神クエをあなたに!

薄幸の町娘は、借金返済のためクエスト受付所で働きます
夏野わおん
夏野わおん

1-2 孫探し、スタート

公開日時: 2020年11月9日(月) 18:31
更新日時: 2020年12月15日(火) 17:34
文字数:1,799

 世界中の人が一日を四十八時間になるよう願ったら、睡眠時間が倍になったりしませんかね。

 

 ……しないか、はい。

「では、ご依頼の内容についてお伺いします」


 背筋を伸ばしたクロカミは、髪を耳に掛け気合を入れた。「本日のご依頼は何でしょうか?」


 おばあさんは話し始めた。


「孫になぁ……小遣いをなぁ……」

「お孫さんに小遣いをお渡ししたいのですね。だからお孫さんを探してほしいと」

 

「外の商いのこたぁ何も知らん……飛び出していったんは、マル坊の勝手じゃ……やが、わしゃーのぉ……」

「――わかります。お孫さんの力になりたいんですよね」

「……んむ」


「お孫さんを特定するにあたって、何か手掛かりになるようなものはございますか?」

「あー……」


 ごそごそバスケットを漁ると、おばあさんは何かを取り出した。


「……こいが絵、役に立つじゃろうか……」

「拝見します」


 

――似顔絵は、ちょっと下手な鉛筆画だった。


身長は平均的で体格はやせぎす。顎はシャープで二重瞼。ピアスにモヒカンがトレードマークで、手にはアコーディオンを持っている。


なんというか……定職に就きたいと願う若者には到底見えない一枚だ。


(このヒャッハーさん、ホントに奉公しに行ったのかな?)


 奇抜な恰好にツッコミを入れる前に、とりあえず特徴をメモ用紙にまとめていく。


 その傍ら、クロカミは更に質問を重ねた。


「ほかに何か、手掛かりはありますか?」

「音楽の話が好きでなぁ……ほんで、『オレハミヤコデヒトハタアゲル』というんが口癖じゃった……」

 

「『オレは都で一旗あげる』、ですか。大きな夢を持った方なんですね」

「……わしの誇りじゃ」


 もごもごと口を動かすおばあさんからは、孫に対する多大な愛が感じられた。


 これで生半可な仕事をしては、罰が当たるというもの。

 

 クロカミの手は、淀みなく動き続ける。


「この似顔絵、少しお借りしてもいいですか。契約を結ばれた冒険者さま用に、一枚コピーを取りたいのですが」

「おぉ……どぉぞ」

「ありがとうございます」


 

 紙を受け取ると、クロカミは背後にあった小作業台に体を向けた。

 そこには、テープやら鋏やら資料やらが整理して置かれている。


 転写魔法の魔石が内蔵された簡易コピー機を選び取った彼女は、似顔絵のスキャンを開始した。

 

 A4サイズの黒板に似た端末に似顔絵の描かれた紙をかざし、二秒待つ。


《ピー。媒体認証完了。対象のコピーを開始します》


《※注意 魔力残量が三パーセントを切りました。魔石の交換を推奨します》


「――嫌です、ぎりぎりまで使います。備品の予算少ないんで」



 ジジジジー。


 スキャン終了の電子音が鳴り、端末から一枚の紙が出てきた。紙にはちゃんと、モヒカンのお孫さんが描かれていた。

 

 転写印刷、完了だ。


「――ご協力ありがとうございました」


 オリジナルの絵を返却し、クロカミは再び羽ペンを握った。

 メモを参考にしつつ、依頼書にクエスト内容をまとめていく。


「では、クエストは『お孫さんを探し、お客様と引き合わせる』という内容でよろしかったでしょうか」


「ん。それでええ……」

「謝礼はどうされますか? 何かお考えになっているものはございますか?」

「……漬物なら、ようけあるがな……」

「漬物ですか。いいですね、私もキャベツの塩漬けは好きですよ」


 そう言っているうちに、クロカミは職員用の記入欄をすべて埋めていた。


 なんという手際の良さであろうか。しかも字がきれいでインク染みもないところを見ると彼女、速記の達人なのかもしれない。


「――では、クエスト内容と報酬について記載されたものがこちらです。今一度、ご確認ください」


 依頼書を差し出すと同時に、彼女は右下にある依頼人の記入欄を指し示した。

「確認できましたら、こちらにサインをいただけますか?」


 ジィッ、とおばあさんは依頼書を読んでいった。紙に穴が開きそうなほどの集中力だ。どうやら相当な祖母バカらしい。


 客がサインし終わるまで、クロカミは待っていた。


 すると、

 

「あの……報酬は、私が肩代わりしましょうか?」

 

 付き添いの町娘が、カウンター越しに耳打ちしてきた。

「正直な話、報酬が漬物では契約する方が現れないんじゃないかと心配で……」


 気持ちはわかる。


 クエストを遂行する冒険者からしても、報酬が漬物ではモチベーションが上がらない。というより、契約相手が見つからないだろう。心配して当然だ。


 だが、


「心配ありませんよ」


 クロカミはサラッと答えた。

「今回のご依頼は、『慈善クエスト』として貼り出すつもりですから」

「……ジゼン?」


 首をひねる町娘に、クロカミは簡潔に説明して見せた。

 今回は区切りのいい場所が見つからず、無理やり引きちぎった感じでの投稿になりました。短くてごめんなさい。

 ……さて。

 「慈善クエスト」とはどういったクエストなのか。次回はこの意味をクロカミが説明してくれます。

 さらに、予想外のトラブルだって起こります。

 

 (……おばあちゃんって結構な頻度で爆弾発言するよね。ウチのばっちゃんは今でもそうです)

 

 それでは、また次回!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート