【完結:怨念シリーズ第1弾】怨念~怨みの念~

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ついに引っ越しの時

公開日時: 2021年10月1日(金) 23:38
文字数:5,197

志穂一家の無理心中事件から一夜明けた、8月29日の日曜日の朝の出来事だった。


志穂や蒼佑、美海の通夜・告別式は近親者のみでひっそりと行いたいという意向があり、警察や消防関係者が呼ばれない状態で執り行う旨の連絡が喪主を務める和則の父の我妻一雄からの連絡が隆治の携帯にかかってきた。


知らせを受け、隆治は「そうですか。わかりました。わざわざありがとうございます。」という言葉しか見つからなかった。


電話を終えた後、隆治は深いため息をついた。


「無理心中事件を起こすような人間じゃないんだと思うんだけどなあ。」


その一言を聞いた美篶も考えていることは同じだった。


「人助けをするのが俺の任務だ!」


正義感溢れる、誰よりも人を愛する人が起こすことは考えられなかった。


そして志穂が最期に言い残した”引っ越しをするように”と念を押すように言っていたことも気掛かりだった。


美篶が隆治に「志穂が何か、わたしに伝えたかったことがあったはずだ。」と話し始めると、隆治は「何か伝えたかったことって、もしその意思があるのなら正確に伝えないとね。警察官の割には、そのあたりの説明があやふやで結果、”電話を掛けたことで一体何をしたかったのか?”で終わってしまっている。」と話した。


美篶はそう言われると反論する言葉が出てこず黙り込む。


隆治は「仕方ない。潤一郎の御霊がまだこの家に居座り続けていると知ってしまった以上、子供達のことも考えて早急に引っ越しをしなければいけない。」と語ると、美篶は「近くに野原不動産ってところがあったから、そこに今からでも住める家があるかどうか、行って見ましょう。」と切り出すと隆治は「そうだな。見に行くことにするか。」と話し出し、再び子供達だけで留守番をさせた状態で歩いて野原不動産へと向かうことにした。


野原不動産に着いた二人は、ドアを開けると、入ってきた二人に対して「いらっしゃいませ~!何か物件をお探しでしょうか?」とロイド眼鏡でオールバックの強烈な見た目の印象だけが残る不動産の社員が対応してくると、二人を交渉用のカウンターへと案内して、「冷たいお茶があるので用意しますね。」と言って、スキップをしながら冷蔵庫へと向かっていく。


その様子を見ていた隆治が「気違いか!?」と首を傾げるも、美篶は「まあ、あんな人も世の中にはいるってことね。」と失笑しながら話した。


2人の前に冷たいお絞りと、お茶が出されると、早速どんな物件がいいのかどうかも聞くこともなく不動産の社員のマシンガントークが繰り広げられる。



「お暑い中、当店へとお越しくださり、ありがと~ございます~!!担当をさせて頂くのは、わたし佐藤栄作といいます!早速ですが、当店が売りにしているおすすめ物件を7つ紹介をさせて頂きますね。まずは武雄市内にあるのですが、30階建てのタワーマンションで今回募集をかけているのが最上階になる30階で間取りは5LDKになります。分譲住宅でトータルの値段は3500万円です。一括でお支払いは厳しいでしょうから、ローンを組んでいただく形になりますが次々の御家賃は毎月15万円になります。最上から見える、武雄市の光景は絶景です。いかがでしょうか?悪くはないと思います!」


笑顔で話し終えると満足したのか、続いて話をしようとしたところだった。


隆治が思わず「人の話も聞かないで、勝手にプランだけ案内しやがって!俺たちはそんなタワーマンションで暮らせるようなセレブじゃねぇよ!何勝手に、高額な物件を紹介しようとするんだ!?そうやって続く物件もどうせ高額なんだろ!?」と話すと、佐藤は「ご名答です!続く物件は7LDKで嬉野市内にあるのですが、お値段としては7500万円のところをローンを組んでいただき、毎月20万円をお支払いしていただくというプランがあります!」とご満悦に話し始めた。


美篶が呆れて「悪いけど、わたしたちそんな家に住める富裕層じゃないんです。もう少し、せめて分譲でも8万円以内で住むことが出来るお家を探しているんです。早急に引っ越しが必要なんです。」と話し始めると、「わっかりました~!!それならいい物件がありますよ。つい最近ね、住民だった男性の方が2週間前に首吊り自殺を図って事故物件になった3LDKの良い物件がありますよ。賃貸で家賃は月々5万円からになります。いかがでしょうか?」と話すと、隆治が大きな声で話した。


「もう事故物件なんていらねぇんだよ!!」


その言葉を聞いて驚いた佐藤は「たっ、大変失礼しました。あっそういえば、ご家族構成を聞いていませんでしたね。何人家族なんですか?」とやっと訊ね始めた。


隆治が「僕と妻、子供が3人います。部屋は共同で使うから、2LDKでも大丈夫です。今すぐにでも住める物件を探しています。」と話すと、佐藤は「引っ越しを急がれるには理由があるんですか?」と聞いてきた。美篶が「わたしたち、近くの5LDKの賃貸の家に夫の転勤を機に宮崎県串間市から越してきたのですが、住み始めて奇妙な現象に悩まされることが多くなり、周りの方たちの助言から、引っ越しをしたほうがいいと言われたので、すぐにでもと思いこちらに寄せていただきました。」と語ると、佐藤が「5LDKの賃貸ってひょっとして鈴村不動産が斡旋していたあの曰くつきの物件ですか?」と話してきたので、隆治が「ああ、そうだ。」と話した。


佐藤がその答えを聞くと「その家に住んでいたのなら、引っ越しではなく早急に御祓いをして身を清める必要があります。あの家を建て、後に無理心中事件を起こした染澤潤一郎の悪霊が未だにあの家に眠っていますからね。潤一郎に襲われたら終わりです。取り憑いて、正常な気持ちの人間であれど、時間を掛けながらその人が心の中で思う精神的に弱いところをとことん突いていき、追い詰めて自滅させるんです。そうやって、潤一郎は自分の仲間を増やしていくんです。たとえ、あの家から離れたとしても潤一郎の祟りは付きまとってきます。言い換えればあの家で潤一郎に襲われたら命はもうない、非常に質の悪い悪霊ですからね。」と話した。


その話を聞いた隆治と美篶が思わずゾッとして、隆治が「俺も美篶も、隠されたあの地下の部屋に入り込んで、潤一郎の御霊と遭遇しました。俺は潤一郎に首を絞められました。」と話すと、佐藤が「それなら尚更です。もうすでに取り憑かれているのでしょう。」と話し始めると、奥の倉庫へと移動し入っていくと、取り出してきたのは今どき珍しいポラロイドカメラだった。


「このポラロイドカメラなら映し出すことが出来る。」



そう言いだすと二人に向けてカメラのシャッターを切る。



隆治が「何勝手に写真なんか撮るんだ!?」と言い出すと、佐藤はさっそく現像された写真を二人の前に見せ始めた。その写真を見て二人が思わず言葉を失ってしまった。



隆治が「俺と美篶の、後に誰かいる・・・。血まみれの手が、俺の左肩、美篶の右肩に、ああ。」と話すと美篶は怖さのあまりに何も言えなくなってしまった。



佐藤は「近くに3LDKの空き家があります。ここなら家賃7万円で案内することが出来ます。車も2台駐車が出来るスペースがあります。」と話すと、美篶は「ぜひその物件を見せて頂きたいです。」と話し始め、佐藤は「わかりました。さっそく車に乗り込んでいただき、ご案内しますので、外へ出てもらっていいですか?」と話すと二人は、用意された車に乗り野原不動産を後にすることにした。


走らせること10分ぐらいで到着した。



「こちらが今回ご紹介できる3LDKのお家です。最近建てられたばかりのお家ですが、御主人が自己破産をされて差し押さえになってしまった物件になります。」


2階建てのお洒落な洋風の佇まいのお家だった。


中に入っていくと玄関があり、上がってすぐの場所に2階へと上がる階段があり、上がってすぐの左の部屋が和室、その隣が台所、台所の隣にリビングがあって、右隣に洗面所とお風呂とトイレという構図になっている。2階へと上がると、二つの部屋に分かれており、どの部屋も広々としていた。クローゼットの中も充実した作りになっていた。



中を隈なく見て、隆治が美篶に「どうだ?気に入ったか?」と話しかけると、美篶は「良いわね。ここなら家からすぐ近いし、引っ越し費用もそんなに掛からないと思うわ。家賃もお手頃な価格だし、すごく気に入ったわ。ここにしましょう。」と話すと、隆治は「俺も気に入った。前の住人が自己破産なら事故物件にはならないからな。差し押さえされたことが事故物件になるのだろうか、まあそんなことはさておき、俺と聖夜と堅斗の男部屋と、美篶と伶菜の女部屋で分ける。どうだろう?」と話すと、美篶は「それは住んでから決めることよ。この家なら、聖夜も堅斗も伶菜もきっと喜ぶと思うわ。連れてきましょう。」と話すと、美篶が佐藤に「子供達を連れてきますから、ここで待っていただけませんか?」と話すと、佐藤は「良いでしょう。何ならわたしが送っていきますよ。」と話してくれたので美篶は「ありがとうございます。でもうちの車がありますので、そのほうが乗ってきた軽自動車では帰る時が大人3人のこの状態に子供3人ですから乗り切らないと思いますよ。」と話すと、佐藤が「そっ、そうですね。」と話し、美篶が家へと戻っていく。


美篶が家に戻り、子供達を連れてきたのは20分後の事だった。


聖夜と堅斗が玄関を見ると「今住んでいる家より狭いけどすごくきれい!!わーい!!」といってはしゃぎだすと、伶菜が美篶の後ろに隠れるように兄たちの様子を見ていた。


美篶は伶菜に「どう?この家気に入った?」と聞くと、伶菜は「うん。綺麗。」と話し出した。美篶は伶菜があまり喜んでいない様子を見て「伶菜、どうしたの?何かあったの?」と聞き出すと、伶菜は「うんうん、別に何でもないよ。ただ、あのおじさんがついてこないかだけが心配なの。」と語りだした。


美篶は「あのおじさん?」と聞くと、伶菜は「聖夜お兄ちゃんと堅斗お兄ちゃんとゲームだけじゃ退屈だからかくれんぼをしようって話になって皆でかくれんぼをしたの。美海ちゃんが開けてしまったあの壁の中がどうしても気になったから、伶菜が隠れようとしたら堅斗お兄ちゃんもこの部屋で隠れようとしたから、ずるいと言って伶菜が言うとね、堅斗が”早い者勝ち!”っていって近くにあった懐中電灯を手に階段を駆け下りたの。伶菜は他に隠れる場所を探さなきゃと思って、探そうとした時だった。堅斗お兄ちゃんが地下の部屋で悲鳴を上げたの、聖夜お兄ちゃんが数を数えて伶菜と堅斗お兄ちゃんが隠れ切るのを待っていたんだけどね、堅斗お兄ちゃんが急いで下りていくと伶菜も慌てて下りたの。すると懐中電灯を手に震える手で泣いていた堅斗お兄ちゃんがいたの。何かあったのかと近付こうとしたら、血まみれのおじさんが近付いてきて襲おうとしてきたの。伶菜と聖夜お兄ちゃんで慌てて堅斗お兄ちゃんを起こすと、3人で必死になって階段を上ってきたの。」と話した。


美篶が思わず「まさか、あの収納庫の部屋に入ったの?」と聞くと伶菜は「うん。」と言い出した。


美篶は「あの部屋は入っては行けなかった部屋だったのよ。注意しなかったわたしも悪いのだけどね。」と話すと、伶菜は「おじさん、顔が怖かった。何だか怒っているように見えた。逃げ切れたからよかったけど、襲われていたら生きていなかったかもしれない。」と語りだした。


美篶は伶菜に「怖い思いをさせてしまって悪かった。ごめんね。」といって謝った。


自分たちの留守中に子供達が怖い思いをしていたとは、思ってもいなかった。


注意不足であることを自覚しつつ、聖夜と堅斗を呼び出し子供達3人になったところで隆治が「この家に住もう。もうおじさんは襲ってこない。」と言い出すと、聖夜と堅斗は安心したのか「うん。良いよ。」というと伶菜だけは答えが違った。


「おじさんはどこであろうとついてくると思うよ。」


その言葉を聞いた隆治は「伶菜、もうおじさんのことは忘れなさい。新しいお家に引っ越して、新しい気持ちで皆で住もうじゃないか。」と話し、伶菜も「わかった。」といって納得した。


不動産屋へと戻った一行は、明日からでも住むことが出来るように手続きを済ませると、家に帰ると早速、引っ越しが出来る準備を整え始めるのだった。そして8月30日の月曜日の夕方、聖夜や堅斗、隆治が帰ってきたと同時に新しい家へ引っ越しをすることになった。


「ガスや水道は不動産屋さんがわたしがちが引っ越してくるまでに正式に手続きをしてくれた。変な人だと思ったけど、機転が利く良い人だったね。」と美篶が話すと、隆治は「週末は段ボールの御片付けに追われるなあ。」といって、新しい住まいでの生活を気持ち改め迎えようとした。

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