連絡を受け、駆けつけてきた鈴村不動産の社長の目黒治とその息子・修一が荻窪家に現れた。
修一がお詫びのお菓子を持った状態でインターホンを鳴らした。
インターホンが鳴ったと同時に、隆治が玄関の外まで現れると、「おい!お前らには説明してもらわなければいけないことがある!お菓子を渡す前に先ずは俺が案内する部屋へと入ってほしい。」
隆治からそう言われた治は「わかりました。ご案内をして頂けますか?」と言って、家の中へと案内した。そして玄関から上がり、廊下を左にまっすぐにいったところの突き当りにある収納庫へと隆治は案内した。隆治が先に中に入るような形で、治と修一を誘導した。
目の前に現れた光景に、治と修一は絶句するしかなかった。
隆治が隠し部屋を目の前にただただ呆然と立ち尽くすさまを見て、止めを刺すような言葉を言った。
「お前らが、染澤セツさんが管理している不動産のすべてを管理していない結果がこれだ!俺の嫁さんの友達のこともが偶然にも見つけなかったら、この部屋の存在は誰も気づかなかっただろう。そんな状態でも、お前らは”知らん”と白を切るのか?中に入ればさらにわかることだ。」
隆治にそう言われた治は、「我々の管理が行き届いていなかったことは素直に謝罪をさせて頂きます。」と話すと修一も合わせて「申し訳ありませんでした。」と深々と頭を下げた。
隆治はさらに怒りをぶつけた。
「お前らは、隠し部屋があるのを見ただけで終わりか!?中も見ないといけないだろ!違うか!?」
その問いに、治が「仰る通りです。早速我々も中に入らせて頂きたいと思います。修一、懐中電灯の用意をしなさい。」と指示を出し、修一が持っていたスマートフォンの懐中電灯の灯りを頼りに階段を下り始めていく。
下りた先に古びたドアがあり、まず修一が開けたのちに、治が入っていく。
修一が治に「何だかこの部屋に入ったと同時に、悪寒がすると同時に、冷や汗が止まらない。」と話し始めると、治も「俺もこの部屋に入って、同じ事を思った。嫌な予感がする。」と語った。
スマートフォンの懐中電灯を頼りに周りを照らし始める。
立派な祭壇に、お焼香をする台、木魚やおりんなどの仏教道具がある。
「ここは、親戚で集まって法要を行うための場所なのだろうか。」
治が修一に話すと、修一があるものを発見した。
「お父さん、見てほしい。あの祭壇のセンターのところ、遺影と位牌があります。」
修一がそう話すので治も確認することにした。
「こっ、これは・・・。」
治が驚きのあまりに言葉を失ってしまった。
「管理人の染澤セツさんが亡くなった息子さんを偲んで作ってみたはものの、認知症のセツさんのことだから、ここに息子の遺影と位牌を置いてきたことを忘れたとかじゃないのか?」
修一がそう話すと、治が「馬鹿野郎!きっと残したのには理由があるんだ!」と話した。
治が話していると、修一が周りの壁を照らし始める。
「父さん、見てほしい。壁に、”南無阿弥陀仏”と書かれた御札があちこちに張り巡らされている。」
それを聞いた治が「えっ!?何だって!?」と反応し、周りの壁の状況を見回せるように、持っていたスマートフォンの懐中電灯を手に取り、くるんと一周をし始めた。
180度ぐるっと回って、反対側を見ようとした時だった。
「・・・・・・・・・!!!!」
目の前に血しぶきを浴び、血まみれの男が立っていた。
男は治の首を右腕でガッと掴むと、壁に突き付けた。そして左腕で首を絞め始めた。
「ウッー、ウッ、ウッ・・・!」
苦しみのあまりに言葉が出てこなくなった。抵抗しようともがき始めた。
その間に修一は位牌などを確認していた。
「悲願潤徳院信士だなんて、なかなかいい戒名を貰って、今頃さぞお寺では大事に大事に供養されているんだろうなあ。」と呟いた。そのときだった、
「ドンッ!!!!」
鈍い音と同時に、修一が反応した。
「父さん、どうした何かあった?」
振り返るとそこには、壁に叩きつけられた状態で、治が自分の両手を使い、自らの首を絞め始めていた。「父さん!何やっているんだ!!自分の腕で自分の首を絞めるなんてやめろ!!」といって近づいた。修一が助けに入ると、何とか治は逃げられることが出来たが、治は修一に「逃げろ、お前には家族があるだろ!!」と言い出すと、治は我先にとばかりに一目散になって逃げた。
修一は「待って!父さん、どういうことだ!」と聞こうとドアのほうを向いた瞬間だった。
「ハッ!」
修一の目の前に血まみれの男が立っていた。腹部には切腹をした生々しい痕跡が残っていた。
恐怖のあまりに立ち尽くすと、抵抗することも出来ず修一も、男の右腕で首を掴まれると、壁に突き付けられ、左腕で首を絞められた。
「苦しい、苦しい、苦しい・・・。」
あまりにも、恐怖と苦しさのあまりに、修一は失禁してしまった。
その様子を見た男の表情がさらに怒り狂った。
「このままでは死んでしまう!俺は家族のためにも生きるんだ!」
そう言い放った修一は力一杯男のほうに向かって右腕を大きく振り払った。
何とか逃げることが出来た修一は急いでドアを開けると階段を必死で登り始めた。
「父さん、父さん、父さん・・・!」
上がり始め、収納庫から出た先の玄関に治の姿があった。
「置いてきぼりにしてすまなかった。俺だってあんなところで死にたくない。」と話し始めると、どの様子を見ていた隆治と美篶、そして志穂と和則が傍に駆け寄った。
隆治が「隠し部屋の祭壇にあったあの男性の遺影は?そして位牌は?いったい誰が何の目的で残したのか?そしてお前らも見ただろう、切腹をした跡が生々しく残るあの血まみれの男の正体は何だ?お前らに説明できるか?きちんと管理をしていなかったお前らに説明できるわけがないだろ!あの男は恐らくだが、染澤セツさんの一人息子で、この豪邸を建築した染澤潤一郎さんだろう。遺影と位牌は潤一郎さんだろうと推測される。潤一郎さんは事業に失敗した後に、精神的にも肉体的にも追い詰められた末に、奥様の豊子さん、長男の宏親君、次男の靖典君、三男の智紀君を次々と果物ナイフで刺殺した後に自らもお風呂場で凶器として使った果物ナイフで切腹して自殺をしたんだそうで、潤一郎さんがどんな思いで凶行に至ったのかは俺らにはわからない。ただ言えるのは、この家には潤一郎さんの怨念が事件から47年も経過しているが、未だに潤一郎さんの社会への憎しみや恨みといった”怨念”の気持ちがまだ眠り続けているのだろう。こんな事件があったと知っていたら、お払いの一つぐらいはするだろ!!お前らの管理って何だ?全て大家さん任せで料金だけは搾取するのか!」といって激怒すると、和則が「俺も隆治も、あの部屋で殺されかけた。その様子だと、あなたたちも潤一郎さんに襲われたんだろうね。」と話すと志穂が「管理不足のみならず、説明不足にも程がある。この家に起きた事件も含め考えれば、この家は明らかに事故物件であり、世間に公表するべきだった。好評をしなかったのは、”引継ぎをしていないので知らなかった”では済まされないと思います。鈴村不動産さんにはそれなりの責任を取るべきだと思います。」と言い始めた。
美篶も合わせて「セツさんの病状を考えたら、大家として管理できないと知りながら、不動産業者であるあなたたちが知らなさすぎるのはおかしいです。責任を取って、引っ越しの手配を用意するぐらいのことはしてほしいですね。」と主張した。
その言葉を聞いた治は「申し訳ありません、ただ・・・ただ・・・嗚呼・・・!この家は荻窪さんにやるから家賃なんか今月から払わなくていい。この家は荻窪さんの所有権だ!」と言って立ち去ると後から修一が父親の後を追うように出ていくと、ドアを閉める前に「申し訳ありません。申し訳ありません。」と言いながら立ち去っていくのだった。
その様子を見た志穂は「何ていい加減な不動産会社なこと!」と怒りを露わにすると、和則が「少なくともこんな杜撰な不動産管理しか出来なかったんだから、他の物件でも同じことしか出来なかったに違いない。鈴村不動産でインターネットで検索をしてみて管理する不動産を一軒一軒調べたら自ずと分かってくるはずだ。この鈴村不動産に対する口コミだって調べたら、クレームも一つや二つはあるはずだ。」と話した。
隆治と美篶は家はくれてやると言ったが、あまりにも誠意溢れる対応とは言い切れなかったので、愕然とするしかなかった。
美篶が「仕方ない。セツさんの成年後見人として選ばれた弁護士に話を聞くしかない。」と言い始めた。隆治は思わず、悔しさのあまりに右拳で壁を叩きつけた。美篶が「やめて。物に当たるのは良くない。不動産はもう当てにならない、だから今はセツさんの関係者を頼りにしていくしかないじゃない。」といって隆治を説得した。
その間に、和則の知り合いで伊万里通信の桐生丈一郎から連絡がかかってきた。
和則が電話を取ると、丈一郎が一言告げた。
「その家はいるだけでも危ない。呪われ過ぎて話にならない。絶対に引っ越すべきだ。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!