【完結:怨念シリーズ第1弾】怨念~怨みの念~

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抱える闇

公開日時: 2021年10月1日(金) 23:25
文字数:3,577

美篶が志穂に相談してから1日が経過した。


明くる日は、伶菜の保育園の面接の日だと思うと、着ていくスーツを何にしようかと、タンスの中にしまってある服の中から選び始める。


「黒のスーツが良いかな、紺色のスーツのほうが良いかな、派手過ぎたら印象が悪いだけだから、着ていくスーツだけでこんなにも悩むなんて、うーんどうしようかな。」


夫婦の寝室の中でじっと考えていた。


その間に伶菜はというと、智紀君や譲君、そして胡桃ちゃんという目には見えない友達とかくれんぼをしはじめる。


「もーいいかいー?」


「まーだだよー。」


「もーいいかいー?」


「もーいいよー。」


今まで霊感がないとばかりに思っていたわたしでも、この家に住むようになって、次第に霊の声や霊を見るようになり、幽霊だなんて科学的根拠のない者を信じてたまるかといった隆治の言葉をふと思うと、「証拠がないだけで目には見えない存在」というのは実在するのではと改めて考えた。



お昼ご飯に昨日作ったカレーを伶菜と二人で食べた後、伶菜をソファーで寝かせて昼寝をさせた。


よほどかくれんぼで探すのに疲れていたのだろうか、伶菜は熟睡してしまった。



「ずっと鬼の役ばっかりやっていたから、伶菜も疲れていたんだろうな。」


そう思いながら、伶菜の背中をそっとさすった。



美篶も伶菜のぐっすりと寝る姿を見て、思わず美篶も眠たくなってしまった。


「わたしも寝ようかな。」


そう思い、ソファの背もたれに深く腰掛け目をつむったその瞬間だった。



後ろから声がした。


声がするので、振り返ると、智紀君が立っていた。


美篶は思わず悲鳴を上げそうになったが、冷静になって考え、何を話すべきなのかと考えた末に「伶菜ちゃんならぐっすり疲れて寝てしまったよ。いつも伶菜ちゃんと遊んでくれてありがとう。」と声をかけた。智紀君は美篶の話を聞き、「話したかったのは伶菜ちゃんじゃない。」と言い出した。


美篶は智紀君に「話をしたかった相手ってひょっとしてわたしのことかな?」と聞くと、智紀君は頭を振って頷いた。そして美篶にある一言を言い放った。



「お父さんもこの家でかくれんぼをしているよ。」



美篶は思わぬ告白を聞いて「えっ!?」となって絶句をしてしまった。


美篶はさらに聞き出したいと思い、「智紀君、それは一体どういうことかな?教えてほしい。」と話しかけるも、智紀君は台所のほうへと向かい消えてゆくのだった。


智紀君の言葉を聞いた美篶は動揺を隠せられなかった。


「お父さんがかくれんぼしているって・・・どういうこと!?」



考えたくないが、この家にはまだ潤一郎さんの御霊が眠っているということなのだろうか。

一先ず、志穂に言われた通りに、御祓いをしてくれる霊媒師が近くにいないかを探すことにした。



そんな中、玄関のインターホンの音がする。


「ピンポーン。」


美篶が「はーい!」といって出ると、志穂と伶菜と歳の近い4歳になる娘の美海ちゃんの姿があった。志穂が「伶菜ちゃんのことが気がかりで、美海の保育園帰りに二人で遊びに来たよ。」と言ってくれた。美篶は思わず「ありがとう、志穂。」といって抱きしめた。



美篶が寝ている伶菜を起こそうとソファへと向かうと、伶菜は外の音に気が付いて目が覚めていた。美篶が「美海ちゃんが遊びに来てくれたよ!」というと、伶菜は美海のほうを見た。美海が「伶菜ちゃん、一緒に遊ぼう!」といって伶菜の近くへと駆け寄ると、伶菜は嬉しそうに「美海ちゃん、一緒に遊ぼう!」といって二人でリビングの外へと駆け出した。


そんな様子を志穂と談笑する美篶。



美篶は志穂に「事件のこと、大体わかった?」と話を聞くと、志穂は「今日朝一番に、多久署にはこの家で何があったのかの調査依頼をFAXで送ったばかりよ。まだ返答は来ていないけど、1週間以内には答えが返ってくると思う。」と話し始めた。


それを聞いた美篶は、「それだったら図書館で調べたほうが早いよね?」と聞くも、志穂は「事故物件のWEBサイトにすら掲載されていない事故物件なのだから、資料が残っているのかどうか、それすら怪しいと思うよ。書籍化だってされていないであろう本を探すのは至難の業だと思う。警察に問い合わせする、それか新聞記者の友達がいるなら、その当時仮にもしこの事件の概要を扱って世間に伝えていたとしたら、当時の新聞記事が残っているだろうから、そういったところに聞く。いずれかだろうね。」といって話し始めた。


美篶は志穂の答えを聞き、「結局探すには時間がかかるということね。」といって仕方なく納得するのだった。外では二人が鬼ごっこをして遊んでいるようだった。



久しぶりに無邪気に笑う伶菜の声を聞いて、美篶は嬉しくて仕方がなかった。



2人が洗面所や台所、お風呂場などをバタバタと走っていく。


志穂が思わず「我が家と違って広い家だから、美海も楽しくてしょうがないのかな。何だかお騒がせをして申し訳ないね。」といって謝ってきた。美篶は笑いながら、「いいよ。伶菜だって、幽霊以外の友達と遊んでいるんだから、わたしも嬉しいよ。」と話し始めた。


その時だった。


台所裏の収納庫のほうで、美海の悲鳴が聞こえた。



「キャアアア!!!!」


悲鳴を聞いてたまらず志穂と美篶が駆けつける。



「これは一体何!?」


志穂が思わず声を上げる。


白い壁だと思っていた部分が倒れて、暗闇の世界がそこには広がっていた。


「美海ちゃん、大丈夫?怪我はない?」


美篶は美海の傍に駆け寄り、意識があるかどうかを確認する。美海は美篶のほうを見て「壁だと思って蹴ったら美海のほうに向かって倒れてきたの。慌てて逃げたから、ちょっとぶつかって擦り傷をしたぐらい。でも平気だよ。」といって笑った。美篶は「絆創膏を用意するからじっとしていてね。」といって近くにあった救急箱を取り出す。美海の治療が終わると、志穂が美篶に声をかけた。



「この壁は薄いベニヤ板だけで打ち付けられていただけの粗末な作りだったのね。」


志穂がそう話すと、美篶は絶句して「まさかこんな作りになっていたとは思ってもいなかった。」と話すと、志穂は「懐中電灯か何かある?真っ暗闇で何も見えないが、手を差し伸べると空気のようなものを感じる。見てくるよ。」と言ってくれたので美篶は慌てて懐中電灯を取り出しに台所へと向かった。そして懐中電灯を手に取ると、志穂に渡した。


懐中電灯を照らした先は階段になっていた。


「一歩間違っていたら階段に落ちて大怪我どころじゃすまなかったね。」


志穂が美篶にそう話すと、「何があるか見てくる。心配しないでそこで待っていてほしい。」と言ってくれた。美篶は「わかったよ!ありがとう!」といって返事をすると、志穂は懐中電灯の灯りを頼りに階段を下り始める。下りた先にはドアがあり、ギーッという音と共に開け始める。


志穂が戻ってくるのを待つこと、5分ほどが経過した。


志穂が上がってくると同時に美篶に声をかけた。


「下の階の部屋には誰も近づかせてはいけない。大家はどこだ?話がしたい。」

志穂が真剣な表情で話をするので、美篶が思わず志穂に質問をした。


美篶は志穂に「大家の染澤セツさんなら老人ホーム彩々で入所をしているけど、認知症の症状が進んでいて真面目な話は出来ないよ。」と話すと、志穂は美篶に懐中電灯を渡すと、「この目で見てきたらわかる。この家からは今すぐにでも出ていくべきだ。」というのだった。


美篶は渡された懐中電灯を手に恐る恐る階段を下り始める。


ドアを開け、中に入ると、祭壇になっていた。


「ここは一体何をする部屋なんだ?」


そう思い、お焼香をする台や木魚、おりんなどをチェックした後に祭壇に飾られてある写真を見た。

写真の下には、新しく引っ越してきた家には”ない”はずものが置かれていた。


「こっ、これは位牌・・・!?」


驚きのあまりに言葉が出てこなくなった。

「何でお位牌なんか残すわけ!?大切な家族じゃないのか!!」


位牌に書かれた戒名を見るとそこには”悲願潤徳院信士”と書かれてあった。


美篶は”潤”の一文字を見てもはやと思い、写真を見た。


「染澤潤一郎さんの遺影・・・!?」


それを知って思わず足がすくんで倒れてしまうと、ふと智紀君の言葉を思い出した。


「そういえば、智紀君が言っていた。”お父さんもこの家でかくれんぼをしている”って、まさかこのことだったのか。」


そう思い、美篶が立ち上がろうとした時だった。

背後からそっと誰かが近付くと、耳元でそっと誰かが話しかけた。



「俺の恨みは消えない!永遠に呪い続けてやる!」



男の怒鳴り声に思わず美篶が悲鳴を上げた。

慌てて志穂がスマートフォンの懐中電灯の灯りを頼りに駆けつけると、恐怖のあまりに美篶は泣いていた。


志穂は「もうこれでわかったでしょ。この家は異常すぎる。すぐにでも引っ越しをしなさい。」といって二人で支え合いながら階段を上り始めた。

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