪われた土地を喜んで買い取ってくれる業者などいないだろう。ましてや、潤一郎が亡くなる直前に残したダイイングメッセージであろう、”悪魔と取引したい”だなんてのも、この土地を益々呪われた土地にさせたといっても過言ではないだろう。そんな息子を偲び、賃貸の物件として提供をしたこともセツさんなりの潤一郎への思いがあったのだろう。しかし、この世への強い恨みや憎しみを抱いたまま亡くなった潤一郎には当然ながら、この地に残り世の中に対する復讐を果たしたい気持ちが心の奥底にあったはずだ。住んでいく人の、とりわけターゲットを父親に絞ったのは、自分と同じような目に遇わせるのが狙いの一つだろう。潤一郎はそうやって生者の気を吸って強大なパワーを吸い取ると、さらに呪いをかけた。それが一連の父親による無理心中事件ならば、潤一郎は自身と同じ経験を持つ仲間を増やすために行っている可能性がある。だとしたら仮にもし霊能力者を呼んだとしても、潤一郎が持つ負のパワーは強大すぎて手に負えないだろう。だから、地下にあんな部屋を設けたのだろう。一連の無理心中事件が潤一郎によるものだと察したセツさんが、悪霊と化した潤一郎をあの部屋に封じ込めたんだ。二度と悪さをしないようにね。しかし欠点があるとしたら、あの壁は子供が簡単に壊しやすい作りになっていたことだった。だから御札を封じ込めた部屋に張り巡らしてでもあの部屋に封印させたんだろう。それでも潤一郎は這い上がり、悪さを繰り返していく。」
丈一郎の言葉に、ただただ隆治は黙って聞くしかなかった。
ただ和則だけは納得がいかず、すぐその場で立ち上がって丈一郎に向かって人差し指を刺しながら怒り始めた。
「俺や隆治君はあの部屋で、潤一郎に襲われたんだぞ。俺たちの未来はどうなるんだ!?俺たちも潤一郎の仲間になれとでもでもいうのか?何とかならないのか!?」
和則が丈一郎に問い詰めるも、丈一郎は「残念だが襲われた以上、潤一郎に呪いをかけられた。これから先は霊障に悩まされ、精神的にも肉遺体的にも追い詰められた末に、無理心中に追い詰めていくのだろう。潤一郎はしぶとい、悪霊どころじゃない、もうすっかり悪魔だ。除霊に来た霊能力者もお手上げだろう。何が何でも自分の目標を達成するために諦めないからね。」と話した。
落胆する二人の様子を見て、美篶が丈一郎に「最近までの事例ってあるんですか?」と訊ねた。
丈一郎は「ああ。勿論ある。1986年の秋山さん一家から話が終わっていたね。その後も悲劇は続いていたんだ。」と話すと、次の事例を次のページの記事の事件概要を見ながら語り始めた。
「1990年の8月30日に熊本県人吉市から齋藤克起さん(33歳)、妻の瑞希さん(37歳)、長女の朱里ちゃん(11歳)、次女の希実ちゃん(8歳)、三女の真凜ちゃん(4歳)を住んでから1ヶ月が経過した10月3日の午前1時過ぎに瑞希さんを刺身包丁でメッタ刺しにすると、同じ手口で真凜ちゃん、朱里ちゃん、希実ちゃんを次々と殺害した後、同じくお風呂場で切腹して自殺を図っている。」
事件はまだ続くようだった。
「1994年の5月3日に長崎県五島市から引っ越した後藤義春さん(30歳)と妻の直美さん(32歳)、長男の武蔵君(5歳)と長女の美香ちゃん(2歳)が住み始めて1ヶ月が経った6月28日の午前2時35分頃に事件が発生した。妻の直美さんを出刃包丁で殺害した後、同じ手口で武蔵君、そして美香ちゃんを殺害後、義春さんも同じく風呂場で切腹自殺を図り死亡した。」
事件を語り終えた丈一郎は、次のページをめくる。
「1999年の8月15日に福岡県豊前市から引っ越しをしてきた須藤勝義さん(35歳)と妻の美里さん(36歳)、長男の陽一郎君(12歳)と次男の佑次郎君(8歳)と三男の孝太郎君(5歳)が住み始め1ヶ月が経った9月30日の午前1時過ぎに美里さんの首元をナイフで刺した後にロープで絞殺すると、孝太郎君、陽一郎君、佑次郎君を同様の犯行手口にて持っていたナイフでメッタ刺しをして殺害後に、お風呂場で切腹自殺を図り、死亡した。」
ページはさらに続く。
「2005年3月3日に大分県佐伯市から引っ越してきた入江学さん(36歳)と妻の奈穂子さん(38歳)と長女の陽花里ちゃん(10歳)、長男の航大君(4歳)と住み始めて1ヶ月が経過した4月25日の午前3時30分ごろに奈穂子さんをロープで絞殺した後、航大君、陽花里ちゃんを同様の手口で殺害後、お風呂場にあった照明にロープで括り付け、首吊り自殺を図るも死にきれず、ズボンの中に入れていた果物ナイフで切腹して死亡した。」
あまりにも最期が切腹の事件が続くので聞くのだけでも嫌になってくる。
和則が思わず「まだ続きはあるのか?どうせ住み始めて1ヶ月後に事件が起き最後は切腹だろ。」と話すと、丈一郎は「ああ。そうだ。我慢して聞いてほしい。」というので、話が続いた。
「2010年10月10日に沖縄県名護市より引っ越してきた仲村一輝さん(33歳)と妻の早緒莉さん(39歳)、長男の暢君(10歳)と次男の薫君(7歳)、長女の華怜ちゃん(3歳)を住み始めて1ヶ月後の11月23日の午前1時25分ごろに早緒莉さんを果物ナイフで刺殺した後、同様の手口で薫君、暢君、華怜ちゃんを殺害。その後、風呂場で切腹自殺を図り死亡した。」
ページはいよいよ最後のページになってきた。
「2016年の6月1日に島根県益田市より引っ越しをしてきた渡邊雅紀さん(32歳)と妻の美土里さん(32歳)、長女の瑠香ちゃん(9歳)、長男の大翔君(7歳)、次女の巴菜ちゃん(4歳)を住み始めてから1ヶ月後の7月6日の午前12時30分ごろに美土里さんをナイフで刺殺した後、大翔君、瑠香ちゃん、巴菜ちゃんを同様の手口で殺害後、車で旧嬉野トンネル内まで行き停車させた後、近くの大木の枝にロープを括り付け、首吊り自殺を図って死亡した。」
話を嫌々聞いていた隆治が「やっと、2016年の事例で終わりなのか?」と丈一郎に聞くと、「いやあと1ページ残っている。これが一番最新の事例だ。」と語り始めた。
「2020年の7月1日に広島県大竹市から引っ越しをしてきた山口亮介さん(36歳)と妻の春香さん(33歳)、長男の聖君(10歳)、次男の真守君(6歳)、長女の里琴ちゃん(3歳)を住み始めてから1ヶ月後の8月6日の午前3時過ぎに春香さんを包丁でメッタ刺しにして殺害後、同様の手口で聖君、真守君、里琴ちゃんを殺害。殺害した後、車で旧赤穂山トンネルのフェンスの近くまで行き停車した後車内で切腹自殺を図り死亡した。」
全てを語り終えた丈一郎が、「これが今までにこの家の住民に起きた悲劇だ。」と疲れた表情で話した。
隆治が「聞くのだけでも嫌になる。というか途中から似たような手口だから説明を所々割愛していないか?」と聞かれた丈一郎は、「まあ、割愛したのは認める。」とは言いつつ、「ゴミ屋敷になったのはこの家の大家の管理不足が招いたものでも何でもなく、この家があることに不気味さを覚えていった近隣の住民がよりこの家に近づかせない目的でゴミを意図的に捨てたのだろうと思われる。2017年あたりから少なくともセツさんには認知症の症状が見られたという話もあることから、最期の犠牲者となった山口さんとは面識がないものだと思われる。この家に引っ越してきた方全て、佐賀県民ではないことからも、この家でかつて無理心中事件があったことがわからなかった人たちがこぞって住み始めたのだろう。佐賀県民は忌み嫌って、この家に住むことを頑なに拒絶したんだよ。」と話した。
それを聞いた隆治は「まあ俺たちがこの家が抱える闇の部分を知らなさ過ぎて引っ越してきたのは事実だし、俺はこれから先も家族とともに笑い合いながら生きていきたい。潤一郎の呪縛は解いてやる。」と強く言い切った。
丈一郎はそれを聞くと「霊能力者が見つかればになるけどね。応援はするよ。」といって家を後にした。
志穂が美篶に「多分明日か明後日あたりに調査結果の返事がかえってくると思うけど、多分さっき伝えたのと内容は同じだと思うけど良い?」と聞くと美篶は「警察側の見解も聞きたい。」といって返事をした。志穂は「わかった。」といって返事をした。その後、我妻一家が荻窪家に一晩泊るということで話は合意し、この家に引っ越しをしてきて初めて賑やかな夜を迎えるのだった。
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