自宅に帰ってきた美篶。
老人ホーム彩々で聞いてきた情報を隆治に伝えなければと思い、この家で事件があったことをどのタイミングで切り出そうかと考えていたところだった。
そんな時だった。
伶菜の大きな声が家中に聞こえてきた。
どうやら2階の自分の部屋にいるようだ。
「もーいいかい?」
「まーだだよー。」
「もーいいかいー?」
「もーいいよー。」
近所の奥様同士での付き合いもしていないのに、もう友達が出来たのか。
聞き慣れない男の子の声がした。
かくれんぼをして遊ぶ友達が伶菜にはすぐに見つかるなんて、予想だにしていなかった。
楽しそうにかくれんぼをしているのだろうと思うと、遊び疲れて出てくるときに、オレンジジュースやお菓子を用意してあげようと準備をし始めた。
1時間程が経過したころだった。
伶菜がリビングに戻ってきて、ソファに座り込んだ。
美篶が「あれ?さっきまで遊んでいたお友達はどうしたの?」と伶菜に聞いた。
伶菜は美篶の質問に答え始めた。
「智紀君と遊んでいたの。すごく面白くて楽しい子だよ。じゃんけんをしたらいつも伶菜が勝つことが多くって、伶菜が智紀君に気遣って伶菜が隠れるから探してみてって言ってもね、良いよ良いよって、結局は伶菜が智紀君を探すんだけど、隠れるのが凄く上手だから、智紀君は隠れ上手だねって言ったらね、智紀君照れてね、鬼になって探すよりも鬼から見つからぬように隠れるほうが僕は得意なんだよ、って笑いながら話してくれたの。」
美篶は伶菜の話を聞いて、「へぇ、そうなんだ」と頷きながら話を聞く。
そして「智紀君は?どこに行ったの?挨拶もしないで帰ってしまったの?」と伶菜に聞くが、伶菜は「智紀君の行方?うーん、わからない。また遊ぼうねって智紀君と約束したらいつの間にか姿を消しちゃってて、伶菜にもわからない。でもきっとまた姿を現すと思う。」と話した。
幼い伶菜には、智紀君の正体が、この家で殺された息子であるとは言いづらかった。
子どもだから、大人になれば見えないものが見えてしまうものがあるのだと改めて思った。
「智紀君、また伶菜ちゃんと遊ぶ時があれば、今度はママも呼んでね。智紀君の顔を一度は見てみたい。」
そう話すと、伶菜は「うん。わかった。ママにも紹介するね。」と言ってくれた。
明くる日、再就職をするために伶菜の保育園探しに必死になっていた美篶。
保育園から面談の連絡がいつ来るのか、スマートフォンを前にして首を長くして待っていた。
「伶菜ちゃんの保育園が見つかったら、伶菜も変わってくれるに違いない。」
そう思い、台所でじっと待っていた。
「もーいいかい?」
「まーだだよー。」
「もーいいかいー?」
「もーいいよー。」
伶菜がまた智紀君と2階でかくれんぼをしているようだった。
「昨日約束してくれた話と違う。」
そう思い、美篶が2階へと上がり始める。
美篶が伶菜の部屋に行くと、そこには伶菜の姿はなかった。
お兄ちゃんたちの部屋にでもいるのだろうかと思い、部屋を隈なく探すと、そこには伶菜が必死になってかくれんぼで隠れている智紀君を探し出そうと、押し入れやタンスの扉を開けたりして、隠れることが出来そうな場所をパタパタと開けたりしていた。
「伶菜ちゃん、智紀君とかくれんぼしているのね。ママも智紀君を一緒に探すね。」
伶菜にそう話すと、「ママ、うん。わかった。」といって二人で手分けして探す。
しかし、2階を隈なく探しても、智紀君の姿は見受けられない。
夫婦の寝室にいた伶菜に声をかけた。
「1階にでも降りたのだろうか。ママが見てくるね。」
美篶が伶菜にそう話すと、「わかった。伶菜待ってる。」と言うと、美篶はすぐ1階へ下りて、智紀君が隠れていそうな場所を探し始めた。洗面所、お風呂場、リビング、台所、子供が隠れることが出来そうな場所は見てきたつもりだったが、どこにもいなかった。
再び伶菜の様子が気になったので2階の夫婦の寝室へと上がった。
「伶菜ちゃん、智紀君はどうだった?」
美篶の質問に伶菜が「智紀君なら見つかったよ。でも見つけたと同時にすぐ逃げちゃってもういないよ。ママにも会わせたかったのに、智紀君は照屋さんなのかな?」と話し始めた。
美篶は伶菜の言葉を聞いて、「大丈夫よ、きっとまたどこかで現れるんじゃないかな。」といって笑いながら話すと、押し入れのほうから視線を感じた。
ふと気になり、反対側の押し入れを向くと、そこには男の子の姿があった。
美篶がハッとなり、伶菜に思わず声をかけた。
「おかっぱ頭の黄色いTシャツでベージュの短パンの姿の男の子が智紀君なのかな?」
美篶の質問に伶菜は「うん、そうだよ。智紀君だよ。」というのだった。
わたしは伶菜の答えを聞いて背筋に寒気が走った。
この日の就寝時、美篶は隆治にこの家で父親による一家無理心中事件があったことを伝える。
「昨日、老人ホーム彩々に行ったときにね、前の管理人さんとお話が出来たんだけど、とんでもない過去を施設の職員さんから聞かされたの。聞いてほしい。」
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